精霊剣
「おい、何か言ったか?」
「何も言ってないわよ~」
「だ、…して」
やっぱり何か聞こえる。
それに何か別の存在をかすかに感じる。
俺はその存在を感じる場所を探っていくと壁にかけられている白銀の剣に行き着いた。
「……して、ここから」
その剣からは声が聞こえる。
「おい、この剣は何だ?前からあったが一体なんなんだ」
「それは、精霊剣よ~。かな~り昔に精霊が封印された剣であの人が洞窟で見つけた剣なのよ」
母親が言うあの人は変態のことだ。
「その精霊は危険なものなのか?」
「それは分からないわ~。でも精霊がこの世の守護神と言われているわ~」
「この世の守護神をこんな剣の中に入れるのかよ」
「精霊は守護神と言われるだけあって、すごく強いからね~。そうやって管理しておくのよ~」
「そういうものか、なんか哀れだな」
じっと眺めていると
「たす、けて。ここか、ら、だ、して」
「!!」
精霊剣の中の精霊が言った言葉に心がひどく揺れた。
その言葉は地下室の少女に言われたように思えた。
「お前、今なんて言った?」
「た、…す、けて」
助けてとそう確かに言っている。
「お前は、ここから出たいのか」
気づいた時には声をかけていた。
「だ、れ」
「そんなことはどうでもいい。それよりもここから出たいのか?」
「たす、け、て。もう、がまん、でき、ない。しんじゃう」
俺はその言葉を聞いたときには精霊剣を手に取っていた。
母親はさっきから俺がひとり言を言っているようにしか見えないから何やらおかしなものを見るようにしている。
「これからお前に力を注ぎ込む。そしたら自分で出てこい」
「わ、かった」
「ただ、もし出てきて暴れるようなことがあったら許さないからな」
「う、ん」
精霊剣の中のヤツの言葉を聞くと俺は『解放』の効果を使い一気に精霊剣の力を流し込む。
凄いな、MPの減り方が著しい。
『解放』はMPの使用量に応じて俺が持つ物の力を増大する。
本来は効果付きの剣の影響拡大くらいしか使い道がない。
精霊剣が光り始める。
「栗原ちゃん!?」
「大丈夫だ、この中の精霊が死ぬと言っているから助けようとしているだけだ」
剣の柄が熱い。
だが、ここで放す訳にはいかない。
ピキッ。
精霊剣にひびが入る。
もう少しだ。
俺は残ったすべてのMPを注ぎ込む。
バキンと音を立て精霊剣が砕け散った。
強い光で俺は目を閉じる。
目を開けると俺の腕にはぐったりして、顔が土気色になっている銀髪幼女が裸でいた。
「母親、こいつはどうなんだ」
俺は焦って幼女を母親の元へ持っていく。
「ちょっとまずいわね、だいぶ霊力が弱まっているわ。このままじゃ死んでしまうわ」
母親もいつもみたいな口調ではなく、真面目に答える。
「なら、俺のMPを回復させろ。俺の固有スキルで助ける」
「でも、栗原ちゃんこの子は―」
「分かっている。この子がもし暴れるようなら俺が命をもって必ず止める。ちゃんと止める手段がない訳ではない」
これは本当だ。
俺なりにかつての裁定者として冒険をしていた者達を調べた。
過去の裁定者達の多くはレベル50以上70以下で皆死んでいた。
しかも、かつての所属していたパーティーに話を聞いてみたが絶対に固有スキルを使うなと顔を青くしながら止められた。
つまり、レベル50を超えたその先に強力な固有スキルを覚えられるはずだ。
その力があれば、きっとこの精霊も止められる。
もしかしたらあのクソ王子もという考えは淡い希望としておくか。
「分かったわ。『チェティーリ・マインド・ヒール』」
母親は俺をしっかりと見つめると俺の言葉が嘘でないと分かって俺に回復魔法をかける。
MPが一気に回復すると『解放』を使って霊力の回復をさせる。
MPが無くなると再び回復魔法をかけてもらい霊力の回復をさせる。
そうして繰り返すと幼女の顔に少し血の気が戻ったようだった。
「もう大丈夫よ~、後は栗原ちゃんのスキルでゆっくりと治してあげれば大丈夫よ~」
「すぐに治さなくていいのか?」
「私も治してはあげたいけど~、私のMPももうほとんど残ってないのよ~。それに急に回復させるよりもゆっくりと時間をかけて回復させた方が精霊の体にもやさしいわ~」
「そうか、ならそうする」
ようやく落ち着きを取り戻した。
母親は寝室の方へ行くと子供用の寝巻と下着を持ってきた。
「着せてあげた方が良いと思うわ~」
「俺がやるのか?」
「その子を剣から出したのはどこの誰かな~」
「やれば良いんだろ、やれば」
俺は銀髪幼女に下着を履かせ寝巻を着させる。
俺が着させ終わったところで母親が空き部屋のベッドメイキングを終わらせたので幼女を寝かせる。
「この後はどうするの~」
「俺のMPも時間が経って少し回復している。このままちょっとずつ流し込む」
「分かったわ~。でも、あんなに焦っている栗原ちゃんを見れてお母さんは運が良いわ~」
「黙れ。だか、居てくれて助かった。ありがとう」
「どういたしまして~」
母親が部屋を出ると俺は幼女の寝るベットの近くに腰掛けて手を握るとMPを回復時間と同じ程度使い続けた。