幼女
二時間くらい経ったと思う。
「う、ううん」
「目が覚めたか」
銀髪幼女がゆっくりと動き出す。
「こ…、ここは?」
「俺が宿泊している宿だ。俺の声、覚えていないか?」
こくりと頷く。
髪は銀色、瞳は青色、顔は人形のように整っていて可愛らしい。
「体は大丈夫か?」
「うん」
「霊力はどうだ?」
「はんぶんくらい」
「霊力の回復はどうすればできる?」
「ごはんをたべればかいふくする」
「ご飯って言うのは魔力のことか」
ふるふると首を振る。
「ごはん」
「パンとか肉とかか」
「うん」
俺の想像していた精霊とずいぶん違うんだな。
「しばらくは安静にしていろ。それとできれば暴れないでくれ。俺が責任を取らされて最悪死ぬから」
「うん」
「なら、飯を作ってきてやる。何かリクエストはあるか」
「ううん」
「分かった。消化に良いものを作ってくる」
卵粥を作ってきて渡すが何故か食べない。
「どうした?」
「えっと」
ため息をつくとスプーンを持って口もとまで持っていく。
「食べさせて欲しいんだろ」
「ち、ちがう」
「良いからさっさと食え」
幼女は観念すると食べる。
すると大きく目を見開くと卵粥と俺を何度も交互に見てくる。
「うまいか?」
「おいしい。こんなにおいしいものはじめてたべた」
「それは良かった」
すると幼女は俺を見ながら
「どうしてごはんをくれるの?」
「具合の悪い奴に飯くらい作ってやる。それにお前、まだ体調が良くないんだろ」
「うん」
「だったら、さっさと食え。せっかく作ったのに冷めちまう。ほら、口開けろ」
「う、うん」
半ば無理やり口を開けさせ、食べさせる。
「うっ、ううっ。」
幼女は泣きながら食べ続ける。
「何泣いているんだよ」
「ひ、ひさしぶりに、こんなにおいしいものたべたから」
ため息をつきながら食べさせ続ける。
きっと剣に封印されるまでまともな食事なんて取ったことがないんだろうけど、泣きながら食事なんて食うなよ。
「じゃあ、寝ていろよ」
「うん」
食事を取ると幼女はすぐに眠ってしまった。
その顔は穏やかなものだった。
夕飯を作り、明日フェルミナ達に持っていくアップルパイと幼女でも食べられるようにゼリーを作っているとリアとリリが帰ってきた。
母親はあの後宿の掃除をし、料理の手伝いをしようとしていたのでやめさせた。
前に試しにさせたが、母親の料理は食べられたものではなかった。
何故か隠し味に大量のわさびを入れようとしたときは焦った。
なんで隠し味にわさび入れるんだよ。
だいたい、隠し味が隠れてねぇよ。
「ただいま、優斗君」
「優斗さん、ただいま」
「ああ、お帰り」
「優斗君がこんなに早く帰って来ているのは珍しいね」
「そうですね。何かあったんですか」
「あったが、後で食事中にでも説明する。テーブルに食事を並べてくれ」
リア達に指示して並べさせる。
あらかた並べ終わって母親に声をかけたところで
「帰ったぞー」
変態が帰ってきた。
「あれ、お父さんもこの時間に帰るのは珍しいね」
「てっきり今日も外で食べてくるのかと思ってました」
変態は俺がここに連泊するようになると俺はこいつの作った飯なんか食わないと喚き、外食するようになった。
俺だって変態に飯なんて作る気はない。
「今日は久しぶりに4人で外に食べに行こう。城下町の高級レストランだぞ」
4人というのを意図的に強調する。
「どうしたの~、今日はずいぶん羽振りがいいけれど~」
「魔獣を討伐した時に良いドロップアイテムが出てな。いい値段で売れたんだよ」
俺の料理を指さしながら
「そんな奴が作った安い料理なんて食わねぇで一緒に行こうぜ」
「ギルドもお前と一緒にドロップを買い取ってくれればいいのにな」
「なんだと、弱職が」
「まぁまぁ、優斗君もお父さんも落ち着いて。でも、どうする?行く?」
リアが間に立ってなだめる。
「私は優斗さんの食事が食べたいです」
「私も実はね」
「私もね~」
3人の回答を聞くと変態が俺に剣を向けてくる。
「なんだと、テメェ今ここでぶっ殺してやる」
「お母さん、お父さんを止めて」
母親が変態をなだめる
「今日は私と2人だけで行きましょう~。久しぶりのデートよ~」
「だが、あんなケダモノとリアたちが一緒にいたらリアたちが襲われちまう」
「大丈夫よ~、襲われたのは栗原ちゃんだから~」
「おい、それってどういう意味だ」
母親の言葉にリアとリリが顔を赤らめてうつむく。
実際この1ヶ月の間に姉妹は夜這いをしてきたしな。
二人にはいつか俺が少女に本当の意味で償えたと思うまで待っていてほしいと丁寧に断りを入れたからまだ手を出してはいない。
まだ、だがな。
そう考えると、俺も男だな。
でも、そんな日が来るんだろうか。
少女に償えたと思う日が。
ないだろうな。
「ささっ、行きましょう。栗原ちゃんあの子の面倒しっかり見ていてね」
「分かっている。そうそう、変態。お前の精霊剣ぶっ壊した」
「テメェ、今なんて言った」
「だから、精霊剣をぶっ壊したと言ったんだ。さっさと母親と行ってこい」
「さぁ、早く~」
母親が暴れる変態を連れて行く。
「待て、リネット。あ、本当だ剣がねぇ。テメェ、この借りは必ず返すからなー」
ようやくゴミが消えたか。
まったく、さっさと消えればいいものを。
「けど、お母さんの分必要なくなっちゃったね」
「いや、そうはならないみたいだぞ」
「どういうことですか」
リリが尋ねてくるが、それは実物をみて分かってもらおう
「起きたのか?」
扉に声をかけると、銀髪幼女が出てきた。
リアもリリも目が丸くなっている。
「おなかすいた」
「分かった。こっちにこい」
こくりと頷く。
トテトテと歩いて俺の元まで来る。
幼女をイスに座らせる。
「自分で食べられるか?」
「まだあんまりてがうごかない」
「仕方ない。ほら、口を開けろ」
「あ~ん」
口が空いたので食べ物を放り込む。
「おいしい」
「そりゃ良かったな」
「優斗君、この子はいったい?」
俺と幼女の一連の行動にようやく理解が追い付いたのかリアが尋ねてくる
「言っただろう、精霊剣をぶっ壊したと」
「つまり、この子は精霊剣の中にいた精霊なのですね」
事のあらすじをあらかた説明し終えるとリリが結論づける。
「そういうことだ。こいつはあのまま剣の中にいると非常にまずいと思い破壊した」
「やっぱり優斗君は優しいですね」
「俺は優しくなんかない」
俺は声を少し大きくして反論した。
俺は優しくなんかない。
少なくとも優しいのなら、今この場にあの少女がいるはずだからだ。
「つぎはこれをたべたい。とってー」
そんな俺の思いをぶち壊すように呑気な声を上げて銀髪幼女は飯をねだる。
目線だけでなにが食いたいのか分かってしまう俺もあれだが。
「ほらよ」
「おいしい、もっとたべたい」
「なんか羨ましいです」
「うん」
リリがそう言うとリアも頷く。
そうやって食事を進めていった。
この幼女見かけによらず、ごはん三杯もお代わりしやがった。
どこに入るんだ?
デザートでリアたちにアップルパイと幼女にゼリーを渡した。
ゼリーは冷やすのに冷却石というのを使った。
冷鉱石はその名の通り、冷やすのに使う。
密閉した空間にそれを冷鉱石の欠片を入れ、食品を入れると保存ができる。
だいたい、0℃くらいの温度を保つ。
「これな~に」
「ゼリーっていう食べ物だ。もう食えないか?」
三杯も食ったしな。
「ううん、たべられるけどー」
まだ、食えるのか。
因みにリアたちは最近太ってきたとか言いながら、食事の量を減らす。
だったら、俺にデザート作ってくれって言うなよ。
「なにか問題があるのか」
「どうしてこんなにやさしくしてくれるの?」
「急にどうした」
「だって、けんからだしてくれたのになにもめいれいしなし、おいしいごはんくれるから」
ああ、なるほど。
こいつは俺が何か力が欲しくて助けたと思っているのか。
「命令なんてする気もないし、お前の力を借りたいとも思っていない。そうだな、せいぜい悪さをするなよ。俺が責任取らされて殺されるから」
「わたしのちからいらないの?」
「別にいらん。身に余る力を持っても破滅するのが見えるしな」
歴史を振り返っても見てもそういうものだ。
身に余る力は身を滅ぼす。
俺は自分に力がないのを知っているし、精霊に何か頼んで成し遂げては俺が今までやってきたことが無駄になるようで嫌だ。
「ゼリー食べないのか?」
「たべる」
幼女は俺の答えに難しそうな顔をしたが、俺がゼリーを勧めるとそのまま食べ始めた。
「なにこれ、すっごくおいしい」
目を輝かせながら俺に言う。
「そうですよ。優斗君のお菓子はすっごくおいしいんですよ」
「なぜ、こんなにおいしいのか不思議です」
リアやリリが幼女に今まで食べたお菓子を力説する。
幼女は目を輝かせながらその話を食い入るように聞いていた。




