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囁き

リアたちと帰宅していると

「ねぇ、精霊のお兄ちゃん」


と通りすがりの子供に言われた。

即座に振り返っても前には誰もいなかった。


「優斗君どうしたの?」

「さっき俺のことを精霊の使い手であると言っていたガキとすれ違ったんだが……リアたちも聞いたろ?」

「え?そんな子いた?」


リアはリリたちに尋ねるが


「いないと思いますが」

「だーれー?」

「私は感知できませんが」

「い、いたのですか?」


リリたちも分からないようだ。

俺の勘違いかもしれない。


「すまない。空耳かー」

「お兄ちゃん、ここだよ」


再び声が聞こえ、その声のする方を、つまり空を見上げると太陽の光で見えづらいが確かにそこにかいた。

目を凝らしてみると白い、そう白い何かがいた。

それを感覚的分かったときすでに祝詞を頭で構築していた。


「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」

「うわっ!いきなりするんだよ」

「なんだと!?」


雷光がそれを攻撃する瞬間、跡形もなく消え去ってしまった。


「優斗君、どうしたの」

「リアあそこにいる奴の声が聞こえないのか」

「えっ?何か見えるの?」


リアたちは何度も俺の指差す場所と俺を交互に見る。

直後、リアたちの動きが完全に止まる。


「いきなり攻撃するのは酷いと思うんだけど。まぁ、とりあえずそれは流すよ。あ、安心してくれよ。彼女たちに動かれると厄介だから時間を止めただから別に死んでいないよ」

「リアたちに手を出したら生きたままなぶり殺しにしてやるこからな」

「わぁー、怖いなー。それよりもしばらく二人きりで話さないかい?」

「何が話すだ。お前、あの時俺を海に引きずり込んだ奴だな」


そうだ。

コイツはあの時の声の奴だ。

未だに姿だけはハッキリと見えない。


「あの時はごめんよ」

「何がごめんだ!よく分からないまま殺しておきながら……というか俺は本当にあの時死んだのか?」


よくよく考えてもあの時死んだのかよく分からん。

とりあえず死んだと仮定して今まで生きていたが、もしただ異世界に転移したのなら元の世界に戻れるかもー

そこまで考えてリアたちのことを思い出す。

確かに元の世界に戻れるならそれはそれで良いかもしれない。

向こうでもやり残したことはたくさんあるし、母さんにだって親孝行していない。

けど、リアたちを置いて元の世界に戻れない。


「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりもまさか数合わせのつもりで連れてきたハズレ要員が彼女たちの盟約者になるとはね。ハハッ、運命とは分からないものだ」

「てめぇ、ケンカを売りにきたようだな」


人の勝手に連れてきておきながらどうでもいいとほざき、挙げ句ハズレだと。

殺されたいようだな。


「僕にこの世界の攻撃は効かないよ」


祝詞を構築しようとしたところで言われる。


「お前、そもそも何者だ」

「そうだね、分かりやすく『神』ってことでどう?」

「その自称神とやらが、何をしに来た?」

「自称って酷いなぁ~」

「正体不明の物体相手の言葉なんか信じると思っているのか」

「はぁ、まぁいいか。ともかく話を聞いてくれるかい?」

「早く答えろ」


少なくともコイツは俺の精霊魔法は効かないことだけはなんとなく分かった。

理屈ではなく感覚的なものだ。

それと同時にコイツと戦っても勝てないことが分かる。

だから今ここで早めにコイツの目的を聞いて事態を打開することの方が重要かもしれない。


「ボクはこの世界を維持したい。けどこの世界を壊したいと思っている奴がいて、いつも介入されてしまうんだ」

「それが俺になんの関係がある?」

「大いにあるよ。その介入が『魔獣』だからね」

「それでなんだ?介入してくる魔獣は別に倒せているだろうが」


別に問題はないだろう。

この世界が介入されていようとも倒せていれば問題ない。


「今までのはね。けど、今回の介入は違う。よりにもよって魔王に対して大きな介入を許してしまった。だから君に頼みがある」


なんかこの後の言葉に予想がつく。


「この世界を救ってほしい」

「断る!」

「どうしてだい?」

「そもそもなぜ俺がやらなきゃいけない。俺に言うくらいならあのバカ勇者共に言え!」


すると目の前の奴は困ったような態度を取った気がした。


「それは正論過ぎて言い返せないなぁ~。ボクも最初は彼らに接触しようとしたんだけど上手くいかなくてね。彼ら、宝具との対話が未だにできていないんだよ」

「対話?」

「そう。彼ら勇者たちは宝具との対話を通して真の力を宝具から引き出すことができる。君も今まで会った勇者で他の勇者よりも強すぎる勇者と会わなかったかい?」


そう言われて渚を思い出す。

確かに渚の強さは尋常ではなかった。

月1の菓子作りに行ったとき一度手合わせしてもらったが、雷激を渚の魔物たちに食らわせてもピンピンしていた。

それと加山だ。

最初に戦った時は弱かったのに脱引きこもりをさせた時から急激に強くなった。


「どうやら心当たりがあるようだね」

「だとしたら俺の所に来る必要はもう無いだろ。加山や渚の所に行けば良いだろ?」

「もちろん後で彼らの元には行くさ。けどね……」


奴は急に押し黙ると俯いたように見えた。


「おい!急に黙るな」

「ゴメンゴメン。ボクは君だから頼みたいんだ」

「はぁ?答えになってないだろ」


なんで俺が世界を救うなんてことしないといけないんだよ。

そんなのはあの勇者共がするべきことだ。


「君に大きな負担を強いることは分かっている。でも、それでも君に頼みたいんだ。精霊の心を開き、その力を救いを求める者たちに手を差し伸べることができた君だから」

「俺はそんな大層な人間じゃない」


初めてここに来たとき真っ先に目の前の命を見捨てたような人間だ。

力だって無いに等しい。

リアやリリが仲間になってくれて、ユキやベリル、準精霊たちが力を貸してくれるからなんとかなっているようなものだ。

俺一人ならとっくに死んでいる。

それでも奴は言葉を続けた。


「そして何よりボクと同じだから」

「は?」


同じ?

俺はあんなモザイクがかかるような卑猥なものじゃねぇよ。


「ボクも誰かに頼らなくちゃ戦えなかった。だから、頼むどうかルビーを救ってほしい」

「ルビー?」

「彼女を闇から救ってほしい。君ならきっとできる。そしてどうか彼女と精霊たち、そして勇者たちと共にこの世界を救ってほしい」

「おい!俺はやるなんてー」


奴はそれだけ言うと急に消え始める。


「すまない。もう時間だ。これ以上いると見つかる。本当はこれはボクがしなくちゃいけない問題なのに君に託してすまなく思っている」

「お前、どこに行くつもりだ!」

「大丈夫。ボクが消えれば元の時間通りに動き出す。それとアドバイスだ。この世界を救うには精霊と勇者、いや、違うな。精霊と使徒・・たちの力が必ず必要だ」

「おい、待てよ!」


奴はそれだけ言うと消え去ってしまった。

奴が消えたと同時に世界も動き出した。


「優斗君、どうしたの?何か見えるの?」

「…………」


言いたいことだけ言って勝手に消えやがって。

何が世界を救うだ。

俺がそんなことしたってなんの得があるんだよ。

それに奴の最後の言葉、精霊と使徒・・

勇者の力じゃないのか?


「優斗君!」


リアが両手で俺の顔を掴む。


「な、なんだリア。どうした?」

「どうしたのは優斗君だよ。どうしたの具合悪いの?」

「いや……なんでもない」


そうだ。

世界を救うなんて俺には関係ない。

俺が救いたいのはリアたちと墓の少女だけだ。


「…………本当になんでもないの?」

「大丈夫だ。さっきのは俺の勘違いだ。それよりも早く帰ろう」


リアたちは俺を心配するように見つめてくるが、俺はハッキリと答えた。


「……そう、分かった。でも、優斗君。もし何かあるなら相談してね」

「私にも相談して下さい」

「ますたーわたしにもー」

「わ、私にもお願いします」

「分かってる」


リアたちは少し不服そうだが納得して引き下がってくれた。


「ご主人様」

「なんだ?」

「ご主人様はもう十分頑張っています。これ以上傷つくようなことはしないで下さい」

「別にそんなことはー」

「しないで下さい」


ベリルが俺の腕を掴んで懇願する。

随分と強く握られたので思わず、小さく声をあげた。


「す、すみません」


ベリルは手を急いで手を離すと謝ってくる。


「大丈夫だ。安心しろ、俺は自分の守りたいものだけ守れれば十分だから」

「そう、ですか」


そうだ。

多くを助けられるとは思っていない。

俺はそこまで有能でも力があるわけでもないんだから。

俺の言葉を聞くとベリルはホッとする。

そして俺たちは屋敷に戻り、フェルミナとシルヴィアが戻って来るまで夕食を作った。

俺も今夜の夕食には気合いを入れて大量のケーキやゼリーを作り、リアたちも含めガキ共や奴隷たちにもくれてやった。

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