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待ち人

「お前たちは何の目的で俺たちを助ける?」

「拙者たちはあるお方の暗殺部隊、略称名暗部でござる。拙者たちはそのお方が栗原殿に折り入って頼み事があったため、こうした次第でござる」

「そのお方とは誰だ?」

「それはこの後、すぐに分かるでござる。栗原殿はここでお待ちくだされ。すぐにいらっしゃるでござる」


俺らは逃げている途中にあった家の隠し扉から地下道を通った所で再び地上に出るとリアたちがクラスアップしたときの教会に入った。

教会ということは神父が俺を助けたということか?

どちらにせよ


「もしこれで敵に囲まれていたらたまったもんじゃないな……。ユキ、もしもの時は教会ごと破壊して逃げられるように準備していてくれ」

「うん!まかせて!」

「皆も頼むぞ」


全員、俺の言葉に頷く。

あの時のユキはやっぱり全力を出していた訳じゃない。

たとえ、敵になっているとは世話になっていたフレデリックやリネット相手に本気は出せない。

それになにより……


人族領域・・・・では……か」


つまり人族領域から出てしまえば良いということだ。

あの二人がこういう情報を戦闘中に話すわけ無い。

つまり、最初から俺たちを逃がす意図もあったというわけだ。


「やるなら最後まで悪者になれよ……それだと思いきりやれないだろう……」


会ってほしい奴が来るまで俺たちは屋敷の中に仕掛けておいた映像水晶を見ていた。


「あ、金庫が!」

「金目のものは全て奪っていきますね」

「ここまで潔いと逆に感心します」


屋敷は後から来た騎士達や冒険者たちに尽く破壊され、金目のものは全て持っていかれた。

途中から貴族らしい奴らが命じてさらに物資を持っていく。

誰かと思ったら前に俺の屋敷に来てシルヴィアと口論していたクソジジイもその中にいた。


「俺に対して行った狼藉、身をもって後で判らせてやる……」


精霊魔法が使えないこの状況がこんなにも空しいとは思わなかった。

だが、太陽の精霊に会いさえすればこの状況も打開できる。

待ってろよ……皆殺しにしてやるからな。


「なんか優斗君が黒い顔しながら不気味に笑っているんだけど……」

「何を考えているのかなんとなく分かってしまうのが悲しいです」

「ご主人様、素敵です!」

「これだけは何度見ても慣れません」


リアとリリ、ベリル、ルルはこんな俺をいつも通りの反応をしてくれる中、ユキはいつも以上にキラキラした目で見つめてくる。

最近はあんまり見せてやれなかったからな。

始まればユキにはたっぷりと見せてやろう!


「え、そうなのか?」


レインは分かってないようだから一緒に強制的に見せてやるか……

俺がどうやって始末しようか考えていると


「できるだけしないで頂けませんか?あの中には我が信徒たちの家族も含まれているので」


振り替えると白服を着た見るからに教皇っぽい人がいた。

年齢は70歳後半だろうか。


「「あ、あなたは!」」


リアとリリがハモって膝をつく。


「どうしたんだ?このジジイと知り合いか?」

「ゆ、優斗君、この人はユグドラシル教の人族領域での教皇様だよ。前にお父さんとお母さんに会いに来ていたから間違いないよ」

「そういえばユグドラシル教会って前に聞いたな……確かに勇者信仰の宗教だっけ?」


ユグトラシル教、勇者を信仰する世界的な宗教だった。

精霊信仰の竜人族の大半と魔王信仰の魔族を除けば、殆どの民族が共通して信仰している宗教だった。

教皇はそれぞれの民族から代表の一人が選出され、貧困対策や和平の仲介などを行う。

そのため、権力もかなり強いという。

だが、それは今の俺にとっては問題だ。

勇者信仰の厚いコイツらがここにいるということは……


「俺を殺しに来たと思えば良いよな?」


信仰対象の勇者が殺せと命じた俺は格好の獲物ということだ。

ユキが敵意を向け、ベリルが俺を守るように前に出た。

リア、リリも状況を飲み込み、すぐに立ち上がるとレインたちと一緒に周囲を警戒する。


「どうか警戒しないで頂けますかな?私は貴殿と敵対するつもりは全くありません。むしろ貴殿とは是非とも協力したいのです」

「お前が俺と協力?そんなこと俺が信用すると思っているのか?」


コイツらはそもそも勇者信仰をしている奴らだ。

クソ王子によって今窮地に陥っている俺と協力したいなどとほざく、コイツらの言葉自体そもそも信用できない。


「遅れて申し訳ありません」


すると教皇の後ろからまた二人やって来た。

40前半くらいだろうか、それくらいの年齢の女性が教皇にそう言うと俺に会釈する。

その女性の後ろにはリアより一つ二つくらい上だろうか、橙色の髪の女の子が一人いた。

二人ともきらびやかな衣装を纏っている。

貴族だろうか?

女の子は会釈した女性とは逆に俺を軽く睨むとプイッと顔を露骨に背ける。


「周りには数人の信徒らしき奴らがいるけど、さっきの黒服の奴らは見当たらないぜ」

「そうか、助かる」


レインから報告を受け、再度教皇達を睨み付ける。


「どうか、矛を納めては頂けませんか?私達に栗原様を害する意図はありません。私達は栗原様と協力し、世界を救いたいのです」

「私も同様です」


今度は後から来た女性が俺に頼んでくる。

教皇とその女性は俺たちに頼んでくるが……


「なぜ俺が矛を納めなければならない?自衛のために警戒するのは当然だ。それを止めろだと?状況を良く見てから言え」


周りは全員敵。

しかも国家ぐるみで俺を殺しに来ている。

それで矛を納めろだ?

後ろから刺されたりしたらたまったもんじゃない!

俺に死ねと言っているのか。


「お母様になんて失礼な!お母様、やはりこの男が7人目の勇者様なはずがありません!7人目の勇者様はもっと優しく、そして弱き者の心が分かると言われています。この男は7人目の勇者様と全く違います!」

「リズリット、あなたは黙りなさい!申し訳ありません。栗原様の置かれている状況を踏まえれば私達が怪しく思うことは最もです。ですが、どうか私達に栗原様と栗原様の精霊様の力をお貸しください」


女性が女の子を叱責すると、女性は再び頭を下げて懇願する。

それはとても長いお辞儀であった。

隣りの女の子は俺に睨んできているが、女性が目を配ると慌てたように教皇の後ろに隠れる。


「お前はいったい何者だ?」

「私はアンリエッタ=ビザスタティン、この国の王妃です」


王妃……つまりはあのクソ王子の母親ということか。


「よし、殺そう」

「お、お待ちくだされ栗原殿」


忍者っぽい奴らが急に現れると王妃と俺の間に立って俺をなだめようとする。

俺の言葉を聞いた王妃の娘は俺にすぐにでも飛びかかろうとするが、王妃がそれを止めさせる。


「お前たちには感謝しているが、俺はあのクソ王子の関係者は皆殺しにするつもりだ。わざわざ、俺の前に立つということは死にに来たんだろう?」

「栗原殿、この方が拙者たちのお仕えしているお方でございます。今回、栗原殿をお救いするよう命じたのもこのお方です」

「そうか、それはありがとう。楽に殺してやる」


俺は祝詞の構成に入り始める。

たとえ、雷光だけしか打てなくてもコイツらなら殺すだけの威力くらいは出せるだろう。


「栗原さんという名前でしたかな?どうか話だけでも聞いて頂けませんか?王妃は確かに貴殿が嫌うブロウ王子と関係者ではありますが、血のつながりはございません」


教皇が俺に王妃とクソ王子との関係を細かく教えてくれる。

女王はあのバカ王の5人の妻うちの一人であり、他の王妃たちを国政から退け、この国の実務を実質的に取り仕切っており、城の中では権力もクソ王子と二分するほどの実力を持っている。


「このビザスティン帝国が人族領域で最大の国力を持つようになったのも一重にアンリエッタ王妃の手腕でしょう」

「ならばなぜ俺に助力を求める?それだけ実力があれば国なんて自分の思い通りだろ。俺の力が必要な理由が分からん」

「それは私からお話いたします」


女王はさらに俺に事の経緯を話した。


「数日前にブロウ王子が戻ってきてから、人族領域で国力のあるポルヴォー王国と密会を繰り返し、クーデターを企てました。阻止しようと思っていたのですが、さらに悪いことに私の後ろ楯でもあった騎士団がブロウ王子の脅しによって魔王討伐に無理矢理派遣させられた結果、壊滅状態になり私の権力基盤が弱くなりました。それを良い機会だと捉え、私と敵対していた他の王妃たちの賛同を得た後、決行しました。私は平民出身ですし、他の王妃達とも上手くいっていません。それにあの子は元から私の事も嫌っていたので。結果としてクーデターは成功し、私は側近と自身の護衛の暗部と共に城を脱出し、かねてから国の発展のため協力して頂いた教皇様に匿って頂いているのです」

「つまりは俺の力を借りてクソ王子のクーデターを倒し、再び権力を取り戻すのが目的か?」

「概ね間違いありません。しかし、私の真の目的は世界を救うことです」

「ハッ、笑えるな。本音は権力を取り戻したいだけだろ。はっきりと言ったらどうなんだ?わざわざ世界を救うなんて建前を言わなくて結構だ。魔王を倒して更なる国力を高めたいだけだろ?」


俺が召喚されたとき、あのバカ王は魔王を倒すのが目的だと言っていた。

俺は鼻で笑ってしまい、思わず王妃を侮蔑に満ちた目で見てしまう。


「クソ王子と血は繋がっていなくても、欲深いところを見るとやはり親子だな」

「お前!お母様に謝りなさい!いくら魔王を倒したからってお母様を馬鹿にすることだけは許せません!それにブロウ兄様と一緒にするなんてー」

「リズリット、良いのです。実際、栗原様の言う通り私の本心の中にも少し程度は権力への執着心はあります。しかし、栗原様!私はこの戦いの本分は忘れておりません!」

「ほう、ならばその本分とやらは何だ?」


魔王討伐以外に戦いの本分があるのが不思議だ。

ぜひとも、教えてほしいものだな。


「それは邪神・・との戦いです」

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