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悪魔の提案

数日後、映像水晶には進軍の進捗状況などがひっきりなしに放送されていた。


「ケインさんたちはどこら辺にいるのかな?」

「アイツらの話だと後方左翼側にいるらしい。余り出番がないってぼやいていたからな」

「でも安全な場所だよね?」

「まぁな。せいぜい、魔物の討伐を任されるくらいだろ」

「なら良かった。やっぱり、安全なのが一番だし」

「その通りだな」


安全第一、次に金だ!

五体満足でなければ、ここでは生きていけないからな。

しかも、今回の戦いはバカ勇者共の自己満足で行われているから、ここで功績を立てようだなんてすれば、かえってアイツらから恨まれるだろう。


ここ最近、ギルドは魔王討伐の関連業務で忙しく、シルヴィアやフェルミナは向こうでの仕事にかかりっきりだ。

俺の方は俺の方でギルドが忙しいため、末端の冒険者相手に時間が取れないらしくクエストが受けられなくなっている。

まぁ、最近ゆっくりと体を休めていなかったからこういう機会に休んでおくのも良いかもしれない。


俺はガキの一人が淹れてくれたお茶を飲みながら、映像を見る。

もちろん、お茶請けには自分で作った菓子(なぜに?)を用意してまったりとする。


「今日はガキ共や他の奴隷たちにも休みを取らせているから楽で良いなぁ~」

「本当だね」

「けど、どうして毎回ガキ共は俺の茶を淹れることで揉めるんだよ」


今日淹れてくれた子もガキ同士で大騒ぎした挙げ句にやって来た子だった。


「優斗君はここにいる子たちから凄い尊敬されているんだよ!」

「そうなのか?むしろアイツら最近タメ口で話しかけてくるんだけど」


「なぁ、兄ちゃん!今日のおやつ何?」とか「お兄ちゃんは今晩どのような話をしてくれるの?」とか昼夜問わず小学校かよと思えるほどのうるさい。

年齢的には小学生くらいだから仕方ないとは思うが。

挙げ句に菓子を作らない日はユキと一緒になっていつまでも文句を言うか「作ってー」と騒ぎ続ける。


「だいたい、なんでガキ共の分まで俺は菓子を作っているんだ!」

「それはまぁ、あんなに美味しいお菓子を食べたらねぇ……」

「そのことに関してはお姉ちゃんの言う通りだね……」

「ますたーのおかしおいしいもん!」

「は、はい。凄くおいしいです」


リリたちは何度も頷きながらチョコチップクッキーを食べる。


「ご主人様が大変なら私から注意しておきますが」

「いや、良い……。リアたちが食べているのに自分だけ食べられないというのも悪いからな。できるだけ頑張るさ」


ベリルが気をきかせてくれるが、とりあえず断っておく。

ベリルに実際に注意させたら流血沙汰になるような気がするのはなぜだろう?


「ともかく優斗君は奴隷の子とか気にしないでお菓子作ってあげたり、話しかけたりするでしょ?そういうのが結構奴隷の子たちには嬉しいんだって」

「ん?なんで?」


たかが菓子や話す程度で尊敬されるのが分からん。

その答えをベリルが代わりに教えてくれた。


「奴隷に落ちた身分だと人によっては不浄の存在として扱われる事があるのですよ。そうすると話をすることさえ憚られるんです」

「俺の世界でもある特定の国でそういう考えをする奴がいたが、この世界にもあるとはな……。全く不浄なのはどっちだよ」


そういう考えを持って接する奴の方が汚い考えでヘドが出る。


「しかし、ご主人様の場合話すだけでなくよく一緒に遊んだり、髪をすいてあげたりもしているので、そういうことをしてくれると奴隷としては本当に嬉しいのですよ」

「なんか照れ臭いな」


別にそういうことを知らなかっただけで適当にやっていただけだからどういうふうに反応すれば良いかよく分からない。


「まぁ、そういうわけでせめて優斗君に日頃のお返しをしたくてお茶を淹れたい子がたくさんいるからいつもその事で誰が淹れるか揉めているんだよ」

「そうか。なら今後はありがたく飲むことにしよう」


俺はお茶を飲み干すとおかわりをもらう。

恩返しはできれば将来に渡って金をくれることが一番嬉しいが、さすがにそれは言わないでおこう。

せっかく善意でやってくれているならそれに水を差すようなことはよそう。


そのまま映像を見ていると魔王領域に入る手前で一時休憩するらしく、各々地面に腰を下ろしている。

解説によるとここで一度野宿をして、明日早朝に攻撃を仕掛けるということだった。

流石に今回は食材や武器といった荷物が多く、転移石では戻らないようだった。








「さあ、皆さん明日は憎き魔王を討ち滅ぼす記念日です。ぜひとも、明日への活力を付けて頂きたい!」


ブロウさんはそう高らかに宣言をすると祝杯を上げる。


「愛歌ちゃん、イエーイ!」

「乾杯です」


私の元には数々の名のある冒険者や騎士たちがやって来て挨拶をする。

そんな中、高橋さんとも祝杯を上げる。


「流石に今回は余裕っしょ」

「高橋さん、油断大敵ですよ。あんまり飲みすぎないで下さいね」

「分かってるって!」


私達は互いに仲間を紹介する。

高橋さんの仲間の方はとても綺麗な方や可愛らしい方が多く、いわゆるハーレムというものを作っていました。

私の仲間もラルドを筆頭にイケメンばかりなので高橋さんの事を悪く言えませんが。


「おや、高橋さんに姫川さん。こんなところで小さくならず、堂々としてくれて構いませんよ」


私達が互いが仲間を紹介しつつ、飲んでいるとブロウさんがやって来て私達に声をかける。


「こんばんは、ブロウさん」

「うっす!」

「こんばんは」


ブロウさんはにこやかに笑うと私達の会話に混ざる。

私と高橋さんは仲間をブロウさんに紹介しつつ、談笑をする。


「しっかし、本当にアイツはムカつくな!」


高橋さんは急にそんなふうに言うと怒り出す。


「いったいどうしたんです?」

「アイツだよ、アイツ!えっと、そう。栗原だよ、栗原!」


その名前を聞いて私も苛立ちを覚える。

ラルドに関しては目だけで人が殺せそうなほど憎しみが瞳に宿っている。


「あのやろう、せっかく誘ってやったのに俺には得がないから~とか言いやがって!現金なヤツ目!」

「あんな人居なくてむしろ良かったです。あの人がいると逆に勝てる戦いも負けてしまいます!」

「しかも、アイツ加山と一緒に魔王を倒したことがあるのにその時の経験すら言わなかったんだぜ。マジで卑怯だよな」


まさかそこまで卑怯者だとは。

呆れて物も言えません。


「マナカ、あの男は決して許してはいけない。必ず、どんな手を使っても殺してやる」


ラルドの瞳には復讐の炎が燃えていました。

私はあの時ラルドが大ケガをしたと聞いてすぐに戻ってくるとラルドが泣いていました。

なんでも、その、局部を潰されてしまったあげく、元の通りに治せないほど適当な治し方をされたという。

あんなに男前なラルドが泣くほどのケガを龍神に肩入れした冒険者にされたと聞いてあの時はすぐにでも見つけて殺してやろうと思いました。


けど、結局あらぬ噂を世界に広められたせいでこれ以上憎い龍神と冒険者に手を出せなくなってしまいました。

噂がたとえ嘘であっても、その噂が世界に広められてしまい、信じてしまう人がいればそれは真実になってしまう。

結局、私は活動がポルヴォー王国に制限されてしまい、ラルドを酷い目に合わせた冒険者を見つけられないと思っていましたが……


「当然よ……必ず殺してやる」

「うん?愛歌ちゃん、何か言った?」

「いえ、私達でもきっと魔王に勝てると言ったんですよ」


高橋さんが私とラルドの小さな声の一部分を聞いたようで尋ねてくるが、適当な理由を付けて返事をしておく。

今はまだ栗原さんを殺してはいけない。

まずは栗原さんのせいで落ちてしまった世界に対するポルヴォー王国の評価を上げなくては。

そのためにも今回、ポルヴォー王国は多大な支援をしてくれている。

なんとしても勝たなければ。


『姫川さん』

「えっ」


突然ブロウさんの声が頭の中に聞こえた。


『今、私の声を直接姫川さんに届けているのですよ。頭のなかで念じれば話せますよ』

『えっと、どうしたんです?』

『姫川さん、栗原さんに復讐したいのでしょう』

『どうしてそれを!』

『ポルヴォー王国の状況はよく知っていますから。僕も栗原さんには大きな借りがあるんですよ。もし、良ければ栗原さんへの復讐をお手伝いしますよ』

『本当ですか!?』


これは願ってもないチャンスだ。

栗原さんは現在、ブロウさんの国ビザスティン帝国内にいるから今の私では手出しができない。

けど、ブロウさんが手伝ってくれれば上手くいくかもしれない。


『ええ』

『ありがとうございます!』

『けど、今は魔王討伐に集中して下さいね』

『分かっています』

「ねぇ、愛歌ちゃん。さっきからブロウさんと見つめあっているけどどうしたの?まさか……!?」

「ち、違うわ!」


高橋さんは勘違いしてしまう。

私が好きなのはラルドよ!

ブロウさんはニコニコと笑いながら私達を見つめていた。

『栗原さん。あなたのせいで獣人族の奴隷が手に入らなくてストレスが溜まる一方なのですよ。それに加えて加山さんを獣人族の国の王にするとは……ここらでいい加減死んでもらいましょう』


ブロウは夜空を見上げながら不敵に笑う。


『足掻いて苦しみながら死んでください。あなたの滑稽な姿は大変愉快ですので』

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