狩る立場と狩られる立場
「相変わらず凄かったね」
「そうだね」
「ご主人様は最高です」
優斗君が寝た後に私たちは小さな声で話す。
「キスしたり抱きしめたりしてくれるのは嬉しいんだけど、最近はちょっとテンションの上り方が異常な気がするよ」
実は幻人族の場所でもこうやって愛してくれることがよくあった。
よくあるというか毎日ある。
「というかリリとベリルさんはもうちょっと落ち着こうよ。自分から優斗君求めに行くなんて」
「私が行かないと優斗さんお姉ちゃんをずっと抱きしめてキスしているんだもん」
「そうです。リアさんばっかされるなんてずるいです」
うっ、確かにそれはある。
優斗君はいつも私の方から行かなくても愛してくれる。
二人みたいに私も愛してと誘わなくても来てくれる。
「それにしたって二人のキスはなんかいつもいやらしいじゃない」
「あれが大人のキスだよ」
「そうです」
二人は見ているこっちが恥ずかしくなるようなディープキスを優斗君としている。
私もされることはあるけど二人みたいに情熱的じゃないと思う。
それにリリいつも優斗君の前では丁寧な言葉使うのに私たちの前ではそういうのは一切しない。
なんて媚びを売るのが上手い妹なんだろう
それにしてもとリリが話題を変えた。
「食事中に冒険者の方々の話を聞いていたけれど、なんか変な感じだったよ。魔物の話としては妙に殺し方が生々しかったり」
「そうだね」
「それに竜人族の地域にいるのに人族の方にしか会わないのも不思議です」
その後、私たちは今日あった違和感などを共有すると眠りについた。
本当は優斗君にも話すべきなんだろうけど、優斗君の眠りを邪魔するのもいけないと思い明日伝えようと思いながら私も眠りについた。
俺たちは起きると朝食を取りながら今後の行動を話し合った。
「ここで情報収集をしようと思うがそれでいいか?」
「良いと思う」
「私も賛成です」
「分かりました」
「うん」
リアたちも賛成したので、ここで竜人族のことを尋ねる回ることに決めた。
シルヴィアからの頼みもあるしな。
食事をしながらリアたちの感じた違和感などを聞いていると外が騒がしくなっていることに気づいた。
「どうしたんだろ?」
「そうだね」
「ちょっと見に行くか」
「なら私も見に行きます」
「ユキもいくー」
リアたちが気になったようなので一緒に外に出てみる。
「その盗人を捕まえてくれー!」
屋台の店主らしき男が大声で叫んでいる。
その店主から逃げるように5,6人の子供がこちらに向かってくる。
一人は途中で捕まりもう何人かは俺の前を通り過ぎていく。
偶々、俺の前を通り過ぎようとしたガキがいたのでとっさに腕を掴むと組み伏す。
「レイン!」
「俺のことは構わず行け!」
他のガキがレインと呼ばれたガキの方を一瞬振り向くが、レインと呼ばれたガキにそう言われるとすぐに走り去っていってしまった。
「は、放せ!」
「奪ったものを返せばすぐにでも放してやる」
「これはもともと俺らのもんだ!」
「人間誰しも人の物は自分の物だと思ってしまう時がある。だがな、そうやって不法に奪ってしまっては悪者になってしまうんだ。そういう時は正当にどうやれば奪えるか考えた方が良いぞ」
「優斗君!その考えはダメだよ!」
リアから良い突っ込みをもらう。
「黙れ!俺たちは人間なんかじゃない。誇りある竜人だ!」
ガキのあまりにもすごい剣幕に一瞬押されてしまった。
竜人?
そう言われよくよくこのガキを見てみるとシルヴィアと同じ紫色の髪をした子供だった。
首のところには鱗のようなものが少し見えた。
「マリラ!」
ガキが顔を向けて放った声の方を向くと先に捕まった女の子の竜人族が剣で切られてしまった。
「『我、風の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・タイフーン』」
俺はとっさにその子を中心として風でその子を切った男やその子を抑えていた男どもを吹き飛ばす。
俺はガキの拘束を解いて、すぐにその女の子に近寄って抱き上げる。
出血がひどい。
「マリラに触るな!」
「お前は静かにしていろ!リリすぐに治療を!」
「わ、分かりました」
俺は俺が押さえつけていた男の竜人族のガキに怒鳴るとリリに治療を頼む。
「凄い出血です。『ピャーチ・ヒール』」
「大丈夫そうか?」
「分かりません。出血はすぐに止めましたが、すでに多くの血が出てしまったので難しいかもしれません」
「血液を増やす魔法とかはないのか?」
「あるにはあるのですが、かなりの魔力を使います。私の今のレベルでは使ってしまうとしばらく魔法が使えなくなってしまいます」
「なら、すぐにそれを使ってやってくれ」
「でも」
リリは辺りを見回す。
さっき女の子を切り裂いた男や他の冒険者たち、それにここの村にいる騎士の姿をした男どもが俺たちを睨んできている。
「大丈夫だ。俺たちがこの程度の奴らにやられると思うか?」
「分かりました。『トリー・ブラッドリカバリー』」
リリの魔法で青白くなっていた女の子の表情が良くなっていくのが分かる。
「お前らなんでマリラを」
「いいからお前は少し大人しくしていろ」
男のガキが俺らをありえないものでも見たような表情をする。
「お前ら、よくも俺の獲物を奪いやがったな。さっさとそれを返しやがれ」
女の子を切り裂いた男が俺たちに向かって叫ぶ。
「盗みを働いたのは悪いとは思うが殺すまではないだろう」
「ふざけんな!そいつら1匹でどんだけ報酬が出ると思ってんだ」
こいつ何を言っているんだ。報酬?
人を、こんな子供を殺して報酬だと?
「ふざけているのはお前らの方だ。子供殺して報酬がもらえるとか何を言っていやがる」
俺の言葉に周りの男どもがひそひそと話し合う。
「お前、さてはここに来たばかりの奴だな。なら、知らないのも無理はないな」
「どういうことだ?」
「そいつらは竜人族という忌まわしい存在だ。今俺達がいるこのポルヴォー王国ではそいつら竜人族を一人殺すごとに金貨1枚が報酬としてくれるんだよ。それをお前は横から邪魔しやがって」
切り裂いた男はそう忌々しい目で俺らを見つめてくる。
なん、だと!
「ふざけるな!人の命が金貨1枚だと!お前らは人の命をなんだと思っている!ここは竜人族の住む地域だろうが。ポルヴォーなんていう国ではない」
俺の激怒に竜人族のガキも周りの男どもがひるむ。
「こ、ここは先日ポルヴォー王国が占領し、正式にポルヴォー王国の領土となったのだ」
騎士の一人が前に進み出て俺に向かって言い放った。
シルヴィアが言っていた情報封鎖っていうのは竜人族の殺戮を隣国などから止められないようにするためだったのか。
こんなことを遂行するためだけにわざわざ冒険者まで雇うとは。
「いいだろう。狩る立場から狩られる立場になることを思い知らせてやる。お前らは一人残らずここで塵にしてやる」
俺はクソ王子に向けたかつての怒りの炎を静かに燃やすのであった。




