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進軍

映像には魔王が支配したとされる町の城壁を破壊する様子が映されていた。

そもそもその町は魔王に支配されたのは随分と前で、支配されてからもしばらくは交流があったらしい。

隣国も魔王と下手に事を構えて被害が出るより友好的な関係でいた方が良いと判断していた。


魔王も噂を聞く限り、魔王とは思えない善良な人柄だった。

だが、突然魔王との連絡が取れなくなり町から人の気配も消え、交流も途絶えたという。

隣国も不信に思い町の調査をするため部隊を派遣したが音信不通。


仕方なく、住民を救い出すため今回ビザンティン帝国に支援を求めたということだ。

まぁ、勇者共の思惑とも一致したためとも言えるか。


「……」

「優斗君、どうかした?」

「いや、なんでもない」

「そう?随分と難しい顔をしていたから」

「そうなのか?まぁ、気にしなくて良いさ」

「……そう」


リアに指摘されたので内心焦ったが、納得させておいた。

この時俺はあの白い奴から言われた事を考えていた。

今回の魔王には介入を許した。

それがいったいどんな事なのかはよく分からない。

ただ、確実なのは通常よりも強くなっていることだ。

魔物よりも魔獣が強いのは確定しているし。


ただ、こんなことをリアたちに話すことでリアたちを余計な問題に巻き込みたくない。

知らない方が幸せなこともこの世にはあるからな。

それに何よりどうして俺がこの世界を救わなくちゃいけない。

それをするのは勇者共の役目だ。


「では、いよいよ突入です!」


アナウンサーの声と共にカメラが動き、勇者共を映した。


「私たちに付いてこい!」

「「「「おおー!」」」」


クソ王子の声と共に冒険者たちや騎士たちが大声を上げて城内に突入していく。

戦場カメラマンも中に入ったらしく、一瞬城壁をくぐった時に暗くなったが、すぐに明るくなった。


「!?」


俺は思わず声を失ってしまった。

リアたちも口を押さえたり、顔を背けたりしてしまった。




城内には死体があちこちに打ち捨てられていた。




すでに城内と連絡が取れなくなってから2週間ほど経過しているため、殆どの死体は腐っていたりミイラのようになっていた。


「これは酷いです。死体の中には子供も含まれています」


アナウンサーが解説しながら勇者共と進んでいく。


「こんな酷いことしなくたって……」

「全くだ」


リアの言葉に同意しながら俺は映像に釘付けになっていた。

こんなの今、食事中の家族がいれば確実に吐いているぞ。

広場に入ると広場にはさらに多くの死体が山になっていた。


「城内に入ってから腐った匂いがしていましたが、ここはその中でもさらにとてつもなく匂います。」


映像にはこの世の地獄と言ってもよさそうなほど生々しい情景が写し出されていた。

ただ、この映像を見ながら俺は疑問に思っていた。

こんな町の中で魔王は生活なんてできるのだろうか?

見ただけで鼻につくような匂いの中で生活なんて普通の人間なら不可能だ。

最低でも火で燃やしておくのが普通だ。

普通ならな。


「これはまずいぞ」

「確かにまずいよね」

「違う。俺が言っているのはそういう意味じゃない」

「なら何がまずいんですか?」


リリに尋ねられながら俺は背中に嫌な汗をかいているのを実感する。


「こんな場所に住んでいる魔王が普通の感覚でいるわけない。ケインたちが危ない」


俺は焦ると同時にクソ王子の指示のもと一旦城外に出ようとするが……。


「た、大変です。結界が張られており、外から入ってくることはできるのですが、中からは出ることができません」

「なんだって!」


騎士から報告に高橋が驚きながらさらに詳しい情報を聞こうと詰め寄る。


「城内から逃がさないために結界を張ったということは敵は相等自分の強さに自信があるんでしょうね。しかし、問題ありません!魔王を倒しさえすれば結界は解け、ここから出ることはできるでしょう!」

「その通りです!私達がいれば、問題ありませんから皆さん、どうか慌てずに!」


討伐軍に動揺が走るが、クソ王子と姫川が安心させるために声を張り上げる。


「リリ、実際そうなのか?」

「はい。結界を作った者が倒されれば、基本的に結界は消えます。けど……」

「けどなんだ?」

「普通は結界を張って身を守るのは最後の手段なんです。結界を張ってしまえば中からも簡単に移動もできませんし、何より通常は結界内の人間を守るために使います。それが今回はその……」

「結界内の人間は全員死んでいるから結界を張る理由が分からないということか」

「はい」


明らかに使い方を間違えている。

やはり今回の魔王は何か違う。

何度も頭の中で警告音が鳴っているのが分かる。

その時、轟音と共に大きな土煙が上がった。

カメラもその向きに回ると広場の噴水を押し潰してそこに何かがいた。


「逃げろ!」


思わず声を張り上げていた。

突如カメラの前にいた2人の冒険者の背中から腕が生えていた。

否、正確には冒険者の体をそれの腕が貫通していた。


「「「「「「キャアアアアアアアアアアアア」」」」」」


女性冒険者たちの声が映像から甲高く聞こえる。

二人の冒険者の体から無造作に腕が引き抜かれると血しぶきを上げて倒れる。

二人の冒険者の前に立っていたのは若い男だった。

年齢は俺と同じくらいだろうが、明らかに異常だった。

目の焦点が合っていない。


「皆、離れろ!固有スキル『スピリット・ランサー』」


高橋は槍をその男に投擲すると男は大きく後ろに下がる。

高橋の投げた槍はその男が立っていた場所を大きく抉る。


「あなたが魔王ですか?」


冒険者と騎士たちの前に勇者共は立つとクソ王子がその男に問う。


「ア、ア、アア、マ、マオウ?」

「そうです。あなたが魔王ですか?」


男は呂律が回らないように何度もマオウと口にする。


「マ、マアアアアアアアアアアアア!」


突如奇声を上げると男は何度も頭を大きく揺らしたり体をくねらせたりしながら焦点の定まらない様子で勇者共を見ている。


「何、アイツ。頭イッてんじゃないのか?」


高橋の呟きは正に今映像を見ている皆が思っていることそのものだった。


「オ、オレ、マオウ。ボウショク。ク、クロック、マークウウウウウウウウウウウウウウ!」


男は魔王と名乗ると高橋たちに再び向かっていった。


「固有スキル『ライトニング・ショット』」


姫川の銃から放たれた雷が魔王を襲うが……


「なっ!?」


魔王は避けもせず真っ直ぐ受け止めながら突っ込んでくる。

拳を姫川に叩き込む前に大きく後ろへ勇者たちは下がるが、拳はそのまま地面に叩き込まれる。

高橋がさっき抉った地面よりもさらに大きく抉れている。

魔王は姫川のスキルを受けているというのに傷1つない。


「おいおい!あんなの1発でも食らったら死ぬだろ!」


いや、お前のスキルだってまともに食らったら死ぬだろ。


「私も本気を出します!『ピャーチ・フレイム』『ピャーチ・タイフーン』固有スキル『合成魔法・インカンデスント』」


クソ王子は大きく杖を振ると灼熱の炎が生み出され、魔王を包み込むが……


「キャハアアアアアアアア」


魔王は奇声を上げるとその魔法を打ち消す。


「そんな!?」


映像からはクソ王子の焦る声が聞こえる。


「優斗君が笑ってる」


リアが俺を見つめてドン引きしているが気にしない。

だってクソ王子のあんな顔見られるんだぞ。

笑わない方がおかしい。

その後も高橋は近接戦をしながら姫川とクソ王子が遠距離からバックアップをするが正直お話にならない。

魔王の動きや攻撃が変則すぎて高橋が踊らされているようにしか見えない。


「クソッ、アイツ意外にスピードがあって上手く合わせられない」

「高橋さん、姫川さん。祝詞を使いましょう!」

「もうですか?」

「はい。このまま戦っていても決着がつきません。ここで一気に攻め立てましょう」

「了解ッス」

「分かりました」

「皆さんは祝詞を唱えるまで魔王の足止めをお願いします」


クソ王子の指示で騎士たちや冒険者たちが前に出る。

クソ王子はあんなこと言っているが、祝詞で倒せるのか?

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