断罪
俺はできる限りリアたちから魔王を離すためにも走り出す。
案の定、魔王も俺に向かって走り出してくる。
「『我、風の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・ウインドビースト』」
俺の精霊魔法によるかまいたちが魔王を襲うが、全く気にもとめない。
だが、俺もそんなことで精霊魔法を打つのをやめる気はない。
さらに続けてウインドビーストを放つ。
「そろそろだな……」
時間を計りながら奴の全回復する間隔を掴む。
「『我、水の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・ウォーター』そして『我、雷の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・サンダー』」
「アアッ、アアア」
今回のクリエイト・ウォーターはただの水ではない。
少し魔力が削られたが、塩水を作り出した。
流石に傷ついた体に塩水がかかったうえ、エレメント・サンダーで感電すれば多少は効くだろ。
少しの間魔王は感電するが、やがて全身が光り輝くと傷は1つ残らず消える。
「ウウッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
「うるせよ。殺ってやるから黙ってろ……」
魔法は大きく咆哮をあげると俺に更に速い勢いで走ってくる。
よし、今だ。
「『我、風と土の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・サンドストーム』」
砂嵐を起こしつつ次の仕掛けを発動させる。
「『我、土の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・フォールンアウト』」
魔王の進攻方向に陥没を作る。
魔王は飛び越えようとするが
「させるか!サンドストーム」
砂嵐を操り、魔王の行く手を阻むと上手く陥没へ落ちてくれる。
陥没には水と土の準精霊が作った底なし沼を作っておいた。
始めに奴が俺を追いかけてくるときにウインドビーストの詠唱の中に何度か混ぜておいた。
普通の感覚を持っていれば分かるだろうが、あんな錯乱状態の相手なら分かるわけも無いだろう。
魔法は沼の中で暴れる。
「これも長くはもたないな……」
今のうちに仕留める!
大きく息を吸うと覚悟を決める。
頭の中で最期の祝詞を構成し始める。
精霊魔法の時みたいすんなりいかないのが難点だな……
突如、地面が割れる。
「おいおい、嘘だろ……」
魔王は沼に渾身の一撃を加えると辺り一面の地面が割れ始める。
地面が爆発したような風が起こり、俺はその爆風に吹き飛ばされる。
立ちあがるともう魔王は陥没からはい出し始めていた。
「クソッ、間に合え!」
最期の一節の構成し終えると唱え始める。
「『我は全ての者を罰する裁定者なり。我が断罪すー」
途中で吐血してしまう。
やっぱり血は赤くなく、真っ黒に染まっていた。
「負けられるかっての……!」
あの魔王から逃げるのは不可能。
背を向けた瞬間、確実に殺される。
俺だけならまだしもリアたちまで殺されるくらいならやるしかない。
「大丈夫……、次はやれる!」
再度詠唱をやり直す。
魔王はすでに陥没からはい出し、俺に狙いを定める。
「『我は全ての者を罰する裁定者なり。我が断罪するのは汝の罪。固有スキル』」
体が尋常ではないほど痛む。
これが死のスキルかよ……
ホント、やってられないな……
「ご主人様ああああああああ!」
ベリルの悲痛な声が聞こえた。
ベリルが痺れる体をなんとか起こしつつ、俺の所へ向かってくるのが見えた。
なんとなく懐かしいような気がした……
「ごめんな……ベリル」
そして無性になぜか謝りたくなった。
死と引き換えに使うスキルを使ったからじゃなく、なんというか根本的な部分で謝りたかった。
「『断罪』」
完成した。
弱職と言われる『裁定者』のたった一度きりの最強のスキルが……
母親曰く、そのスキルなら精霊すら殺しうることができるという。
そしてこれを使って初めて理解できた。
このスキルの能力を……
「奴を束縛しろ!」
俺の言葉に合わせて俺の影から黒い腕が這い出して魔王を捕らえる。
魔王も暴れる始め腕を引き千切ろうとするが、かえってより多くの黒い腕に捕まりやがて全く動けなくなる。
「汝は『死の裁判官』たる我が裁く。『車裂の刑』」
魔王が空中で黒い腕たちによって強制的に浮かばされると四肢を投げ出される。
魔王の両手両足のそれぞれの方向に黒い牛が現れ、魔王掴んでいた黒い腕と融合する。
「引け!」
俺の声と共にそれぞれ四肢を四方向から勢いよく引く。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
魔王が断末魔をあげる。
それはそうだ、四肢を引き千切られようとするんだからな。
「まだ駄目か……」
さすが魔王と言っておこう……
『車裂』でも死なないどころか、逆に牛たちを引っ張り始めている。
「ならばこれでどうだ。『振り子の刑』」
魔王の真上に黒い刃の振り子が現れる。
「切り裂け」
車裂と同様に俺の声と共に振り子が振れ始め、魔王の腹を上から切り刻み始める。
「ギーッ、アアアアアアア!」
それでも魔王は耐えきり、片方の腕の束縛を無理矢理外すと振り子の刃を止める。
「これでも駄目なら、次はーグフッ!」
俺自身も吐血し始め、全身が酷く痛み始める。
「俺、自身ももう持たないな……次で確実に終わらせる!奴を強制的に捕らえろ!」
俺もすでに体が悲鳴をあげ始めている。
次で仕留められなければ終わる。
魔王は最期の抵抗をするが、俺も最期の力で強制的に静かにさせる。
「その首を跳ねよ!『ギロチン』」
魔王の体を黒い断頭台に乗せると魔王の頭を固定し、上からギロチンの刃が現れる。
「ううっ……、あれっ……、優斗……君……?」
ふと振り返るとリアやリリ、ルルも意識を取り戻したようだった。
「何、してるの……?」
「ごめんなリア。今終わるから……」
リアの顔がだんだんと曇っていき、青くなっていくのが分かった。
俺はその顔を見ていられず、再び魔王の方を向くと魔王はまだ暴れていた。
「今度の刃はただの刃だと思うなよ。俺の全てをかけてやるから」
ありったけの魔力を刃に流し込む。
元々黒かった刃が更に禍々しく黒く染まる。
「これでお互い最期だ。『断罪』せよ!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
ギロチンの刃落ちると共に魔王が最期に大きく咆哮をあげる。
ギロチンの刃が地面に到達した音と共に……
魔王の首を跳ねた。
「終わったか……」
ギロチンは消えると共に魔王の体も一緒に消し去っていった。
地面に転がる魔王の首を静かに見つめながら俺はリアたちの元へ向かった。
全身に強烈な痛みが広がっていくが、まだ少し時間はある。
「優斗君……今のは……?」
「『断罪』だよ」
「えっ?」
リアたちが息を飲むのが分かった。
「なんで……なんで!」
「お姉ちゃん!」
「でも!」
リアは俺にすがろうとするのをリリが止める。
「あれしか手段がなかったということ……です、か?」
リリは至って平常であろうとしているが声が震えているのが分かる。
「その通りだ。今この場から切り抜けるにはそれしかなかった……」
「そう、です、よね……」
リリはそう言いながら泣き始めてしまう。
リアも泣き始めてしまった。
俺はそんな二人を黙って見つめていることしかできなかった。
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