表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/142

邂逅③

私はその後、意識を魔法で剥ぎ取られゆっくりと死んでいった。

そしてなぜか私はしばらく魂だけとなった。

たぶん、私の遺体がどうなるかくらいは知りたかったんだと思う。

せめて弟と同じ場所にいられるのか知っておきたかった。

だが、私の遺体は私の想像していた考えとは全く違った扱いとなった。

あの男の人が私の遺体を引き取ったのだ。


「どうして最後まで私の願いを踏みにじるの?」


私はせめて弟とあの場にいた皆と一緒の場所にいたかった。

私の声は聞こえていないかもしれないが、私は男の人に対して言った。

その時はまだ男の人の背中しか見えておらず、どんな表情をしていたのか分からなかった。

けど、その時の私は凄く嫌な人だったと思う。

何度も「私のことは放っておいて」「私を見捨てたくせに」とその男の人に向けて言っていた。


私の遺体をどうするのか気になり、私はその男の人の後をつけていった。

幽霊となった今男の人に私は見えない。

きっと誰も居ないところで私の遺体を捨てるんだろうと思っていた。

けど、それは違った。


「だめじゃ!銀貨5枚で墓など作れるか!」

「お願いします!墓穴はかあなは自分で掘ります。だから、どうかお願いします!」


そうやって私のお墓を作るために墓守のお爺さんに何度も頭を下げていた。

最後は地に頭を擦り付けるように嘆願し、墓守のお爺さんも嫌々ながらお墓のための土地を男の人に与えた。

そしてスコップを借りて黙々と穴を堀り始めた。

時々、私の遺体に虫が飛んでくると手で払いながら作業を続けていった。

そこで初めて私は男の人の顔をしっかりと見た。

涙を流しながら穴を掘る作業を続けていた。

本人は自分が涙を流していることにも気付いていないのだろう。

そして小さく口が動いているから何かと思って耳を近付けてみると……


「ごめん……ごめん……ごめんなさい」


ひたすら謝っていた。

見ているこちらが泣きそうになるくらいその背中は小さかった。

墓守のお爺さんもそう思っていたのかやるせない表情をしていた。

手のマメが潰れても気にせずに掘り進めていた。


そうした姿を見ていると最初に抱いていたこの男の人に対する思いが少し変わった。

考えてみれば勇者である主人、いや死んで自由になった今もう主人ではないか、元雇い主は勇者であり逃げてしまうのは当然だ。

勇者に勝てる人など勇者か魔王くらいしかいない。

それなのに私は助けてくれなかったことや見捨てたこと、皆と一緒に居させてくれなかったことを先程まで逆恨みをしてしまった。


でも、私にはもう誰もいない。

私を助けてくれる人は誰一人としていない。

私が信じるに値する人は誰一人としていない。

だからこそ、私自身誰かのせいにしていなればもう心が折れそうだった。


そうしているうちにお墓が完成した。

お墓と言っても正直穴を掘っただけの粗末なものだった。

けれど、そもそもお墓自体私のような奴隷身分では本来あるものではない。

奴隷にわざわざ墓を作るなんてことはしない。

お墓1つ作るのにも多くの費用がかかる。

そして最後に穴の中に私をゆっくりと入れた。


男の人はまだかけ出し冒険者なのだろう。

装備の殆どが粗末なもので、手持ちのお金だって少ないのにお墓を作るだけじゃなく、近くのお花屋さんで花を買うと私の遺体に持たせる。

そしてゆっくりと埋めていった。

優しく丁寧に私を埋めた。


それから男の人は私のお墓の前で寝起きするようになった。

毎日私のお墓の前で行ってきます、ただいまを言い、何度もボロボロになりながらも今日あったことを私のお墓の前で伝える。

そして毎日私のお墓の手入れをしつつ、また出掛けていく。


「もう、いい……もういいからやめて。私の前から消えて……。このままだと私はあなたを許しちゃうから……」


何度もそんな光景を見ていたためか私はもうどうしたらいいか分からなくなってしまった。

名前も知った。

栗原優斗、ここではない世界からきた異世界人。

栗原さんのことは嫌というほど教えてもらった。

栗原さんの行為は贖罪だ。

贖罪程度で私が信じていた思いを裏切ったという事実は変わらない……そう何度も思い直しても栗原さんの姿を見ているとその気持ちが揺らぐ。



ある日、栗原さんがいつものように疲れて私のお墓の前で寝落ちしてしまった時


「……」


綺麗なエメラルドの髪をもった背の高い女性が私のお墓の前に現れた。


「この人、何?」

「おはおは。私はメア、よろしく」

「!?」


私の声が聞こえるの!?

エメと名乗った女性は私の方を見るとひらひらと手を振る。

そして私をじっくりと上から下まで見る。


「どうしたの?」

「いや、私死んでいるのになんで見えるのかなと……」

「あなたは私の後継者候補。私に見えないわけない」

「いや、それ答えになってないけど……」


なんで普通の人に見えない私が見えているのか答えを聞いたのにさらに訳の分からない理由が返ってきた。


「私は四大精霊の一角、冬を司る。あなたは私の後継者候補。だから、うつわを計りに来た」

「器?」

「そう」

「よく分からないんだけど、なんで私がその器に選ばれたの?」

「それはあなたが私の力を継承する上で優れた精神エネルギーがあったからだと思う。実際、今のあなたの状態は精神エネルギーが高くなければ維持できない状態」


私ってそういう理由でこの姿だったわけ?

それよりも


「精神エネルギー?」

「精霊の力を継承した後、コントロールするのに必要な力。本来は直系の子に受け継がせた方が一番良いけど、今回は別。私には子がいない」

「そうなんだ」

「だから、あなたの器を計る」

「ちょっと待って。もし私がその器を満たしていたらどうするの?」

「その場合、この体を明け渡しあなたは新たな四大精霊として復活する」

「それって生き返るってこと?」

「広義的には正解。ただ、正確には違う。あなたの本来の体はすでに腐り始めている。だから、この体を新たな器として再編。あなたの体として現世に復活させる」


腐っているって……いや、まぁ死んでもうだいぶ経つから仕方ないけど。

けど……生き返るのか……。

思わぬ形で再びこの世界に蘇られる。

けど、同時に再び生前の悪夢が頭を過る。

もう私には信じれる相手なんて……


「ごめんなさい、私にはできる気がしない」

「そんなことはない。もし、生前のあなたのことを考えているなら問題ない。私の力を継承した時点であなたを害することができる存在は殆どいない」

「あなたはどこまで私のことを知っているの!?」

「後継者候補のことはよく知ることが大切。体の隅々まで」


怖い!

今までとは別ベクトルで怖い!

けど……


「ごめんなさい。それでも私はもう……生きていたくない。こんな世界に生きている価値を見いだせない」

「そう……残念」


メアはそう言うとあからさまにガッカリするがすぐに顔をあげると


「そういうことならは諦める。会っていきなりこんなことを言われたらそうなるのも分かる」

「いや、そうじゃなくてー」

「でも、早めに腹を決めておいてくれると助かる。私ももういつ死んでもおかしくないから」

「どういうこと?あなたはまだ若そうだけど?」

「精霊になると老いが無くなる。けど、寿命は有限。もう900年くら生きてきたけどもう限界」

「900年!?」


ちょっとどれだけ長生きなの!

人は見かけによらないとは正にこの事指すのかもしれない……


「でも、どうしてそこまで追い詰められた状態になるまで継承しなかったの?」

「あなたほど継承するうえでこれほど才の溢れた人は見ないのもある。けど、それよりも私はかつて多くの継承者候補に会ってきたけど皆私が相応しくないとして始末してきた」

「始末って……」

「殺した。精神エネルギーの状態など不安定も良いところ。消そうと思えば簡単。実際私はあなたたちに触れられるし。どう?私凄い?」


そう言うと私にペタペタと触ってくる。

まぁ、凄いか凄くないかでは凄いのは分かるけど、ちょっと性格に難がありすぎる気がする。

逆になんでメアの前の先代はメアに継承したのか凄く気になる。


「分かった。とりあえずは退く」


なんか最終的には無理やり受け継がせる感じがすごくする。

諦めが良くない人のようだし、はっていずれはやらせるってこと?


「それに私ももうひと仕事しておかないといけないから」


そんなふうに思っていたのも束の間、メアは手から氷の剣を作ると疲れて寝ている栗原さんに降り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ