幻人族
魔物の後ろをぴったりと歩いていると不思議な感覚を肌が味わったと思った次の瞬間には目の前には大きな町があった。
たぶん大きさ的に1万人くらいの町だな。
「さっきまでは存在すらしなかったのにいきなり目の前に現れるとは」
「たぶん高度なまやかしの魔法をかけていたんだと思います」
リリが説明してくれる。
自称勇者は今風の準精霊に頼んで運んでもらっている。
町の入り口に入ったところで町には誰もいなかった。
「優斗君、周りを囲まれているよ」
「そうなのか」
「うん」
リアが教えてくれる。
そう言えばリアは感知魔法が得意だったな。
見えなくても分かるのか、便利でいいな感知魔法。
「ナギサ、大丈夫ですか。貴様、今すぐナギサを放しなさい」
「そうよー」
「放しなさい」
目の前に和服っぽいのを着た紫紺色の女性が現れた。
たぶん霊体化から実体化したんだと思われる。
女性の周りにはちっちゃい羽の生えた人間が飛んでいる。
たぶん、ピクシーだな。
「お前がこの自称勇者の関係者か?」
「自称ではありません。勇者です。だったらなんだというんです?」
「人をいきなり襲ってどういう了見をしてんだよ。しかも、いきなり殺しに来るとかなめたことしてんじゃねぇよ」
「あなたたちが私たちの住むここに魔獣を誘導したから倒しに行ったのですよ!」
なにこいつ、要は俺らが魔獣を幻人族の地域に誘導したと思っているわけ?
「私たちの結界が魔獣には通じないことを見越してわざと誘導してここに来たようですが、ここに来た以上生きて帰れると思わないでください」
ふと和服女が目配せしていることに気づいた。
後ろを軽く見ると他のピクシーたちが自称勇者の縄を解こうと奮闘している。
「なにこれ。全然ほどけない」
「どんな結び方しているのよ」
「しかもすごく固い」
残念だったな。
日々逃げられないようにほどけない結び方を武器屋のオヤジやヴァルトハイムの爺さんに教わったからな。
ピクシー程度で解かれるほど俺は落ちぶれていない。
「やめとけ。お前らじゃ、それはほどけない」
「なによ。だいたいどうして精霊がこんな奴に肩入れしているの!」
「そうよー」
「やめなさいよ」
ピクシーたちは騒ぐが、無視して和服女の方を再度見る。
「まず、なぜ俺らを襲うのか理由を聞きたい。くだらない理由で襲ったならこいつの命はないと思え」
ダガーを取り出すと自称勇者に向ける。
「優斗君、ちょっとはその穏便に」
大丈夫、程度はわきまえているから。
和服女も観念したのか話を始める
「貴様たち人間族は我らを物珍しがり、幾度となく女子供を攫ってきた。だから、我らは二度と人間族との関りを断つためにここを結界で囲み人間族を遠ざけた。なのに貴様らは我らの地域に幾度となく侵入しようとし、今度は魔獣までもを差し向けてきた」
「お前、こいつも人間族だろうが」
俺は自称勇者を指さす。
「ナギサは確かに人間族だが、我らを何度となく魔獣から救ってくれた救世主だ。ゆえにナギサは弱い我らを魔獣と人間族から守るためにここに留まってくれているのだ」
なんとなく事情は分かった。
俺は縄で縛られている自称勇者の頭を叩いて起こした。
「おい、起きろ」
「いってえええええ。何すんだよ!」
「お前、この幻人族を守るためにここにいるんだよな?」
「え?ってなんでオレ裸なんだよ」
「いいから答えろ」
「そ、そうだよ」
自称勇者は顔を赤くしながら自白する。
「俺らを生きて返さないっていうのは俺らが戻ることで幻人族のことを周りに話すかもしれないからか?」
「そうだよ」
なるほどな、さてどうするか。
仮に俺らは決して幻人族のことを話さないと約束してもはい、そうですかと素直に納得してくれると思えない。
出会って日が浅いうえ、こいつらの救世主などともてはやされているアホを裸にして縛り上げているわけだからな。
「ますたーおなかすいたー」
ユキは呑気に腹減ったとか言っているし。
でも、俺も減ら減ったなぁ~
「確かに、もうお昼くらいか。とりあえず飯でも食うか」
ここは一旦現実逃避でもして対策をとろう。
「優斗君、今を直視して。私たちすごく危ない状況だよ」
「リア、ここで焦っても妙案が浮かぶとは思えない。俺達には人質がいるんだ。ゆっくり気長に策を考えよう」
「確かにそうかもしれません」
「私も少しお腹が空きました」
リリもベリルも俺の意見に賛成のようでリアも渋々納得した。
「おい、どっかで飯食えるところないか?」
「貴様はいったい何のつもりだ!そんなこと聞かれて言うとでも思っているのか。さっさとナギサを解放しろ」
「お、あそこに食材があるな。火でも起こして今日はバーベキューでもするか」
「貴様、私を無視するな」
和服女が腰に差している刀に手をかけるのでダガーを自称勇者に向けると苦虫を潰したような顔をすると道を譲ってくれる。
「優斗君が時々すごいのかすごくないのか分からないよ」
「私も思います」
「さすがご主人様です」
リア、リリ、ベリルがそれぞれ反応してくれる。
とりあえず材料を購入。
店先の人が無視するので適当にギルドカードにものを詰め込んで金貨1枚を投げて退散。
ギルドカードはドロップアイテムも収納できるので、ドロップアイテム代わりとして食品を詰め込むことも可能だ。
河原で火を起こすと串に刺して焼く。
自称勇者は俺をずっと睨んでいたが徐々に腹が空いたのか俺たちが食べている物をじっと見つめよだれをたらし始める。
お前、女なんだからそんなだらしない顔見せるなよ。
その光景をずっと近くから和服女は見つめ、隙があれば自称勇者を助けようと模索しているようだ。
残念だな、俺はそんな隙を与えん。
「ほら、食え」
俺は作ったバーベキューを縛られて動けない自称勇者の口元に近づける。
「いらねぇ。敵の与えた飯なんて食わねぇ」
「なら、無理やり口をこじ開けてでも食わせるがいいか?」
「やれるもんならやってみろ」
と言うので無理やり口を開かせるとバーベキューの肉や野菜を無理やり突っ込む。
「げほっ、ごほっ」
「おい、むせんなよ。汚いだろ」
「お前、殺す気か!」
「やれるもんならやってみろというからしてやっただけだろ」
「本気でするバカいるか!」
和服女の方を向くとめちゃくちゃ殺気立っている。
「ますたーおかしー」
ユキが菓子をねだるのでギルドカードから取り出して渡す
「ほら」
「わーい」
自称勇者の方を再度向くとユキの方をじっと見つめる。
「おい、あれはバームクーヘンだよな」
「そうだが」
どうしたこいつ急に目の色を変えてやがる。
「あれは人族の地域で売っているのか?」
「売ってねぇよ。俺が作ったんだよ」
「お前、お菓子作れるのか?」
「だから?」
「俺にもくれ」
なんか前にも見たぞこのパターン。
シルヴィアに初めて会った時か?
「なんでお前にやらなきゃいけない」
「だって、この世界に転生されてから一度もお菓子っていうお菓子食ってないんだよ。お菓子だっていうから何かと思えば飴だぞ飴。もういい加減、飽きたんだよー」
「そうか。それは難儀な話だな」
「だろ」
だからと言ってお前に与えるつもりはないがな。
「優斗さん、もしかしたらこの状況を切り抜ける方法が見つかったかもしれません」
さっきまで黙って俺と自称勇者の会話を聞いていたリリが急に思いついたように俺に話す。
一体何か妙案でも思いついたのだろうか?




