日常②
夜寝る前に化学、生物の知識を姉妹に話した。
ナタリアはあんまりよく分かっていなかったが、リリアナは俺の話に身を乗り出して聞いていた。
ついでに姉妹から7勇者物語を教えてもらい、聞いていないのにクソ王子の偉業を聞かされイラつきながら寝る羽目になった。
朝、俺は朝食が作った。
なぜって?
姉妹に懇願され、母親も頼み込んできたからだ。
代わりに昨日の宿泊代金はチャラになった。
変態が騒いでいたが母親が黙らせる。
食事の片付けは姉妹がやるということで俺は仕度をしていた。
今日はやることが多いしな。
姉妹も洗い物を終えると魔法学校に行く準備をしていた。
「ほら、これを持っていけ」
俺は姉妹に弁当を渡す。
俺の家は母子家庭で家事をよくやっていた。
仕事の忙しい母親の代わりによく妹にも弁当を作ったな。
ナタリア「これって」
リリアナ「お弁当!」
「朝飯だけで昨日の宿泊がチャラっていうのは高すぎるだろう」
ナタリア「本当?ありがとう」
母親「あら~、私も欲しいわ~」
「昼飯の代わりにドーナツを揚げておいた。それでも食ってろ」
ナタリア・リリアナ「ドーナツ?」
「お菓子のひとつだ」
ナタリア・リリアナ「お母さん(ママ)だけずるい~」
「お前らには弁当を用意しただろ」
変態「テメェー、俺の女と娘達をたぶらかしてんじゃねぇー」
母親「あなた~、歯を食いしばれ~」
変態が飛ぶ。
「この数日世話になった。また、泊まりに来たときはよろしくな」
ナタリア「えっ、今日もここに泊まるんじゃないの?」
「そうほいほい宿に泊まれるほど俺に金はねぇよ。ゴブリンとの戦いで剣は壊れるし、ダガーは燃えて使いものにならんし、防具も壊れたからな。もう、しばらくは来ない」
リリアナ「そんな」
俺の今回の損害はとてもじゃないがひどい。
おまけに得た金は再建費や武器の再購入でパアッだ。
変態は俺の言葉を聞いて笑顔になりながら
変態「けっ、もう二度と来んな」
「言われなくてもお前とは二度と会いたくもない」
ナタリアやリリアナ、母親はまともなんだがこいつは最後までふざけやがって。
こいつがいるからこの宿の評価は悪いんじゃないか?
「あら~、残念ね~。栗原ちゃんならタダでも良いのよ。おいしいご飯作ってくれるし」
「俺は冒険者だぞ。飯を作りに来たわけじゃない」
「そうなの~、でもね栗原ちゃん。これだけは分かっていて~」
「なんだよ」
「自分の力の限界がわからないといつか死ぬわよ」
それはいつものんびりした口調ではない。はっきりとした声だった。
「お前、『裁定者』だろ。諦めて実家にでも帰りな。お前みたいに弱いのに無駄に頑張るやつは大抵すぐに死ぬ。今のうちに足を洗え」
変態が俺をバカにしながら言う。
「俺は自分が弱いことも強くなれないのも知っている。どんなに頑張ったって強いジョブ持ちに敵うわけもない」
「だったら―」
「それでも俺には戦う義務がある。血反吐を吐いてでも戦い続け、醜く生き続けることに意味があるんだ」
そうして最後にはあっけなく殺される、そうまでしないと駄目なんだ。
あの時クソ王子に殺されていればどれだけ楽だったか。
けれど、俺は彼女を見捨て生にしがみついた。
生きて自分のしたことを背負い続け、彼女に対して許しを請い続ける。
それが俺の罰だ。
この世界で生きるには戦うしかない。
商売で金を得ることもできるがそれでは意味がない。
彼女のように痛みに耐えながら生き続けなければならない。
そうしていつか俺は魔物に殺される。
これが俺の死に様だ。
だから、戦い続けるんだ。
「どんな意味があんだよ」
俺は玄関まで歩いていきドアノブに手をかける。
「それをお前に話して何の意味がある?お前の娘から聞いたよ、お前はずいぶん優秀な冒険者で国もお前を認めるほどの実力だと。そんな力を持つお前では俺の気持ちも考えも生き方も理解はできない」
俺に勇者の力があれば、誰かを守れる強いジョブがあれば彼女を救えたかもしれない。
でも、俺は非力だ。
弱い、弱すぎる。
だから変態にだけは理解されたくない。
「おい、待てよ」
「お前と話しても時間の無駄だ。俺は先に出る」
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「なんだよ、それ」
お父さんは何も言えなくなってしまった。
私もやり場のないこの思いをどうすればいいかわ分からない。
「ねぇ、ママ。栗原さんみたいな冒険者もいたの?」
「さすがにあそこまで戦うことにこだわる冒険者はいなかったわ~。強くなりたい、お金がほしいという目的で戦うことはあっても戦うのが義務だって言っていう冒険者は初めて見るわね~」
お母さんもちょっと複雑そうな顔をしている。
栗原君がどうしてああなってしまったのか私には分からない。
でも、ひどく胸を締め付けられた。
そして心が寂しいと感じる。
「戦うっていうのは誰かを守る力を得るためにするもんだと俺は思う。だから、俺はあいつを認めねぇ」
そう言うとお父さんは怒りながら出て行った。
「あなたたちも早く学校に行きなさ~い」
お母さんに背中を押され私とリリは外に出される
「とりあえず、お姉ちゃん、学校に行こ」
「そうだね」
リリに言われ私は学校に向かった。