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異変、そして帰還

幻人族の地域は巨大な結界に覆われているため、結界の外まで本当なら歩くところを馬車で向かったので数日でついた。

他の地域に住んでいる幻人族たちは俺達のことを一回は怪しんだが、渚たちの関係者だと馬車を操る幻人族の男が伝えるとすぐに打ち解けてくれたので宿にも困りはしなかった。

勇者共なんて自分の欲にしか関心がないのかと思っていたが、渚は違うんだなと痛感させられた。

どこに行っても渚のこと信頼し、ほめたたえていた。

俺が理想としていた勇者は渚のような勇者だったのかもしれない。


異変が起きたのは幻人族地域から竜人族地域に入ってからだ。

境界近くに下ろしてもらうとその後は徒歩で竜人族地域に入ったのだが竜人族の人間とすれ違うこともない。


「リリ、ここはすでに竜人族の地域なんだよな?」

「はい。そのはずなんですが」

「なら、どうしてさっきから半日以上歩いているのに竜人族の人間と会わないんだ?確かここの近くには小さな村が多いと聞いていたが」


おかしい、さっきから人っ子一人見当たらない。

途中開けた場所に何度か着いたが、草が生えているだけで何もなかった。

結局その後も竜人族の村にはたどり着けず、その日は野宿をすることになった。

道でも間違えたか?


「でも、ちょっと不気味だね」

「そうだな。あるはずの村が1つもない」


リアの言葉に俺は同意した。


「もしかしたら、魔獣が現れたのかもしれません。それで竜人族の方々は避難したとか」

「だとしたら、多少は竜人族の居住跡とか残っていてもいいんじゃないか。あれだけきれいに何も残っていないのなら魔獣がやったとは思えないな。さすがにちょっと変を通り越して不気味だ」


リリの考えもある意味あり得るが、これはそういう類でないような気がする。

なにか強烈に嫌な予感がする。


「周りの微精霊たちもなぜか反応してくれない」

「私やユキちゃん、準精霊さんたちが語りかけても反応しないんです。まるで、会話を拒否されているようなそんな感じです」

「うん、ぜんぜんはんのうしてくれない」

「ユキたちでもダメとなると本格的にここで何かがあったとしか思えないな」

「そうだね」


リアも俺に同意し、リリ達も顔を向ければ同じように何か思うところがあるようだった。


「ルル、ピクシーの力でも何か分からないか?」

「は、はい。優斗様がそう言うと思い、ここの地域の森に語りかけたのですが何も言いたくないと言っています。森の木々様がそうおっしゃるので、知ることもできませんでした」

「そうか。なら仕方ないな」


ルルの方もダメか。


「今日はもう一旦帰ろう。明日は朝早く起きてとにかく人のいるところを目指そう」

「分かった」

「分かりました」

「うん」

「了解しました」

「はい」


全員が賛成しその日は転移石に記録してギルドへ転移した。


「フェルミナ、十数日振りか。今戻ってきた」

「ユウトさん!」


フェルミナは俺に気づくと受付から走ってくると抱きついてくる。


「「「「………」」」」


リアたちのジト目が突き刺さるが無視しておこう。


「今までどこにいたんですか?魔獣を追って幻人族の地域へ行ってから戻ってきていないと連絡がありました。私も所長もすごく心配したんですよ」


フェルミナに事の次第を伝えたいが、幻人族の奴らに口止めされているから今は適当にはぐらかすか


「すまない。魔獣を倒した後、少しの間いろいろとあそこの場所で身動きが取れない状態だったんだ。心配かけて悪いな」

「いえ、無事だったのなら良いです。所長にもユウトさんが帰ってきたことを伝えます。皆さん無事に戻ってこれて良かったです」


フェルミナの出迎えの後、シルヴィアがやって来て出会いがしらにキスをしてきたのでリアたちが騒いで大変だった。

フェルミナと同様に心配していて帰ってきたことに嬉しくてたまらずキスをしたと言ってはいたが、リアたちやフェルミナを落ち着かせるのに苦労した。

そういうことは他の皆がいないところで二人きりの時にして欲しい。

シルヴィアのキスが嫌というわけではない、むしろ嬉しかったが。


「シルヴィア、少し話を聞きたい。応接室は空いているか?」

「密室で僕と二人きりなって何がしたいんだい?」


シルヴィアは顎に人差し指を当てるといやらしい目で俺を見つめる。


「リアたちが本気で騒ぎ出すからやめてくれ。竜人族地域のことで少し話を聞きたいんだ。それにシルヴィアだけじゃなくてフェルミナにも内密に話したいことがある」

「私もですか?」

「そうだ」

「優斗君、ルルちゃんのこと?」

「ああ。いずれは会うことにもなるし、ちょうどいいと思ってな」


リアが尋ねてくるので答える。


「もしかしてだけど、また女を作ってきたのかい?」

「そうなんですか」

「違う。いいから、少し話をしたいから応接室を用意してくれ」

「分かったよ。どうやらまじめな話みたいだしね」


シルヴィアはそう言うと何人かのギルド職員に指示を出すとすぐに応接室に入れた。


「ルル、出てきてくれ。この人たちに見つかっても大丈夫だ」

「わ、分かりました」


ルルは懐から出ると俺の肩に座る。

シルヴィアやフェルミナも驚いているな。


「ゆ、優斗様に仕えるルルと申します。い、以後お見知りおきを」

「さすが僕の旦那様だ。ピクシーまで仲間に引き入れるなんてすばらしいね。僕の名前はシルヴィア・リリィー。ここのギルド所長をしているよ」

「ピクシーなんて初めて見ました。私はフェルミナ・ルージュです。ユウトさんのパーティーの担当をしています」


お互いの顔合わせも済んだし、本題に入るか。


「とりあえず、ルルのことは内密にしてくれ。そうしない場合、獣の勇者に俺が殺される」

「ここ数年行方不明の獣の勇者が出てくると言うことは君たちと連絡が取れなかった十数日間は獣の勇者やその仲間たち、ここで言うなら幻人族の者たちに捕まっていたと考えていいかな」


さすがはシルヴィアだな。

察するのが速いな。


「そうだ。だが、彼らのことを口外しないと約束したから解放された」

「ユウトさんいいんですか?私たちに話して」


フェルミナは焦って俺に尋ねる。


「フェルミナやシルヴィアは俺の彼女であることには間違いない。その二人が知らずにリアたちだけが知っているのも問題だと思ってな。それにシルヴィアには伝えておいた方が色々と根回しができると思ってな」


俺は幻人族たちと何があったかを話し、今後冒険者が幻人族の地域に向かう時にできる限り近づかないもしくは幻人族の者たちに出会うことが少ないルートを明示するように伝えた。

幻人族たちには話すなと言われたが、いずれ俺のように意図なく迷い込む者だっている。

そういう者が被害にあわないようにするにはこうやって根回ししておくのが得策だ。

勝手に入っていくやつは知らん。

俺は自己責任論に忠実だ。勝手に迷い込んで殺されたって俺は知らん。


「分かったよ。今後ギルドでも竜人族の地域へ行く際はそのように伝えておくよ」

「頼む」

「ゆ、優斗様」


ルルに声かけられたので顔を向けるとルルが頭を下げていた。


「私たちだけではなく、幻人族の方々の安全を守るために助力してくださったこと感謝します。このことは次に幻人族の地域に向かった際に必ず報告します」

「ああ、頼んだぞ。シルヴィア、そろそろ本題に入りたい。今、竜人族の地域に入ったのだが一人の竜人族の人間に会わないんだ。何かあったのか?」

「すまないが、最近なぜか竜人族の地域の関連の話題が全く入ってこないんだ。竜人族の地域と国境を接する人族の国と何かあったらしいんだが、その国が情報封鎖をしていてさっぱりなんだ」

「そこに向かう冒険者たちとかもいないのか?」

「いるにはいるんだけど、その国で身元の確認や審査があって素行の悪い冒険者しか入れてもらえないんだ。その冒険者に話を聞こうと思っても話せばもうクエストを受けさせないとその国から脅しをかけられていて何も話してくれないんだ」

「そうなのか」

「だけど、竜人族の地域を通ることは可能だからもし余裕があれば今竜人族の方で何が起きているのか調べて欲しい。もちろん、調査費も出すよ」

「どうしてそこまで竜人族のことを知りたいんだ?」


シルヴィアがここまで竜人族のことに食いつくのも珍しい。

いつもは菓子のことばっかり主張するのに。


「僕の母親が竜人族の人なんだ。僕の髪が紫色なのも竜人族の血が入っている証拠だよ」

「なるほどな。分かった調べてみることにする」

「お願いね」


聞きたかった竜人族の話も聞き終わったので応接室でフェルミナとシルヴィアを久しぶりに可愛がり、ルルに懐に戻ってもらった。

ルルは自分にもしてくださいとお願いされたが、小人なので何とかそれっぽい理由をつけて落ち着かせた。

応接室を出た後は久しぶりに少女の墓へ向かった。

リアたちには先に宿に向かってもらった。

墓に行った後、宿でリアたちにシルヴィアから聞いた話をし、翌日はまた朝から歩くのでその日は早く寝た。


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