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鞭の勇者と裁定者

腕がひどく痛む。


「優斗さん、大丈夫ですか?」


リリが駆け寄ってくる。

リアたちも一瞬遅れるがすぐに俺の元へやってくる。


「リリ、ピクシーたちは大丈夫か?」

「はい、もう大丈夫です。それよりも腕を治します」


リリが回復魔法を唱えるが、治りが遅い。


「チェティーリクラスの回復でこの程度なんて。ピャーチクラスを使うべきなんですけどもうMPがないんです」

「気にするな。ある程度良くなればいい」


しばらく時間がかかったが、何とか動かせる程度にはなった。


「凄かった」

「ああ」


リアの言葉に同意する。

あれは異常な威力だ。

もう魔法なんて言うレベルを超えている。

だからこそ、MPが足りずに打てなかったんだろうが。


その後はピクシーたちの安全をリリとベリル、ルルに任せ、俺とリア、ユキは町の方に確認をしに行った。

リリとベリルもついていくと言ったが、回復魔法を使える2人はここで待っているように頼んだ。

ベリルもリリほどでないが軽い回復魔法は使えるからな。

ユキはさっきからほとんど話していない。


「ユキ、どうしたんだ?さっきから話していないが」

「うん。えっとね、さっき、ままにユキがしあわせでよかったっていわれたんだ」

「ママ?」

「うん、すごいむかしにユキにせいれいのちからをわたしてしんじゃったんだ。けど、ますたーのおかげでもういちどあえたんだ」

「俺が何かしたのか?」

「ますたーがつかったせいれいまほうのりゅうさんがね、ままだったんだよ。もう、いなくなっちゃったけどもういちどさいごにあえたんだ」


ユキは寂しそうに、けれど確かに嬉しそうな表情を浮かべる。

どういう理屈かは分からないが、ユキの母親はユキに精霊の力を渡して死んだけれど、俺の精霊魔法で現れた白い雷の竜にユキの母親の意志が残っていたという理解で良いのかな。

そして、ユキは母親と最後の会話ができた。

さっきまで、静かだったのは自分の心の中で母親との思い出を整理していたのかもしれない。

俺はそっとユキの頭を撫でながら、ユキの母親がどんな人物だったのだろうかと考えていた。

そして、精霊の力を渡して死ぬとか精霊はいったいどういう存在なのか俺の中でも一層疑問が大きくなっていった。




俺たちが町に戻るとそこは地獄絵図だった。

リアはうわぁとか言って引いているし、俺も若干引いていた。

町にはいたるところに魔獣の死骸で溢れていた。

頭が潰されていたり、真っ二つに切り裂かれていたりとグロテスクな様子だった。

遠くを見ると金色に体が輝いたマッチョなキングゴブリンがキメラっぽい魔獣と格闘していた。

キングゴブリンの拳が魔獣の顔に当たると血しぶきをあげながら消し飛んだ。

近くで渚が魔獣たちに指示を飛ばしながらライオンっぽい魔獣にまたがりながら魔獣を殺していく。

そして俺達に気づくと移動してきた。

後ろにはテレーゼもいた。


「よう、そっちは大丈夫だったんだな」

「すまなかった」

「な、なんだよ急に。はっ、もしかしてピクシーたちが…」

「いや、そっちは大丈夫だ。俺は今の今までお前のことを勇者だと自称する頭のイタイ子だとずっと思っていた。しかし、この魔獣の死骸の数を見ると間違いなくお前が勇者だったんだと思ってな。ずっと頭のイタイ子だと思って、すまなかった」

「お前、いい加減にしろよ!俺が本気になったらお前なんかやっつけているんだからな」

「ナギサ落ち着いてください。それでピクシーたちはどうしたんです?」

「それなら今はリリとベリルさん、ルルさんに見てもらっています。ただ、アビーさんが…」

「そうですか。ナギサに与えられていた祝福の1つがなくなったのでまさかとは思っていましたが」


俺と渚が騒いでいるうちにリアとベリルが話をつけていてくれた。


「けど、そっちの魔獣は大丈夫だったか?俺らの方はすっげー強くてさ。魔獣たちも普段ならキングフロッグだけで倒せるのに全然歯が立たなくて、上級の魔物で倒すハメになったぜ」

「魔物は普段はそんなに弱いのか?」

「ああ。いきなり強くなるわ、一気に現れるわ、一体どうなってんだ?」

「とりあえずこっちで起きたことを話そう」


それから俺は渚たちに魔獣を倒すためにルルの祝福を受けた事や被害の規模を伝えた。

渚たちは一瞬俺がルルの祝福を受けたことに驚いたが、俺なら受けてもおかしくないなと勝手に納得した。

渚たちの方は若干魔獣の攻撃で家を壊された者や死んだ者がいたが被害規模としてはそれほどではなかったということだ。

その後は俺自身の腕の回復もあるし、魔獣の死体処理やアビーやそのほかのピクシーの犠牲になったピクシーの葬式、ピクシー共の住処の立て直しなどやることが多かった。


ほとんどの仕事が肉体労働のものできつかったが、ピクシーたちの葬式が一番きつかった。

ピクシーの葬式と言っても大きな大木の根元に小さな穴を掘って埋めるだけだ。

ただ、ピクシーたちの葬式の時はリアたちも渚たちも泣いていた。

リアの泣き顔を見た時は特に心が痛んだ。

また、俺自身も自分の力不足を余計に実感してしまった。

ルルが祝福をしてくれたから勝てたが、もしルルがいなければ殺されていてもおかしくなかった。

それに何よりもアビーが死んだことを実感するたびに何度も地下室の少女のことを思い出し、自分が情けなくなった。


「ますたー、ないちゃだめ」

「ご主人様、泣かないでください」

「泣いていないだろ」

「こころがないているよ」

「はい」


精霊は契約者の心が分かるんだったな。

ユキには前にも言われたが、ベリルにまで言われるとはな。

ルルは葬式の間俺の胸にしがみついて泣いていた。

結局、葬式が終わってから竜人族地域へ出発した。

竜人族の者たちの多くが壊された家や魔獣の死体の処理に追われているので彼らはここに来ていない。


「ルル、本当についてくるのか?」

「は、はい。私は優斗様についていきたいんです」


ルルは葬式の後から前にも増して、俺とよくいるようになった。

俺のことも優斗様と呼ぶようにもなった。


「ますたーはわたさない!」

「いえ、必ず手に入れて見せます」

「どうしよう。またライバル?みたいのが増えちゃったけど」

「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。だってピクシーだよ。あれなら……大丈夫かな?」

「ご主人様なら大丈夫?ですよ。きっと、たぶん」


ユキはルルと言い合うようになったうえに、リアたちは困惑するように話し合うようになった。

だいたいなんでそんなに俺の心配しているんだよ。

さすがに小人には手を出さねえよ。


「ははっ。全く優斗は面白いぜ」

「どうしてこんな変態を好くのか理解できません。ナギサも気を付けてください。襲われますよ」

「うるせえ、俺は変態じゃない。変態は他にいる。それに渚みたいなガキの体にいちいち反応なんかしねえよ」


テレーゼは未だに俺を警戒することをやめない。


「オレはガキじゃねえ。今年で17だ」

「!!おい、嘘だろ?」

「そうです。ナギサは今年で17ですよ」

「お前、リリは今16だぞ」

「「「「……」」」」

リア、ベリル、渚、テレーゼがじっとリリを見つめる。

「な、なんで私に話を振るんですか。それになぜ皆さん私の胸を見るんですか。優斗さんなら見たいのなら後で2人きりの時にたくさん見ていいですから」


リリはこうみえて巨乳だ。

リアも胸はあるが、どっちかって言うとスレンダー体系だと思う。

ベリルはそこそこあるが、リリほどではないな。


リリ「私だってまだ頑張れば」

ベリル「私は15くらいですし、まだ成長する見込みがありますし」

渚「オ、オレは別に羨ましくなんかない」

テレーゼ「そうですナギサ。ナギサは今のままでも十分魅力的です」

「気にするな。そういうマニアもいるしな」


そう言って渚の肩に手を置いて励ますと色々とギャーギャー騒ぐ。


「優斗君は大きいのと小さいのどっちが良いの?」


リアが渚が騒ぐの中、聞いてきた。


「俺は胸に関してはあんまり興味ないな」

「そっか。なら問題ないかな」


リアのスタイルは最高だからな。

そのままで十分魅力的だ。

後で触らせてもらおう。


「では、そろそろ本当に行こうと思う。世話になったな」

「おう。また来いよ」

「非常に不服ですが、お待ちしております」

「また来るね」

「失礼します」

「じゃあねー」

「失礼いたします」


渚やテレーゼにリアたちも別れの言葉を告げ、俺たちはようやく竜人族の地域へ向かうために馬車に乗る。

竜人族の連中がピクシーを助けてもらったことと子供たちがお菓子を与えたことへのお礼ということで竜人族地域との境界線まで連れて行ってくれるということだった。

「馬車のこと助かる」

「気にすんな」

渚と最後の別れをして俺たちは竜人族地域へ向かった。

その竜人族地域でバカ勇者が問題を起こしていたことはこの時はまだ知る由もなかった。


「ほう。あの小僧なかなかやるな」

「おい、爺さん買って抜け出すなよ」

「探した」

「リナちゃんとロフ坊か」

「いい加減そう呼ぶのやめてくれよ」

「やめて」

「そう言うでない」

「爺さん人質なんだからそうホイホイいなくならないでくれよ」

「憤怒が困っている」

「いやー、渚ちゃんの活躍を見に来ようと思ってきたがそれよりも面白いものが見れてのー」

「ナギサちゃん?」

「獣の勇者のこと」

「ああ、あの嬢ちゃんか。それで何があったんだよ」

「勇者でもないのにあれだけ強い魔獣を一撃で沈めるとはな。もしもの時はワシが助けてやろうと思ったのじゃがな。その上、炎の精霊とほぼ互角の力を持つ精霊を2体も連れているとは。もしかしたら、嵐があるかもしれんな」

「そんな奴がいるのか?」

「いたとしたら今のうちに殺さないと」

「やめておいた方が良いと思うぞ。それにあの小僧を殺すよりもおぬし等は他の魔王をどうにかせい。特に色欲は最近機嫌が悪いと聞くぞ」

「俺たちにあいつらの押さえつけられると思ってんのか。無理に決まっているだろ」

「無理。それに色欲は自分で改造して作ったお気に入りのキングゴブリンが殺されてから制御不能」

「確か、魔法が使えるキングゴブリンじゃったかな?」

「そう」

「はぁ。ともかくおぬし等は他の魔王たちが暴れるのをできる限り防げ。それとあの精霊に手は出さぬ方が良い。ただの精霊なら良いがあの精霊はちと違う気がする。何、もしもの時はワシも手を貸す」

「分かったよ。できる限りやってみるさ。けど、あんたは本当にどっちの味方なんだか分からねえよ」

「勇者のくせに魔王に手を貸すとか考えられない」

「ふん。ワシはいつだってワシのためだけに戦うだけじゃ」

「もうあなたに何を言っても無駄なことは分かった。ロフト、ゲートを開けて。もう帰る」

「了解」


ゲートを開き、二人の魔王と一人の勇者が帰ってゆく。


「あの若造とはいずれまた会いそうじゃな」


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