龍神
「この部屋が龍神様の寝ていらっしゃるところです」
扉を開けて中に入ると強烈な精霊の力を感じた。
「龍神っていうのは精霊なのか?」
「なぜ龍神様が精霊様と分かったのですか?」
「俺の技能スキルの感知は精霊の存在を感知することができるものなんだ」
扉を開ける前は精霊の力を微弱にしか感じなかったが、開けた途端に精霊の力を感じるということはあの扉には精霊の力の流出を抑える効果があるのかもしれない。
龍神が寝ているベッドまで向かい、カーテンを開けるとそこには30代後半くらいの男が寝ていた。
男の髪は竜人族特有の紫色の髪に加え、首元には鱗のようなものがあった。
「思ったよりもずいぶんと傷が深いです」
リリの言葉の通り龍神と言われる男の脇腹は大きくえぐれ、生きているのが不思議な状態だった。
「なぜでしょう?この男の人を見ているとなぜか懐かしいと思ってしまいます」
「ユキもー」
ベリルとユキがふいにそんなことを言い始める。
「どういうことだ?」
「申し訳ありません。なぜかそう思うのです。なんていうのでしょうか、長年会わなかった友人と会うようなそんな気分になぜかなるのです」
「ユキもそんなかんじ」
「ユキもベリルも同じ精霊だからかもしれないな」
「精霊様なのですか!?」
俺の言葉に竜人族の者がユキとベリルを見ていきなり土下座をする。
「いきなりどうした?」
「我らは龍神様を第一に信仰しておりますが、その次は精霊様を信仰の対象としているのです。おお、そう思うと何という奇跡でしょうか。ここに龍神様以外にお二人も精霊様がいらっしゃるなんて」
他の奴らもユキとベリルに頭を下げ、頭を地面にこすりつけるように拝んでいるが、こいつら面倒臭い連中だな。
そういう宗教臭い行為は後で時間がある時に俺のいないところで勝手にやってくれ。
「龍神を治療に来たんだろうが、そんなところで頭を下げてないでさっさと治療に移るぞ。お前らだって多少はMPを龍神に送り込めるんだろ」
「は、はい」
「それと俺は『裁定者』だから、固有スキルで精霊の力の回復ができる。リリが回復させている間、俺は龍神の精霊力の回復を行うから邪魔すんなよ」
「ジョブは『精霊使い』ではないのですか?」
「ちげーよ」
「そうですか、それはお気の毒に」
むかつくなぁ。
この竜人族の男も悪気があって言っているわけじゃないから余計むかつく。
俺だって『精霊使い』のジョブならユキたち精霊の力をさらに強化できるのにと何度も苦悩してんだよ。畜生。
「リリは回復専門で。リリはあまり回復魔法はできないんだよな?」
「えっと、アヂンクラスの回復魔法ならできるよ」
「それなら、MPの回復魔法をリリにかけ続けてやってくれ。リリは今回の要だからな」
「分かった」
「頼んだよお姉ちゃん」
「なんかリリばっか優斗君の役に立っていてずるい。私も回復魔法覚えようかな」
「お姉ちゃんだって感知魔法でずっと役立っていたじゃない。今まで誰もケガすることなかったから私だって活躍できなかったんだからここは譲ってよね」
リリの言う通り、リアはとても役に立っているぞ。
それにいつかは俺の世話もいっぱいしてもらうことになるし。
「ベリルは精霊の回復はできるのか?」
「申し訳ありません。どうやらこの男の人の精霊の力と私の精霊の力は決して相いれないもののようです」
「そうなのか」
精霊って言うのは本当によく分からない。
「ルルの妖精魔法は龍神の回復は出来るか?」
「少しだけなら可能です。ただ、リリさんの魔法ほど強い回復魔法は使えませんが」
「それでも構わない。回復の手伝いをしてくれ」
「分かりました」
ルルは俺の懐から出てくると俺の肩に留まる。
竜人族の連中は「ピクシーまで従えているのか」と驚いているがお前らだって幻人族と交易があったならピクシーとだって関わるだろうが。
後に聞いた話では幻人族と竜人族は確かに良好な関係ではあるが、あくまで交易は最低限度に抑えたものだったということだ。
鎖国状態の幻人族でも必要になる生活必需品の購入を竜人族からしていただけなので、ピクシーを目にする機会はなかったという。
俺達は龍神が寝ているベッドのそばの椅子に腰かけ魔法の準備を始める。
俺も固有スキルを発動させないと。
久しぶりに使うな。
ユキは攻撃専門なので俺のそばに来て俺の膝に座る。
ユキを助けた時以来だな。
「ますたー、がんばって」
「ああ、頑張るさ」
ベリルとユキが見守る中、俺達は呼吸を整える。
「『我、裁定者がすべからく判断すべき誠の事柄よ。その偽りなき姿を見せよ』『解放』」
「『ピャーチ・ヒール』」
「『アヂン・マインドヒール』」
「『森の眷属たるピクシーが森の力を用いて、彼の者に癒しを与える』」
それぞれ力を龍神に注ぎ込む。
リリとルルの回復魔法で龍神の傷が塞がっていき、それによって出血も収まっていく。
リアも弱いがMPの回復魔法でリリを助けてくれている。
俺の方は少々きつくなってきた。
レベルが上がったうえ、妖精の祝福でMP量が2倍になっても急速にMPが減っていく。
それに比例してどんどん龍神の精霊の力が大きくなっていくのが分かる。
これだけの精霊の力が大きいと俺と契約する前のユキやベリルとほぼ同等か。
俺との契約でユキとベリルの精霊の力は下がってしまったが、この力は契約前の2人に準ずるものがあるな。
「ふぅ~」
「終わりました」
「はい」
「すまない、俺の方はダメみたいだ。MPが枯渇した」
龍神の体は修復し終えたが、俺の方が先にダウンした。
あれだけの量のMPを消費しても完全な回復にならないとは。
だが、龍神はさっきまでの苦悩に満ちた表情から和らいでいるのは分かる。
「すごい。我らでも不可能だったことを成し遂げるなんて」
竜人族の奴らもホッとしているようで良かった。
「クリハラ殿には感謝してもし足りない。後で丁重にもてなそう」
「それはありがたいが、今はそれよりもお前たちと話がしたい」
「話ですか?」
アルベルトや他の奴らとも早急に話をして決めないといけない事案ができた。
「そうだ。お前を含め今ここで籠城をしている竜人族の指揮官や代表を早急に呼んで来い」




