情報収集
ケインたちの情報を得るためギルドに行くと予想通り大騒ぎになっていた。
そりゃまぁ、この国の王子兼勇者が危険な状況な上、多くの冒険者が今回の討伐軍に参加しているんだ。
その家族からすれば自分の家族がどうなるのか聞きに来るだろうな。
ま、あんなバカ勇者共に付いていったのがそもそもの間違いだかな。
俺たちはフェルミナを呼んで事情を聞く。
「忙しいところすまないな。現状、どうなっている?」
「いえ、別に気にしないでください。そうですね、今ギルドの理事たちと国の上層部で緊急会議が開かれていますが、かなり厳しいでしょうね。各国に救援を呼び掛けるつもりのようですが、先程の映像のせいでおそらくどの国も応じないと思います」
「そりゃ、そうだろうな」
勇者でも仕留められない相手を倒そうだなんて大事な兵力をわざわざ死地に向かわせるようなものだからな。
普通、今後の世界への自国の影響力を考えたらしない。
「内部との連絡は取れないのか?」
「できるらしいのですが、上層部の方で囲ってしまっているので私達では手が出せない状況です」
となると、できれば俺もそれを使ってケインたちの安否を確認したい。
「俺もそれで参加している知り合いの冒険者の安否を知りたいんだが、無理か?」
「おそらく厳しいかと……父子が討伐軍に参加したという貴族の方々や権力者の方々も安否の確認に来ているので」
「そっか」
これだとシルヴィアに頼んでも迷惑になりそうだな。
「どうする?ケインさんたちの安否が確認できないとなると直接行くしかないのかな」
「それは止めておきたい。ケインたちが生きているなら行って助ける価値はあるかもしれないけど、分からない状態で魔王なんかに目を付けられたらたまったもんじゃない」
あれはマジでヤバイ。
あんなのと戦ったら命がいくつあっても足りない。
「俺はケインたちを助けたいだけだからな。他の奴は正直どうでもいい」
特に自分のことしか考えていない勇者共なんて真っ先に死ね。
そんなふうにどうしたものかとリアたちと悩んでいると
「あなたは!クリハラさん、ちょっと良いですか?」
俺の名前を呼んでどこかで見たのとあるような騎士が俺の元にやって来た。
誰だっけな……思い出そうと記憶を辿っていると後ろからまたどこかで見たことあるようなオッサンがやって来た。
俺を見て怯えたような表情を一瞬見せたが、すぐにそれを感じさせないように堂々とやって来た。
「別に良いけど……誰だっけ……。あ!騎士団の副団長か!」
思い出した。
クソガキの件以来会ってなかったから忘れてた。
となると後ろの男、シルヴィアの父親か。
俺も別に用事ないし、会いに行くこともないから放置していたわ。
「今はお陰さまで団長ですよ」
「娘がお世話になっています」
この二人がいるってことはこれから話し合いでもするところか。
リアたちは何となく俺が個人的に話した方が良いというので近くの席に向かった。
「で、俺に何のようだ?」
「すみません、もし時間があるようならこれから私達と共に会議に出てくれませんか?」
新団長に尋ねると意外な返事が返ってきた。
「どうして俺がお前らが参加する会議に出なくちゃならん」
「クリハラさんは先程の討伐軍の映像を見ていましたか?」
「見ていたが」
「実は先程から現地との交信がされていて、これから会議で対応について議論するのです」
「救出か見殺しかってところか」
「悪く言ってしまえばそのような形です。なので、できればクリハラさんにも参加して助言して頂きたいのです」
「どうして俺を参加させんだよ。冒険者なら他にもいるだろうが」
俺たちより上位のランクや同列のパーティーなんて腐るほどいる。
それに俺はリアたち高レベル冒険者のおかげでランクが上だと思われている。
わざわざ俺に声がかかる理由が分からん。
「実は、現在この国でクリハラさんより上位のランクの冒険者は全員討伐軍にいるので……」
なるほど。
仕方なく俺を呼ぶということか。
「分かった。助言くらいならしてやるが、その代わりその交信している相手と話をさせろ。知り合いが討伐軍にいてまだ無事か知りたい」
「分かりました。それならば問題ありません」
団長はそう言うと部下に指示を出したりと忙しそうにする。
「クリハラさん、ありがとうございます」
「別に参加して助言するだけなら問題ない」
団長の様子を見ているとシルヴィアの親父が話しかけてきた。
「いえ、妻の実家のことと言い、今回のことと言い、クリハラさんにはお世話になっているので……今まで忙しくお礼を言う機会がこんな時になってしまい申し訳ありません」
「礼なんてどうでもいい。それよりも今回のこと大丈夫なのか?」
「いえ、正直なことを言いますと大問題です。上位のパーティーが軒並み結界から出られないうえ、万一全滅となると……今後のギルド運営に多大な影響が出るでしょう」
「責任者は左遷だな」
「……そうですね。おそらく左遷になると思うので娘のことよろしくお願いします」
「お前が今回の責任者なのか!?」
「責任者の一人です。今回の討伐軍参加はブロウ王子からの要請もありましたが、最終的な決定は理事会で投票して決めたので今回の理事は全員辞職することになるでしょう」
「そうか……、不謹慎な事を言った」
「いえ、こうなることも予想して行動しておくべきでした」
シルヴィアの親父は半ば諦めたように乾いた笑いを浮かべる。
「今の地位への執着はないのか?」
「ありません。ここまでこれたのも運が良かったに過ぎません。確かにギルドの運営に関われなくなるのは寂しいものですが、後は娘が頑張ってくれることを期待します」
あっさり地位を捨てるシルヴィアの親父は格好良く見えた。
俺ならどうだろうか……俺なら一度手に入れた地位をこんなに簡単に捨てられない。
誰かの責任にして醜くしがみついていそうだ。
シルヴィアも親の権力を使って所長になったわけじゃないのは知っている。
そう言う意味ではここまで潔いのは凄い。
「さすがは親子だな。シルヴィアと良く似てる」
「そうでしょうか?」
「ああ、良く似てる」
シルヴィアなら俺の嫁に成りたいならギルド辞めろって言えば辞めそうだからな。
上昇志向はあってもそれに対する執着はないのかもしれない。
だからこそ、ここで辞めてしまうのが惜しい気がした。
もし、俺に余裕ができたら色々と相談相手になってもらおう。
どうせ家族になる可能性が高いしな。
「クリハラさんお待ちしました。準備が整ったのでこちらへどうぞ」
「分かった。仲間にも声をかけてくる」
「はい」
リアたちを連れてギルドの最上階の会議室に団長に通される。
ケインたちが生きている事を祈りながら俺たちは会議室へと入っていった。