海の精霊
見えない壁を貫通させて火の竜を攻撃したようだ。
「そんなありえない。この壁はトリークラスの魔法だぞ。これをそんな一撃で貫通できる魔法はチェティーリクラスの魔法が2発当てなきゃ無理だ」
クソガキは騒ぐがベリルはゆっくりと俺の元まで来ると膝をおる。
「私、思い出したんです。私は栗原さんに会うためにやってきたんです」
「なんで俺に会いに来たんだ?」
「言いたいことがあったんです」
「それって?」
「ごめんなさい。その言いたいことまでは覚えてないんです。けど、私は栗原さんに会って何かとても重要なことを言いたくてここにいるんです」
ベリルは頭を下げると俺の目を見つめてはっきりと言う。
ベリルはそれにと顔を赤くしながら告げる。
「私、なぜかは分からないのですが、栗原さんにとても感謝をしている気持ちと好きだっていう気持ちがどんどん大きくなっていくんです。栗原さんに出会えてよかったっていう思いと同時に。リアさんたちに栗原さんを守るって約束する以外に私自身があなたを強く守りたいって思うんです」
だからと続ける
「私の契約者になってくれませんか?」
「お前、いいのか?契約者は精霊にとって重要な物だろ。こんなところで、しかも俺なんかと契約していいのか?」
精霊にとって契約は重要なものだとユキから聞いた。
精霊魔法を授けるだけじゃなく、精霊の能力が契約者に大きく左右されることがある。
要は契約者のMPや能力が足りないと精霊の力の一部が契約者に流れ込んで、精霊の力が多少なりとも弱くなると。
また、その逆も然り。
俺は弱いからユキの力の一端が流れ込んできているという。
ユキは気にしていないとは言っているが精霊によっては気にする者がいるだろう。
だからこそ、ベリルはいいのだろうか。
俺と契約すれば多少なりとも精霊の力が落ちることになる。
「はい。むしろ栗原さんと契約したいんです」
ベリルは笑顔で答えてくれた。
「まさかここにもう一匹精霊がいるとは。必ず手に入れてやる」
クソガキは新たに魔力を籠め始める。
卒業式の帰りの時の言葉はやはりクソガキが言ったのか。
「さぁ、早く手を取って下さい」
ベリルは俺に手を差し出す。
「分かった。後悔するなよ」
ベリルの手を右手で取る。
右肩が打ち抜かれて痛むがそんなことを気にしてはいられない。
「『水を司る海の精霊が汝に加護を授けたもう』」
左手の甲が焼けるように痛む。
精霊の契約者になりました。
精霊の加護を取得しました。
精霊魔法・氷水魔法を使用可能
頭の中にそんな声が聞こえ、ベリルからもらった加護で今現在使える精霊魔法が分かる。
「私はあまり回復魔法が使えないのであくまで傷塞ぐ程度しか使えませんが」
俺の右肩にベリルが触れると打ち抜かれた部分が塞がれる。
「栗原さん、私があの人の攻撃を防ぎます。だから、今のうちに精霊魔法の詠唱をお願いします」
「分かった」
「『トリー・タイフーン』」
「『水壁』」
クソガキも詠唱することで精霊の力を引き出して放つが、ベリルも俺たちの周りに分厚い水の壁を作る。
ベリルが近くにいるおかげか何となくどんな精霊魔法なのか分かる。
クソガキからユキを助け出すのに効果的な精霊魔法を唱える。
「『我、海の精霊と契約する裁定者が願う。我が救いしあらゆるものの束縛を解き放ち、我を導き給え。我が成すその力を示せ』」
微精霊たちの力も借りていく。
「『聖海』」
大きく俺の足元がうねるとそこから大量の水が溢れてくる。
「うわっ、なんだこの水は!?」
「すごい、ここまでの水の量が出せるなんて」
クソガキは水に流されていき、ベリルは驚嘆の声を上げる。
俺はベリルの手を握って足に力を入れ、流されないようにする。
この水の中では俺とベリル、ユキは息ができるがクソガキはできないので水に流されながら溺れる。
ベリルがあけた見えない壁の穴から漏れ出るが、それ以上に水が溢れていく。
そうして見えない壁が水圧に耐えられなくなり、壊れると同時にあふれていた水も一瞬でなくなる。
左腕のやけどが少し治っているな。
「たかが水ごときで僕がやられると思ったか」
クソガキはずぶ濡れの状態で立ち上がる。
俺やベリル、ユキは全く濡れていない。
俺はユキの元まで行くと
「ユキ、今外してやるからな」
「ますたー」
ユキは泣きながら俺の名を呼ぶ。
頬は赤くはれていてひどく痛そうに見える。
水で濡れた精霊結晶に触れると簡単に砕け散る
「ますたああああ」
ユキは泣きながら俺の胸に飛び込んでくる。
「遅くなってごめんな。痛かっただろ」
「ううん。ほっぺはいたいけど、ますたーがいじめられているのがもっといたかった」
全く、ユキは嬉しいことを言うな。
自分はもっと痛いんだから俺のことなんか心配しなくていいのに。
「なんで、どうして精霊結晶があんな簡単に壊れる!?」
クソガキは信じられないとばかりに喚き散らす。
「この『聖海』は偽りの力で縛られた者の束縛を解く魔法だ。こんな精霊結晶なんて言うまがい物の力で精霊を束縛することはできない」
「貴様あああ。な、なんだ。お、おい、待て」
するとクソガキの持っていた剣が砕け散る。
それまでクソガキの近くに浮かんでいた5つの小さな光がクソガキの元から離れ、俺の周りをくるくると回り始める。
「まさかこの精霊たちまで無理やりその剣に縛り付けていたのか。呆れてものも言えんな。たまたまとはいえお前たちも良かったな」
俺が浮かんでいる精霊たちに声をかけると後ろからベリルがやってくる。
「栗原さん、準精霊たちが感謝の言葉を述べています」
「こいつらは準精霊なのか?」
「はい。そしてぜひ自分たちの手であの人を討ちたいと述べています」
「そうか。なら、勝手にやれ」
「えっと、その、準精霊たちがぜひ栗原さんと一緒に討ちたいそうです」
「それは別に構わんが、クソガキを簡単に殺してしまっては面白くない。地獄を見せてやらないと。せいぜい感電させる程度にするからそれでもいいなら一緒にやるか?」
準精霊たちは構わないというように集まっていく。
俺、『聖海』使ったからMPが残り1割くらいしかないんだけど。
『聖海』は氷水魔法で言うなら一番弱い技だ。
稲妻魔法の『雷光』にあたるな。
準精霊たちが魔法の構築を始めると同時に頭の中に詠唱すべきワードが浮かんでくる。
「ま、待ってくれ。頼む、僕にできることなら何でもするから」
クソガキは命乞いを始める。
全く、自分が危険になったら命乞いをするとか本当に考え方がクソガキそのものだな。
名を体を表すともいうし当然か。
「これはせいぜい前座だ。ユキを苦しませた分存分に苦しめ。『我、準精霊の願いに応じる裁定者が願う。エレメント・サンダー』」
「ぎゃああああああああああああああ」
準精霊たちによって生み出された雷によってクソガキは感電する。
ほう、MPの消費が残りの俺のすべてのMPで、この威力。
なかなか良いではないか。
いい感じに感電し、クソガキは気絶して倒れる。
ベリルや準精霊たちの助けのおかげでどうにか勝利することができたな。
しかし、どうしてこうも俺に絡んでくる男はこういうやつが多いんだろう。




