精霊の加護
「おはよう」
「おはようございます」
「ああ」
「ますたーはわたさない」
朝、朝食をだいぶ作り終えるとリアとリリが起きてリビングに来る。
ユキは相変わらず俺の裾を握り、金魚のフンみたいに後ろついて離れない。
「おはよう~」
母親も起きて挨拶をしたところに
「テメェ、よくも俺の剣ぶっ壊したな」
変態が起きて早々俺に剣を向けて喚く。
全く、朝からうるせぇな。
「ほら、自己紹介しろ」
後ろにくっついて離れないユキに言う。
「あなたの名前はなんですか」
「つーん」
リリが尋ねるがユキはそっぽを向く。
「リリを無視するな」
ユキにデコピンをする。
「ますたー、いたいー」
「ちゃんとリアたちに自己紹介をしろ」
「だってー、にんげんきらいー」
「俺だって人間だ」
「ますたーはますたーだからすきー」
もう何回目かわからないため息をつく
「頼むからリアたちとは会話をしてくれ。リアやリリは俺の大事な人でお前を利用したりしないから」
リアとリリは大事な人という言葉を連呼しながら頬に手を当てて、体をクネクネさせる。
「ぶー、わかったー。ますたーのけいやくせいれいのユキ」
「契約した覚えはないがな」
さらっと嘘を混ぜるな。
「よろしくね、ユキちゃん。私はナタリア、リアって呼んで」
「私はリリアナです。リリって呼んで下さい。よろしくお願いします」
リアとリリはユキに笑顔を向けるがユキは
「りあとりりにますたーはわたさない」
敵愾心丸出しである。
「まぁ、子供だし」
「子供ですしね」
二人は複雑な顔をしているが、問題なさそうだ。
「そうなの~。私はリネット。よろしくね~、ユキちゃん。」
「うん、よろしく。りねっと」
「母親には普通なんだな」
「こいつはますたーとらないしからだいじょうぶ」
俺基準で判断するな。
「分からないわよ~。栗原ちゃん取っちゃうかもよ~」
「そしたら、おまえころすだけだからだいじょうぶ」
「全然大丈夫じゃねえよ」
なんだよ、俺が取られたら殺すって。
母親はニコニコと笑顔のままだが逆に怖い。
「テメェ、俺を無視すんじゃね」
あ、そういえばこいつの存在忘れてた。
変態はそう言うと俺に飛び掛かってくる。
「ちょっとお父さん!?」
リアが声を上げるが変態は俺に向かって剣を下すその瞬間
「ますたーにひどいことするなー。『らいそう』」
「へっ、ぎゃああああああああああああ」
ユキがそう言った瞬間ユキの手から白い雷が発生し、小さい槍の形となって変態に直撃する。
変態がプスプスと焼きあがる。
「ユキ、何やっている。こんな奴焼いたって食えないんだぞ」
「あ、そうだった。ごめん、ますたー。ついますたーがいじめられるとおもって」
「いや、優斗君。お父さんが悪いけどその叱り方はちょっと違うと思う。」
リアが突っ込むが無視する。
俺はユキの頭を撫でながら
「でもありがとうな、ユキ」
「えへへー」
「羨ましいです。私もしてほしいです」
リリはユキに羨望の眼差しを向ける。
俺にしてほしいならユキみたいに俺の期待することをすればいいだけだ。
気付くと母親がユキを見つめている。
「けど~、さっきのあれ~、魔法じゃないわね~」
「そうなのか」
「ええ~、私たちの魔法は発動するときに魔法陣が出るんだけど~、ユキちゃんのはそういうのがなくて~、まるで空気中からいきなり発生した感じだったわね~」
「そうなのか」
俺がユキに聞くと
「あれはせいれいまほうだよ、ますたー」
「普通の魔法とどういう違いがあるんだ」
「せいれいまほうは、せいれいか、せいれいのかごをあげたひとしかできないんだよー」
「他にはどんなのがある?」
「えーっとね、にんげんはなかからばぁーってやるけどわたしはねそとからぎゅーってやってばーってそとにだすんだ」
「?」
何言っているか全然分かんねぇ。
「あとでますたーにもかごあげるね」
「まぁ、もらえるものならもらっておくが、お前はいいのか?せっかく外に出られたんだ。俺なんか放っておいて世界を楽しんで来いよ」
「いや。いくならますたーといっしょにいきたい。にんげんはいまでもきらいだけどますたーはだいすき。わたし、ますたーにならちからをかしたい。ますたーわたしのちからじゃなくてわたしをみてくれるから」
満面の笑みでそう言うと俺の腰に抱きつく
「それにますたーのおかし、もっといっぱいたべたい」
「お前の一番の目的はそこじゃないのか」
俺が好きなんじゃなくて俺のお菓子が好きなだけじゃないのか。
「忘れていたが、俺は魔法の素質がないから精霊魔法も使えないんじゃないか?」
「だいじょうぶ、ますたーはわたしのますたーにするってきめたからだいじょうぶだよ」
何が大丈夫なのか全く分からん。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。さっさと飯食うぞ」
「どうでもいいって、結構重要なこと言っていた気がするけど」
リアが気にするが俺はもう腹が空いた。
「リアもリリももう少しで学校行く時間だぞ。いいのか、食う時間なくなるぞ」
「うそ、もうそんな時間?」
「お姉ちゃん、早く食べよう。それとお母さん、後でまたよろしくね。明後日なんだ」
母親はじっとユキを見つめていたがリリにそう言われると
「分かったわ~、じゃあまた後でね」
「何かあるの、リリ?」
「お姉ちゃんには秘密」
朝食を取り終わり支度をしていると
「ますたー、どこいくの」
「ギルドに行くんだ。留守番頼む」
「いやー、ますたーといっしょにいるー」
そう言ってユキが騒ぎ続け、連れて行かないとバークレーを壊すというから仕方なく連れて行くことにした。
俺は魔物退治に行くのになぜ子守なんてしなきゃいけないんだ。
ユキと手を繋ぎ(繋げと騒ぐ)ギルドへの道を歩いていると
「ますたー」
「どうした」
「ますたーにかごあげるからてをみせてー」
俺はしゃがんで、視線をユキに合わせると右手を見せる。
ユキは俺の右手を両手で握る。
「『かみなりをつかさどるだいちのせいれいがなんじにかごをさずけたもう』」
ユキがそう言うと右手の甲が焼けるように痛い。
痛みが治まるとそこに白い模様が刻まれていた。
不思議と自分の周りに強い力が漂っている気がする。
精霊の契約者になりました。
精霊の加護を取得しました。
精霊魔法・稲妻魔法を使用可能
頭の中でそんなことが言われる。
「ますたーはわたしの『ますたー』になってもらったよ」
「お前、これ結構大事なことじゃないのか?俺なんかでいいのか?」
「わたしのことがんばったっていってくれたの、ますたーだけ。わたし、ますたーならしんじるし、ますたーにもとめられたい。にんげんきらいだけどますたーはだいすき。だからますたーのせいれいになって、ますたーにいっぱいもとめられたい。それにおかしとってもおいしかったー。ますたーのおかしもっとたべたい」
まぁ、お菓子くらいで魔法が覚えられたのならいいが、こいつがオプションで付いてくるのはなぁ。
結構な大食いで大変なんだよな。
フェルミナ達に作ったアップルパイの試作品や朝にチョコレートケーキの試作品も作っていたのだが丸々ひとつ食いやがった。
おかげでリアやリリ、母親がぶすったれた。
「ますたーとずっといっしょにいるー」
魔法は手に入ったが、すごくすごく面倒を見るのが大変そうなやつに絡まれた気がする。
バークレーにて
「あなた、いい加減に起きて」
「うっ、どうしたんだ俺は」
「ユキちゃんの一撃を受けて気を失ったのよ」
「俺が?」
「そう」
「あり得ねぇ、俺はレベル97だぞ。そんな一回の魔法くらいで俺がやられるはずがねえ」
「でも、実際あなたは気を失ったわ」
「あれ本当に精霊剣の中身なのか?」
「それは確かよ。けど、あそこまで強力な精霊が封じられていたとはね」
「倒せるか?」
「私とあなたが協力すればなんとかね。でも、確実に数万人に被害が出るわよ」
「なら、アイツに責任取らせて殺そう」
「そんなことしたら、ユキちゃんが怒ってこの国の人間皆殺しにするわよ。ユキちゃん、人を嫌っているけど栗原ちゃんにはひどく懐いて、気に入っているし」
「アイツなんてことしやがった」
「しかも、栗原ちゃんに精霊の加護を与えるとも言っていたしね」
「アイツは魔法の素質がないんだろ」
「それはあくまで『人間の』魔法だけの話よ。精霊魔法っていう未知の魔法に関しては予測できないわ。しかも、ユキちゃんが言うには栗原ちゃんも精霊魔法使えるっていうしね」
「クソッ、あの野郎本気で殺してー」
「現状は問題なさそうだけど、しばらくはそっとしておくしかないわね~」




