仲間集め②
渚のところに行く前に加山を拾ってくるか……うん、そうしよう。
「ちょっと待っててくれ。都合の良いアイツにも協力してもらうつもりだから、行ってくるわ」
「え、優斗ー」
リアが言う前に別の転移石で加山のいるであろう城に移動すると
「あ、お兄ちゃん!」
「え、栗原さんですか?」
ちょうど転移すると加山達一行とそれを見送ろうとしている俺の屋敷にいた多くの獣人族のガキと奴隷のガキがそこにいた。
「栗原さん、無事だったんですか?この子達が屋敷に転移できなくなってるってー」
「加山、いつも肝心なところで使えないお前がようやく活躍できるぞ。ついてこい」
「え?ちょっと待ってください!ど、どこに連れていくんですか?」
「ああ、そうだったな。お前らは俺達は無事だ、安心しろ」
俺がガキ共に言うと安心したように皆ほっとする。
ついでに加山のパーティメンバーにガキ共の保護を頼む。
「いや、ちょっと待ってください!僕は何をされに行くんですか?」
「何もしねぇよ。ただ、俺がちょっと虐殺しに行くからお前は黙ってそれを見ていれば良いんだよ」
「虐殺!?虐殺と言いましたか!?」
「いいから黙ってついてこい!あんまりうるせぇとお前から使徒の資格を剥奪するぞ!」
「ちょっとそれどういうことですか!?」
加山がこれ以上何か言う前に奴の首に手刀を叩き込み、気絶させると奴の寝首を掴み、無理矢理引きずりながら転移する。
まぁ、加山からは使徒の資格を剥奪できないみたいだが、剥奪にはもう少し条件が必要なのかもしれない。
「よし!行くぞ!」
「ゆ、優斗君、なんか剣の勇者様がビクンッ、ビクンッてユキちゃんの精霊魔法で感電しているんだけど……」
転移して帰ってきたが、加山がすぐに起き出してしまったので、ユキの精霊魔法で感電してもらった。
若干効きすぎてしまったみたいだが、大丈夫だろ。
しかし、俺の手刀が効かないのか……なんか『鍵』を手に入れて強くなったと思っていたのにやっぱりベリルの言う通り、俺自身には戦力はないのか……
「まぁ、死んだら後で別の奴連れてくれば良いんじゃないか…………!!そうだ、リアやリリが使徒の資格を得れば最高じゃないか!よし、コイツ殺すか!」
我ながら良い考えを思いついた。
どうせ加山が生きていたって別に大して役に立たないし、良いんじゃないか?
「いやいやいや、私には無理だよ」
「そ、そうですよ!使徒なんて私達には重すぎます!」
そうかなぁ?
才能は良いと思うし、なってくれれば俺が楽できるんだけど……
「まぁ、そろそろ移動するか。レイン、お前は竜人族をまとめておいてくれ。約束の時間までに頼んだぞ」
「おう!任せてくれ!」
レインを残し、転移石を取り出すと渚のところに転移する。
「おわっ!いきなりなんだよ!」
「あなたですか……今度は何のようです?」
転移した場所にちょうど渚とテレーゼがいた。
「なんだいたのか……居ないなら家捜しでもしようと思ったんだが」
「ふざけんなよ!オレの家でそんなこと絶対すんなよ!」
「気にするな。せいぜい、エロ本を探すくらいだ」
「お前、オレが女ってこと忘れてないか?」
「えっ!お前、女だっけ?」
「殺す!」
俺の渚への信頼の態度が気に入らなかったらしく渚は顔を真っ赤にして怒り出した。
なぜに?
俺は他のクソ勇者共と比べればお前のことを信頼しているのに……
「い、いい加減話を進めてください!ナギサも落ち着いて!だいたいどうしてあなたがここに来たんです!月一のお菓子の日はまだのはずですよ!」
テレーゼがなんとか宥めようと渚を抑えてくれたので、俺は……
「なんか説明すんのめんどくさいな……。使徒の資格奪った方が早くね」
「いやいや、優斗君。渚さんはまともだから話してあげて。きっと手伝ってくれるから」
リアが言うなら仕方ない話してやるか
面倒だし、資格奪ってリア達に回した方が早いと思うんだけどなぁー。
「なんでコイツこんなに嘗めた態度取ってんだよ」
「ナギサ、この男は元々こんな感じです」
「クソッ、しかもなんか本能的に今のコイツに逆らえないような気がするのもなぜだ……」
渚たちがいつまでもヒソヒソと話して時間が削られるのも惜しいので話し始める。
使徒のこと、邪神のこと、そして現状の俺が置かれていることを話すと……
「なん……」
「なんだ渚?なんかあるならハッキリと言え」
全てを話し終えると渚は顔を俯く。
テレーゼはなぜか顔を引きつらせ、俺を見ている。
「なんでお前なんかにそんな大事なもん渡してんだぁあああああああああああああああああああああああ!」
「いきなり叫んでどうした?欲求不満なのか?」
性的な欲求不満なら俺が解消してやろう。
渚の体型はリア達から比べれば可哀想だが、十分俺の守備範囲内だ。
「お前、なんつうもんをアイツに渡してんだ!アイツが剥奪の力なんて持ったら邪神なんかよりもよっぽど恐ろしいことになるだろ!」
「そうですか?ご主人様は誰よりも多くの魔王や魔獣と使徒の資格が無いときから戦っておられたのですよ。働かない勇者よりよっぽど素晴らしいと思いますし、そもそも何もせずに生きている使徒達に生きる価値はありませんよ。どうせ、言ったって動かないなら強制的に動かした方が効率的でしょう?」
渚はベリルに詰め寄るが、ベリルはあっけらかんとしてそれに答える。
渚は唖然としてしまい、口をパクパクと動かすだけだ。
裁定の使徒になるには『鍵』が必要だが、『鍵』を手に入れるには神獣の契約者である必要がある。
これを渚に言ったところこうなってしまった。
「な、なんてことを……」
後ろから縄で縛り上げておいた剣の勇者様も知らない間に起きて俺達の話を聞いていたようだった。
これで2度説明しなくて済んだ。
「ともかく、俺の状況は聞いたな?お前には俺に協力してもらう。異論反論があるなら資格を奪ってやるから出てこい。ベリルの言ったように役目も果たせない奴に生きる価値はない」
「優斗、お前オレ達を脅しているのか?」
「脅す?とんでもない。脅す気なんて全くない。ただ、選べと言っている」
「選ぶですか?」
「そうだ」
渚達はなんか勘違いしているな。
脅すなんて疲れることするわけないだろ。
脅すだけでも結構疲れるだぞあれ。
「邪神との戦いに必要なのは使徒の力を持った者。それさえあれば問題ない。俺は今回クソ王子に雪辱を果たし、剥奪を行う。それを邪魔するものは全て殺す。それがたとえー」
俺は加山と渚を見た後、笑ってしまう。
「邪魔する者が獣人族であろうと幻人族であろうとな」
「お前!」
「栗原さん!」
「やはりあなたは!」
一斉に非難の視線を向けられるも俺は更に3人を睨み返す。
「お前ら、いい加減ふざけるなよ。自分達の置かれている状況くらいきちんと把握しろ。どちらにしても邪神は復活する。しかも、すでに邪神の力で使徒の力の乗っ取りも起きている。このまま進めば、いずれは全滅する」
「「「…………」」」
「そこで黙りか……、まぁいい。どっちにしても早急に行動する必要がある今、すぐにでも剥奪が必要だ。ならば、俺の行動を邪魔すること自体が世界の終焉を早める。ならば、お前らが取るべき行動は何かくらい分かるだろう?」
「それは本当ですか?本当にブロウさんがその……邪神の手先なんですか?」
俺の言葉に加山は動揺しつつも聞いてくる。
「ベリルのことを疑うのか?」
「いえ、そうではなくて……あの人がそうだと思えないというか……」
「信じられないならお前から資格を剥奪するまでだ。邪神の手先に踊らされているような奴に価値はない」
「ま、待ってください!」
「ともかくお前らは選択する必要がある。世界を救うために俺と行動するかそれか死ぬか選べ」
俺の言葉を聞くと二人の勇者は酷く動揺する。
そもそも世界のためというなら世界のために動く者に資格を与える方がよっぽど効率的だ。
資格を持つのに義務を果たさない奴に価値はない。
脅す価値もない。
なら、死んで資格を別の者に移した方が世界のためになる。
「そんなの選択じゃー」
「お前らがもっと前から行動して邪神を倒していれば俺がこうすることもなかった。自分はしていないくせに人がそれをしようとすると非難するとは随分と偉いんだな勇者様は」
俺の言葉に加山は続きを言えなくなる。
そうだ、元々コイツらがやるべきことを俺が代わりにやってやってるんだ。
もちろん俺とリア達の未來を守るためでもあるが、それ以前にコイツら……というか新たに加わった使徒を含めて13人で倒せばいいものをここまでズルズルと引きずっているのが原因だ。
「まぁ、獣人族も幻人族も全員が俺に敵対するとは思えん。だから、皆殺しにするようなこともないだろう。だが、今の俺にはできる限り戦力が必要だ。お前らが俺に協力すればアイツらは喜んで俺に協力する」
加山、特に渚はそれぞれ二つの民族に影響力がある。
この二人を今回の戦いに巻き込めば必ず早期に解決する。
俺の主力は竜人族だが、二つの民族も敵となれば人族は必ず兵が分散する。
そこを叩けば即終了だ。
「選択と言ったが、どちらかと言うと取引だ。俺たちの復讐に協力すれば、今後お前らから資格の剥奪も行わないし両民族の保護は確約しよう。さぁ、選べ」
二人から資格を剥奪するにはもう少し条件が必要みたいだが、嘘も方便だ。
二人は酷く悩んでいたが最後には俺の提案をーーーーーーーー
受け入れた。