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殺すのはもったいない

「コボルト討伐のクエストを受けたい」

「お待ちしておりました、栗原さん?」

「ますたー、ここはどこ?にんげんがいっぱいいるよ」


俺の肩に乗って、辺りをきょろきょろと見ている


「こいつのことは帰りにでも紹介する」

「は、はぁ。分かりました。クエストですね、今日はコボルト10匹を3日以内に狩ってきてください」

「分かった」


フェルミナと話が終わったところで


「ユキお前はここで待っていろ」

「いやー、ますたーといっしょにいくー」

「危険な場所に行くんだ。お前はついてくるな」

「だったらいくー。ますたーわたしがまもるー」

「お前がクリハラだな」


ユキと言い合いをしているといきなり名前を呼ばれたので振り返ると知らない冒険者たちが絡んでくる。

ひい、ふう、み…6人か。


「そうだが」

「てめぇのせいで、マルセル達が赤っ恥をかいたのを知っているぞ」

「マルセル?誰だ?」

「てめぇが防具や服全部はぎとったやつらだよ」

「ああ、あの時のザコどもか」


俺に絡んできた奴らを思い出す。

あいつらのおかげでいい装備買えたんだよな。


「てめぇ、弱職の『裁定者』の分際でふざけてんじゃねぇよ」


なんでこうも俺に関わってくる男でまともなやつ(武器屋のオヤジは除く)はいないんだろう。

冒険者のうち3人が剣を抜いて俺に向かってくる。


「ますたー、ころしていい?ますたーがあぶない」

「ユキ、あんなクズどもいくら殺しても減りはしない。それよりも効果的な利用方法を教えてやる。殺さない程度で魔法をぶっ放せ」

「わかったー。『せいでんき』」


ユキがそう言うとユキの手から放たれた白い雷が剣を抜いていた冒険者たちを襲う。


「「「ぎゃああああああああああああ」」」


うん、いい感じに焦げたな。


「「「なっ」」」


周りの奴らも唖然としている。

まぁ、幼女が魔法を使って大人3人を感電させたしな。

ユキが精霊だと知らなければ無理もないな。


「ユキ、よくやった」

「えへへー、ユキえらい?」

「えらいぞ」

「ユキ、先ほどの俺の言葉を訂正する。やっぱりお前を連れて行ってやる」

「ほんとー。やったー、ますたーだいすきー」


ユキをこれでもかと褒める。


「ただ、連れて行くとは言ったが、もし俺が危険だと判断したら一人ですぐに逃げる。これが守れるか?」

「わかったー。ますたーがそういうならそうするー。けど、ますたーをひとりにはしないー」

「い、今ならやれるぞ」

「な、なめるなよ」

「受付嬢に媚び売りやがって」


ユキと話をしていると逃げればいいものを残りのバカ3人が突っ込んでくる。


「ユキ」

「『せいでんき』」


ユキに声をかけるだけで察してくれる。


「「「ぎゃああああああああああああ」」」


こいつ間の抜けた話し方をするが、案外頭良いのかもな。

俺は絡んできた冒険者たちのところへ歩いていく。

剣を抜いて感電した男に刃を向ける。


「ヒィィ」

「さて、殺されるか身ぐるみ全部寄越すかどっちか選べ。たしか、ギルド規約ではギルド内で襲ってきたやつを殺しても問題はなかったよな」


俺がギルドの男性職員に尋ねると首をすごく早く縦に振る。


「というわけだ、選べ。死ぬか全部寄越すか選ばせてやる」


その後、俺を襲ってきた奴らの身ぐるみ全部剝ぎ取ると縛り上げて男性職員に渡しておく。

その間受付嬢たちは顔を赤くしながら目を隠す者もいればじっと見ている者もいた。


「ユキ、こういうやつを殺すのは簡単だが、生かしておけばまた俺を襲い、恵みをもたらしてくれる。よく覚えておくんだぞ」

「わかったー」


さっきの騒ぎで忘れていた。

受付にいるフェルミナの元へ向かう。


「それとフェルミナ、これを渡すのを忘れていた」

「これは?」

「アップルパイだ、味はユキが保証する」

「すっごくおいしかったー」

「あ、ありがとうございます」

「ますたー、わたしもたべたい」

「さっきクッキーあげただろ」

「もっとたべたい」

「仕方ない。助けてくれたし、今日はフルーツタルト作ってやるから今は我慢しろ」

「やったー、ならがまんする」

「フルーツタルト」


フェルミナや周りの受付嬢が羨ましそうにユキを見る。


「では、行ってくる」

「はい。お帰りをお待ちしております」


アップルパイを渡してギルドを出た。



ギルド内にて


「すごかったわね」

「うん」


キャシーが声をかけてくるので応じる。

今私の目の前には目が死んでしまった冒険者が全裸で縛り上げられている。

普通なら自分の担当冒険者を殺されそうになったのだから怒ってもいいのだが、憐みの感情しか湧いてこない。


「しかし、あの噂本当だったのね」

「そうだね」


噂とはある冒険者が襲ってきた冒険者を撃退し、半殺しにしたのち身ぐるみを全部剥いだという噂だ。

背格好からクリハラさんではないかと噂されていたが、今回のことで彼だと確信した。


「これで少しはこの階の冒険者たちも落ち着いてくれればいいんだけど」


しばらくは否が応でも静かになるだろう。


「そう言えば、彼の肩に乗っていた女の子、すっごく可愛かったわね~」

「うん、お人形さんみたいで可愛かった」


あの子はいったい何なんだろう。

帰りに紹介してくれると言っていた。


「もしかしたら、彼の子供かもよ」

「そ、そそ、そんなわけないじゃない。髪の色も瞳の色も全然違うじゃない。だいたい、彼のことマスターって呼んでいたのよ。ち、父親なら呼び方も違うでしょ」

「なーに、動揺しているのよ」


しまった。

キャシーはニヤニヤと笑う。


「大方、知り合いの子供でも預かっているんでしょ。フェルミナは本当に彼のことになると面白いなぁ~」

「いじわる」


実は、私が彼に惹かれていることをこの1階の受付嬢たちは知っている。

というか、この1階受付嬢たちの多くが彼を少なからず好意的に見ている。

実際、彼を本気で狙っている子も私のほかにもいるかもしれない。


「そんなことより、彼が今日作ってきてくれたのはな~に?」

「アップルパイって言っていたよ」


この一階の受付嬢たちの間では彼の持ってきてくれるお菓子が恒例になっている。

むしろ彼が持ってこない日があると受付嬢のやる気は目に見えてなくなる。


「なにこれ?パン?」


キャシーはさっそく袋から取り出すとアップルパイなるものを眺める。

私や他の受付嬢も取り出して眺める。

とりあえず食べてみる。


「あ、おいしい。しかもこれリンゴだ。甘くて、それでいてすごくパンが柔らかい」


キャシー達も私をみて食べ始める。

もちろん好評だ。


「私、彼がいなくなったらここやめるかも」

キャシーがふとそう言う。

私もーなどと周りの受付嬢も騒ぐ。


「今までいつ彼が死んじゃうかハラハラしていたけど、今日の確か、ユキって言われていたっけ。銀髪のあの子、魔法使いみたいだし、あの子がいれば彼の危険も少しは減るんじゃない。そしたら毎日お菓子が食べられそうな気がする」

「彼をお菓子のために心配しているとかって。けど、私もそう思う。クリハラさん、『裁定者』だけど魔法が使えないって愚痴っていたし」


あの銀髪の子が魔法を使っていたし、クリハラさんのバックアップをしてくれると思う。

アップルパイを片手に雑談をしていると


「いったい何を食べているのかな」


知らない間に所長が来ていた。

キャシーが慌てながら応対する


「しょ、所長一体いつの間に」

「僕がいたら、おかしい?」

「いえ、冒険者ランクB担当の所長がこんなザコばかりの階に来るなんて珍しいので」


所長ことシルヴィア・リリィーがいた。

なぜ、所長なのにランクBが担当なのかと言うと彼女の父がこの国のギルドを統括する総支配人なのだが、彼女が親の七光りで高ランク冒険者を担当はしたくないということで1階担当から始めたためである。

彼女は私よりも2つ年上の18歳だが、その仕事の腕は確かなものである。


「さすがに下で乱闘騒ぎがあったら僕が来るのは当然でしょう。それよりもずいぶんおいしそうなものを食べているけどそれはどうしたのかな。まだ、休憩時間じゃないから持っているはずないけど」

「こ、これはフェルミナが買ってきてくれたんです」

「ええっ!」


ちょっとキャシー何考えているのよ。


「そうなの?」

「えっと、なんていうかその、はい。」

「なら一つ貰えるかな」


アップパイを一つ渡すと口にする。


「すごくおいしいね、フェルミナ。これは本当に君が買ってきたのかい?」


後ろではキャシー達が行け行けとジェスチャーする。


「はい」

「そうかー。フェルミナ、これは一見パンのようだが甘くお菓子のようだ。僕はね、この城下町のパン屋や菓子店でここまでおいしいものを作れる店を見たことない。実際、僕の家にいるシェフよりもこれはおいしい。ねぇ、本当にこれは買ってきたものかい?」

「えっと、それは、あの」


詰んだ。

その後私は洗いざらいアップルパイや今まで数々のお菓子をもらったことを所長に吐かされた。



オヤジのところへ剥ぎ取った防具を売りに行く。


「オヤジ、防具の下取りよろしく」

「だから、兄ちゃん。用件だけ伝えるなよって誰だこの子は?」


オヤジがユキを見ながら尋ねる。


「こいつは精霊だ。ほら、自己紹介しろ」

「いやー。ますたー、こいつ、にんげんだよ」

「大丈夫だ。オヤジは、見た目あれだが中身はすごく気前がいい奴だ。俺がすごく世話になっているから安心していい」

「兄ちゃん、俺を貶めるのか褒めるのかどっちかにしてくれ。というか、精霊ってこんななのか」


すごく興味深そうに見る。


「ほら、早くしろ」

「ぶー、わかった。ますたーのけいやくせいれいのユキ」

「ユキちゃんか。よろしくな、俺は―」

「オヤジのことはオヤジって呼べばいいから」

「おい」

「わかったー。おやじ、よろしくね」


オヤジはため息をつくと「もういいや、いや、よくねぇけど」と言ったのち


「で、防具の下取りか?別にいいけど、なにか他に買うのか?」

「いや、後で防具や冒険用の服を買いに来るが、その時は仲間を連れてくる。だから、その時に合わせて買いたいから今は下取りだけしてくれ」

「分かった。だが、兄ちゃんもようやく仲間ができたか。良かったな」

「まあな。とりあえず、あと1ヶ月は先になる。その時になったらまた来る」

「おうよ、待っているぜ」


俺はオヤジに6人分の防具を渡すとコボルト狩りに向かった。

防具を渡されたオヤジは何か俺に言いたそうだったが、何も言わなかった。

オヤジも察してくれるのがうまくなったな。


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