会議
会議室に入ると知らないオッサン達がたくさんいた。
「では、これから会議を始めます。では、まずー」
「それよりも今回のこと誰が責任を取るんだ!」
司会の団長の言葉を遮り、一人のシジイが机を叩いて怒鳴る。
「だいたい、ワシは最初から無理だと思っていたんだ!」
「貴様がそれを言うかミック!お前が真っ先に賛成していたくせに!」
「黙れ!お前とて他の理事たちに熱心に説得していただろうが!」
理事同士の責任押しつけ合いが始まる。
シルヴィアの親父とは全く違い、皆が自分の保身にこだわっている。
団長は声を張り上げ、どうにか本題に戻そうとしているがどうにもならない状態だ。
「責任の押しつけあいは見る気は全くない。話が進まないなら帰らせてもらうぞ」
「小僧が生意気なことを言うな!帰りたければ帰れ!」
俺は立ち上がると帰り支度を始める。
「ま、待って下さいクリハラさん」
「そんな男、放っておけ!女の力でランクを上げたのを自身の力だと勘違いしている愚か者にここにいる資格はない!」
団長は止めようとするが、一人の理事が俺を貶す。
「何あの人!私達は別にー」
「リア、俺は別に気にしていない。あんなのと関わるとろくなことにならない。放っておいてサッサとずらかるぞ」
リアたちが今にも掴みかかろうとするのを止める。
いつまでも現実を見ずに後ろばかりを気にしていればどうなるかなんて自明だ。
あんなの相手にしている方が時間の無駄だ。
交信できる代わりにあんなのの相手をしているくらいなら別の手段でケインたちの安否を確認した方がよっぽど良い。
俺たちがまさに帰ろうとした時、机が割れる音がした。
振り返るとシルヴィアの親父が机を拳で叩き壊していた。
さっきまで騒がしかったのが静まり返り、シルヴィアの親父が立つ。
「いつまで下らん押しつけあいをしている!」
「リリィー、貴様は少しー」
「黙るのは貴様だ!」
シルヴィアの親父からは今までに見たことないくらいの迫力があった。
「我々は既にあの時の投票で賛成したはずだ。ならば、今回の責任は我等全員の辞職でも無ければ済まされん!」
「ふ、ふざけるな!私がここに来るまでどれだけのー」
「犠牲を払ったか?ふざけているのはミック貴様だ。今、こうしている間にも多くの冒険者が実際に犠牲になっているのが分からんのか!貴様の矮小な犠牲と比べるな!」
シルヴィアの親父は理事たちをゆっくりと見渡すと大きく息を吸い、ハッキリと言った。
「もしこれ以上責任の押しつけ合いをしたいなら今ここで私が貴様たちを殺す!」
「キャッ!」
シルヴィアの親父は懐から拳銃を取り出し、1発天井に打つと理事たちに向ける。
リアたちは思わず耳を塞ぐ。
拳銃だと!?
「お前、まさか……」
「どうしたの優斗君?」
シルヴィアの親父は俺を見ると笑顔を向ける。
この世界には拳銃はない。
だからこそ、銃が宝具になっている。
つまり、この世界にない銃を持っているということは……
シルヴィアの親父は俺と同じ世界から来たと言うことか!
「さぁ、選びなさい!ここで死ぬかそれとも残された選択肢の中で最善の選択をするか!」
シルヴィアの親父の言葉で言い争っていた理事たちは静かになる。
「わ、分かった。頼むからリリィー、それを下ろしてくれ」
「分かればいい」
銃を懐にしまい、席に座る。
「栗原さん、席に戻って頂けませんか?」
「お前……」
「はい。ご想像の通りです。私は栗原さんと同じ世界から来ました。その事は後でゆっくり話します。今は現状をどうやって打破するかアドバイスをくれませんか?」
「……分かった」
俺は席につくと話し合いが始まる。
先程の不毛な言い合いではなく、現状どの国がとれだけ支援してくれるかという極めて意味のある話し合いが行われた。
「クリハラさんから見て、今回の魔王はどうですか?前に勇者カヤマ様と共に魔王と戦ったことがあるということを聞いたので」
団長の言葉を聞いて、理事たちはリアたちを見る。
まぁ、俺はリアたちの腰巾着だと思われているからリアたちが魔王と戦ったと思っているんだろう。
「正直言う。あれはマジでヤバイ。あんなのと戦うのはやめた方が良い」
「そうですか……」
「だから今はこれ以上、被害が広がらないようにするのが最善だ。有力者の奴らだと家族を救いに行くぞーとか考えるだろ。まぁ、とりあえず注意喚起して後は自己責任で行動するよう伝えておけば良いだろう」
「はい、確かにその可能性は大きいですのでそのような形で動かせてもらいます。こちらとしてもこれ以上の被害の拡大は避ける方向なので。アドバイスありがとうございます」
俺たちはそれを伝えると会議室から出てきた。
すると一人の騎士が俺たちのもとラジオっぽい何かを渡してきた。
「なにこれ?」
「結界内と交信ができるものです。団長からクリハラ殿に渡すよう頼まれていたもので」
「ああ、ありがとな」
「使い終わったら私に返して頂ければ大丈夫です」
「分かった」
そうやって良く良く見てみるとやっぱりこれラジオだわ。
「これどこで手に入れたんだ?」
「リリィー様が発明したものです。これのおかげで人族地域では遠方とも会話ができるようになりました」
「そうか……」
シルヴィアの親父やっぱり地球から来たのか……
しかも、ラジオ作るとか凄いな。
騎士に礼を言ってリアたちと別の空き部屋に入る。
起動するとそれからは雑音がだいぶ入っていたが聞き取れるくらいだった。
「おい、聞こえるか?」
『頼む、早く救援を!こっちはもうヤバイ』
「お前は誰だ?」
『俺はケイン・ウィンターズ、冒険者だ。早く来てくれ!アイツが次々と殺し回っているんだ!』
「お前、ケインなのか!俺だ、栗原だ!」
『優斗なのか!?』
良かった。
生きていたのか!
「そうだ。今、そっちはどうなっている?」
『地獄そのものと言って良い。あの野郎、わざわざ逃げ出した奴から狙い撃ちしてきやがった。しかも、殺した後に死体をバラバラして遊んでいるんだ!俺の同期もアイツに……』
「お前の仲間は全員無事か?」
『ああ、無事だ。今は奴の動きを感知しながらできるだけ離れた地下水道にいる。逃げて来られた奴はだいたいここにいるよ』
「殺し回っているって言ったが、勇者共はどうした?」
『分からん。ちょっと前まで戦っていたらしいが、今はどこにいるか分からない』
クソッ、使えない奴らだ。
『優斗、調子の良いことを言っているのは分かる。頼む、助けてくれ!』
「それは……」
ケインたちを助けるにはあの危険な魔王に近づかなくてはいけないということだ。
下手をすれば殺される。
『頼む!あの時、お前の言う通り参加するのはやめておくべきだった。今更、こんなことを言ったってどうしようもないことは俺が一番分かっている。俺の事をいくら軽蔑してくれても良い。だから、どうか仲間だけでも助けてくれ!』
ケインは俺なんかよりよっぽど凄いな。
俺なんか自分の命欲しさにあの子を見捨てたって言うのに……
自分だって危険なのに自分の仲間の事を優先できる。
当たり前のようだけど、俺がその立場になった時実際できるかどうか……もしかしたらまた自分の命惜しさに逃げるかもしれない。
俺がもし今ケインと同じ立場だったら同じことを言えただろうか……
「だが……」
俺はそう言うとリリに尋ねる。
「リリ、結界を破壊するのは本当に無理なのか?」
「残念ですが、それは無理です」
「そうか」
となると見捨てるしかないのか。
「でも、穴なら開けられます」
「穴?」
「はい」
「どういうことだ?」
「あの結界を映像で見る限り、そうとう強力な結界です。あれを破壊するにはまず結界を張ったと思われる魔王を倒さなければいけません。しかし、どんな強い結界でも必ずどこかに力の弱い部分があります。そこを突けば穴を開けることはできます」
凄いな。
リリがいて本当に良かった。
「ただ、問題があります。穴を開けるには内側と外側で波長の同じ魔法使いが同時に結界阻害の魔術式を組み合わせないと開けられません」
「波長ってなんだ?」
「個人個人が持つ魔法の波です。その波が乱れていたりすると魔法が使えないんです。たいていは親兄弟は同じ波長であることが多いです」
そう言ってリリはリアを見る。
「私とお姉ちゃんならたぶんできます」
そうか…
でも良いのか?
俺は確かにケインたちを助けたい。
けど、もしそれを俺がリアたちに言ってしまえばきっと付いてきてくれる。
そうすれば危険なあの魔王に近づくことを意味する。
けど…それでも俺は……
「リア、リリ結界に穴を開けてくれないか?お前たちは必ず俺が守る。だからどうか頼む」
俺は頭を下げる。
「優斗君、そんなことしなくていいよ。私も助けたいから」
「私もです。ケインさんたちにはお世話になっています」
リアたちには本当に頭が上がらない。
「ありがとう」
俺は再度ラジオに向かうと
「ケイン、今回だけ特別に助けてやる。感謝しろよ」
『すまない。本当にすまない』
ケインは向こうで泣いてるようだった。
男が泣くなよ。
「一人あたり10金貨だから後で50金貨寄越せよ」
『金取るのかよ!』
「当たり前だ。どうして俺がタダで動かなきゃいけない。そこから出られたらきっちり払えよ」
『感動が台無しだ!』
「お前たちが俺の忠告も聞かずに行ったのが悪い。嫌ならやめるが?」
『分かったよ。払うよ、払えばいいんだろ!』
ケインは半ばやけくそになっているがそれでいい。
リーダーのお前がそんな態度じゃ、周りはもっと不安になるだろ。
なら、その不安がなくなるような別のことを考えさせとけばいい。
まぁ、生き残っても俺に対する借金も一緒に残るがな。
良い具合に臨時収入が入りそうだ。