襲来
「ようやく来たか」
「優斗!本当にすまない。助かる」
ケインたちが結界の外に見えると俺とリリ、ユキ、ベリルは結界内に入った。
「リア、リリ頼むぞ。ルルはリアたちの助けを頼む。結界に穴を開けるのはかなり魔力が必要だ。二人を助けてやってくれ」
「大丈夫!」
「任せてください」
「は、はい」
3人とも気合を入れて準備を始める。
「ユキとベリルも警戒しておけ。いつ魔王がやって来るか分からないしな」
「まかせてー」
「安心して下さい。ご主人様は必ず守ります」
「期待している」
二人に頼みつつ、警戒をしておく。
どこから来るか分からないしな。
しばらく沈黙が続いていく。
「リア、リリ、結界の穴はまだか?」
「これかなりかかりそう」
「結構キツいです。これ相当な魔力で練り上げられていて結界全体がまるで網目のようになっています。これを解くには1つ1つほぐしていかないと駄目です」
全く厄介な結界を作りやがって!
こんなところさっさととんずらしたいんだよ。
それからさらに数十分経過すると徐々にケインたちも焦っているのが分かる。
「いや~、魔王来ないですね」
知らない間にバカ二人組が結界内に入っていた。
「なんでお前らここに入ってきている?」
「そんなの男同士の包容を……ゲフンッ、ゲフン。戦闘を近くで見たいからに決まっているからじゃないですか!」
「お前はここに一生残ってろ!」
こんな奴さっさと置いていこう。
そう思っていた次の瞬間ー
「優斗君、上!」
リアの声と共に視線を上にあげると、空から猛スピードで落下してくる魔王を見つけた。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」
俺が精霊魔法を魔王に向けて放つと魔王は大きく軌道を変えて回避する。
轟音と共に降り立つと砂埃が舞う。
「ヒィ!来たぁ~」
カイルが情けない声をあげる。
「おお!あれが魔王ですか!映像の前の皆さん見ていますか!…………というかさっきの魔法なんですか?杖なしで放てる魔法なんて見たことないんですけど」
「お前は黙ってろ!ケインたちはそこでじっとしてろ!邪魔だ」
「すまない……」
相変わらずのバカを黙らせるとケインたちは怯えるカイルを連れてベリルの後ろに下がる。
「ベリル、リアとリリの守りは任せたぞ。二人が殺られれば俺たちもここから出られない」
「お任せください!」
「ユキ!無茶はするなよ。俺たちはあくまでアイツを倒す必要はない。ここで押さえておけば良いだけだ!」
「わかってるよー」
ベリルとユキに指示を出しつつ、次なる精霊魔法の準備をしておく。
「リアたちも結界の穴が開いたらすぐに連絡を頼むぞ」
「うん」
「任せて下さい」
そして土煙が収まっていくと魔王の姿を見つけることができた。
その姿は全身血まみれでついさっきまで殺していたようで手からは血が滴り落ちていた。
「グロッ。ホラーは趣味じゃないんがな」
祝詞を一気に完成させると
「ユキ、いくぞ!」
「うん!」
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを打ち砕き、我を導き給え。我が成すその力を示せ』」
ユキと共に魔王に向けて放つ。
「『雷鳴』」
「らいめい!」
魔王を雷鳴が襲う。
「ガァア」
魔王は体を発光させながら大きく口を開けると雷鳴の白い雷に向かって光線を放つ。
雷鳴と光線がぶつかると波動が起こる。
「わぁあ!」
「ユキ!」
ユキが飛ばされそうになるので体を抱え、衝撃に耐える。
「クソッ、なんつうパワーだよ!」
光線は徐々に雷鳴を押し返して来ている。
このままでは押しきられる。
「させるかよ!」
途中で雷鳴の軌道を下にずらして魔王の光線を上に流す。
そのまま雷鳴の軌道をどうにか元に戻して魔王にぶち当てる。
「ガアアッ!」
そのまま魔王は感電するが……
「すっご……ほとんど無傷かよ」
「ますたーあれすごいつよい」
「知ってる……」
正直、もう少しやれると思ったんだけどな……
攻撃受けてもほとんど効かないとなると手詰まりだ。
「ま、もとより時間稼ぎだ。倒せれば儲けものとしておくか……」
魔王は俺の方へ走り出す。
「近づかれると厄介だ。ユキ、足止めを頼む」
「わかったー。『らいしん』」
魔王の進んで来る道に多くの白い雷でできた鉄条網が生まれる。
魔王も気にぜず進んで来るが上手く進めず、苦戦している。
ユキのおかげで祝詞を構成する時間もできた。
「『我、天空の精霊と契約する裁定者が願う。我を妨げるあらゆる障害を蹴散らし、我を導きたまえ。我が成すその力を示せ』『業風』」
竜巻を起こすと魔王を大きく吹き飛ばす。
さすがの魔王もユキの鉄条網に気を取られていたためか業風の風に耐えきれずに吹き飛ばされていく。
しかし、途中で体勢を整えると業風に耐える。
「ユキ、ベリル、頼む」
「うん。『らいそう』」
「任せて下さい。『氷樹』」
ユキは魔王に向けて雷を放電させ、ベリルは魔王の足元を凍らせた。
これでしばらくは動けまい。
「優斗君、開いたよ!」
「分かった。今行く」
俺たちが魔王の足止めができたと同時にリアたちも穴を開けることに成功したようだ。
後ろに下がりながらも魔王への足止めをし続ける。
これで帰れると思って少し気を抜いた瞬間、俺の横を死に物狂いで走り抜けた奴等がいた。
いや、奴等なんて言わなくてもすぐに分かった。
「お前ら!何、逃げてやがる!」
「うるさい!」
「キャッ!」
高橋はそう言うとリアたちを突き飛ばして結界の外へと逃げていった。
そう俺の横を通っていった奴等、つまりはバカ勇者三人はそのまま逃げていった。
「ご主人様!」
しまった!
ベリルの声ですぐに意識を魔王に戻したが遅かった。
高橋たちに一瞬だが、気を取られて精霊魔法が弱くなってしまった。
すぐに元に戻したが、当然魔王もそこを逃がすことはなかった。
横に飛んで風から逃れると一気にユキに詰め寄った。
「えっ?」
魔王の蹴りがユキを捉え、そのままユキは蹴り飛ばされる。
「ユキ!」
ユキが地面にぶつかる前にキャッチするが……
「ケフッ」
ユキは血を吐いてぐったりしている。
あの野郎!
攻撃の要になるユキをわざわざ先に狙いやがったな!
「ぶっ殺してやる!」
「優斗さん、ユキちゃんを早く!」
リリがすぐに駆けつけてくれる。
リリはユキに治療を施し始めてくれるが……
「リリ、結界は?」
「お姉ちゃんがなんとか一人で持たせてくれていますから早くー」
「ご主人様!後ろ!」
振り返ると俺に向けて魔王が蹴りを叩き込もうとしている瞬間だった。
ヤバイ、死ぬ。
「『水晶』」
「ガハッ!」
俺に向けて魔王の蹴りが当たる直前、ベリルが俺と魔王の間に水の壁を作ってくれたが、魔王はそのまま蹴り破ると俺の腹へと蹴りを叩き込んだ。
かなり勢いを殺してくれたが、死ぬような痛みが体を襲った。
俺はそのまま建物の壁へと飛ばされ、壁ごと建物の中に入っていった。
咳をしながらなんとか立ち上がる。
「危なかった……。助かったぞ」
俺は風と水の準精霊に礼を言うが、すぐに魔王は俺を追うように建物の中に入るとぶつかる勢いで俺に突進してきた。
「考えている余裕はないってことかよ!」
俺は転がるようにして建物の外へと出た。