敵
「ああ~、めんどくさかった」
渚はそう言うと頭の後ろで手を組んで言う。
「ううっ、あのナギサが、ナギサが~」
テレーゼはそう言うと頭を抱える。
「なんだよ。オレががどうしたんだよ?」
「昔のナギサは決して『魔物と戦うのが冒険者の義務だろ』なんていう言葉言いませんでした。まるであの
男とナギサが一瞬かぶって悲しくなりました」
テレーゼはそう言うと目の端に涙を浮かべる。
「あの男って優斗のこと?」
「そうです」
「オレだってああいうこと言うよ!」
「いえ、前のナギサならあんなことは言いませんでした。あの男に悪影響を受けているのです!」
「そんなことねえって!」
「いえ、きっとそうです!」
渚とテレーゼは言い合いを始めるが……
「こんなことしている暇ねえよ。まだ、周りに敵が残っているかもしれねえのに!」
「そうでした」
急に現実に戻ってきた二人は慌てて辺りを見渡す。
「生き残った兵士はどうします?」
気絶させて何人かの兵士は縄で縛って近くに生えていた木に括り付けた。
「こいつらには生きて俺が竜人族たちと手を組んだことを伝えてもらう必要がある。それに俺がいるってわかればポルヴォー王国って言ったかな?そいつらも俺と戦いたくなくてすぐに竜人族の地域から引き上げざる負えないから竜人族は土地を取り戻せることもできるって言ってたよ」
「また、あの男の指示ですか。やっぱりナギサはあの男に影響されているかもしれません」
テレーゼはうんざりして言う。
「確かにテレーゼの言う通り少しは影響受けたのかもしれない」
「やっぱり。なら―」
「でも、いい影響だと思う。俺は今まで中途半端に人族を倒したり、救ったりしてた。しかも、いい人間悪い人間とか区別なく」
「……」
「だから、優斗と出会って何となくだけど掴めそうな気がするんだ。オレにとって守りたいのは幻人族たちだけど、それでもあの時の、初めて人を殺した時に失っちまったあの感覚を取り戻せそうな気がするんだ。だからオレが受けた影響はきっといい影響だと信じたい。今やっていることは間接的には幻人族のためだけど、それを除いて何かがオレの中で蘇ろうとしているんだ」
テレーゼは渚の言葉じっと聞いていた。
渚は国を追い出され、食べる物もなく路頭に迷っていたところを幻人族に救われた。
そんな渚は幻人族たちに感謝し、私たちのために戦ってくれているけれど幻人族の中にはナギサの善意を利用して戦争しようと考えている者もいることをテレーゼは知っている。
今はどうにかテレーゼたちが抑えているが、人族と同様に幻人族の中にも汚れた考えを持った者もいる。
出会って優斗に会うまでのナギサは人族を殺すことに一切の躊躇がなかったけれど、今は少し違うとテレーゼは確信している。
人を殺さずに目的を成し遂げることもできる事を渚は学んだ。
それが優斗による幻人族たちを守るために行ったあまりにも鬼畜なことであったけれど、それに渚は少なからず影響は受けた。
渚の力は幻人族たちだけのものではない、この世界のために使われるべきだとテレーゼは考えていた。
だからいずれ渚が失ってしまったものを取り戻せれば、渚は本当に守るべきものを見つけられるのではないか。
「そうですか。ナギサならきっと取り戻せますよ」
「ああ、きっと取り戻して見せる。ありがとな、テレーゼ」
テレーゼは渚に微笑むと、渚も少年のような笑みを返した。
「さて、そろそろリアたちのところに行くか」
俺はそう考えてユキたちに声をかける。
「ユキ、ルル、レインそろそろ引き上げるぞ」
「わかったー」
「わ、分かりました」
「もう行くのか?」
レインは俺に尋ねてくる。
「もう敵も逃げ出したみたいだしな。後はこいつらの死体処理だが、この後ここに来る奴らにさせておこう」
俺は辺りを見回すと倒した騎士たちや冒険者たちがいる。
何人かはまだうめき声をあげているが、ほぼ殺しつくしてやった感じだな。
数名逃げ出したが騎士の鎧を着ているヤツだったし、敵前逃亡した奴の末路は元いた世界の歴史から見てもまた会うかもう二度とこの世で会うことはないかのどっちかしかないだろうな。
「分かった。てっきりここで迎え撃つのかと思った」
「作戦は伝えた通り、現状はここから逃げるのが最優先だ。物資も少ないこの状況で下手にここに留まっていたらいずれ俺たち自身が逃げられなくなる」
転移石は龍神の力で作った結界はあるけれど、俺のは例外的に使えるようにしてもらっている。
だから、逃げようと思えばすぐに逃げられるがあんまり長居しているのも禁物だ。
「お前にとってはまだ倒し足りないだろうが、ここは抑えてくれ」
「大丈夫だ。兄貴が決めた事には従うぜ」
「そうか」
今回の戦いでレインの力がどの程度のものかよくわかった。
正直言おう。
強すぎ。
あれでまだ14歳とかないわ。
レインは接近戦において騎士の攻撃を一撃も受けることなくすべてを避けたうえ、龍神法で相手の殴り飛ばすことを何度も見た。
あげく、殴られた騎士は鎧ごと腹に穴が開いたんだぜ。怖っ。
たぶん接近戦なら俺も軽く殺される。
武術習ったけど、あんなの役に立たないわ。
龍神法の恐ろしさを見た。
龍神法は龍神が力を回復したからこそ、そこまで使えると言うことだった。
もし、龍神が勇者にやられていなければ決してポルヴォー王国の連中に後れを取ることはなかったという。
ユキとルルが俺に寄ってくる。
後はレインだけだな。
レインもこちらに近寄ってきたその時、微精霊たちが殺気を感じて俺に伝えてきた。
微精霊たちが伝えてきた方向を見ると無数の火の玉が迫っていた。
俺は近くにいたレインの腕を取ると俺の後ろに引いた。
「おわっ!いきなりどう―」
「『我、水の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・アクアウォール』」
レインが俺に向かって言おうとするが俺はその前に精霊魔法を唱えた。
水の壁が俺達の周りにできる。
水の壁に火の玉が当たり、大量の水蒸気を上げながら火が消えていく。
残り少ないMPがさらに少なくなったが、防ぎきれたから良かった。
「新手か?」
少し長居しすぎたかもしれない。
「今の魔法を耐えるとはなかなかやるな」
辺りの水蒸気が晴れていくと、さっき戦っていた人数よりもずっと多くの騎士たちがいた。
その中に一人だけ随分と豪華な格好をしている者がいた。
「お前が私たちの邪魔をする冒険者か?」
豪華な格好がした奴が俺に話しかけてきた。
声からさっき話しかけてきた奴と同じだろう。
「人に何か尋ねる前に自分がまず名乗ったらどうだ?」
「言われてみればそうだな。俺はポルヴォー王国第一王子ラルド=ポルヴォー=マクレミッツ。では質問に答えろ、お前たちが我らの邪魔をする者か?」
「そこで違うと言ってお前らは信じるか?」
「無駄な質問だったようだな。そこにいる汚らわしい存在を守った以上お前たちということで良かったようだな」
さて、どうやってこいつらを叩きのめしてとんずらするか。
俺のMPも残り少ないし、ここで下手に暴れても逃げ切れるか分からないしな。
ユキにアイコンタクト送ると
「ますたー、わたしもそんなにれいりょくがのこってないよ」
「そうか。なら、じっとしていろ。俺は少ないがまだ少しくらいは残っている」
ルルには先ほど蒸気が上がって見えないときに懐に入ってもらった。
ルルを隠した場所を軽くたたくと
「妖精魔法で魔力回復を早めていますが、もう少しかかります」
「すまないな。助かる」
ということはもう少しこいつらと話に花を咲かせないといけない訳か。
嫌だなぁ~。
レインを見ると肩を小さく震えさせながら何か言っている。
ちょっとこいつどうした?
「お前はあああああああ!」
急に立ち上がって敵に向かって飛び出そうとした。
とっさに腕をつかんで止めたからよかったが。
「お前いきなりどうした!」
「兄貴、放してくれ!あいつを、あいつを殺してやる!」
レインは俺に名前を名乗ったラルドという男を睨みつける。
「兄貴、あいつは親父を殺したヤツだ!」
レインは俺にそう言うと怒りに満ちた表情でラルドを睨む。
まさかこんなに早く親の敵に会うとはな。




