正体
バキバキと玄関の扉が破壊される音が鳴る。
ルルの妖精魔法で玄関からのみ敵が来るように仕向けてある。
ここで迎え撃つ。
「もうすぐ破壊される。全員備えろ」
「「「「「はい!」」」」」
そして扉が砕かれ、中に敵が侵入してきた。
「な、なんだと!?」
「嘘っ!」
「なんとも愚かな……呆れますね」
俺とリア、それにリリやユキ、懐から顔だけだしたリリもその正体に驚く。
ベリルは一瞬、驚くがすぐにどうでも良さそうに眺める。
敵は帝国の騎士や魔導師、そして冒険者だった。
俺は警戒しつつも話しかける。
「随分と派手な登場だが、人の屋敷に一体何のようかな?」
「貴様がクリハラユウトだな!貴様には不敬罪、恐喝、強盗など多くの罪がある。ここで大人しく捕まれば、楽に殺してやる!」
殺すのかよ。
見たところ騎士たちも冒険者たちも随分とガラが悪そうなうえ、一度も見掛けたことがない奴ばかりだった。
「おい!お前ら騎士供、俺はお前らの上司に散々手を貸してきたんだぞ。それに対する返しがこれか?」
「ふっ」
騎士たちは俺を鼻で笑うと俺に剣を向けてくる。
「団長なら先日解任された。貴様が騎士団内部に不正を働き、カイザー前団長を辞任にまで追い込んだ。現在はカイザー団長が再び着任している!」
ギルドだけでなく、騎士団も落ちていたのか。
これはこの国をすぐにでも出ないとまずいかもしれない。
「リア、リリ、ユキ、ベリル魔法であいつらを蹴散らした後、必要なものだけ持ってとんずらする。さすがにこの国の全員を相手にしていたら流石に厄介だ。ルル、お前は妖精魔法で撹乱、追跡の妨害を頼む」
「分かったよ!」
「任せてください!」
「ユキがんばるー」
「分かりました」
「は、はい!」
皆、それぞれ魔法を構成しようとする。
よし、俺も!
「ご主人様はやめてください」
構成しようとするとベリルから止められる。
「ご主人様の魔法は威力がありますが、使えば使うほど孔に影響が出ます。最後の最後までとっておいてください」
「分かった。なら、任せる」
確かに影響かあるならやめておいた方がいい。
それにこの程度の者たちならベリルたちだけでも十分だろう。
「チェティーリ・ストライクサンダー」
「チェティーリ・アクアハイドロポンプ」
「『あめふりぼし』」
「『氷塊』」
リアは雷の光線を、リリは水のジェット砲を、ユキは小さな白い雷を多く発生させて放ち、ベリルは巨大な氷の塊を飛ばす。
あれなら俺が手を下すことなく死ぬな。
だが、不思議なことに奴らは防ごうともせず、ニヤニヤと笑ってばかりだった。
なんだ?なぜ避けようともしない?
奴らの影からなにかが飛び出すと
「固有スキル『絶刃斬』」
の声と共にベリルの氷塊が易々と粉々に切られ、その斬撃は天井の一部をきれいに切り落とし、リアの攻撃を落ちてきた天井で相殺した。
そいつは降りてくる途中天井に作った一部を踏み台に再び冒険者たちの中に戻った。
「『我が成すこの世の真理よ。全て防ぎ全てを守れ。シェースチ・グランドキャニオン』」
と同時に大地が盛り上がりユキとリリの攻撃を土の厚い壁が防ぐ。
「嘘だろ?」
あり得ん。
あんなの防ぐ奴がいるのか?
しかもユキは『雷神』を使ってから攻撃に一貫性が出てきて、さらに無茶苦茶な破壊力を持ったって言うのに……
その攻撃を防ぐだと。
「シェースチ!?」
「絶刃斬!?まさか!」
リアとリリが驚愕している。
ゆっくりと騎士や魔導師、冒険者たちの中から先程の滅茶苦茶な動きをした奴らが出てくる。
「お前ら!」
「久し振りだなクソガキ」
「久しぶりねぇ~」
そこから現れたのはフレデリック・バインズとリネット・バインズだった。
「なぜお前らがそちら側にいる」
「そんなのは当然賊であるテメェを殺すためだ」
「私達がこちらにつけば娘たちの罪は不問にしてもらえるからよ」
なるほど。
そういう手に出たか。
確かに娘の命を保証する代わりに俺を討てと言われればクソ王子側に付いたのも分かる。
他人は所詮他人。
我が子の命の方が可愛いのは当然だ。
「酷いよお父さん、お母さん!」
「そうです!パパとママだけはこんなことしないと思っていたのに!」
「リア、リリ黙って俺たちの元に戻れ」
「今ならまだ戻れるわよ」
リアやリリはフレデリックとリネットを睨み付けたまま動こうとしない。
「リア、リリ今回は本気だ。今までみたいにごっこ遊びとは違う。俺たちは本気でそいつを殺りに行く」
「今なら軽く怒るくらいで済むわよ」
「お断りだよ!」
「そうです!」
バインズ家は平行線のままだった。
「仕方ない。リネット、ギアを上げる。お前も本気でやれ。リアとリリなら全力でやっても問題ない。それよりもアイツと精霊だ。俺が前衛で動くからお前は俺を援護しろ」
「分かったわ~」
「お前ら、少し俺のことを舐めすぎていないか?」
アイツらとは俺が借り暮らしをしていたときに手合わせしたこともある。
特にフレデリックはユキのあの時攻撃程度で気絶するくらいだ。
攻撃が当たりさえすれば問題ない。
「ああ?お前こそ俺のことを嘗めすぎだ。弱職が調子に乗るなよ」
その言葉と共にフレデリックが消える。
「優斗君!」
リアに突き飛ばされ、後ろに飛ぶ。
前を見ると先程まで俺が立っている場所にリアとフレデリックがいて剣で鍔迫り合いをしていた。
なんだ今のスピード!
速いとかそんなレベルじゃない。
「シェースチ・アイロンニードル」
「優斗さん!ピャーチ・フライ」
空中に投げ飛ばされ、自分のいた場所に無数の針が突き刺さる。
その次の瞬間にはリアの小さい悲鳴と共に飛ばされ、俺の目の前に鞘に剣を戻したフレデリックがいた。
「死ね。固有スキル『烈火断裂刃』」
「『氷雪』」
フレデリックが居合抜きをする直前、ベリルが切られるすんでのところで俺雪の壁で防ぎきる。
刃が雪に食い込むと大量の水蒸気ができる。
「チッ」
フレデリックは舌打ちを打つと俺を踏み台にするように蹴り飛ばしつつ、リネットの場所へと飛ぶ。
そこへユキが攻撃を加える。
「『たたらぼし』」
空中から白い雷の魔力砲が放たれる。
ユキがいつもより魔力を多く込めている。
「あら~、これはちょっと凄いわね~。『セーミ・エクスプージョンクロスボルト』」
土から巨人ができるとユキの魔法にたいしてそいつはボーガンを放つ。
ユキの攻撃に当たると同時にそのボーガンは爆発した。
ユキの攻撃は見事に防がれた。
ユキも魔王の時と違い、全力で放った訳ではないが完璧に防がれるとは思わず驚きを隠しきれていない。
「セーミって……」
「知っているのか?」
リリがさっきから顔をひきつらせているので尋ねてしまった。
「セーミは魔法界の中で最高峰の魔法です。チェティーリ、ピャーチと続き、普通はこのクラスが高レベルの魔法です。しかし、シェースチ、セーミそのさらに上、理論上可能ですが高度に魔法構築を瞬時に行わなければいけないため一般ではまるで使われていません。それこそ、それを実際戦闘で使うなんて……どうかしているととしか言えません」
「親に向かってどうかしているなんて酷いわリリちゃん。まぁ、実際使えるのは私くらいだし、使ったのも炎の精霊戦以来よ」
ふざけんなよ。
あんな桁違いの化け物相手に炎の精霊に勝ったっていうのかよ。
リアも立ち上がるとフレデリックに剣を構える。
「優斗君、お父さんも危ないよ」
「だろうな……。思いきり蹴られて分かった……。あの野郎、今まで俺相手に舐めプレイしてやがったな。他の聖騎士なんかとレベルが違うな……」
「当たり前だ。テメェ程度にどうして本気を出す?俺をそこいらの『聖騎士』と一緒にするなよ。あんなのジョブの本来の能力の半分もまともに使えない奴らのかたまりだ」
それにだとフレデリックは続ける。
「あの世への手土産に教えてやる。俺は能力全てをスピードと攻撃に割り振っている。だから、体内のギアを上げることで速度を上げられる仕組みになってんだよ。確かにお前の精霊たちは強い。攻撃を1発でも食らったら負けだが、そんなの簡単だ。1発も受けなけりゃいいだけだ。俺が今まで1発も受けてはいけない相手と戦ったことがないとでも思ったか?そんなの腐るほど見てきた。二番煎じなんだよテメェは」
舐めていたのは俺のようだった。
フレデリックの強さを舐めていた。
これでは逃げることも難しいぞ……