卒業式
リア達の卒業式に俺も参加することになった。
変態は「なんでこいつが」とか言っていたが気にせずに行った。
ユキは俺に付いてくると言い、ベリルは私は家で待っていますと言った。
なんでも自分の宿代を無しにしてもらっているのは悪いということでバークレーの掃除をしているという。
気にしなくて良いのにな。
変態はユキが出てきてからというものずいぶんと不機嫌になることが多い。
俺が変態の精霊剣をぶっ壊したから不機嫌なのかと思ったがそうでもないみたいだ。
あからさまにユキを避けているようで、ベリルが来てからは余計にその態度が強くなり、ユキだけでなくベリルも避け始めた。
まぁ、変態のことを気にしたって時間の無駄だからな。
卒業式が始まると、家族や関係者は後ろで見ることになった。
ユキには予めつまらないと騒ぎ始めるのが容易に想像できたので、ドーナツを作って食べさせた。
リア達の卒業式の家族や関係者はなんというか金持ちっぽい人や騎士っぽい人がたくさんいた。
もともとリア達が金がないと通えない学校に行っていたことは何となく想像できていたが、ちょっとこれは凄いな。
予想していたよりずっと権力持っていそうだ。
卒業式には急遽リリが参加することが冒頭伝えられる。
周りは一瞬騒がしくなるが、変態と母親の娘だと分かるとさすがバインズの娘だなと口々に言うと静かになった。
後はよくある卒業式と同じでお偉いさんの長話。
しかも、前にギルドで見かけたシルヴィアの父親も祝辞を述べてたよ。
結構な奴らがリア達の卒業式に祝辞をする。
早く終んねぇかな。
リアは終ると卒業生同志涙を流したり再会の約束をしたりと忙しそうだ。
リリはお偉いさん達に囲まれたり、同じ卒業生からパーティーの勧誘を受けたりとこちらも忙しそうだった。
変態も母親も家族同志や騎士っぽい人達と話している。
「おい、なぜ僕らの卒業式に低ランク装備の冒険者がいる?」
騎士の衣装を着た卒業生の一人が俺に絡んでくる。
「何か用か?」
「質問に質問で返すとは礼儀のなっていない者だな」
俺が振り返ってそいつに尋ねるとそいつは俺を侮蔑に満ちた目で見てくる。
周りにいた取り巻きも俺を見ると失笑する。
普段だったら俺も言い返しているが、今はリア達の卒業式が終わったばかりだからな。
面倒なことをやるとリア達が恥をかく。
「しかも幼子まで連れてくるとは。ここは君のような低ランクの冒険者が来る場所でない。大方、僕らの誰かをパーティーに勧誘でも来たのだろうがここにいる者達は君のような冒険者に付いて行きはしない。早急に帰りたまえ」
そう言うとそいつは鼻で笑う。
「ますたー。こいつ、ますたーを笑う。ころしたい」
「放っておけ。いつもみたい潰しても害のない奴らならまだしもここにいるアホどもに手をあげると後が厄介だ。今は我慢しろ」
俺の肩に乗るユキにそう声をかける。
そう今は手を出すな、今は。
後で殺るから。
俺はそのまま卒業式会場を後にしようとする。
「あれ、優斗君どこに行くの?」
「ナタリアさんじゃないか」
「カイザー君?ちょっと優斗君本当にどこに行くの」
リアが俺に気付いて呼び止める。
カイザーと呼ばれた男はリアに好意的な目で見る。
なんかあの男の目むかつくな。
「ナタリアさん、僕らのパーティーにぜひ加わってくれないかい?僕ならきっと君と上手くやれるよ」
「えっと、ごめんなさい。私この人とパーティーを組むことにしているの。」
カイザーと呼ばれた男はリアを勧誘するが、リアは帰ろうとしていた俺の腕を取ると胸に抱く。
カイザーはそれを見ると俺を忌ま忌ましい目で睨みながら
「君がナタリアさんに付いた虫か。自分の実力もわきまえず、権力者の娘に近づくとは」
「カイザー君、いくらなんでも優斗君に対して失礼だと思う」
それを聞いたナタリアは顔を真っ赤にして怒った。
「それに優斗君は私がお父さんやお母さんの娘だから近づいたわけでもない。だいたい、優斗君の実力のことを言うけど、優斗君はカイザー君と同じ精霊使いなんだよ」
リアはそう言うが、俺の実力は確かにそいつの言う通り弱いと言って良い。
単純にユキがいるから俺は強く見えるだけだ。
「待て。ということは君の上にいるのは精霊なのか?」
「だとしたらなんだよ」
カイザーと呼ばれた男はリアの言葉に一瞬目を見開くと俺にユキのことを尋ねてくる。
「ジョブはなんだ?」
「裁定者」
俺がそう言うとカイザーも含め周りにいた取り巻きやこちらに聞き耳を立てていた家族達が俺を鼻で笑う。
「裁定者だって、くくっ。いくら僕と同じ精霊使いでも精霊の力を十分使えもしないジョブじゃないか。笑わせないでくれ」
「ますたー、もうがまんできない。こいつころしたい」
「私も少し腹が立ってきた」
ユキとリアが怒り始める。
ユキがこうなるともう言って聞かせるのも難しいしな。
仕方ない。
「お前さ、人のこと笑っているが自分こそ実力が分かってないんじゃないか?」
「なんだと」
カイザーに向けてそう言い放つと奴は俺を睨む。
「なら、君の実力を見せてくれ。どうせたかが知れているだろうから」
「ああ、良いだろう」
俺はそれからどこか広い場所を尋ねると卒業式会場の隣に演習場があり、本当はこれからそこで卒業生が魔法の技術を出席者達に見せることになっているという。
俺が魔法を放つ許可を取って演習場に移動するとカイザーを含め俺達の様子を見ていたもの、興味半分で見に来る者がだいぶ集まった。
中にはシルヴィアの父親もいた。
ふぅー。
呼吸を整える。
そして、ゆっくりと頭の中で詠唱を組み立てる。
「おい、アイツ杖も持たずに魔法使うとかバカじゃないのか?」
誰かがそう言ったが無視する。
精霊魔法は杖を持ってもできる訳ではない。
あくまで、詠唱ができなければ意味がない。
ゆっくりと俺は標的を演習場の中心に定める。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを打ち砕き、我を導き給え。我が成すその力を示せ』」
ゆっくりと演習場に手をかざす。
「『雷鳴』」
俺が打てる最高の技を放つ。
微精霊達の力も一新に借りる。
直後、空気中から巨大な白い雷が降り注ぐと轟音と供に演習場に巨大クレーターができた。
というか、あまりに威力が強すぎて演習場の土が全部ひっくり返したようになってしまった。
ま、俺のせいだけどカイザーっていうクソガキが俺を焚き付けたせいだし知ーらない。
俺が振り返るとリアとリリを含め来ていた連中は唖然としていた。
唯一、ユキは大興奮で俺の所までくると抱きついてくる。
「やっぱり、ますたーすごい。ますたーにかごあげてよかった」
「ユキもありがとうな。ユキの加護がなかったら俺は精霊魔法も使えないで今頃のたれ死んでいるだろうな」
抱き上げてユキを良い子良い子する。
「で、カイザーって言ったか。お前の魔法見せてくれよ」
若干、『雷鳴』の影響で意識がボーッとするがここで折れてはいけない。
「い、今のはなんだ!?」
「精霊魔法だろ。お前も使えるんじゃないのか?」
「ますたー、せいれいまほうはね、わたしのかごがないとつかえないんだよ」
「へぇー。ま、精霊魔法でなくてもいいや。俺をバカにしているんだ、さぞかし大層な魔法見せてくれるんだろ」
カイザーはそのまま俺を見ては忌ま忌ましい目で見つめることしか出来なかった。
「人をバカにする暇があったら、自分を磨くんだな。ユキ、帰るぞ。こんなアホどもに構っていても時間の無駄だしな。ユキには帰ったらクレープでも作ってやる」
「やったー。ますたー、それおかしー?」
「ああ、そうだぞ」
「わーい」
リアとリリがユキを羨ましそうに見ているけれど、お前らは最後に学友と話すんだろ。
「絶対、手に入れてやる」
帰り際、本当に小さな声だったが、誰かがそう言っていたように聞こえた。




