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拷問して吐かせた奴らがこいつに接触したクソガキにけしかけられてユキを攫い、手渡した。


「今回母親はこの男の行動を分かっていながら放置し、あまつさえ微精霊ですら気づかないほどの高度の隠ぺい魔法をかけていた」


これのせいでユキをなんなく拉致できたということだ。


「何か言うことはないのか?」

「精霊は殺すべきだ」

「なぜだ」

「……」


変態が答えないので母親に尋ねる。


「お前もこいつの考えと同じか?」

「ええ、おおむねそうね」

「なら、なぜあの時精霊剣から出したユキを助けた?」

「可能性を見てみたかったわ」


口調がいつものではなくはっきりと答える。


「可能性だと?」

「ええ、精霊と人が共に歩めるのかそれとも敵対するしかないのか。結果を見る前にこんなふうになったけどね」

「お母さんどうしてこんなことしたの?」


リアは理解できないといった様子だ。

リリも同じような表情をしているが、爺さんはなんとなく察しがついたようだった。


「なぜこんなことをしたのか答える気はあるのか?」

「それは個人の、いえ私たちの問題よ。他人に話すようなことじゃないわ」

「そうか。なら、お前には死んでもらう。ユキに手を出しておきながら何の説明も言い訳もしないのだからな。話さないなら生きていても死んでいても同じだよな」


俺は剣を上に上げる。


「待って、優斗君。お願い」

「お願いします優斗さん。ママどうして?なんでこんなことをしたの?」


母親は二人に優しい笑みを浮かべるだけで話さない。


「この2人は精霊恐怖症なのじゃよ。まだ治っていなかったとは驚きじゃが」

「ヴァルトハイムてめぇ」

「あなた!」


変態は爺さんを止めようとするが母親に止められる。


「爺さん、どういうことだ?」

「かつてリネットとフレデリックは国からの直接の依頼である精霊を捕獲するように命じられたのじゃ」

「そんなこと聞いたことない」

「私もです」


どうやらリアとリリにも話したことがない話か


「ワシはかつてこの2人とパーティーを組んでいた。ワシはあくまで引退前に少しだけ加入して経験などを教えていただけじゃ。ワシが出て行くとすぐに2人は多くの地域で活躍していった。けれど、ある時この国の皇太子が病に侵されてな」


なんとなく察しがついたぞ。


「普通の病なら当時の高名な治療師にでも高額な金を積めば良かったのじゃが、少し厄介な呪いがあったという話じゃ。皇太子はその呪いで死んだらしい。その間、ちょっと見ないうちにこの2人は精霊にひどくおびえるようになったんじゃ。」

「要するにその呪いを解いてもらうために精霊の捕縛に乗り出したが、精霊に突っぱねられた挙句痛い目を見て帰ってきたそんなところだろ」


母親と変態は黙って下を見つめていた。

正解か。


「精霊は恐ろしいものだ。娘たちにはそんな精霊と仲良くする男の元には行ってほしくはない、もしくは行ってもいいが精霊だけは今のうちに消しておくっていうのがセオリーだな」


準精霊たちと契約した今だから分かるが、精霊と準精霊では能力や力に格段に差がある。

精霊がひとたび暴れたらきっと俺なんかはすぐ死ぬな。

だからこそ、精霊を縛り付ける精霊結晶や精霊剣で力を抑え、管理した方が良いという事なんだろうが。


「お父さん、お母さん」

「パパ、ママ」


リアとリリも何も言えなくなってしまっている。

確かに精霊の怖さを知っているから娘たちにも味わってほしくないというのは親心なんだろうが、手段が違うだろ。

怖いものならきちんと説明して、最悪死ぬことを分からせておけばいいだけの話だ。


「少し違うわ」

「どう違うんだ?」

「私はユキちゃん一人なら別に問題ないと思っていたわ。けど、栗原ちゃんに2人目の精霊が近づいたのがまずいと思ったわ」

「どうしてそう思った?」

「分からない?一人だけなら『断罪』で始末できるでしょ」

「!?」


こいつ俺の『断罪』の力を知っているのか。


「私やフレデリックが知らないと思った?裁定者はレベル50を超えると自らの命と引き換えに対象を必ず破壊する固有スキルを持つ。だから、一人の精霊だけなら最悪の事態の時に栗原ちゃんでも対処できる。けど、もし2人精霊がいたなら?」

「優斗君、そんなスキルがあるの?」


なるほどな。

要は一人の精霊だけなら俺の命を担保に許可していたがここに二人の精霊が現れた時点で話は変わると


「確かにある。だが、その時はまだ―」

「ベリルちゃんとは契約していなかった。けど、遅かれ早かれしていた可能性はあった」


俺が続きを言う前に母親に続きを言われた。


「可能性があるだけで、今後の憂いを排除するのは定石よ」


一理ある。

一理あるが…


「お前らは精霊のこと全く理解していないからかつて連れてこいと言われた精霊を連れてくることができないだ」

「なんだと?」


変態は俺の言葉に食いつく。


「お前らはさっきから精霊を物のように扱っているが、精霊は物じゃない人と同じで生きているんだ」


ベリルとはまだ付き合って日が浅いが、ユキのことならよく分かる。


「お菓子を食べれば嬉しい、楽しいと笑顔で言うんだ。これが物の訳ないだろうが。それにユキが危険?お前らの方がよっぽど危険だろうが。自分たちにとって邪魔なら殺す、この考えを危険と言わないで何が危険だ」


それにと俺は続ける。


「お前たちが自分の娘たちを心配していたのは分かる。けど、ユキがまだいなかった俺に付いてきていた時の方がもっと危険だったと思う。それでも、リアたちは付いてきてくれると言ってくれたんだぞ。俺は裁定者だから弱い。二人に守ってもらえることはあっても守ることはできないかもしれないと伝えた。けど、二人は俺と一緒にいてくれると言ったんだ。死ぬことも十分にあるとも伝えた」


あの時一緒にいてくれると言われたときは本当にうれしかった。

一人じゃない誰かがいてくれる。


「うん、確かにしてもらったよ。私は死ぬ覚悟十分していたよ」

「私もしてもらいました」


リアとリリは俺の言葉の裏付けをしてくれる。


「それを精霊が2人になったから危険?笑わせるな。精霊なんかよりも恐ろしいものがこの世にはたくさんある」


力を持ったものが暴走することほど厄介なものはない。

俺自身、今は他の者よりも力を持っているがそれはあくまでユキたちが俺をまだ見限っていないだけだ。

俺とユキやベリル、準精霊と交わした契約は加護を与えるだけ。

そのまま放置されて戦えと言われても俺だけでは十分に戦えない。

ユキやベリル、準精霊がサポートしてくれるからどうにかなっているだけに過ぎない。


「自分たちが怖いからと言ってそれをリアやリリに押し付けるな。この2人はお前らほど臆病でも弱くもない」


俺なんかを支えてくれると言ってくれた人たちが俺やこいつらみたいな臆病者なわけがない。

最悪、死まで覚悟していたからな。


「リア、リリお前らに問いたい」

「なに?」

「なんですか」

「お前らにはこれから選択してもらう」

「どういうこと?」


リアが尋ねてくる。


「俺はもう二度とバークレーに戻ってはこない。金輪際こんりんざい、この2人とは関わる気も関係を持つ気もない。ユキがまた再び襲われたり、今度はベリルを襲うかもしれない。そんな危険かもしれない場所にわざわざ居続ける気もないからな」


ユキとベリル、そしてバークレーを天秤にかけるなら俺はユキとベリルを取る。


「ただ、リアとリリにはいて欲しい。これは俺の願望であり、二人には拒否する権利がある。だから、選んで欲しいんだ。両親か俺かどっちについていくかを」

「そんないきなり言われても」

「もし、パパとママを選んだらどうなるんですか」

「その場合、二人とはこれまでの関係もなかったことにするし、今後関わりあうこともしない。お前たちの両親はそれを望んでいるからな」


リリの質問に答える。

ある意味俺がリアたちとの深い関係を望んでいながら実行しなかったのは少女のことだけじゃなく、こういうことでもあったのかもしれない。


「そんな、私やリリとのこれまでのことはどうでもいいってことなの?」

「どうでもいいとは言っていない。俺はリアたちに感謝しているし、リアたちが好きだ。愛しているとも言える。けど、それ以上にあいつらを殺してやりたいと思ってしまうんだ。リアたちの中にあいつらの影が見える。それだけで、どうしようもなく憎しみがわくんだよ」


俺は母親と変態を指しながらそう答える。

ユキがあんなにひどい目にあっておきながら、無視を決め込みクソガキを止めるだけの力を持つのにそれを助長する。

母親と変態があのクソ王子に重なって怒りがふつふつと湧いてくる。

持っている力で誰かを救うために使うのではなく、自分の私利私欲のために使うのが許せない。

もちろん、俺も力を私利私欲のために使うことはある。

絡んできたバカどもに制裁を与えはする。

けど、誰かが何の落ち度もないのに死んだり苦しんだりすることには使いたくはない。


「だから、俺を選んだならあいつらとは縁を切ってもらう。君たちはフレデリック・バインズとリネット・バインズの娘としてではなく、一人のナタリア・バインズとリリアナ・バインズとして生きてもらう」

「……」

「……」


リアもリリも悩んでしまう。

それはそうだ。

会って間もない男から家族と縁を切れなんて言われたんだからな。

ずいぶん経った気がする。

リリは顔を上げる。


「分かりました。パパ、ママ今までありがとうございました」


リリは頭を下げて俺のところに来る。


「リリ、ここを出たって住む場所がないだろうが」

「俺が何の算段もなしに来ると思っていたか。住む場所なら別の宿でも取ればいいだけだ。金だってないわけじゃない」


変態がリリに向かって言うが、俺が何も考えていないバカと一緒にするな。


「ごめんなさい」


リリはそうつぶやくと下を向いてしまう。

リアはその後も考えていた。

そして、顔を上げると俺のところに来る。


「優斗君、私決めたよ。でもね、優斗君のことも好きだけど、お父さんやお母さんのことも好きなの」

「そうか」

「うん。優斗君がどうしてそんなに怒っているのかも分かる。お父さんとお母さんがやったことがあの子に起きたことと似ているんだよね」


あの子っていうのは墓の少女のことか


「だからね、お父さんやお母さんと心の底から縁を切ることできないかもしれない。それでもね…」

リアは途中で泣き出してその後を続けられなくなっていた。


後ろにいる両親の方を向くと


「ごめんなさい」


頭を下げて泣いていた。

リリも涙を目に貯めていた。

好きな子を泣かせるなんてな。

俺は本当にクズだな。


「私は彼についていきます。私はナタリア・バインズとして生きていきます」

「勝手にしろ」


変態はそう言うと奥の部屋に入って行った。


「娘たちを幸せにしてくださいね」

「ああ、幸せにするよ」


もう二度と言わないたった一回だけの言葉を言う。


「お義母かあさん」


そうして俺はバークレーを出て行った。

2ヶ月という短いようで長い生活をここで過ごした。

リアとリリ、ユキ、ベリルを連れ、俺はここを立ち去った。


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