竜人族離脱戦③
ちょっとグロイかもしれません。
「全くどうしてナギサがこんなことをしなければいけないのですか?」
「そんなに怒んなよ。テレーゼだって今回のことは賛成していただろ?」
「私が怒っているのはそこではありません。どうしてナギサが勇者でもないあんな男にこき使われていることに怒っているんです。それに勇者でもないのにナギサよりも目立って」
「そんなこと言われたってオレにはどうしようもないし」
渚は困った顔をして頬をかく。
「ナギサが竜人族の元へ行けば済む話でしょう。それをなんでこんなまどろこっしいことを」
「確かそれには訳があるって言っていたな。確かー」
もし渚が出て行って目立つように竜人族を助けてしまえば必ずポルヴォー王国の奴らも姫川、銃の勇者を出してくる。
そうなれば勇者同士の戦いとなり泥仕合のような結果になるのは目に見える。
だからこそ、それは避けたいと優斗は考えた。
また、銃の勇者に復讐したいものがいるので渚が出て戦ってしまっては意味がないということもある。
そういった意味も含めて、今回の離脱戦ではあくまで勇者が前面に出るのではなく、一個人の冒険者が計画していることというのが重要である。
冒険者が計画したのなら、ポルヴォー王国の連中も勇者を出すことはないだろうと踏んだ。
もともと勇者を出したのは龍神を殺すのが目的だったためであり、すでに壊滅状態に近い竜人族を殺すために勇者を出すということは逆に勇者に直に竜人族の状況を見せてしまう可能性もある。
それだけのリスクを背負ってまで勇者を出しては来ないと優斗は考えた。
それに万が一勇者が出てきたのならそれこそ直に竜人族の状況を伝えればいいし、銃の勇者と優斗が知り合いであることを考慮すればなんとか説得もできるのではないかという考えもあった。
それでも銃の勇者が考えを改めなければ、その時に渚が出て行った方が最初から渚が向かうよりはずっと良いということだった。
「って言われたよ」
「くっ、意外とよく考えてある。だからこそ、妙に腹が立ちます」
テレーゼは眉を顰める。
「テレーゼだって本当は優斗がいい奴って言うこと知っているだろ?」
「確かに今までの人族から見れば多少はマシではありますが、ナギサあなた忘れていることがあります」
「忘れていること?」
渚は首をかしげる。
「ナギサはあの男からセクハラを受けたんですよ。裸にされて。しかも2回も!」
「確かにそれに関しては思うところはあるけど、あの時は俺も勘違いしていたし俺の方にも非があったからな。良くはねえけど、とりあえず許してやろうかとは思っている」
テレーゼはため息を着くとナギサを困ったような表情で見る。
「まぁ、とりあえず今回は優斗と竜人族たちの助けるために戦おうぜ。それにもう奴さんはいるみたいだぜ」
「はぁ、仕方ありません」
「それにしても優斗は考えた通り前方3キロのところに隊列を組んでやがる」
「全く、人族というのはどうしてこうも愚かなんでしょうか。やはり人族と関わらない方が良いかもしれません」
「そういうなよ。オレだって分類上は人族だぜ。異世界人だけど」
今、幻人族の中では優斗たちみたいな自分たちのことを考えてくれる人がいるかもしれないという考えが大きくなっている。
主には優斗達から救ってもらったピクシーたちやお菓子をもらった幻人族の子供とその親たちがそういうふうに主張し始めている。
「そうですね。中にはナギサみたいな人もいるかもしれませんね」
「それに優斗みたいな奴もいるかもしれないしな」
「やっぱり人族との付き合いは考えた方が良いかもしれません」
なんで!?
どうしてテレーゼはそこまで優斗を毛嫌いするんだよと渚は心の中で思った。
「テレーゼはそろそろ隠れていてくれよ」
「分かりました。ナギサ、くれぐれも無茶はしないでください」
「分かっている」
テレーゼにそう言うと彼女は消えてしまった。
俺は懐から鞭を取り出す。
さて、久しぶりにあんな人数を相手にするから腕がなるぜ。
「準備はどうだ?」
「はい、すでにほぼ完了しています」
私はポルヴォー王国の騎士でここで竜人族を迎え撃つためにここに派遣された部隊の隊長だ。
「良し。皆の者聞け!」
私の言葉に多くの騎士たちがこちらを向く。
「今から我らが忌まわしい竜人族を討ち滅ぼす!我らの手で成し遂げようぞ!我らの王家への忠義を見せるのだ!」
私の言葉で多くの騎士たちが雄たけびを上げる。
「今回、より多くの竜人族首を取った者には国から報奨金と称号が与えられる。皆の者、励むがよい」
さっきよりも大きな雄たけびが上がる。
やはり物欲は人の本能だな。
「隊長、士気も十分上がりました。そろそろ進行してもいいかもしれません」
「うむ、では行くか」
「隊長!」
一人の騎士が大慌てで私の元へやってきた。
確かこの男は後方に展開した部隊の指揮をしていた新米の指揮官か。
「ま、魔物が、魔物が突然現れました。後方部隊は魔物の襲撃を受けています」
「魔物くらい自分たちでどうにかしろ!貴様たちは誇りあるポルヴォー王国の騎士だろう!」
私はやってきた騎士に喝を入れる。
「た、ただの魔物じゃありません。弱いと言われているキングフロッグですら騎士3人で囲んでも倒すことができないんです。すでに魔物たちの攻撃で後方部隊は壊滅したと思われます」
「バカなことを言うな!」
ありえん。
我らに与えられた任務は前方からやってくる竜人族たちを迎え撃ち、一人残らず殺すことだ。
逃げ延びる竜人族がいないようにポルヴォー王国でも高レベルのジョブ持ちが集められた部隊だ。
それが魔物程度に壊滅させられるわけがない。
「し、しか―」
やってきた騎士は途中で言葉を止めると口を開けたまま顔を青くして固まった。
私は嫌な予感がして恐る恐る後ろ見るとそこには金色に輝くキングゴブリンがいた。
次の瞬間、私は馬ごとゴブリンに殴られた。
私の体は宙を飛びそのまま重力に従って地面に叩きつけられた。
「がはっ。い、一体何が」
私が前を向くとすでに部隊は魔物たちに蹂躙されていた。
私の側近も伝えに来た騎士もキングゴブリンに襲われ、なすすべもなく宙を舞う。
すると足音が聞こえ、私は足音の方を向くと鞭を持った少女がいた。
「鞭の勇者参上!」
かっこいい格好をしているつもりなのだろうか。
片手で顔を覆い、指の間からこちらを見ながらもう一方の手は腰に当てている。
待て!
今あの少女はなんて言った?
鞭の勇者といったか?
「ふ、ふざけるな!鞭の勇者は行方不明になって死んだんだ。そんなことより君は早く―」
「死んでねえよ!」
少女は私に叫ぶと鞭を地面にたたきつける。
すると少女の後ろからライオンのような魔物がやってきた。
あ、あれはAランクパーティーでもほとんど討ち取ったことがないデス・フィーライン。
会えば生きては帰れないと言われるあの魔物がどうしてここにいるんだ!
そのまま奴は少女の元に近づくと少女の頬をなめる。
「おい、くすぐったいだろ。そういうのはまた後でな」
私は何となく状況が分かってきた。
もし彼女の言葉が本当ならすべてが腑に落ちる。
鞭の勇者は魔物を操ることができ、その操られた魔物は恐ろしく強くなる。
「き、貴様は本当に鞭の勇者なのか?」
「そうだって言ってんだろ」
私はその言葉聞いた瞬間、立ち上がって剣を抜くと少女に切りかかった。
直後私は何かに足をかけられ転ぶとキングゴブリンに押さえつけられた。
「なぜ、勇者が我らを襲う!」
「どうして襲われるのか分かっているだろ。お前ら、竜人族たちに何をするつもりだった?」
私の言葉に対して少女は睨みながら返答した。
この少女は竜人族の味方なのか?
「竜人族はこの世の害悪だ。我らはあくまでその害悪を取り除くために行動しているだけだ」
「うわぁ。優斗から聞いていたけど騎士までこんな考えとかありえねえ」
「それよりも早く我らを放せ。さもなければ我らポルヴォー王国の勇者が―」
「やべぇ。オレまで本気で殺したくなってきた。最初は生かしてやろうかと思ったけどやめだ」
少女はそう言うと魔物たちに指示を出す。
「皆、騎士の格好をしているヤツはみんな殺せ!」
「き、貴様―うぐっ」
私は少女を弾劾しようとしたがキングゴブリンにさらに押さえつけられる。
「最期に良いこと教えてやるよ。鞭の勇者はな他の勇者や冒険者と違ってどうやって経験値を得るか知っているか?」
「そ、そんなの知るわけないだろう」
私は少女を睨む。
少女は私に近づくと冷たい目で私を見下す。
「鞭の勇者はな、人を殺すことで経験値がもらえるんだよ。オレはこれおかげで召喚された国からも勇者じゃない。お前は魔王だって、罵られたんだぜ。おかげで途中で国から追い出されたからオレはこの世界で生きるために必死に賞金首とか殺してレベル上げたんだぜ。この世界で生きていくにはレベルを上げるしかないからな。けど、その結果オレは人を殺すことに何も感じなくった殺人鬼になっちまったよ」
私は少女が何を言っているのか理解した。
私はキングゴブリンの拘束から逃げようとして暴れるが、拘束は全く緩まない。
「せいぜい、俺のレベルが上がるための経験値になってくれよ。なーに、本来、騎士や冒険者は魔物と戦うのが仕事だろ。頑張って殺されてくれ」
少女は最後にそう言うと踵を返す。
それと同時に私の頭に大きな力が加わっていく。
「ま、待ってくれ。わ、悪かった。もう竜人族を襲ったりしない。頼む、頼むからああああああ」
グシャッという何かがつぶれる音を聞きながら渚は去っていった。




