日常③
ギルドに着くとカウンターにフェルミナがいた。
「すまないが、買い取りをしてくれないか」
「ク、クリハラさん。今までどうしたんですか?もしかして、『緑の宿』で何か問題が?」
「まぁ、問題はあったがちょっとケガをしてな。3日ほど寝込んでいただけだ。そんなことよりも魔物の買い取りを頼む」
「そ、そうですか。分かりました。 そんなことって、心配していたのに…」
「なにか言ったか」
「いえ、何も」
フェルミナが何か言っていた気がするが気にせず、ゴブリンキグやゴブリンの核石とドロップアイテムを渡す。
ゴブリンの核石は心臓の中なので村人に手伝ってもらった。
ずいぶんとスプラッタな感じだった。
「こ、これゴブリンの核石じゃないですか。しかもキングゴブリンの核石まである。どうしたんですか」
「出会ったから狩った」
「狩ったって」
フェルミナは驚きながらも報酬の金貨2枚をもらった。
ドロップアイテムに高値で取引される鉱石があったらしい。
「それとクリハラさんの冒険者ランクがEになりました。おめでとうございます」
「そうですか」
「えっと、うれしくないのですか」
「別にランクが上がって浮かれるほど強くなっている気がしないので」
実際レベル36になっても今までと大差がないような気がする。
「そ、そうですか」
「あのこれをもらってくれないか?」
俺はフェルミナにクッキーの入った袋を渡す
「これは?」
「心配してわざわざ宿を取ってくれた礼だ。俺の地元のお菓子でな、クッキーという。口に合うと良いが」
「これは栗原さんが作ったものですか」
「嫌か?」
「いえ、とんでもない。さっそく1枚食べていいですか?」
「ああ」
フェルミナはクッキーを取り出し、じろじろと見た後、口に入れる。
すると、笑顔になってもう1枚取り出して食べる。
さらに1枚取り出したところで俺に気づくと顔を赤くする。
「すみません、とてもおいしかったので。つい何枚も」
「フェルミナに作ったものだし、気にせず食べればいいさ。口に合って良かったよ。気に入ったのならまた暇な時にでも作ってくるさ。いろいろと世話になっているし」
実際ギルドの閉まるギリギリの時間に行ってもフェルミナ嫌な顔せずに対応してくれるので助かる。
俺だったらそんな客の相手なんかしたくない。
「いえ、そんなこれが仕事ですし」
「それもそうか」
「でも、作ってきてくれると嬉しいです」
顔を赤くしてうつむく。
「はいよ。じゃあ、またよろしく頼む」
「お待ちしております」
ギルド内にて
クリハラさんを見送ると私はもらったクッキーをまた1枚食べる。
とても甘く、それでいて優しい味だった。
「ちょっと、何貰ったのよ」
キャシーが近寄って私のお菓子を1枚奪って食べる。
「キャシー、勝手に食べないでよ」
「なにこれ、とっても甘いけどなぜかしつこくなくそれでいて口当たりが優しい味」
なにか解説を始める。すると、周りの受付嬢たちも集まって私のクッキーを食べようとする。
「や、やめてよ。これはクリハラさんが私に作ってくれた物なのー」
「いいじゃない、また作ってきてくれるって約束してたじゃない」
「そうよー、フェルミナばっかりずるい」
「私だってそれ食べたい」
1階受付は少女たちによるクッキー争奪戦が繰り広げられる。
「だいたい、キャシーあなた1階冒険者なんて気にするだけ無駄って前に言っていたじゃない。どうしてクリハラさんに関わるの?」
「フェルミナ、私の勘が彼は違うと囁くのだからそのクッキーと彼の担当を寄越しなさい」
「絶対嫌」
その日ギルド1階は機能不全に陥り、受付嬢たちは騒ぎを聞きつけた所長が来るまで収束することはなかった。
ちなみにフェルミナのクッキーは残りのほとんどが他の受付嬢に食べられ、大好評だった。
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オヤジの工房に向かう途中、路地裏を通っていると
「おい、待てよ。てめぇ、最近調子に乗っているヤツだな」
ガラの悪い3人組の男達が絡んできた。
「邪魔だ。俺は今から行かなきゃいけないところがあんだよ。お前らに構っている暇はねぇよ」
「てめぇ、生意気なんだよ」
「最近、出てきてちょっと活躍できるからって調子に乗りやがって」
「貯めこんでいる金サッサと出せや、こらぁ」
なんで俺に絡んでくる男はこんな奴が多いんだよ。クソ王子にしろ変態にしろ。
「お前らにやる金はない。退かないなら容赦しないが」
「3対1で勝てると思ってんのか」
「俺たちは全員レベル30だぞ」
「こいつ殺せば、こいつの担当のあの可愛い子ちゃんが俺らの担当になるんじゃないか」
もううざいな。殺ろう。
一人の男に近づくと思い切り顔面を殴り飛ばし、続けざまにもう一人の男の腹に拳を叩き込む。一発殴っただけで二人ともうめき声をあげて動けなくなる。後一人は後ろに下がって剣を抜いて喚く。
「ふ、ふざけんな。なんでランクEの俺たちがランクFのこいつに負けんだ」
そう言って切りかかるが、あまりにも適当に振り回すので隙だらけだ。
そのままもう一人の顔面を殴りつける。
「いくらなんでも弱すぎないか」
一人の男の胸倉を掴んで言う
「ゆ、許してくれ」
「おい、俺は容赦しないと言ったんだぞ。せいぜいストレス発散に楽しませてくれ」
その後俺は3人をなぶり殺しにし、装備、服、所持金をすべて奪うと奴らを縛り上げ、近くの商店に事情を話してギルドへ突き出してくれるよう頼みそこを後にした。
なぶり殺しにしながら弱い理由を尋ねると他の冒険者から金や実績を奪っていた小悪党でしかなかった。
オヤジの工房に着いた。
「新しい防具と剣を寄越せ」
「兄ちゃん、いきなり来てそんな事言って俺がほらここにあるぜって言うと思ったのか」
「オヤジと俺の仲なら可能だ」
「兄ちゃん今日でまだ3回しかうちに来てないだろ」
「そういや、そうだな。とにかく剣と防具を新しいのが欲しい。ゴブリンキングとの戦いで壊れた」
「兄ちゃんゴブリンキングと戦ったのか。よく兄ちゃん生きていたな」
「片腕に肋骨3本折って、全身大やけどを負ってよく生きていたと自分でも思う」
「そうか、それは大変だったな」
「それとさっき調子に乗った冒険者共から装備を剝ぎ取ってきたから下取りを頼む」
「兄ちゃん何してんだ」
「なに、襲ってきたのはあいつらだ。俺はそれを返り討ちにしてちゃんと奴らの許可をもらって奪ったに過ぎない」
殺されるか持ち物全部寄越すかあいつらに選択させたからな
「なら、いいけどよ。なんで服まであんだよ」
「言ったろう。『装備』は剥ぎ取ってきたと」
「俺は兄ちゃんが怖えよ」
「ともかく、さっさと防具がほしい」
「予算は?」
「金貨1枚と下取りの金額が予算だ」
「分かった。なら、この防具とこの剣がいいんじゃないか」
オヤジは店の中から防具一式と白い剣を持ってきた。
「この防具は前の奴よりも機動性が増す効果がついていてな、こっちの白い剣はブラットコーティングがされているうえに切った相手を若干だが麻痺にする効果がついている。兄ちゃんにはこれが一番だと思うが」
「そうかならそれにする」
「そんな即決でいいのか」
「言っただろう。俺とオヤジの仲だと、俺はオヤジの薦めた武器で救われた。だからオヤジを信頼している」
「兄ちゃん」
オヤジは目頭を押さえ
「分かった。兄ちゃんには特別にまけてやる。金貨はいらねえよ。」
「おい、いいのか。防具の下取りだけじゃオヤジは大損だろう」
「なに、この防具3つ。結構良いものなんだよ。それに兄ちゃんうちの常連になってくれんだろう」
「もちろんだ、俺はオヤジ以外の店知らんしな」
「それなら持っていってくれ。期待しているぜ兄ちゃん」
「ありがとな。また金が貯まったら来る」
俺はオヤジに礼を言うと村に戻る前に俺は彼女の墓へ向かった。
「ごめんね。毎日来るつもりだったんだけど、ちょっといろいろあって4日ぶりになったよ」
俺はそう彼女の墓に声をかけるとしゃがんでこの4日間のことを色々話した。
ゴブリンキングと戦い、緑の宿のことを話す。
すべてを話し終えると墓の手入れをし、買ってきた花をたむける。
「君は俺なんかには来てほしくないだろうけど、また明日ここに来るよ」
この子ところに来るとなぜか穏やかな気持ちになれる。
きっとそれが俺の捨ててしまった大切なものなのだと思う。
墓守のジジイに一言あいさつをするとその場を去る。
一瞬、緑色の髪をした子がいたような気がしたが、目を向けるとそこには誰もいなかった。
「栗原君、待って」
村に戻る道を歩いているとナタリアにばったり会った
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ああ、心配だ。
栗原君、村に帰ったらお父さんとまたケンカになりそう。
大丈夫かな?
いや、大丈夫じゃないけどお母さんもいるし。
「リアどうしたの?なんかそわそわしているけど」
「ううん、なんでもないよ」
「それよりリア、カイザー君から告白されたんでしょ。なんて答えたの?」
「普通にごめんなさいって言ったよ」
「またなの。ていうか、なんであなたたち姉妹ばっかりモテるのよ。」
「そう言われても私だって困っているんだよ」
「なによ、カイザー君はうちの学校でも5本の指に入るイケメンじゃない。なにが不満なのよ」
「だって私は別にそういう気持ちないし」
私はよく校舎裏に呼び出されては告白される。
私自身恋愛に興味はあるけれど、私自身が誰かを好きになることは今までない。
「なら、あなたどういう人がタイプなの?」
「タイプって言われても」
親友のマーガレットが尋ねてくるが、うまく答えられない。
妹のリリもそういうことがあるらしいが、リリは大人っぽい人が好きだと言ってよく断る。
「ま、リアって気になる人もいないお子様だもんね」
「わ、私だって気になる人くらいいるよ」
マーガレットの冷やかしについ反論してしまう。
「ほう、気になる人がいると」
しまった。
「い、いや、さっきのは―」
「普段は、今はまだいないだけよって言うのにもしかして~見つけたのかな~」
このままではいつまでもいじられ続ける。
私は白状して答える。
「今日私のお昼お弁当だったでしょ」
「ああ、あの異様においしいお弁当ね」
栗原君が作ってくれたお弁当はすごくそれはもうすごくおいしかった。
マーガレットに頼まれて少しあげたら、絶賛だった。
「あのお弁当を作ってくれた人は冒険者の人でね、うちに泊まりに来ているんだ」
「へぇー、あのお弁当てっきりシェフでも雇って作ってもらったのかと思った。けど、冒険者ってお父さんの知り合い?」
「ううん、新米冒険者の人だよ」
「ふ~ん、つまりあなたはその人に胃袋も心もつかまれちゃったわけだ」
「い、胃袋はそうかもしれないけどちょっと気になるってだけで」
栗原君の言葉を聞いて余計に彼を気になってしまっている。
「みんな最初はそうなのよ。でもその後それは恋だって気づくのよ」
「私のこれはそういうのじゃないと思うんだ」
「なら、どういうのよ」
「なんて好きとかじゃないと思う。憧れに近いかな。でもね、その人のことを考えると心が寂しいっていうか」
「恋はそういうものよ。単に相手のことを知りたい、相手の気持ちを知りたいっていうことなのよ」
「!!」
それを言われて私はこの心にあるもやもやがなんなのか分かった。
マーガレットの言葉通り恋かどうかは分からない。
でも、私は彼のことを知りたいと思っているんだ。
昨日、彼とは彼の世界のことを教えてもらっただけだ。
彼自身については全く聞いていない。
勇者について聞いたとき彼は隠そうとしていたけど不機嫌になっていたのを私は気づいていた。
ただの勘違いだと思っていた。
でも、今ならあれは勘違いじゃないと確信できる。
彼がこの世界に来て何をしたのか。
何があったのか知りたい。
いや、知らなくちゃ栗原君はこのままどこかへ行ってしまうそんな気がした。
私は席を立つ。
「どしたの」
「マーガレット、私早退する」
「はい?」
「先生に言っておいて」
そう言うと私は鞄を持って教室を出る。
「どこ行くの、お姉ちゃん。はぁ、はぁ。」
校門を出たところでリリが私に声をかけながら追いかけていた。
「私、今から行かなくちゃいけないところがあるの」
「栗原さんのところでしょ」
「分かるの?」
「そりゃ、姉妹だし」
「私、栗原君のこと何一つ知らない。だから、聞きに行くの」
「お姉ちゃんはいつもずるい」
「えっ」
「私だって栗原さんのこと知りたい。でもお姉ちゃんはいつも私の先を行って私のしたいことをしちゃう。だからずるい」
「そ、それは」
「だから、今日必ず栗原さんをうちに連れてきてね。私待っているから」
「でも、栗原さんお金がないって」
「宿代はご飯作ってくれる代わりにタダにするよう私からママに頼んでおくから」
「分かった。必ず、栗原君を連れてくる」
「約束だよ。連れてこなかったらお姉ちゃん許さないよ」
「任せて。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
同時刻
「おーい、授業だぞ。ナタリアはどうした」
「逢引きに行きましたー」
マーガレットの発言によりクラスが騒然となったのであった。