奴隷
「なんで人件費なんてかかんだよ」
販路を無事見つけたがそのぶん輸送費がかかるようになった。
さらにここ最近の魔王軍との戦いで人件費が高騰していてこれでは赤字になる。
ガキ共に運搬させるわけにもいかず、結局どうしようかと頭を悩ませていると
「お困りのご様子ですね」
娼館の主人が俺に声をかけてきた。
「なんだよ、取り分は決めただろうが。さっさと帰れよ」
「いえいえ、実は折り入って耳に入れたいことが」
鉱石の売上金の取り分を決めるために呼んでいたのだが、何やら良い話のようだな。
「なんだ?」
「実は私、かつては奴隷商と懇意にしていたのですがー」
主人の話をまとめると、獣人族の地域からの奴隷として売られてくる数が大きく減ったために経営難に陥った奴隷商たちが多くおり潰れたり店をたたむことがあったということだった。
それはそうだろう。
これ以上奴隷が生まれないように加山に命じて国境管理や奴隷制を禁止させたしな。
それでも長い間続いた奴隷制だ。
そう簡単になくなるわけじゃないため、加山の目をすり抜けて売ろうと考える奴隷狩り共は容赦なくこの世から退場してもらい、俺が面倒を見たり加山に返したりすることで大方撲滅している。
「それで?それが俺に何の関係があるんだよ」
「いえ奴隷商たちが手放した奴隷たちが私が現在管理しているのですが、あまりにも多くもて余しているのです。そういうわけで是非とも栗原さんに買っていただきたいのです」
「お前、そういう腹のつもりで取り分減らしていたのか」
この主人なかなかやるじゃないか。
鉱石の売上金の取り分が随分と少ないのは全部このためか。
俺が奴隷たちに対して保護的であることをコイツは知っているだろうし、それを踏まえた上で俺から金を巻き上げつつ、手元にあって余分な奴隷たちの処分をする。
それでいて運搬に必要な人材を俺に渡して恩を売る。
「さて何のことでしょうか」
「まぁ、良いだろう。奴隷たちの買値は俺がつける。そうでなければ買わない」
この主人だって手元に奴隷たちが居すぎればいずれは経営難になる。
ならば半ば面倒事を引き受ける俺の方がこの場では有利だ。
「栗原さんもなかなかやりますね」
「何のことだ」
「フフッ、それで良いでしょう」
俺たちは互いに不気味に笑い合う。
数日後、子供を含め多くの大人の男女が主人から受けとると一列に並ばせた。
「優斗君、この人たちは?」
リアたちがやってきて尋ねる。
「娼館の主人に買わされた奴隷たちだ。あの野郎、ガキ共も含めて買わせやがって」
奴隷たちを見るとだいたいの奴らが表情が暗い。
実際、明るい奴がいれば逆に怖いがな。
「あの……」
「なんだ?」
一人の子供連れの女性が俺に声をかけてくる。
「お願いします。どうかこの子と離さないで下さい」
「安心しろ、離すつもりはない。ただ、もしお前が俺の期待ほど仕事をしないなら別だがな」
「えっ?」
呆気に取られている女性を放っておき俺は声を張り上げた。
「いいか、これから俺がお前たちの主人ということになっている。当然、お前たちには俺の言う通りの仕事をしてもらう。ただ、もし俺の言う通りの仕事をしさえすれば、奴隷紋を解除して来年ここから出ていってくれて構わない」
俺の言葉に奴隷たちが衝撃を受ける。
「当然ただでお前たちを働かせるつもりはない。きちんと仕事をしている奴らには衣食住以外に給金も渡す。ただ、遊んでいる奴らは容赦なく娼館の主人に突き返す。それだけをきちんと理解しろ」
俺はそう言うと男の大人の奴隷たちに運搬を、女の奴隷たちには鉱山や屋敷の庭での農作業を指示を出す。
「ガキ共にはここで最低限の教養を身に付けさせてやる。貧困や現状から脱したいと思うなら死ぬ気で学べ。学があれば今よりもずっと良い暮らしができる」
「どうしてそこまで私達に手をかけて下さるのですか?」
「変か?」
「うん。僕が前いたところは勉強なんて教えてくれないし」
そこで不信に思ったのか子供も含め大人の奴隷たちが俺を見てくる。
まぁ、普通の奴隷の扱いと比べたら俺の対応はおかしいのかもしれないな。
あくまで俺はあの子を見捨てたことへの償いのつもりでやっているから深い理由は無いんだがな。
ここは一つ適当な理由でも付けるか。
「そんなの簡単だ。お前らが自立し、今よりも成功した時俺に便宜を図らせるための布石だからだよ」
「しかし、そんなのほとんど可能性が……」
「無いと思っているからお前たちはいつまでもそんな環境なんだよ。本当に自分を変えたいと思うならここで死ぬ気になって働いてみろ!そして俺が頭を下げに来るくらい立派になってみろ!」
俺の言葉に奴隷たちは静かになる。
「俺みたいな奴に偉そうにされていて悔しくないのか?だったら俺を見下せるくらい自分を高めろ。お前たちが売り上げれば売り上げるほど給金も増やす。その金を使って遊ぶのかそれとも本当の意味での『自由』を取り戻すのかどうするべきか考えろ」
このまま俺の言葉通り来年自由になったところで元奴隷で文字も読めないようなこいつらがまともな職につけるとも思えない。
それなら……いや、ここから先はあいつらが決めることだ。
「そして来年もここで働くなら住む場所も用意してやる。今は黙って俺の言うことを聞いて仕事をしろ!」
すると奴隷たちもさっきと変わって目の色が変わる。
与えられた仕事を熱心に始めた。
「ねぇ、早く勉強教えてよ」
「そうだよ」
ガキ共も俺の腕を引っ張りながらせがむ。
だいぶ変わってきたな。
底辺からのスタートなんだ。
失うものがない奴ほど強いものはいないな。
「ユウト、少し良い?」
「なんだ?」
ガキ共を連れフェルミナとリリ、ベリルに奴隷のガキ共の面倒を見ることも頼んでいたところにシルヴィアが声をかけてきた。
「今来客が来たんだけど……」
「なんだまた娼館の主人でも来たのか?」
「いや……それよりもまずいのが……」
「はっきり言え」
「栗原!この前はよくもやったな!」
振り返ると高橋がシルヴィアの後ろから現れた。