邂逅⑤
それから私はメアに連れられ、海の中に入って行った。
幽霊となっている今息継ぎもしなくて済む。
そして海の底に真珠や石灰などで作られた神殿があった。
「さて、これから君に世界の全てと力のレクチャーをするね。大変だとは思うけど、頑張ってね」
「は、はい!」
私はそこでメアが知る限りの世界の事と自身の記憶と知識、そして何よりも4大精霊の存在理由と敵のことを教えてもらった。
「まさか……そんな」
「そう思うのも無理はないよ。奴ははっきり言ってとんでもない。かつても勇者や魔王に干渉して仲違いや抗争をさせてきた。私達が全力をかけてもこのザマって事」
「分かりました。ありがとうございます。次は精霊魔法の使い方ですよね?」
「いや、その前にこれから君が生きていくうえで頼みが1つある。聞いてくれる?」
「当然です」
「実は随分昔に私には仲の良い友達がいたんだ。けど、その子は好きな人ができてその人との子を成した。けど、ある時その子供が病で死にそうになってね、自身の力をその子に与えた」
「それって……」
たぶんメアと同じ4大精霊の……
「君の思う通り。彼女は4大精霊の秋を司る稲妻の精霊だよ。続きを良い?」
「どうぞ」
「その子に託して彼女は消えてしまったんだが、その子がある時行方不明になってね。未だに探し続けていたんだけど結局見つからなかった。だから」
「その子を探して欲しいんですね」
「そう。お願いできる?」
「良いですよ。でも、栗原さんを守りながらですけどね」
「ハハッ。それで良いさ。でも見つけたらお願いね」
「はい」
そうして私は精霊魔法を学び、遂にメアから肉体を引き渡してもらう日がきた。
「もうお別れなんですね…………」
「そうだね。こんなに楽しかったのは久方ぶりだよ」
「どうしても生きられないですか?」
メアに私がそう言うと嬉しそうにそして優しい眼差しで私に近づくと抱き締めてきた。
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、もう限界なのは教えているでしょ」
「でも……メアが消えるなんて……」
「大丈夫。消えるというより新たにこの世界に還元されていくそれだけだよ」
「それでも、あなたは……私の師匠で、先輩で、そして初めての友達だと思うからやっぱりお別れは寂しい」
「ありがと。私もここまで気を許した友達はいなかったよ。君と会えて本当に良かった。君になら力を託せる」
「メア……」
「最後に私の力を継承すると一時的に記憶が欠落すると思う。けど、何かの拍子に必ず思い出す。その時になったら自分の想いのままに動くと良い。万一、この地を離れることがあってもその通り動くと良い」
「えっ、でもそれじゃ……」
私が受け継ぐ精霊の役目の1つを破棄することになるんじゃ………
「それで良いの。長い間生きてきたけど、正直言って人は守るに値しないと私は思う。かつて私達が自身の自由と引き換えに世界の安寧を守ろうとしたのに人間共はそれを忘れ、私達を都合の良いときは戦争の道具に使い、悪くなれば化け物と称して殺しに来る。そんな存在をたとえ後少ししか時間がないといえ、守る価値はないと思う」
「そっか……」
「そうそう。だから、君は自分の想いの通りに動くこと!約束ね」
「はい」
メアは私の胸に手を当てると私の中にゆっくりと力が流れ込んでくる。
「少し思ったんだけど、君何気に胸私より大きいよね……」
「ちょ、メア、胸を思いきり掴まないでよ!最後の最後までこんな感じなの!」
「ごめん、ごめん。でもやっぱりジェラシーは大切だよ。大きいのとか滅びれば良いのに…………」
最後の最後まで私の友達はどうしようもなかった。
「ねぇ、今まで何気に聞いてなかったんだけど、君の名前何て言うの?」
「私?言ってなかったっけ?」
「うん。聞いてなかった」
確かに言われてみれば言ってなかったかな。
よく今まで普通に会話していたと思う。
「私の名前はねーーーーーだよ」
「そっか……。これで心残りはない。バイバイ、またいつかどこかで」
「うん。また、どこかで」
もう二度と会うことのない親友と最後の別れをした。
そして、私はメアから肉体を引き渡された。
何度も自身の中で肉体を再構築していく。
痩せこけていたあの時よりも少しくらい大人になったくらいの体となって私はこの世界に再び生まれた。
獣人族に特徴的な獣耳は無くなり、人族のような耳となった。
髪も元々焦げ茶色だったのが冬を司る『海の精霊』に特徴的なエメラルド色となった。
たぶん昔の私を知る人がいたとしても私だとは気付くことはないだろう。
そして私は頭がボッーとした状態で地上へと出ていった。
私は何かとても大切な人を探すためにここにきたような気がする。
その人に会い、何かを伝えて一緒に居ようと思っていたはず。
探さないと……
そんな気がしたまま、なんとなく歩いているとお墓にたどり着いた。
ふと前を見ると黒髪の男の人が墓守のお爺さんらしき人と話していた。
何だろう、とても気になった。
あの人と何かあった気がする。
とても大事な何かが……
ふと、男の人が一瞬私に気が付いたようだった。
私は何故か慌てて霊体化してしまった。
どうしてこんなに慌てたんだろう。
あの人と何かあるのかな……。
男の人は銀髪の女の子を連れて行ってしまった。
私はその男の人がどうしても気になって追いかけていった。
「迷った……」
ここはどこなんだろう……
記憶も定かでない上、初めての来た街を行ったり来たりしていたら迷った。
どうしよう凄い不安になってきた。
「ねぇ、君どこから来たの?」
「お兄さんたちと遊ばない?」
「なぁ、この子超可愛くね?」
壁にもたれ掛かり、今後の事をどうしようかと悩んでいると私に知らない3人組が声をかけてきた。
何だろう、とても嫌な気分だった。
けど、そんな私を助けてくれたのはお墓で見かけた男の人だった。
どうしてだろう何故か心がとても暖かい。
助けてくれたのが嬉しくて幸せでどうしてこんなに胸が高まるのだろう。
見ず知らずの私に親切に扱ってくれるだけじゃなく、寝食ができるところまで見つけてくれた。
それに何より何故か自分の名前を思い出せない私に『ベリル』という名前を付けてくれた。
とても嬉しかった。
その後、自分と会ったことがあるかと聞かれたとき咄嗟にないと嘘をついてしまった。
たぶん自分の胸の高鳴りを知られたくなかったからだと思う。
そしてその男の人の契約している銀髪の女の子が拐われたときに必死になって探す様子に何故か心が打たれた。
もうあの時と違う。
あの時というのが何を意味するのか分からなかったけど、確かにそう思った。
そしてあの言葉を聞いて全てを思い出した。
「ベリル、俺はあの時あの子に誓ったんだ。逃げないし、恐れないと。俺は最期まで戦い続けると約束したんだ!」
この言葉……そうだ、この人が私のお墓の前で言ったあの言葉だ。
そうだった。
「思い出したよ、メア。栗原さんはやっぱり私の選んだ人だった。この人は初めて会った私にここまで尽くしてくれる助けてくれる。精霊を愛してくれる」
私は小さく呟いた。
メア、あなたの大切な友達の子供を助けてくれた人だったよ……
「私はあなたを許します。そして愛しのあなたに私の全てをかけます。世界が終わるそのときまであなたの守り続けます」
私は手をユキちゃんを拐った者にかざす。
「『水撃』」
これで邂逅編=ベリル編は終わりです。
次から戦闘に戻ります。