鍵
「栗原殿、では付いてきてください」
俺たちは教皇に案内されると巨大で透明な紫色の石がいくつもある場所にきた。
「これは!」
「鑑定石?なんでこんなにいっぱい?」
リア達が驚いて辺りを見渡す。
「これは全て鑑定石という名で世間には知られています」
「まさかこれ全てが……」
「はい。これに『鍵』の力を封印されております。元は1つの巨大な封印石だったのですが、鑑定能力があることが分かりいくつにも分断されていたものを1ヶ所に集め直しました」
まさか召還された日に見たものが使徒の力とはな……
運命を感じる。
「栗原殿、鑑定石に触れてください」
「分かった」
俺はゆっくりと鑑定石に近づくと一際大きな石に触れる。
そういえば、リア達のクラスアップの時に見たけどあの時はまだ精霊の契約者だったな。
触れた瞬間、体の中に暖かいモノが流れ込んできたのが分かった。
そして、1000年前の使徒の思いも流れ込んでくる。
「そっか……、ユキお前はやっぱり……」
使徒の思いは他の使徒に対する憎しみは一切なかった。
あったのはただ妻と娘が幸せに生きて欲しいという切実な想いだけが込められていた。
「安心して逝け。お前の娘に俺は今まで助けられた。なら今度は俺がお前の娘を守ってやるから……」
そう思いながら俺は『鍵』を受け取った。
同時刻幻人族領域にて
「!!」
「どうしましたナギサ?」
「いや……何か衝撃が走ったというか、なんだか鞭が喜んでいるっていうか……」
「どこか調子が悪いのですか?回復魔法をかけましょうか?」
「だ、大丈夫だ。別に体の具合がおかしい訳じゃねぇよ」
「そうですか……なら、良いです」
隣を歩いていたテレーゼは未だに心配そうにオレの顔を見つつも歩き出す。
「なんだこれ?何か体がそわそわする」
ジョブが変更になりました。
鞭の勇者から魔物の使徒になりました。
突如、頭の中にそんな音声が流れる。
「おい!?なんだよこれ!?」
「どうしました?」
オレはギルドカードを取り出すと何度もジョブの場所を確かめた。
同時刻獣人族領域にて
「!!」
「どうしたのシュウイチ」
「いや、……その」
僕の頭の中に音声が流れたのでギルドカードを確かめる。
剣の使徒
とそこには書かれていた。
僕自身も妙に体がそわそわする。
いや、違う。
剣がカタカタと震えて喜んでいるように見える。
「栗原さん、またあなたが何かしたんですか?」
なぜか栗原さんがまた関わっているのではと僕は勝手に思い、一人小さくそう言った。
ただ、それは悪い意味ではなかった。
なぜなら今僕の目の前には栗原さんの屋敷から逃げてきた獣人族の子供達や栗原さんの奴隷の子供達の対応で追われていたけれど、皆僕に栗原さんを助けてくれと何度も頼んでくる。
そうして僕はその子達に言う。
「大丈夫ですよ。あの人は僕を殺しかけた人ですよ。あの人が死ぬなんてこと早々あり得ませんよ」
悪い意味でも良い意味でも僕は栗原さんのことを信頼している。
それに助けに行きたいけれどなぜか転移石が使えなくなっている。
これはもしかしたら栗原さんの屋敷に転移できない何かが仕掛けられたんだろう。
事情は子供達から聞いた。
さすがに今回は僕も見逃すわけにはいかない。
恩を返すためにも栗原さんを助けに行こう。
同時刻、魔王城にて
「「「「「!!!」」」」」
「!!これは、まさか……」
それと同時にワシの頭に音声が流れる。
魔王たちの頭の中にも音声が流れたようだった。
ちょうど今後の行動を細かく指示するため会議をしていた最中だった。
「思ったよりも早かったようですね……」
「あの教皇は7人目の勇者の弟子じゃったからな……ワシらが目を付けたあの小僧に気付かないはずなかろう。ただ、こんなにも素早く行動するとはな……年をとっても変わらんの」
「おい、爺さん!なんだよさっきのあれは」
ロフ坊がワシに詰め寄る。
リナちゃんやクロック、カミーラも訳が分からないのか眉を潜めておる。
「おそらく『鍵』が元の主に戻ったのじゃろう。全使徒が揃ったからこそ、本来のワシら使徒としての真名が復活したと推測するのが1番かのう」
「そう考えるのが普通だと思います。ただ、宝具の勇者の方々も全員使徒まで戻ったと思いますか?」
「それはないじゃろう。宝具はスキルとは違うからのう。宝具の声に耳を傾けたものなら有り得るが、そうでないものまで使徒の真名を取り戻したとは思えん」
しばらく憤怒は考えるとロフトとリナを見つめる。
「ロフト、リナ至急、人族領域で何が起こったのか調査してください。もしかしたら、件の彼に何かあったのかもしれません。現状を把握したら私にすぐに伝えてください」
「分かった」
「了解」
その後、憤怒はクロックとカミーラに近づくと
「クロックはすぐに用意した魔物の体の四肢を融合し、カミーラと共に準備をお願いします」
「仰せのままに」
「は~い!分かったわよん」
「最後に我らには魔族の皆さんと世界の命運がかかっています。それを忘れずに」
憤怒はそう言うと席に着いた。
王城にて
「なぁ、本当にやるのか?」
「何を怖じけずいているですか!栗原さんにやられたことを忘れているのですか!」
「まぁ、まぁ姫川さん。落ち着いて。高橋さん、これは勇者の威厳を賭けたものです。あの方の所業は先程教えたでしょう。あの方は国の内政にまで手を出して騎士団の人事に関わりました。その際に今の団長のご子息が殺されたのですよ。しかも、騎士団だけかと思えば、ギルド内部にまで不正を働いておりました」
「けど、さすがにやりすぎじゃないか?」
俺は愛歌ちゃんとブロウさんが栗原に対して次々と打ち出す行動が少し恐ろしくなっている。
屋敷内の資産の差し押え、国内及び国外の指名手配。
しかも生死に関係ない。
「殺すまではないだろう?」
「あの方はどうやってやったのか分かりませんが、魔王も下した相手です。これくらいがちょうど良いです」
「そうですよ!それに知っているわ!高橋さん、あなたは支援国から待遇見直しを考えられているでしょう!だったらここで力を見せなくてどうするんです!」
「そ、それは……」
俺の支援国はこの前の魔王討伐での対応に疑問を持ち、しばらくの間支援金の支給を考えている上、俺のパーティーメンバーだったお姫さまや美少女達も一時的に国から召集がかかってしまい、今は俺ひとりとなってしまった。
愛歌ちゃんも俺と同様で5人いた仲間のうち3人が母国から召集がかかり、帰ってしまった。
しかし、愛歌ちゃんの最大の支援国であるポルヴォー王国は未だに支援しており、その影響力を行使して各国に栗原とパーティーメンバーを捕らえることを伝えている。
俺は自身の名誉回復のためにも魔獣討伐をしようとしていたところにブロウさんと愛歌ちゃんからビザンティン帝国を転覆させようとしている栗原を共に捕まえないかと誘いを受けた。
栗原が国内でやっていたことに驚きを隠せなかったが、俺は乗り気じゃなかった。
栗原には確かにあの時殴られてムカついたが、二人のやっていることはさすがに問題だと思った。
けど、俺自身も魔獣討伐の方は地味で目立たないため、こっちの方が俺が目立つんじゃないかと思ってしまったのも事実だった。
結果として俺もなしくずし的に参加することになった。
「ともかく私達が栗原さんを捕まえるつもりですので、高橋さんは栗原さんの仲間が邪魔しないように牽制してくれていればそれで良いですよ」
「それなら……」
俺はあまり気持ちの整理していなかったが、とりあえず了承した。
ふと俺の持つ槍が小さく震えているような気がしたが、愛歌ちゃんやブロウさんの宝具もそうなっているか聞いてみたが、なっていないと言われた。
勘違いだろうか?