表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/142

邪魔しかしない

このままではジリ貧だ。

あれを使って時間を稼ぐしかない。

俺は頭の中で祝詞を構成していく。


「『我、海の精霊と契約する裁定者が願う。我が望むはあらゆるものの静けさなり。その動きを止め、我を導き給え。我が成すその真なる力の片鱗を示せ』」


魔王のいる建物へと狙いを定める。


「『氷河』」


建物は氷のドームに覆われ、建物は氷漬けになる。

直後、右腕が焼けるように痛みが走る。

前に使ったときと同様に霜焼けが右腕全体に広がっている。


「リリ、ベリル、逃げろ!」


俺は右腕を押さえながらリアの元へと走る。

後ろで氷が砕け散る音がしたが、気にぜずに穴へと向かって走る。


「優斗君!」


リアが手を差し出し、俺はその手を掴む。

リアに引っ張られるように結界の外へと出る。


「早く閉じてください!」


俺は後ろを向くとリリが向かってくる魔王に魔法を当てていた。

魔法を正面から受けているというのに魔王は止まらない。

ゆっくりと穴は小さくなっていく。

穴が先に閉じるか、魔王が先に出てくるか分からない。

そう思った瞬間、氷河の中から魔王が飛び出す。

砕け散った氷が次々と魔王を再び覆うが、その氷など一切気にぜずにこちらに向かってくる。


頼む、間に合ってくれ。

俺も痛む腕を我慢しながら祝詞を構成する。

この際だ、ありったけの魔力をつぎ込んでやる!


「『我、天空の精霊と契約する裁定者が願う。我を妨げるあらゆる障害を消し飛ばせ。災いを消し、我を導き給え。我が成すその真なる力の片鱗を示せ』」


狙うは魔王のみ。


「『神風かみかぜ』」


右腕が激しく切り刻まれるが、業風よりもさらに強烈な風が魔王を襲う。

穴から向かってくる魔王の体が見えない刃で切り刻まれていく。魔王は体を時折、発光するが次々に切り刻まれていく。

それが繰り返され、魔王の歩みが遅くなる。


「優斗君、そろそろ穴が閉じる!」

「分かってる」


穴がだいぶ小さくなった後に神風を止める。

魔王が近づくのが先か穴が小さくなるのが先か。

頼む!



魔王の手は穴に届いてしまった。


「駄目だったか……」

「いや、間に合いました」


リリの声で穴と魔王を見ると魔王は両手を穴に手をかけてどうにか開けようとしているが、その穴はさらに小さくなり始めている。


「これだけ小さくなれば後はそっとしておけば自動で閉じます。さすがの魔王もこれだけ小さい穴をこじ開けるのは難しいでしょう」


リリの言葉を聞き、気が抜けた。

リアたちもため息をつきながら、落ち着く。


「まずはここから離れよう」


魔王の目の前ではさすがに落ち着くこともできないしな。

全員で魔王が見えなくなるくらいまで離れた後、俺はユキを治療しているリリの元へと向かった。


「ユキは大丈夫か?」

「もう大丈夫です」

「ま、ますたぁあー」


弱々しくユキは俺を呼んだ。


「ユキ、ごめんな。お前を守れなくて……痛かっただろう?」

「すごいいたかったぁ」


ユキは俺にしがみついて泣き始める。

いつもよりも俺の服を掴む手が弱々しかった。

きっとまだ体が痛むんだろう。

俺はユキが泣き止むまで頭を撫で続けた。

ユキが泣き止んだ後、俺はユキを抱えたまま立ち上がる。


「ユキ、一人で立ってくれないか?」

「いや。きょうはますたーとずっといる!」


確かに今日はユキにとっては災難だったからな。

人恋しいのかもしれない。


「今日は我慢して甘えさせてやるか……」

「それが良いと思うよ」

「私も良いと思います」

「ユキちゃん、羨ましいです」

「わ、私もして欲しい」


リアたちもそれぞれユキに対して思うところがあるのか納得?はしてくれる。


「しかし、驚きました」

「何がだ?」


リリに腕の治療をして貰いながら雑談をしていると急に話が変わった。


「あの魔王の体を回復力です」

「確かにあれは厄介だな。いくら攻撃してもキリがない」

「はい。しかし、戦って分かりましたがあの回復、5分おきに行われるようです」

「そうなのか?」

「はい。映像と優斗さんたちとの戦いの最中数えていたので間違いありません」


そうか。

だとするとヤツを倒すには最初の回復から5分以内に倒さなければいけないということか…………

無理ゲーだろ!

できるわけねぇだろ!


「ま、ギルドへの有力な情報提供もできるし、これで今回の勝手な行動もお小言くらいで済むだろ」

「そうですね」


リリとの会話が一旦終わったところで俺は立ち上がると


「さてー」

「凄いじゃないですか!」


帰るか!とリアたちとケインたちに向かって言おうとしたところでせっかく忘れていたバカ二人組が喚く。


「帰るぞ」

「待ってください!ぜひ取材を!」

「黙れ!俺はもう疲れてんだよ!」


両腕は死ぬほどの激痛が走ったし、これ以上無駄な気力を使いたくない。

今だってリリに治療してもらってようやく腕の痛みや傷が治ったんだぞ。


「凄いですよ!先程の戦いで今うちの局、史上最高の視聴率を得ているみたいですよ!」

「現在の視聴率、78%です!」

「知らない!興味ない!ケイン、お前は一回ギルドへ帰れ。俺たちも転移石で一旦家に帰る」


二人組を無視して帰ろうと転移石を取り出したその時ー


「今なら魔王が動けないぞ!」

「よくもやってくれたわね!」

「生きていることを後悔させます!」


バカ勇者三人が結界に向かっていく。

仲間からは声援を受けてスキルを放とうとする。


「あ!駄目!」

「何がダメなんだ?」

「今の結界は空いた穴を埋めようと不安定な状態です。この状態で攻撃したら結界が壊れます!」

「なんだと!?」


そうか、だから俺が神風を止めさせたのか。


「お前ら!止めろ!」

「止めてください!」


俺とリリが叫ぶがもう遅かった。


「黙ってろ!固有スキル『ストロング・スピアー』」

「固有スキル『聖弾クラウン・ショット』」

「固有スキル『火雷竜』」


勇者共の攻撃が結界を貫通して魔王を襲う。

魔王は大きく後ろへ吹き飛んでいく。


「「「「「「「「なんてことを……」」」」」」」


その場にいた全員が言ってしまっていた。

結界が崩れ始める。


俺は抱いていたユキをリアに任せる。

ユキも素直にリアに引き渡される。

きっとこれから俺が何をしようとしているのか分かっているのかもしれない。

ゆっくりとアホ三人に近づいていく。


「どうだ!全ての SPとMPをつぎ込んだんだ!俺たちの勝利だ!」


俺はゆっくりと高橋に近づくと……


「あ!そういえば、なんでお前ここにーフゴッ!」


高橋が何か言う前に大きく振りかぶって殴り付ける。

クソ王子と姫川は何が起きたのか理解が追い付いていないのかポカンとしている。

その前に……


「く、クリーグフッ!」


クソ王子の顔を思いきり殴り付け


「あ、あなた何をーガハッ」


さすがに女の子の顔を殴るのは気が引けたので腹を思いきり殴る。

姫川は1発で気絶をしてしまった。


「お、お前!な、何を……」

「それは……こっちの……セリフだあああああ!」

「グハッ!」


高橋の頭を思いきり蹴る。

高橋は1発蹴っただけで気絶してしまう。


「く、クリハラさん。勇者であるー」

「黙ってろ!」


立ち上がって俺に向かって下らないことを言おうとしたクソ王子をもう一度殴り飛ばす。


「お、おまえ私にこんなー」


這いつくばって俺に何か言う前にクソ王子の脇腹へ蹴りを何度も叩き込む。


「このっ、くそっ、がっ!」

「い、痛、た、助け、て……」


特に顔を中心に蹴り続けた。


「邪魔しかしないゴミ共が!」


高橋と姫川を殴り付けるのは止めておいた。

クソ王子を殴っていると爽快なうえ、ずっとこうしてやりたかったためなのかもしれない。

馬乗りになりながら何度もクソ王子を殴り付けているとやがて頭が冷めてきた。

こうしている場合じゃない。

魔王はきっと生きている。


このままここにいても殺される。

気絶した高橋と姫川、それに加えてボコボコにしてやったクソ王子を軽く見下してから俺はリアたちの元へと向かった。


「リア、帰ろう」

「…………うん」


あのバカ勇者はどうするって?

置いていくに決まっているだろ。

あんなのがいたところで世界のために何の役にも立たん。

ここで魔王に殺された方がよっぽどマシだ。

ユキを受け取って転移石を取り出したところで


「『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』」


と頭が割れるような耳をつんざく声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ