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残された者

周りの竜人族の連中は姿勢を正し、敬礼をしている。


「お前、もう大丈夫なのか?」

「霊力は前の三分の一にも満たないが動ける程度には回復した。治療をしてくれて助かった」

「そうか。それでさっきのはどういう意味だ?」

「そのままの意味だ。我が子たちが死地に向かうというのであるならば私も死地に向かうまでだ」


アルベルトを含め竜人族たちが龍神を止めるように説得しようとするが龍神がそれを手で遮る。


「お前は死ぬと分かっていてわざわざ向かうのか?」

「そうだ。我は誇り高き龍神だ。我が子の一人が死地に向かうというのに親である我が行かずして何が龍神だ。もちろん、汝の作戦を聞いていたが良い作戦だと思う。その作戦でぜひ残りの我が子らを救ってほしい」


こいつふざけているのか?

こいつが行けば必ず他の竜人族もついていく。

それでは俺が立てた作戦に乗ろうと考えている竜人たちだって龍神がそういうのなら俺には従わないだろう。

このアホ龍神を説得しなければ水の泡だ。


ふと、服の裾を誰かに引っ張られていた。

振り返るとリアが俺の服を引っ張って耳に顔を近づけ内緒話をし始めた。


「なんかあの龍神さんって少し前の優斗君に似ていない?」

「俺に?」

「そう」


少し前の俺に似ている、似ている、似ている。

待てよ。

もしかして……


「お前、悔しいのか?」

「なんのことだ」


俺は龍神が一瞬だけ目が動揺したのを見逃さなかった。

そうだよな、悔しいに決まっている。


「お前、銃の勇者に復讐しに行くつもりなんだな」

「違う」

「いいや、違わない。お前は復讐をしに行きたいだけだ。我が子がどうのこうの言っているがお前はただそのやり場のない怒りをぶつけたいだけなんだろう」

「違うと言っておろうが!」


龍神の怒りに満ちた声に竜人族の連中が驚愕に満ちた表情をする。


「違わない。お前がそこまで感情的になるんだ。図星をつかれたのを否定したいんだろう」

「貴様、それ以上口を開くようなら殺すぞ」

「ご主人様に手をあげるのならたとえ同じ精霊でも私が殺しますよ」

「ユキもやる」


龍神の脅しにベリルとユキが俺の前に出て龍神に言い放つ。


「お前たちは!」


龍神は大きく目を見開くと何度も俺とユキ、ベリルを見る。


「そうか。そろそろ世代交代だと思っていたが、まさか同一の人間を契約者とするとはな」

「ユキたちのことを知っているのか?」

「知ってはいるが、どうでもいいことだ」

「そうか」


沈黙が俺と龍神の間に流れる。


「悔しかったんだよな。考えてみればお前の怒りは至極当然だ。自分が強ければ勇者にも負けず、ここまで竜人族が減ることもなかった」

「口を閉じろと言ったが、まだ続けるのか?」

「当たり前だ。お前の気持ちは分かるからな」

「お前に我の気持ちが分かるだと?」

「ああ。助けたかった人は救えなかったのに自分は未だに生きている。その憤りと無力さを痛感しているんだろう」

「……。貴様と我は違う。貴様は人間で我は精霊だ」

「精霊とか人間だとか区別なんてしなくていい。この思いはそんなもので区別されるほどやわなもんじゃない」


この思いは味わった者にしか分からない思いだ。

この龍神が感じている思いは俺が今もクソ王子に対している思いと同じだ。


「だからお前は自分の死に場所を探しているんだろう。我が子たちとかそういうのはただの後付けで守れなかった自分に怒り、その怒りをただポルヴォー王国の奴らにぶつけたい。そして自分の怒りをあいつらに味あわせてやりたい。それでたとえ自分が今度こそ勇者に殺されようともな。それがお前の本当の思いだ」


龍神が大きく動揺しているのが分かる。

態度や姿勢には表れていないが視線には明瞭に表れていた。


「仮にそうだとしてなんだというのだ。お前には関係ないだろう。我がどこで死のうと我の勝手だ」

「お前が死にに行けばきっとお前の後を追う奴がいる」

「我が子たちには我から―」

「それに!」


俺は大きく声出して龍神の言葉を遮った。

ここから先は理屈じゃない感情に言うしかない。

それが俺がこの精霊に言えることだ。


「俺はお前たちに死んでほしくない」


これが俺の本当の思いだ。


「お前が死にたいとか幻人族の奴らが誇りを大切にして死にたいとかそんなものはどうでもいい。俺にとって大切なのは俺が助けたいと思う人たちが生きていることだ。龍神、それに好戦派の竜人たちも聞いて欲しい。お前たちにとって助けたい人は誰なんだ?」

「我にとって助けたい者は我が子たちだけだ」

「なら、どうしてお前はそれと逆のことをする?お前にとってお前の子供たちはお前のちっぽけな気持ち以下の存在なのか?」

「そんなわけあるか!我ほどこの子たちを愛しいと思っている者はいない」

「だったら、今は残された者たちのことを考えろ!失ったことを考える暇があるなら今は生き残った者たちが助かる道を考えろ!その後、ゆっくり時間ができたら失った者のことを考えるんだ。逆はない!」


龍神は自分の思いだけが先行して周りが全く見えていない。

好戦派の竜人たちもそうだ。

俺は机を叩いた好戦派の竜人に尋ねる。


「お前は助けたい人がいないのか?親や妻、子供とか。友達でもいい。助けたいと思う人はいないのか?」

「いるに決まっている」

「だったら、ここでお前が死んだってその人たちはここに残されたままなんだぞ」

「それは……」


何も言えなくなった竜人から俺は龍神に視線を移す。


「お前にとってここに残った者たちは見捨ててもいい人たちなのか?」

「そんなわけないだろう」

「なら、お前が今やるべき行動は違うだろう。このまま勝てもしない相手に挑むのではなく、ここに残された老人や子供、女たちを救うことが最優先だろ」


龍神は苦虫を噛み潰したように悔しそうにする。


「それでも悔しいのだ。我の力が足りないせいでここまで被害を受けた。我はどうしてもあの勇者が許せないのだ!」

「別に復讐するなとは言っていないだろ。俺だって殺してやりたいほど憎い勇者がいる」

「それは銃の勇者か?」

「違う。今の俺では手も足も出ない奴だろう。だからこそ、俺は強くなってあの勇者によって殺される人たちを救いたい。できることなら、あの勇者を殺してやりたいとも思っている」

「貴様がそこまで思う奴なら余程の悪人なのだろうな」

「ああ。だから、お前にも今は銃の勇者と戦うことはやめて欲しい。お前にとって成し遂げたいのは今ここにいる一部のポルヴォー王国の奴らに復讐することじゃないだろう。お前の願いは勇者を倒し、ポルヴォー王国を壊滅させることが願いだろ。だったら、今は死ぬべき時じゃない。今はここから脱して生き残り、いつか必ず復讐を果たせるように強くなることがお前たちのやることだ」


俺は大きく息を吸う。


「もう一度言う。俺はお前たちに死んでほしくない。これが俺の思いだ」


俺が言い切ると周りは静かになる。

ずいぶんと長い間静かだったと思う。

龍神のその静寂を打ち破って話す。


「我らの復讐の手伝いをすると言っているようなものだぞ」

「だからどうした?」

「勇者は人族の希望だろう」

「あんなものにすがるのが希望なんていうならそれは希望じゃない。絶望というものを何重にも上塗りして作られたまやかしだ」

「絶望か。確かにそうかもしれんな」


龍神はしばらく考えると顔を上げ、好戦派の竜人の元へ近づく。


「お主にはすまないが、ここは生きよう。我らにはまだ助けなくてはならないものがたくさんある。だから、その時が来るまでお主の命は残しておくのだ」

「御意」

「すまぬ。いつか必ずこの思いを晴らしてみせる」


好戦派の竜人は涙を流しながら何度も龍神の言葉に頷いた。


「貴様は確かクリハラという名前だったか?」

「ああ。栗原優斗だ」

「分かった。クリハラ、我らはお前の作戦に乗る。他の主戦派の竜人たちには私から伝える」

「助かる」

「ただし、条件がある」

「条件?」

「ああ。この条件が満たされないのなら我は従わないと思え」

「なんだよその条件は?」

「我が同胞たちの誰一人として置いて行くことは許さん。歩けなくなった者でも途中で捨てたりはしないことを約束するのだ」


なんだ、そのことか。

条件とか言うからもっと面倒くさいものかと思った。


「最初からそのつもりだ。お前だって見捨てて行くなよ」

「当たり前だ。霊力が戻っていないとはいえ、我も精霊のはしくれだ。クリハラに我の力を見せてやろう」

「分かった。アルベルト、それに竜人族の者ども作戦会議に入るぞ。このくそったれな場所から出ることをお前たちの復讐劇の第一歩としよう!」


俺の声と共に竜人たちのやる気も大きくなっていくのが分かる。

よく復讐は何も生まないとか言うがそんなことはない。

復讐が明日への活力になることだってあるんだから。


その後作戦会議は無事に終了した。

作戦決行は2日後となった。


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