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覚悟

「あ、頭が、割れる」


なんだこれ!

俺は頭を押えてうずくまる


「い、痛い!」

「頭が割れます!」

「い、痛いです」


リアとリリ、ルル、それに局の二人組やケインたち、バカ勇者の仲間たちも頭を押さえてうずくまってしまっている。


「ますたー、だいじょうぶ?」

「大丈夫ですか?ご主人様!」

「ゆき、たち、は、大丈夫、なのか?ぐあっああ」


痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!

転移石も落としてしまう。

駄目だ。

拾おうにも視界が歪んで拾えない。


「痛い、痛い、痛いーーーーーー」

「頭が、痛い……」

「あ、ああ、あああっ!」


寝ていたバカ共も起き出して頭を押さえて喚き散らす。

クソ王子は殴っていた最中に歯を何本か折ったために意味不明な呻き声しかあげない。

いい様だ。

くそっ、このままでは転移石で帰ることもできない。


「ユキ、ベリル、どちらでもいい。早く俺に転移石を……」

「はっ!ますたー!」

「避けて下さい!」


ユキとベリルがそう言うと同時に頭を割るような音が消える。

地面に転がっている転移石が誰かが踏みつけて破壊する。

いや、この場合誰かなんて言わなくても魔王以外ないか……

俺は物凄い勢いで蹴り上げられたかと思うと俺は後ろへと吹き飛んでいく。


「ガハッ!」


肺から全て空気が出たかと思うくらいの衝撃が遅れてやってくる。

地面に何度も叩きつけられながら転がる。


「痛っえな、クソ野郎!」


俺を攻撃するんじゃなくてクソ勇者共を殺せよ。

前を向くとすでに魔王が目の前にいた。

魔王の姿はさっきまでとまるで違った。

頭から角が生え、人間離れした筋肉が体全身を覆っていた。

それはまるで『鬼』のようであった。


「『我、水の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・アクアウォール」

「『氷壁』」


どうにか二度目の蹴りを俺とベリルの精霊魔法で防ぐ。

だが、余波だけで体が軽く飛んでいく。

魔王にユキが精霊魔法を与えるがまるで効いていない。

魔王は一瞬ユキたちに視線を送るがすぐに俺を捉えるとゆっくりと近づいてくる。


「これは冗談抜きでマズイ……」


本気で死ぬかもしれない。

しかもアイツの目的はどうやら俺みたいだしな。


「皆、逃げるぞ!」

「早く皆!」


勇者共はそんな魔王を見ると我先にと逃げていった。


「くそったれ!なんだっていつもいつも俺ばかりこんなことに遭わなくちゃいけない!」

「優斗君、大丈夫?」

「ご主人様!大丈夫ですか」


リアたちが俺の元に駆け寄ってくる。

勇者共は死んで欲しいところだが、このままではリアたちも生き残れない。

魔王はもうすぐそこだ。

迷っている暇はない。

大きく息を吸うと吐く。


「できればクソ王子をぶっ殺してから使いたかったな……そういえば今日はまだあの子のところ行っていないんだったな。許してくれるかな」

「優斗君?どうしたの?」


リアたちが俺の顔を伺う。


「『我、雷の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・ショック』」

「えっ!」


リアたちに電気ショックを与えて気絶させる。


「ごめんな……約束守れなかった」


リアやリリ、ルルを撫でていく。


「ま、ますたー……?」

「ご主人様、何を……!」

「やっぱりユキたち相手じゃ、この程度の威力じゃ気絶はさせられないか……。ユキ、ベリル後の事は頼んだぞ」


体が痺れているらしく立ち上がることはできないみたいだ。


「ご主人様、何をするつもりですか……」

「なに、ちょっとあの魔王を倒してくるだけさ……すまないなユキ、ベリル。リアたちにも謝っていたと伝えてくれ」

「まさか……ダメです!そのスキルの後がどうなるか分かっているんですか!」


ベリルはどうやら俺のすること、つまり自滅スキル『断罪』を放つことが分かったみたいだ。


「転移石を破壊された今の状況で魔王から逃げきるだけの力はない。そのうえ、5分毎に回復するアイツを確実に殺す精霊魔法もないしな」

「そんなだからってなんでご主人様がやるんですか!」

「ホント、なんで俺がしてるんだろうな……勇者でもなんでもないのに……」


それを言われると本当に不思議になってくる。

こんなことになるなら来るんじゃなかった……


「でも、ベリル。お前らがいる。お前らをこの状況から救うにはこれしか手段がない。それにな、本当なら俺はもっと前に死ぬつもりだったんだ。俺が今こうして生きているのはお前らと会えたからだ」


そうだ。

いずれは来ると思ってた時が今来ただけだ。

あの子を見殺しにしておきながら生きていて良いはずない。

死ぬ時が来たと思えば良いんだ。


「そんな……、ダメです!そしたら私は何のために……!」

「ますたー、いっちゃいや!」


ユキは俺の服を握りしめる。

俺はそんなユキの頭を撫でる。


「ありがとなユキ。お前が居なかったら俺はこんなところまで来れなかった。今頃、カエルの胃の中だったよ……」

「ますたー、いや!いっちゃいや!ますたー、わたしとずっといっしょにいて!わたし、ますたーのいうこときくからだからー」


泣き始めてしまうユキを胸に抱き上げてさらになで続ける。


「本当にありがとな。ユキ、次の契約者はもっと良い奴にしろよ。俺みたいな奴だと中途半端にしかユキの力を引き出せないからな」


俺は上着にしがみついたユキを下ろして上着を脱ぐ。


「ますたー、いっちゃだめ!」

「ご主人様、どうか考えを改めて!」


二人の背を向けて魔王をしっかりと見据える。

魔王は薄く笑いながらこちらに歩いてくる。

リリに回復魔法をかけてもらっていたから、スキル発動のためのMPは十分ある。


「さぁて、始めるか……。正々堂々、一対一だ。今日が俺とお前の最期の日だ。生放送されているんだ。お互い悔いのない戦いをしようじゃないか」


魔王は大きな咆哮をあげると俺に向かってきた。


「『我、火の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・フレイム』」


俺は咄嗟に避けつつ精霊魔法を当てる。

前よりも体が固くなったのか、準精霊の魔法では傷1つ付けられない。


『断罪』のスキルの発動には2つの条件がある。

1つ目は発動のための祝詞の詠唱最中に体に激痛が走ること。

2つ目は攻撃目標が静止していなければ、発動してもスキルを当てることができない。

前者は前に味わったからどんなものか知っている。

確かにキツいが我慢しなければならない。

問題は後者だ。

動きまくっている魔王に当てるにはまず動きを止める必要がある。

俺が動きを止める精霊魔法は1つしか持っていないが、それを使うには少しの間だけでも良い。

祝詞を構成する時間が欲しい。


「こうなれば思い付きだがやっていくか……。」


俺は咄嗟に考えた案を実行するべく精霊魔法を唱えた。

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