宣戦布告
「準備も整った。ルル、妖精達をまとめておいてくれ。撹乱させて敵の頭を取りたい」
「わ、分かりました」
ルルに妖精達が住む森に行かせつつ、渚には幻人族たちを、加山には獣人族達からそれぞれクソ王子と他の勇者共、その支援国に対する宣戦布告をするように伝えると……
「お前、絶対良い死に方しないぞ」
「僕もそう思います」
渚と加山が最後まで抵抗する。
お前らはもう詰んでいるだから、これ以上無駄なことをするなっての。
「安心しろ、俺を殺そうとする奴らをこれから先に殺すんだ。悪い死に方になる元を叩けば、良い死に方しかしない」
「…………オレらが初代裁定の使徒を裏切ったようにするかもしれないぜ」
「それはすなわちユキちゃんと私に幻人族を皆殺しにして良いということですか?」
俺が何か言う前にベリルが俺と渚達の会話に入ってくる。
「私達は元々裁定の使徒を保護するために存在しています。そのため、私達は数人の使徒相手なら圧倒する力を持っていますがそれでもやります?」
「やらねぇよ。ただ、どうしても優斗に裁定の力を与えたのが理解できねぇだけだ」
「なんでだよ」
自分で言うのはあれだが、俺結構頑張っているだろ?
魔獣とは戦うわ、魔王とは戦うわ、コイツらなんかよりもよっぽど働いている。
そう言われるのははっきり言うと心外だ!
「お前、初めてオレと会ったときの対応覚えているか?」
「確か、菓子作ったんだっけ?」
「違ぇーよ!服をひんむかれたんだよ!」
ああ、そうだったな……
なんだか……
「懐かしいなぁ~」
「何、良い顔して思い出に浸ってんだよ!お前のせいであの時のことを未だに夢で見るんだぞ!」
「それに噂で聞きましたけど、ちょっとした悪さで半殺しに会う冒険者も多いとか……」
「それは全てお前らが悪い!渚は俺を殺そうとしたのが悪いし、冒険者共は俺にケンカを売りに来たのが悪い。故に全てお前らに非がある」
「それに対する対応に容赦が無さすぎるんだよ!少しは人権とかそういうの考えろよ!」
「犯罪者に人権があると思ってんのか?」
お前らのは俺に危害を加えようとしたんだぞ?
特に渚なんて殺人未遂だ。
なら、その分はきっちり払ってもらう。
「はぁ、なんかもういい……、疲れた」
「なら、仕事をしてから休めよ」
渚はため息をついてどこかに行こうとしたのできちんと伝えておく。
「なぁ、先代裁定の使徒ってどんな奴なの?」
「とても心優しく、家族思いな人だったそうですよ。罪人もその方が接することで善人になるほど素晴らしい人物だったそうです。他にも他の者達から攻撃や非難を受けてもそれを許し、共に歩むことができたほどの人格者だったとか」
渚は行く前にベリルに先代裁定の使徒のことを尋ねる。
へぇー、凄い奴だな。
俺にはできないけど。
「優斗、それを聞いてどう思う?」
「どうも思わないが。そいつはそいつ、俺は俺。そいつの心意気は凄いが、それを俺がやる必要は無いしな。俺はやられたらやり返すのが行動理念だからそんなことどうでも良い」
「「…………………………………………」」
渚と加山は本当になんでこいつに……みたいな表情で黙って作業を始めた。
そして数日のうちに全てが整った。
クソ王子は未だに俺がどこにいるのか分からないようで、懸賞金をあげるだけでなく、俺を匿っている者も厳罰に処すなど新たにいくつもの法を作った。
アイツどんだけ俺が嫌なんだよ。
まぁ、俺も嫌いだから全然OKだけど。
「では、放送始めます」
「ああ」
世界向けに対してチャンネルを合わせ、映像水晶による放送を開始する。
「世界の皆様、私はユグドラシル教会人族領域代表ー」
教皇が自己紹介を始め、教会が7人目の勇者を発見したことを発表していく。
そして女王は俺が女王を後ろ楯として世界を救うということを話していく。
邪神の事は今のところまだ伏せておき、魔獣を駆逐し世界を平和にすると話していく。
別に世界平和なんてこれっぽっちも思ってないんだがな……
そして、渚、加山が今回見つかった勇者を本物と認め、両名と共に連帯していくことを伝える。
もちろん、他の勇者も教会と女王に付けば協力も援助も惜しまないと伝えて、7人の勇者の連帯を呼び掛ける。
また、現在俺の処遇を巡ってクソ王子と俺が対立しているので信者達はどちらにも肩入れせず、静かにしているようにと教皇、女王共々伝える。
まぁ、裏では教皇派と女王派の兵士達を使って帝国まで攻めあげるつもりだけどな。
そして、俺自身の自己紹介が始まる。
教皇が俺の今までの功績を話す。
なぜ教皇が言うのかというと、事前の予行練習で俺が行ったところ
「……栗原殿は今まで演説経験は?」
「あると思うか?」
「……そうですね。栗原殿の紹介は私が致しますので最後に一言言うだけで良いです。くれぐれも勇者なんてくそったれな存在と呼ぶなよとかアイツらは肥溜め以下の存在だとか勇者を貶める発言は控えて下さい。信仰の対象である勇者をたとえ同じ勇者様が貶しても信者達は怒りますので」
という感じで、本心をそのまま演説原稿にしたら却下されてしまった。
仕方ない、勇者の事を貶める発言はやめよう。
「では、最後に新たな勇者様から一言。栗原殿、よろしくお願い致します」
「ああ」
あらかじめ渡された原稿を覚え、世界に協力を求める内容を言いつつ、最後にクソ王子に向けて言う。
勇者に対しては貶めないと言ったが、クソ王子はその例外なので言わせてもらおう。
「栗原殿?」
話す内容が終わったのに続けようとする俺に教皇が首をかしげる。
「クソ王子、確かブロウとか言ったか?お前に対しては色々と言いたいことがあるが、簡潔にまとめてやる。俺はこれからお前を殺しに行く。俺の持つ最高戦力で徹底的にお前の全てを根絶やしにしてやるから待ってろ。お前を殺して、お前の『あの方』も一緒にぶっ殺してやる、そのための第一歩として俺はお前に宣戦布告する。この戦争で今まで動かなかった全てを変える。もしも、俺の行く手を邪魔するならそれらは全てをぶっ壊すし、殺す。そして俺がお前のところに着いたとき、お前の罪を一つ一つ数えながら、ぶっ殺してやるから楽しみに待っていろ」
俺はそう言いきる。
ああ、凄いいい気分だ。
クソ王子に対する恨みをこれから晴らしに行くのかと思うと心が晴れ渡っていく。
「は、早く回線を切れ!」
「は、はい!」
教皇が慌てたようにカメラマンに言い、映像が止まる。
「さて、やるか。アルベルトや龍神達も待たせているしな」
「く、栗原殿、あれほど勇者を貶める発言は控えてと言ったではありませんか」
「何言っているんだ?控えただろう?」
「ブロウ王子は勇者様ですぞ」
「クソ王子は勇者でもなんでもない、ただの殺人者だ。それに殺しにくるから逆にこっちから殺しに行ってやると言っただけだろ?」
「ブロウ王子は長い間帝国の勇者でした。その勇者を殺すなんて言ってしまったら栗原殿の進軍もできなくなります!」
そういえば、そうだったな。
クソ王子は一般人にとっては勇者だったんだっけ?
「まぁ、そんなのは俺には関係ない。クソ王子は俺の中では勇者じゃない。よって、アイツを貶してもぶっ殺しても問題はない」
「そ、そんな……」
教皇には人族を救うとは言ったが、あんなクソ王子に熱をあげてる輩を救うつもりはない。
それこそ一般人でさえも、俺にとってはただの敵だ。
「それにとても不愉快だが、俺は勇者なんだろ?なら、どちらか片方に肩入れするなと言ったんだから問題ないだろ」
「ほとんどの市民はまだ栗原殿を勇者様だと信じておりません。私が言ったところですんなりと受け入れるかどうか……」
「それはお前の腕の見せどころだ。俺を邪魔しないなら危害を加えるつもりはないが、そうでないなら容赦はしない。もう、時間だ。後はお前がどうにかしろ」
「く、栗原殿!?」
俺は教皇に後の事を全て任せて転移石で待たせている竜人族の元へ向かった。