夕食①
「夕食だって?」
「うん、エミリアさんたちがぜひ一緒にどうですかって」
リアは若干日が傾いたところで俺のところに来てそんなことを言った。
俺はあの後無視を決め込み、部屋を出て庭で適当に微精霊たちや準精霊、ユキ、ルルと会話をすることにした。
要はリアたちにアフターフォローを丸投げしておいた。
これ以上、あの場にいたらきっと加山を殺してしまうからな。
「でも、それってリアたちが誘われたんだろ?俺が行ったらまた険悪な感じになるぞ」
「まぁ、そうだけど……でも、このままっていうのも悪いと思うよ」
「けどなぁ」
「私ね、優斗君のことをもっと他の人にも知ってほしい。私の好きな人はこんなにもすごい人で優しい人なんだよって。エミリアにだって自慢したんだ、優斗君が竜人族との戦いでかっこよかったの。だから、今そうやって逃げちゃうよりも少しでも他の人に優斗君のことを知ってもらえるようにしたほうが良いと思うんだ。悪い勇者さんの言葉より私の好きな本当の優斗君の姿を見せたほうが良いと思うよ。それにちゃんと話せば渚さんみたいに仲良くなれるかもしれないよ」
うぐっ、リアからの直球で言い返せない。
なんか前よりも言うようになったなぁ。
けど、俺のためなんだよなぁ。
確かに、クソ王子の言葉を跳ね返せるくらいの力や信頼を得ることも大切だよな。
「分かったよ。行くさ。けど、その前に一度ギルドに行ってフェルミナやシルヴィアに連絡してくるから」
「うん。待っているね」
惚れ惚れするような笑顔を向けて加山邸に入っていく。
そんな顔見せられたらとんずらできないだろ。
でも、リアの言う通りもしかしたら渚みたいに加山とも少しはまともな関係になれるかもしれないから頑張ってみるか。
ため息をつきながら転移石を取り出す。
そうして一度ギルドに行ってフェルミナとシルヴィアに今日は再会した剣の勇者のところで食べてくることを伝えた。
フェルミナもシルヴィアも快く快諾してくれた。
久しぶりに同僚たちと食事をするということで快く送り出してくれた。
できれば快諾してほしくなかったし、送り出さないでほしかった。
結局、俺はストレスで最悪な気分になりながら加山邸へと向かった。
「では、今日もむさ苦しい男どもの世話とブラックバイトかよって思うギルドでの仕事お疲れ様でしたー。カンパーイ!」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
キャシーのその言葉と共にグラスの鳴る音がする。
「久しぶりに女たちだけで飲み会するのも良いものよねぇ」
「確かに久しぶりだね、こういうの」
今私達は近くのレストランでお酒を片手に普段の鬱憤などを互いに言い合っている。
私も最近の仕事の多さに思わず不満を同僚の子と話し合う。
「フェルミナ、そんな話どうでも良いのよ!彼とはどうなのよ?もう同棲しているんでしょ」
「べ、別にそんなのいいじゃない。ぷ、プライベートなことでしょ!」
「「「それは確かに気になる!」」」
キャシーの言葉で他の受付嬢の子たちが集まってきてしまう。
「あんた知らないかも知れないけど、あんたのこともう他のギルドでも有名よ」
「な、なんで!?私、別に何も…」
「Fランク冒険者から成り上がっている期待のルーキー『クリハラユウト』その名前を知らないギルドの関係者はいないわよ。そんなルーキーと同棲までしているあんたのことを他の子たちが知らないわけないでしょ」
「そ、それは…」
ユウトさんは知らないと思うけど、ユウトさんの冒険者ランクは近々Aランクになることが決まっている。
特に竜人族からの強く要望を受けているのでほぼ確定的である。
FからAにまで、それも裁定者のジョブでなった者としては初である。
「それでどこまで行っているのよ。もうヤッた?」
「や、ヤってなんかいないよ!」
「嘘でしょ?何、飽きられたの?」
「飽きられてなんかいないよ!ちゃんといつもキスしてくれるもん!」
「だったらなんでそこで止まっているわけ?」
「えっとね、なんかあることに心の区切りが着くまでは待っていてくれって頼まれたの」
どうして手を出さないのか前に気になって尋ねたところとても悲しそうに微笑みながらそう言われた。
あの時の顔は胸を抉られたように私も悲しくなってしまった。
「そう、色々と事情があるみたいね」
キャシーは深くまで聞くことなくその手の話題から引いてくれた。
「さっきユウトの名前が出たけどその手の話題を僕に振らないなんて間違っていると思うよ♪」
そこにシルヴィアは突如として現れ、話題を引き戻した。
せっかく話が逸れたと思ったのに!
「だって所長はあることないこと言いそうなんですもん」
「僕は常に本当のことしか言わないよ」
そうしてやや、というかだいぶ誇張してユウトさんとのラブラブな生活を自慢気に語る。
このまま話を進めて行けばいずれ私にも被害が出る。
そうだ、シルヴィアを生贄にすれば……
「シルヴィアはね、ユウトさんの前だと子供みたいに甘えるんだよ」
「ちょ、フェルミナ!?嘘は止めてよ」
シルヴィアは酷く狼狽する。
そのシルヴィアの慌てた様子を見てか、キャシーたちも食い付く。
「なにそれ、凄く気になるんだけど!」
「うん、実はねー」
「ワーッ、ワーッ」
シルヴィアは普段の態度と変わって顔を真っ赤にして大きな声を出す。
そうしてシルヴィアを生贄にして私達の飲み会は盛り上がっていった。
憂鬱な気分になりながら加山邸へと再びやってくるとリアが迎えに来てくれた。
「優斗君、皆と食事する前に皆のこと教えてもいい?」
「まぁ、教えてくれるなら聞くけどどうした?」
「実はね、エミリアも私と同じような出会いしているからつい話が盛りあがっちゃって」
「そうか、それは良かったな」
俺はともかくリアたちと仲良くなってくれたのなら幸いだ。
「優斗君、エミリアさんたちと剣の勇者さんの関係って知っている?」
「知らないけど、どうせ加山のハーレムメンバーとかそんなオチだろ?」
「え、えっとまぁ、そうなんだけど…でもね、全員勇者さんと運命みたいな出会いをしたんだって」
リアは嬉々として話す。
エミリアは加山に魔物に襲われているときに助けてもらって仲間になり、レレイと呼ばれた少女は借金を肩に売り飛ばされそうだったところを救ってもらって仲間になり、ジュリエッタという獣人族の少女は奴隷から解放してもらって仲間になったそうだ。
なーんか、テンプレだなぁ~。
特にエミリアとは同じような形で俺と出会ったからか馬が合うそうだ。
因みにルルも俺がギルドへ向かった後加山たちと軽く顔合わせをしたということだった。
大丈夫なのかと思ったが、勇者とその仲間なら信用するということだったらしい。
勇者だからってみんながみんな渚みたいだと思わない方が良いと後でこっそり伝えておこう。
クソ王子みたいな奴だっていることだしな。
それよりも俺を驚かせたのは最後の話だった。
「ちょ、ちょっと待て。それはマジか?」
「うん、まぁ驚くのは無理ないよね。私も最初は男の人かと思ったもん。でも、バルバラさん、女の子なんだよ」
俺は絶句してしまった。
俺が男だと思っていたエルフは実は女であったことが衝撃過ぎた。
確かにすごい綺麗だとは思っていたけど装備は男の物だったし、髪だって短かったから男だと思うだろ。
そうして、多少衝撃を覚えながらも俺は加山邸の食堂へとリアに案内してもらった。
すでに他の皆は集まっているということだった。
「全く、人を待たせるとは非常識な人だね」
部屋に入って加山からの第一声がそれだった。
「客に対してずいぶんな言いようだな。剣の勇者は人の話もまともに聞けないだけでなく、もてなしすらまともにできないようなバカだとは思わなかったよ」
「あなたのことを客だと思ったことは一度もないよ!あくまでナタリアさんたちと夕食に誘ってはとエミリアたちから言われたから誘ったまでだよ。文句があるならすぐに出て行ってくれてもいいんだよ!」
「どうやらもう一度教育してやらないといけないみたいだな!」
俺達は一触即発の状態になる。
「優斗君、せっかくのチャンスだし、ここで怒っちゃいけないと思うよ」
「シュウイチも抑えて!」
リアが小さい声で言う。
リアが言うなら仕方ない、胸糞悪いがここは我慢して少しは落ち着くか。
加山の方もエミリアに言い含められて押し黙る。
それから食事を取った。
案の定、エルフの奴は男ではなく女だった。
しかも、綺麗なドレスを着ているからまさしく本物だった。
人は見かけによらないことを改めて知った。
加山やエミリアたちはリアたちと楽しそうに会話をする。
俺は最初から何も話すつもりもないし、特に何かを聞かれることもないので黙って食事を取った。
まずくはないのだが、どうも気分良く食事ができないからか何を食べてもおいしくない。
「ますたー、これおいしい!」
「そうか良かったな」
時々、ユキがおいしそうに食べるので横目で眺めたりする。
「どうですか?おいしいですか?」
「ん?ああ、まぁおいしいんじゃないか?」
「そうですか。それは良かったです。では、その、そろそろ本題に入りたいのですがいいですか?」
エミリアが急に今までと違った調子で俺に話しかけた。
「本題?」
「はい、実はあなたにお願いがあって招待させてもらいました」
急に夕食を一緒に取らないかと誘ってくるなんておかしいと思ったが、俺達になにか頼み事があってこんな場を用意したのか。
合点がいった。
「私たちのお願いを聞いて頂けませんか?」
当然答えは決まっている。
「断る」




