卒業式前日
翌朝
「どうして、なんで!?」
朝早く届いた荷物を開けるとリアが叫ぶ。
「どうしたんだ?」
「お、おかしい。卒業式に着る衣装がなぜか2着ある」
「間違って届いたんじゃないか?」
「リリ宛に包装されているんだよ」
「ふふん」
気付いたら隣に胸を張るリリがいた。
「驚いた?実は私も高等魔法学院を卒業するんだよ」
「あなたまだ通ってもいないじゃない」
「確かに通ってもいないのに卒業できるのか」
「高等魔法学院はね、そこで高度な魔法を学んで会得できるだけの技量を学んだと判断された者だけが卒業できるんだよ。だから、すでにその技術を身に付けている私も卒業できるんだよ」
なるほど、要は技術さえあれば問題ないと。
「でも、いつ学んだのよ」
「お姉ちゃん、お姉ちゃんが夜優斗さんと楽しく話している間や休日に私がお母さんを連れてどこか行っていたの覚えてないの?」
確かによく出かけていたな。
最近は少なくなっていたが、ちょっと前までは見かけなかった。
あの時に学んでいたのか。
リアも思い当たる節があるようだ
「そういうこと。だから、優斗さん私も一緒に連れて行って」
「だ、だめよ」
リリは俺にすり寄ってくるが、それをリアが遮る。
「せっかく優斗君と二人きりになれると思ったのにリリはいつも邪魔して。それにリリのための冒険用の費用だってそんなにないんだから」
「そうなんですか、優斗さん」
どう答えるべきか。
正直金は結構余裕だ。
昨日、バカどもから巻き上げた分もあるしな。
本当のことを言うか言わないかでリアとリリの好感度が変わる。
なんかギャルゲーみたい。
「リア、リリが入ってくれるならどれくらい負担が減ると思う?」
「それは私は回復魔法得意じゃないし楽にはなると思うけど」
「ということだ。リリ、金にはだいぶ余裕がある。連れて行くことはできるが」
「本当!優斗さん大好き」
「ちょっと何抱きついているの」
抱きついてくるリリをリアが引きはがす。
「ただ、リリ。これはリアにも言ったことだが、回復魔法を使えるならわざわざ俺のパーティーに加わる必要はないんだぞ。それにユキに力を貸してもらっているとはいえ、俺自身は限りなく弱い。下手をすればリリを守ることだってできない場合もあるんだぞ」
俺自身は本当に弱い。
精霊魔法を覚えても一発しか打てないのなら意味がない。
「大丈夫です。覚悟はできています。私は優斗さんと一緒にいたいんです」
ここまで言われたらもう引き下がるしかないな。
「リアも納得してくれないか?」
「うん、分かった。せっかく新婚旅行みたいなのができると思ったのに」
後で何か喜ぶものでもあげるか。
リリも頑張って卒業してくれたんだし祝いの品でも送ろう。
ユキには新作の菓子の試作品を大量に作ったので帰ってくるまで待たせた。
べリルは記憶がないからなのか文字が読めないことが分かった。
なので、宿に割り振られた自分の部屋で勉強しているということでリアとリリとのダブルデート兼必要な品を買いに行くことになった。
その後、リアとリリを連れ城下町に出るとそれぞれに卒業祝いをプレゼントすると伝えるとリアはネックレスを、リリは腕輪を選んだので買った。
そんなに高いものではなかったのだが、喜んでくれた。
その後、リアとリリには先にオヤジの店に行ってもらい、採寸してもらうことにした。
その間、俺はギルドで転移石と薬草、ヒール薬を買っていたところ、シルヴィアに出会ってしまった。
「なんで僕の顔を見てそんなに嫌そうな顔をするんだい?」
「お前が俺のところに来るとうるさくなるからこういう顔になるんだよ」
シルヴィアの奴、ユキみたいにお菓子お菓子言って騒ぐからうるさい。
「残念だけど、今日はお父さんがここで重要な話し合いが行われているからね。僕もいつもみたいに君に甘えたり、おねだりしたりできないよ」
「あっそ」
実際、今度はこんなお菓子を作ってとか言いながらシルヴィアは胸を当ててくる。
それをフェルミナが見るとなぜか不機嫌になるから後の始末が面倒になる。
俺も胸を当ててこられても嫌な気分にならないことをシルヴィアも分かっているからやってくるんだよな。
「君は将来僕のお婿さんになってくれる人だから話しておくね」
「話すな」
「実は今お父さんたちと騎士団との間でこの国での権力争いが起きているんだ。とは言っても、実際のところは騎士団の団長の派閥対騎士団の副団長と僕らギルドとの争いだけどね」
聞いてないのにペラペラと話しやがって。
だいたい、シルヴィアの奴俺の菓子食ってから婿にならないかとかしつこいくらい言ってくる。
ならねぇよ。
まぁ、リアとリリが許してくれるならハーレムに加えても…というか加えたい。
シルヴィア顔良いし、ギルド服から見えないがスタイルも良い。
性格はあれだが、この際目をつぶろう。
「それを俺に話したってなんにも力になれないぞ」
「僕の勘は結構当たるんだ。君なら何かやらかしてくれると確信している」
やらかすこと前提かよ。
ギルドを出た時にシルヴィアの父親らしき人を見かけた。
娘と違ってずいぶんと真面目そうな人だった。
それから武器屋のオヤジのところへ行った
「オヤジー、冒険者用の道具買いに来た。寄越せ」
「だから、兄ちゃん。いきなり…いや、もういいや」
オヤジもだいぶ勝手が分かってくれて助かる。
「オヤジ、ちょっと前に女の子が2人来ただろ。彼女たちが前に話した仲間になってくれる子たちだ」
「てっきり兄ちゃんのことだから、男だと思っていたがずいぶんとべっぴんな嬢ちゃんたちが来たから驚いたぜ。案外、兄ちゃんも隅に置けないな」
「だろ」
「そこで謙遜しないのが兄ちゃんらしいよ」
「まぁ、そういうわけで魔法使い2人だから服の採寸はできたか?」
「おうよ。かみさんに頼んで採寸してもらったから安心しろよ兄ちゃん。俺は見てないぜ」
「見ていたら目をくり抜くまでだ」
「兄ちゃんが言うと冗談に聞こえねえよ」
俺だってまだ2人とキスまでしかしてないんだ。
オヤジが先に2人の裸見たならいかにオヤジとて許さん。
2人がオヤジの奥さんらしき人に礼を言って戻ってくる。
「オヤジ、話の続きだは魔法使い向きの防具と衣装を寄越せ。ついでに金額は下取りから差し引いてくれればいいから」
「了解。嬢ちゃんたちはレベルいくつだ?」
オヤジはリアたちに尋ねる。
「私はまだ1です」
「私もです。」
「兄ちゃん、レベル1じゃ装備が弱いのになっちまうけど」
「問題ない。この後しばらくはリアたちにレベリングを行うからできれば装備が良いのを頼む」
「いいよ、そんなもったいない。優斗君の装備を良くすれば」
リアが俺の提案を断るが俺はあんまり意味ないんだよ。
「兄ちゃんが身に着けているのはランクCの防具だぜ。これ以上いい装備を兄ちゃんに着ても宝の持ち腐れだぜ」
「そうだぞ、リア。俺はもう十分なんだ」
「でも、優斗さん、レベルはランクCの人達とほぼ同じですけど冒険者ランクはEですよね?」
俺はクエストで示された魔物の数よりも大量に狩ってくる。ゆえに冒険者ランクと本来のレベルが釣り合っていない。
まぁ、原因はユキが片っ端から狩ったせいだけど。
「まぁ、そこは気にするな。どうせこの防具ももらいもんだしな」
「嬢ちゃんたちは兄ちゃんがどこからこれら防具を持ってくるか知っているのか?」
「ユキちゃんが興奮しながら語ってくれましたから」
「そうか」
「はい」
オヤジとリアたちの間になにか暗黙の了解みたいな流れができているな。
その後、リアたちに魔法使い専用の魔法服や杖を買うと俺たちは墓に向かった。
俺は一人で行くと言ったのだが、2人がついてくるというので3人で墓参りをした。
正直な話、できれば俺は一人で行きたかった。
言葉がうまく選べないから失礼な言い方になるかもしれないが、あの墓は俺にとって最悪な象徴そのものである。
あそこにはできれば誰であろうと関わってほしくはなかった。
それが未だに俺の罪の意識が足りない証拠であるが。
いつも通り少女の墓に向かって今日の出来事を話し、終わると墓をきれいにしてから花をたむける。
その後俺たちはバークレーに戻った。
俺はリアたちに試しに買った服を着てもらった。
「どう、似合っている?」
「どうでしょうか」
「―――――」
あまりにも似合っていたので思わず興奮してリアとリリを抱きしめた。
「優斗君!?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
2人にキスをしたり抱きしめたりして愛でる。
「あー!リアとリリがますたーとろうとしているー。ますたーはわたさないー。」
ユキが途中で乱入して邪魔をするのであんまり愛でられなかった。
「これを着ると優斗君、喜んでくれるけどちょっと着慣れないから恥ずかしいな」
「そうですね」
ユキを大人しくさせ戻った時にはもう着替え終わっていた。
「あの、優斗さんが気落ちしているのですけど何かあったのですか?」
べリルが自分の部屋から出て俺を見て言う。
「大丈夫ですよ」
「そうです。どうせ明日以降毎日着るんですから」
そうだよな。
明日からは毎日着るし。
いくらなんでもちょっとはしゃぎ過ぎたかもしれない
姉妹の会話
お墓から少し離れた場所で私たちは優斗君を眺めた。
「お姉ちゃん、私ねいつも思うんだ」
「なにを?」
「私たちじゃ、優斗さんの苦しみを理解することはできても取ることはできないんだなって。私、前に優斗さんを押し倒したことがあるんだけど」
ちょっと、なにそれ。
リリ、なに抜け駆けしているのと言おうと思ったがどうにか飲み込んだ。
「その時ね、待っていてくれないかって悲しそうに言うんだ。優斗さん、私やお姉ちゃんを抱きしめたりキスしたりはしてくれるけど、それより踏み込んだ関係はしないから」
それは私の時もだ。
その、えっと、え、エッチなことまではしてこない。
「だから、優斗さんが救われると思うには私たちじゃ足りないと思うんだ」
「それでも私たちが待っていないと優斗君はどこかに行っちゃうから」
私たちが待たなくなったら優斗君はきっと迷わず死を選ぶ。
だから彼が乗り越える日が来るまで彼の支えになって待つしかないとこの日彼の背中を見ながら思った。




