理由
「というわけでユキ、ベリル、ルルお前たちも良いか?」
「ますたーはユキがまもるー!」
「も、もちろんです。私は優斗様のピクシーですし、ま、魔王だって怖くありません!」
ユキは相変わらず過ぎて逆に気が抜けた。
ルルは軽く怖がっているが、今回表に出ることはないし大丈夫だろう。
「ご主人様、1つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「前から思っていたことなんですが、確かにケインさんたちにはお世話になっています。けれど、これといって目立ったことをされていなかったはずです。なのにご主人様は今回あの方々の救出に拘り過ぎていると思いまして。今回の件は完全にあちらの落ち度であるにも関わらずどうして助けようとするのですか?あの方々を助けるだけの価値があるのですか?」
「ベリルさんそう言う言い方はー」
リアが反論しようとするのを止める。
「確かにベリルの言う通りだ。確かにケインたちには形に残ることをされたことはない」
竜人族にはランクを上げてもらう支援をしてくれたし、ゲイバーや娼館の主人には色々と優遇してもらった。
それから見ればケインたちにしてもらったことは見劣りするだろう。
「ならば、ご主人様はなぜ命の危険を犯してまで助けるのですか?」
「それはな……アイツらは俺が一番大変な時に助けてくれたからだよ」
俺はベリルをしっかりと見つめる。
これは皆にも分かって欲しいことだから。
「俺がまだランクが低くて他の冒険者からやっかみや非難を受ける(当然した奴は容赦なく叩き潰したが)ことが多い時にアイツらは率先して庇ってくれた。それだけで俺の事を分かってくれる人がいるっていうのはとても安心するんだよ。もちろん、リアたちだけでも凄く嬉しい。けど、それとは別でやっぱり色々な場面で助けてくれたり庇ってくれたりしたのは嬉しかった。だからー」
リアたちの見えない場所でケインには特に世話になった。
先にAランクに上がっていたこともあって上層の階でのギルドの決まりとか色々教えてもらうだけでなく、さっきみたいに俺のことを良く分かっていなくてリアたちの腰巾着だと罵られた後も気にするなよとか声をかけてもらった
それは形に残ることではないが、ある意味俺にとって救いだった。
だからこそベリルだけでなく、リアたちにも視線を向けてからハッキリと言った。
「受けたことはきちんと返す!いい意味でも悪い意味でもな。だから、ベリル俺に力を貸してくれ。お前の力が必要なんだ」
それにもう見捨てないと決めたんだ。
俺の事を信じてくれる相手は見捨てない!
「分かりました。大丈夫ですよご主人様。私はご主人様と共にあります。ご主人様が望むことは私の望みです」
「ありがとうベリル」
「はい!」
その後、再びケインたちと話し合い結界の穴を開けられる場所を見つけたら連絡するからできるだけ固まっていろと伝えた。
魔王が奇襲してきた場合は俺とユキ、ベリルで時間稼ぎをすると伝えた。
『勇者様たちはどうする?』
「放っておけ。アイツらを助ける気は毛頭ない。今回の作戦もお前らを救うためであってあの無能共を救うためではないからな」
『わ、分かった。相変わらずの勇者嫌いだな』
ケインたちともできるだけ突き詰めた後、俺たちが会空き部屋を出るとフェルミナとシルヴィアがいた。
「ここにいたんですか。会議室での話は大丈夫でしたか?」
「話し合い自体は大丈夫だったが、これから大丈夫でないところに行くことにはなった」
フェルミナの心配にはすまないが、本当に憂鬱な気分になる。
正直なところあの魔王には本当に関わりたくない。
「魔王を倒しに行くのかい?」
「倒さねぇよ。あんなのと戦うだけで腰が引けそうだ。ただ、知り合いの冒険者を金と引き換えに助けに行くことになっただけだ」
「まだ、お金を稼ぐのかい?もう十分だろう?」
「あって困るものじゃないしな。稼げるときに稼ぐ。それだけだ」
シルヴィアが呆れているが少し楽しそうに笑う。
「栗原さん」
俺達が空き部屋の前にいると後ろからシルヴィアの親父に声をかけられた。
「父さん、どうしたの?ユウトにまだ何かあるの?」
「まぁ、そんなところだ。皆さん、栗原さんを少しお借りします」
「会議は終わったのか?」
「ええ、大筋は」
シルヴィアの親父と二人別の部屋に行くとシルヴィアの親父は話し始めた。
「まず初めに私は転生者です」
「そうか……。お前と同じ転生者は他にもいるのか?」
「いました。多くはもう随分前に死んでしまいましたが」
「そうか」
その後、シルヴィアの親父は色々と教えてくれた。
生前は自衛官で訓練中、気づいたらここにいたと。
そして俺と同じように勇者候補として召喚されたのになれずに半ば無理矢理国から追い出された。
そして冒険者での経験を活かしてギルドの運営に携わったと語った。
「これで私の事は全てです。他に聞きたいことはありますか?」
「召喚される直前、なんか白い奴に会わなかったか?」
「白いのですか……。待ってください……。会ったかもしれません。何か形容しがたい白い何かを見た気がします」
やはりあの野郎が全ての原因なんだな。
次、会ったときは確実に息の根を止めてやる。
「それが何か?」
「いや、気にしなくて良い。何となく気になっただけだから」
「はぁ、そうですか」
その後、シルヴィアの親父とも別れ、俺たちは出発準備のため一度屋敷に戻った。
レインにも今回の事を説得しないとな。
俺はケインたちを助けるために行くが、勘違いで勇者共を救っていると勘違いされると困るしな。
レインとしては親の仇を助けに行くように見えるものだからな。
「というわけでお前に勘違いして欲しくない」
「俺がそんなことで勘違いすると思うのか?」
「思ってた」
「即答かよ!」
屋敷に着き、レインに事を伝えたところで話し合っていた。
だってお前意外と、というかバカじゃん。
「数式X2乗引くー」
「あーっ!分かったから大丈夫だから!」
「お前、少しは勉強できるようにしろ」
「良いんだよ、俺は戦士なんだから」
あまりにもレインは勉強が嫌いなんで困る。
お前には戦闘にも期待しているが、今後の販路拡大の時に役立ってもらわねばならん。
「ただ、今回俺は一緒に行けない」
「どうしてか理由を聞いていいか?」
「もし銃の勇者に会ったら俺確実にどうにかなっちまうと思う。それこそ魔王なんか放っておいて銃の勇者を殺しに行っちまうかもしれない。そうしたら逆にアニキの足手まといになるかもしれない。だから、勝手だと思うけどすまねぇ」
「ああ、それで良いさ。今回はお前の気持ちを優先する」
「ありがとうアニキ」
俺も魔王との戦闘中に別のことをされると困る。
なら今回は仕方ない。
レインの力は惜しいが我慢しよう。
「それとお前の身勝手な気持ちで毎日毎日相手させられている俺の気持ちも知ってくれ。今後は戦闘訓練なしな」
「いや、それは違うぜ。帰ってきたらまた頼むぜアニキ♪」
「ふざけんなよ!毎度毎度、面倒なんだよ!」
「良いじゃねぇか!いつもいつも魔獣魔獣魔獣!飽きたんだよ!」
「なら、ガキ共の面倒見ろよ」
「それか魔獣退治しか俺してねぇよ!」
「居候なんだからそれぐらいしろ!」
「優斗君、話の趣旨が変わってる!」
リアの言葉でようやく思い出した。
そうだった、レインとまた不毛なやり取りをするためにここに来たんじゃなかった。
「レイン、これから俺たちは向かう。また、どこぞのバカがうちにいるガキ共を拉致しに来ると思うから消しとけよ」
「俺ガキのお守りに来たんじゃないんだけど……」
「お前もガキだろ。できないなら、お前のせいでいたいけな子供たちの人生が無くなるだけだ」
「その言い方はずるいだろ!」
「頑張れよ」
屋敷の防衛も任せたことだ。
後は安心して救出作戦に専念すれば良い。
「空き部屋から会議の様子を盗聴しようと隠れていたらこんなおいしいネタを見つけられるとは!これならウチの番組の視聴率間違いなしだわ!」
「何をするんですか?」
「そんなの当然報道するに決まっているでしょう!わざわざ魔王の元へ単身乗り込んで友を救い出す。友情のために自ら危険を冒す、これはウケるわ!これなら視聴率うなぎ上り確実ね!今すぐ社長に生放送の準備をするように言いに行きなさい」
「まじですか~、俺行きたくないっす」
「良いから行きなさい!」