敵襲
ベリルたちに教えて貰った後、俺は寝ながら考えた。
あの後、最後に少しだけ教えて貰った。
本来、精霊としての契約者なら精霊から力を引き出すだけで済むが、今回俺が死にかけた時ベリルは自身の意志で俺に力明け渡すにはどうしても神獣としての力がどうしても必要になると。
その後、俺は自身の孔をより強固に塞いでおくためにもベリルを介してユキの神獣として契約者になった。
ユキはまだ上手く神獣として力を扱えないので、ベリルが仲介するそうだ。
神獣として契約することでこれまでは詠唱後の怪我を負っていたがそれが無くなるということだ。
代わりに神獣の使徒として役割が追加され、敵である邪神からさらに苛烈な攻撃を受けざる終えなくなるという。
そのため、ベリルも神獣として契約してまで俺に負担を強いるのはいかがなものかと乗り気になれなかったという。
それにこの世界の住人でもない俺にわざわざ痛みを背負わせてこの世界を救わせることへの価値もベリルは見出だせないと言った。
いずれにせよ、元の世界に戻る方法が今のところない俺が過度にこの世界に繋がっては帰るに帰れなくなる恐れがあるというのがベリルの思惑だった。
精霊のこと、神獣のこと、使徒のことは後で簡潔にリアたちに説明しておかなければならないだろう。
神獣の契約者となった俺が攻撃を受けるということはリアたちも巻き添えを食らうこともあるということだ。
最後にベリルに本当の名前を聞くと
「ご主人様、今の私はベリルです。過去の私と今の私は違います。そうですね、今ここにいるのは墓の少女の来世です。だから、もう前の私のことは気にしないでください。私はあなたのベリル。ベリルとして女として愛してください」
と言われた。
確かに今ここにいるのはベリルだ。
だから、ベリルを愛そう。
もちろん、墓の少女としても決して忘れる気はない。
それは俺が忘れてはいけないことだ。
その後リアたちにどう説明しようか考えていて現在に至る。
すると微精霊たちが寄ってきた。
「どうした?」
『何かいやなものが来る』
「嫌なもの?」
『あくい』
「あくい?」
『悪意がちかづいてくる』
その言葉を見たとき、屋敷の結界が壊れたのが分かった。
「ゆ、優斗様!」
ルルが急いで俺の部屋に駆け寄ってきた。
「け、結界が破壊されました!」
俺の購入した屋敷には数々のトラップを仕掛けてある。
俺の所にいる獣人族のガキ共や奴隷たちが奴隷狩りに会わないようにしたものだ。
特に屋敷の結界はルルに頼んで最も強固なものにしてある。
少なくともチェティーリクラスの魔法を何発も受けなければ壊れることはない。
それが破壊されたということは少なくともそれだけの力を持つ何かが襲ってきたということ。
普段の俺なら真っ向から迎え撃つが、自分の状況が状況だ。
ここは逃げておくのが最善の手だ。
「ルル、慌てるな!お前はリアたちと共に他の者たちを避難させろ!ガキ共は加山の元へ連れていけ。奴隷共は鉱山地帯へ逃げさせろ。あそこならしばらく時間が稼げる」
「わ、わかりました!」
「それと妖精魔法で幻覚を見せ続けておけ。避難の時間くらいは稼げる」
「は、はい!」
ルルに命じて割りとすぐに避難準備が整った。
「栗原様、私達はどうなるのでしょう?」
奴隷の一人が俺に尋ねてきた。
他の奴隷たちも同様に心配そうだった。
「お前たちはここから鉱山地帯に逃げた後、各々逃げ切れるだけ逃げろ。時間があれば、渚と連絡を取りたかったがこの際仕方ない」
「しかし、奴隷契約は主人の知らない場所に奴隷が一人で行くのは禁じられているのですが……」
そういえば、そんな内容があったな。
行動制約の程度は契約時にほとんど無くしておいたが、それだけはどうしても消すことができなかった。
というよりそれを消してしまうと自由になっているのと変わらないからだろう。
俺は奴隷たちの契約書の束を引き出しから取り出すと
「火の準精霊、これを燃やしておいてくれ」
火の準精霊は俺の言う通り、契約書を燃やしてくれた。
奴隷たちから一様に奴隷紋が消える。
「栗原様!?」
「これで問題はない。それと手持ちの金がこれしかない。金庫を開けるのも今は時間はないから無理だ。この金を適当に分配しておけ」
「な、なぜ?」
「人命優先だ。敵が何者か分からないうえ、今の俺では守りきれないかもしれない。そうだ、向こうに行ったら鉱山地帯に備蓄しておいた食糧も適当に分けろ」
「い、いえ、そうではなく、私達が栗原様の所から逃げることは心配しないのですか?」
「初めに言わなかったか?お前たちが働けばいずれお前たちを自由にすると。これまで十分稼げた。よって今この時をもってお前たちは自由となった。それだけだ」
奴隷たちは唖然としてしまっている。
「まだ我々は自分の値段の分だけ稼げていないはずですが……」
「そうか?桁の1つや2つ変わらんだろう」
奴隷たちは開いた口が塞がらなくなってしまっている。
実際まだ全くと言って良いほど、奴隷たちの購入資金は集まっていない。
だが、金のために人命を危険にさらすほど俺は落ちぶれてはいない。
ベリルのためにも命を蔑ろにはしたくない。
「もし無事に敵を撃退できたときは再び転移できるようにしておく。その時、また俺のところで働きたいなら戻ってくれば良い」
「は、はい!」
俺は奴隷の一人にそう言い、他の者たちとまとまっておくよう言っておく。
「お前ら!ルルやリアたちから説明を受けた通り、敵襲だ。俺たちは迎撃するが、万一失敗した場合はここに繋がる転移石はすべて破壊する!手に持てる大切なものだけは放さないようにさっさと移動しろ!」
そう言うと屋敷の者たちは移動を開始する。
転移石は移動できる人数が限られているため、時間がかかる。
フェルミナやシルヴィアは実家やキャシーの元へ逃がした。
一緒にいると言われたが、非戦闘員を残しておいては戦えないと説得してどうにか納得して貰った。
すべてが移動し終わった後、転移石をリアたちと分けて懐にしまっておく。
「優斗君、さっきの話格好良かったよ!」
「神獣の話か?」
避難している間にリアたちには説明しておいた。
もしかしたら今回の敵は邪神の手先の可能性があるからだ。
「違うよ。奴隷さんたちとの会話。皆、優斗君にすごく感謝していたよ。普通なら人間の楯に使うような人だっているのに優斗君は素晴らしい方だって!私も優斗君、凄く格好良いと思ったよ」
「そっちか。そう言われると素直に嬉しいよ。生きていなくちゃ、やっぱり何の意味もないしな」
「優斗君、ベリルさん生きていて良かったね……」
「ああ。だが、ベリルを一度死なせたのも事実だ。だから、今度こそ守ってみせる。ベリルも、そしてリアたちも」
ベリルのこともすでに話した。
とてつもなく驚いていたが、(俺も知ったときは衝撃が大きかった)最後は良かったねと言ってくれた。
「でも……、私が一歩リードしていたと思っていたのに……。知らない間に抜かされていた……ううっ」
リアは頭を抱えて唸る。
「その通りですよ!私とご主人様の仲は誰にも負けませんよ。これは私が正妻ですかね」
「そ、それはダメ!」
ベリルが俺の腕に胸を押し当てて、挑発するようにリアに言う。
それに負けじとリアも反対側の俺の手をとると胸を押し当てる。
おおっ!
両腕に柔らかいものが当たって気持ちいい!
やばい、ベリルが生きていてくれたおかげで自分にかけていた理性もどうでも良いやみたいな気分になってしまっている。
もし状況が状況でなければこのまま二人をベッドに連れていって大人の階段を昇ってしまう。
「そうです優斗さんの正妻は私です!」
リリも来て俺の背中に抱きつく。
凄い!
乳圧が、パラダイスが三方向からやって来ている!
すると準精霊たちがペシペシと俺の顔にぶつかり、微精霊たちも紙にもうすぐ来ると警告してくる。
「どうやらお楽しみは後でということか……」
「そうだね」
「今は停戦しておきましょう」
「状況が状況ですしね」
三人は離れていく。
ああ……なんかもったいない。
だが、ここは仕方ない。
我慢しよう。
「あー!みんなますたーにくっついてずるい!」
「本当です!優斗様、皆さんばかりずるいです!」
終わったと思ったら第二波がきてしまった。
まぁ、ちびっ子たちだから興奮しないけど……
ていうか、興奮してしまったら色々ヤバイだろ。