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邂逅④

咄嗟に私はメアを突き飛ばしていた。


「な、何をしているんですか!」


メアは突き飛ばされて尻もちを着いていたけれど、立ち上がる。

もしかして幽霊の状態でも触れていたからもしかしてと思ったけど、本当に触れられた……


「いきなりどうしたの?」

「どうしたのじゃないです。どうして栗原さんを殺そうとしたんですか!」

「へぇー、栗原って名前だったんだー」


メアは心底どうでも良さそうに栗原さんの眺める。


「殺そうとした理由だっけ?」

「そうです」

「それ、見える?」


メアが指差す場所を見ると栗原さんの首に変わった黒い石があった。


「これは?」

「それは魔族領でしか手に入らないアイテム。それを彼が持っているということは魔王と何らかの関係者である可能性がある」


私は思わず目を見開いて栗原さんを見る。


「そんな、でも、仮に栗原さんが魔王の関係者だとしてどうして殺そうとするんですか!」

「大問題。魔王とどういう繋がりかは調査しても分からなかった。けど、あなたが死ぬに至った原因にこの男が関与していることははっきりとしている。もし私があなたに継承したときにこの男が再びあなたの命を狙われたら困る。だから、早めに手を打っておこうという私の優しさ」

「それは……………………少し違う」


確かに関与はしたかもしれないけど、私は最後は自分の意志で……


「まぁ、それは殆ど建前。実際は『裁定者』を生かしておけない」

「どうして!」

「『裁定者』の持つ固有スキルは厄介。あれを受けると私達4大精霊でもひとたまりもない。それなら、先に潰しておくのが最良」

「栗原さんはそんなことをー」

「見殺しにされたあなたがそれを言うの?」

「!!」


メアは続けて言う。


「そんなことはしないとどこに確証があるの?この男があなたの墓の前で約束したからといって同じことを繰り返さないとは限らない」

「どうしてそこまで……」

「そもそも4大精霊は世界の安定と平和のために存在する。私達が消されてしまった時点で世界は滅びに向かって突き進む。もちろん、使徒たちがきちんと協力すれば可能性はあるかもしれないけど、我の強い彼らにそれは不可能。だから、私達はどうやってでも生き残る必要がある。それがたとえ有限の平和だとしても…………」

「……………………」

「ならば、先に懸念事項となりうるのは潰すのが最も。あなたは私の力を継承する候補である以上、その身が危険にならないようにしておくのは当然」

「私は継承なんてしない……」

「だとしても他の精霊が殺される可能性を考慮しても先に排除する。リスクを減らすのは当然の行動。そして何より」


私を見据えてはっきりと言った。


「今のあなたは黙っているべき」

「なっ!」

「あなたは現状、私の力を継承するとは一言も言っていない。ならば、ここで私がどんな行動を取ろうとも今のあなたにはそれをとやかく言われる筋合いはない」


当然の考えだ。

私は力を継承するとは一言も言っていないし、メアがどうしてそこまでして精霊を生き残らせようとしているのかも分からない。


「もういい?あなたには危害を加えるつもりはない。今の私やあなたは他の人には見えない。死んでもどうせ夜盗に殺された程度にしかならない」


そう言うと再び氷の剣を作ると栗原さんに近づいていく。


「それでも……」


その人は確かに私を……

けど、それでもその人は私を……………………


退いて」

「嫌」


私はメアと栗原さんの間に立った。


「あなたにとってそこの男はー」

「確かに!」


私はメアの言葉を途中で切る。


「確かに、栗原さんは私にとって最後に信じた人でした。信じて待ったのに見捨てられちゃいました。恨んでいないと言えば嘘になります。けど……」


私は栗原さんを見る。

防具も服もぼろぼろで疲れた様子でぐっすりと寝ている彼の姿を見て確信する。


「それでもあの人は私にとって大切な人でもあるんです。あの人だけが私に寄り添ってくれた。実の親すら私を棄てたこの私に。あのまま牢にいたらきっと私は無造作に扱われ、きっとこんなに立派なお墓すらなかったと思います。弟や他の皆と一緒にいられないのは寂しいけど、今の私にはこの人が隣にいてくれる」


そして私はメアを睨む。


「私は栗原さんを許します。そして今この時から栗原さんは私の大切な人です。この人に危害を加えるなら私が全力で止めます。たとえ、死んだとしても私が止めます」

「その男がまた君を裏切るかもしれないのに?」

「裏切りませんし、栗原さんが他の精霊に危害を加えることも決してありません!」


メアは私の言葉に目を細めてさらに私に尋ねる。


「なんでそう言い切れる?」

「私が栗原さんを全力で止めるからです」

「あなたは死んでいるでしょう」

「メアの力を継承すれば蘇られるんでしょ?なら、受け継ぎます。私は栗原さんを、私の大切な人を守るためにあなたの力を継承します!」

「私があなたを相応しくないと判断するかもしれないのに?」

「そんなことはありません!」

「なんで?」

「あなたが相応しいと思うまでとことん付き合うからですよ!」


メアは私の最後の言葉を聞くと目を見開く。

そしてー


「ぷっ、はははなははははっ。やっぱり、最後の最後まで待ってみるものだった」


メアはお腹を押さえて笑い出す。


「えっと、どうしたの?」

「合格だよ」

「へっ?」

「合格と言ったの。はぁー、疲れた。結構、冷静キャラ努めるの大変だったよ。おめでとう。君の志は素晴らしいものだよ。本当に、ここまで私相手に啖呵を切った相手は初めてだ」

「えっと、何が、どうなっているの?」


私は急に態度や雰囲気が変わったメアに戸惑う。


「ごめんね。これは一種の試験だったの」

「試験?」

「そう。君の思いと行動を確かめるためのね。私から死んだ後に自分が選ばれた存在だと知ったときどう行動するか観察したんだ。私の言葉に乗せられて選民思想な考えを持って行動するのかそれとも違うのか。もし違うならどう行動を取るのか」


なんとなく事情が分かってきた。


「つまりさっきのは全部嘘ってこと?」

「全部ではないけど、ああいう行動を取ったのは嘘かな」

「なにそれ~」


どっと疲れが出た。


「ははっ、そんな怒んないでよ」

「もし私が選民思想的な考えを持っていたらどうなったの?」

「その場で消し去ってやったよ。力は与えられるのは偶然であって必然ではない。その力を我が物顔で使う者に4大精霊の名を名乗る資格はないよ」

「結構シビアなんだね。でも、自分が選ばれたと思っちゃうのは仕方ないんじゃないの?」

「そうだね。だから、そう思わない人を見つけるのにこんなに時間がかかちゃったよ。でも最後には見つかった」


メアは私の手を取ると立ち上がらせる。


「さて、後継者も決まったことだ。これからビシバシ4大精霊のことや世界のこと、敵のことを教えるからついてきてね」

「えっ、今から?」

「そりゃそうさ。時間がない。私はいつ死ぬか分からないし、何より君もこの体を早く欲しいだろ。彼を守りたいんだろう?」


メアはそう言うと栗原さんに目配せをする。

ううっ、顔が熱い。

勢いで言ってしまったとはいえ、恥ずかしい。

ええい!どうにでもなれ!


「ええ、そうです。私があの人を守るんです。あの人は私に尋ねるとって大事な……ううん、好きな人だから」

「うっわー、惚気きたー」


やっと気付いた。

あの人は無謀でも私を助けようとしてくれた。

結果は最悪な形だったけど、それでもあの時助けに来てくれたときは本当に嬉しかった。

そして自分を痛めつけてまで私を想ってくれたことに悲しさと同時に嬉しさをはっきりと感じていた。

この人なら私を大事にしてくれる。

そう確信できる。


「そう言えば、あなたの体をもらったらあなたはどうなるの?」

「ん?魂は消えるよ」

「えっ?」

「でも気にしないでよ。私はもう十分に生きたから。私の精神はどのみちもう限界。だから、もうここらで年寄りは消えるとするんだよ。それよりもたぶん君は大丈夫だと思うけど、途中で私に早く力寄越せとか言わないでよ。昔、後継者に指名した奴にそんな奴がいてめちゃくちゃムカついたから」

「えっと、まさかとは思うけどその人は……?」

「生きていたら今頃私はここにいないけど?」

「……気をつけます」

「よろしい!私が教えることすら覚えられなくて、我慢できない奴に精霊の力は必要ないからね」


そうして別の場所に移動しようとするので私はメアを止める。


「どしたの?」

「メアにお願いがあるの。私が守れない間、せめて栗原さんを守ってあげて欲しいの」


メアはため息をつくと仕方ないなという表情で栗原さんに近づき、自分の指を唇に当てた後その指を栗原さんの額に当てる。

すると眩しい光が栗原さんを包む。


「何をしたの?」

「この子がよく戦っているキングフロッグが夜の時だけこの子の前では動けないようにしたり、動きが鈍くなるような精霊魔法をかけておいたよ。これなら少しは戦いやすくなるでしょ」

「ありがとうメア」

「どういたしまして」


そして私はメアから世界の全てを聞いた。

精霊のこと、敵のこと、勇者のこと、魔王のことも全てを。

邂逅編はまだ少し続きます。

ちょっと投稿が遅れると思いますが、気長に待っていて下さると助かります。

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