戦いの目的
「久しぶりだな」
「この前はよくもやってくれたな」
高橋とその仲間をとりあえず応接室に通す。
「で、何?」
「お前の魔法のせいで死ぬかと思ったんだぞ!」
「お前が体で受けたりするからだろ……まぁ良い。俺はこの通り忙しい。何か話があるなら手短に頼む」
俺は娼館の主人からもらった奴隷たちの詳細を読みながら対応する。
「あなた、祐希に敬意を払いなさいよ」
「「「そうよ」」」
高橋の後ろからは仲間の女たちが言ってくる。
「お前らバカか?ここは俺の家だ。なんで家に勝手にやって来たお前らに敬意なんてものを払わなくちゃならん」
「皆、良いよ。それよりも栗原、お前なにサボってんだよ」
「サボる?何を?」
「魔王討伐だよ」
何を言ってくるのかと思ったら魔王討伐?
「俺はもう魔王討伐に参加しない。したけりゃ、勝手にしてろ」
「ふざけんなよ!お前、ドタキャンはせこー」
「いい加減、嘘は止めたらどうだ?」
俺がそう言うと高橋は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「う、嘘なんか言ってねぇよ」
「俺の固有スキルに『真実』というのがあってな。状態アップ系のスキルなんだが、相手の『嘘』を見分けることができるスキルでもある」
「な、なんだよそのスキル!」
「安心しろ。このスキル下らない嘘しか判別できないゴミスキルだからほとんど使い道がない」
つまりはだ。
「お前の今の言葉は下らない嘘とスキルが判別した。いい加減、俺に会いに来た本当の理由を話せ」
「そ、それは……」
「話せないなら帰れ。魔法のことは謝る。すまなかったな」
俺は立ち上がると応接室を出ようとすると
「ま、待ってくれ。話す」
「なんだ?」
再び席について高橋の方を向く。
「お前は魔王と戦ったことがあるんだよな」
「どこで聞いてきた?俺が魔王と戦ったのは一部の奴しか知らないはずだが」
加山と倒した魔王については加山は嘘の情報で倒していたと発表していたので、わざわざそれを訂正するのも面倒くさいので加山一人で倒したことにしていた。
それに一般人の介入で国が革命を起こしたなどあって良いような話題じゃない。
「子連れ冒険者が頻繁に出入りしていたって俺のいる国の暗部が教えてくれた」
「ちょっと待て!子連れ冒険者=俺という方程式がなぜ成り立つ!」
シルヴィアやフェルミナを見ると顔を反らして口笛を吹く。
「だってお前ロリコンなんだろ?」
「ぶっ殺されてぇのか!」
誰がロリコンだ。
「あ!ますたーここにいた!」
間の悪いことにユキがやってきて俺の膝に飛び乗って抱きつく。
「ほら、ロリコンだろ?」
「帰れ!」
「安心しろって。ここは異世界だからロリコンでも捕まらないから」
「死ね!」
何したり顔してんだ下半身勇者が!
下半身勇者の仲間も軽蔑の目線向けてきやがって。
「下半身で生きているお前に言われたくねぇんだよ。じゃあな」
「ま、待ってくれ。お前がいれば魔王との戦いで経験を活かせるだろ?」
「だったら加山に声でもかけろ。アイツが実際魔王を倒したんだぞ」
「それは駄目だ」
「なんでだよ」
「駄目なものは駄目だ」
なんでコイツは加山を呼ぶことを頑なに拒むんだ。
だいたい加山がいれば確実魔王を倒せるだろ。
「加山を呼ばない理由を話せないなら帰れ。じゃあな」
「分かったよ!話す代わりに黙ってろよ」
「初めから言えば良いんだ言えば」
「修一がいたら俺らが倒しても功績が取られるだろ」
「………………」
思わず俺は言葉を失ってしまった。
まさかこの勇者共、自分の功績作りのために魔王討伐するのか……。
確かに今、世界では他の勇者の中でも加山の名は特別広まっている。
それはもう英雄の如くな。
時々、調子に乗るから叩き潰しに行くがそれは割愛する。
そう言うわけで加山以外の他の勇者はあまり目立った行動をしていないため影が薄い上、他の勇者よりもぜひ加山を迎えたいと行動している国が多いとこの前エミリアから聞いた。
加山は今のところ獣人族のことで手いっぱいの状態だからそんなことはないということだが。
故に今回のこいつらの行動の目的が分かった。
隣国の奪還が主目的のように見せかけておいて本当の目的は魔王討伐による自身の地位向上が目的ということだ。
自分の地位と名誉を高めるためにここまでやるとはな。
加山がいたらどんなに三人で魔王を倒しても加山がいたから倒せたという功績になる。
だから今回の魔王討伐には参加してほしくない。
けど魔王討伐の経験がある人がいればぜひ今回の討伐に加えたい。
結果として俺をなんとしても入れたいということか。
あまりにもゲスな考えすぎて言葉を失ってしまった。
「お前が参加してくれれば礼金も出す。それに愛歌ちゃんのこともなんとかしてやるからさ。頼むよ」
「お前、自分が何言っているか分かっているのか?俺に利用されろって言っているだぞ」
「別に良いだろ。どうせ金無いんだろ?」
「ふざけるな!お前、俺がプライドが無いと思っているのか!」
俺にだって少しくらいプライドはある。
こんなふうな形で利用されて何も思わないわけないだろ!
「何、怒ってんだよ。修一の時は手伝ってやったんだろ。だったら俺たちのことを手伝ってくれたって良いだろ?」
「お前らと加山じゃ状況が全く違うだろうが!アイツは俺の望むことを成せる可能性があったから手伝っただけだ。お前らに俺が望むことは何もない!」
加山の時は俺にも成したいことがあったから協力した。
加山の権力が無ければ獣人族の奴隷制をここまで早く潰せなかった。
「なんだよそれ!自分が得しないと手伝わないとか現金な奴め」
「お前にそれを言われたくないんだよ!」
その後しばらく高橋と言い合いをすると
「チッ、そうかよ。マジあり得ねぇ」
「あり得ないのはお前らだ。人を便利な道具みたいに扱うな!」
「そうやって一人だけ贔屓にするなんてセコい奴」
高橋は舌打ちを打つと忌ま忌ましそうに俺を見る。
「なんでもかんでも自分の思い通りになると思うな。お前は一番年上だろ。だったら大人になれ!」
「ああ、はいはい。じゃあな」
高橋は俺との話を打ち切ると帰っていった。
「なんか子供みたいな人だったね」
「全くだ!ガキがそのままでかくなったような奴だ!」
全く勇者って奴らは俺を不機嫌させるために存在してんのか!