マネー
あれから数週間が経過して無事鉱山開発も進み、いくつか新たな鉱山の入手もでき、自前だけで様々な鉱物資源も手に入った。
具体的には火鉱石、冷却石だけでなく鉄鉱石、銅、銀、金に加え、滅多に発掘できないが高価で取り引きされるミスリル鉱なども手に入った。
一番驚いたのは地中深くまで掘削していたら、温泉まで出てきた。
「なんか凄いね」
「ああ。温泉が出てきた後、完全な保養地と化してしまった」
ルルが管理してくれたおかげが森もあり得ないくらいの成長スピードで育っている。
ちょっと前まで俺の足元くらいしか背がなかったのに、数週間で5メートルほどまで成長した。
「いくらなんでも異常じゃ……いや、ここは異世界だし元の世界の常識が当てはまるとは言えないか。ルルはピクシーだしな」
「べ、別に私はただ木々様たちの成長のお手伝いをしただけです。ユウトさんの準精霊とこの地の微精霊たちのおかけでこの辺一帯の栄養が大きいのでその影響だと思います」
「そうか。教えてくれてありがとうな」
ルルに礼を言いながら一帯を見回す。
「最初にここに来たときはどうなることかと思ったが、なんとかなったな」
初めに買った山も緑を取り戻し、今ではここで鉱石が取れるとは分からないだろう。
異世界に連れてこられ、死ぬような思いを何度もしながら、あの子への贖罪をすることを思いながら何かを成そうとしてきた。
その結果、俺があの子にできたことはあの子のように辛い思いをする子がこれ以上できないようにするくらいしかできなかった。
後は今みたいに鉱山開発をしたくらいだ。
「これで終わりで良いんだろうか……」
「え、何か言った?」
「いや、何でもない」
俺の小さな呟きがどうやらリアに聞こえてしまったようだ。
クソ王子への制裁ですらまともにできない俺をあの子は許してくれるんだろうか……。
魔王ならまだしも勇者は実際殺せば問題になる。
特にクソ王子はこの国では無くてはならない存在だ。
余程の大義名分がなければ、殺した後こちらが罪に問われる。
結局、あの場で俺が勇者共に手を出してもそれほど影響が無かったのは俺が一介の冒険者であり、冒険者のためギルドの保護下に入っているのが大きい。
それにアイツらを殺したわけでないのも大きい。
どうすればあのクソ王子を合法的に殺せるんだろう。
手段が思い付かない。
「そういえば優斗君、採掘が終わったらどうするの?」
「どうしよっか」
「えっ?」
「ぶっちゃけ今後のことはもう何も考えたくない」
「いやいや、そこは考えなきゃ。もう後戻りできないくらい家計が厳しいよ」
そう我が家の家計は前よりも更に厳しくなり始めた。
最初は良かった。
魔王との戦いで需要が高まっている要因もあって売れる売れる。
だが、徐々に鉱石の販売量が減っていった。
「クソッ、どこまでも俺の邪魔をしやがって」
「まさか、王子がマネーゲームしていたなんてね」
リアが俺の言葉の続きを言う。
実はあのクソ王子が俺と同様に鉱山を所有する貴族共と結託して鉱石の資源価格を操作していたため鉱石全体の価格が大幅に上昇していた。
そうして甘い汁を啜っていたところに俺が大量の鉱石を流したため価格が下落。
それに突き止めたクソ王子は娼館とゲイバーの店主たちから売られる鉱石を買わないように国内とビザスティン帝国と国交のある国々に伝達。
結果として俺は大量の鉱石を持つのに売れる相手がいないという状況に陥った。
「クエストは受けるのは?」
「いや、受けても良いんだが正直もう受けてどうにかできるレベルじゃない」
もうクエスト報酬でもどうにもならないくらい投資してしまった。
「だいたい、なにが資源なら安全だよ。資源ほど収入が安定しないものねぇよ」
鉱石は常に資源価格の変動で収入が安定しない。
結局、加工貿易が一番良いのかもしれなかった。
「じゃあ、どうする?」
リアの顔に不安の色が見える。
「大丈夫だ。どうにかする!」
俺とリアたちとのラブラブな生活なためにも
俺は転移石を取り出すとある場所へ向かった。
「というわけで買え」
「いや、いきなり来て何も言わずに言うんじゃねぇよ!」
「俺とお前の仲なら分かるだろ?」
「分かるわけねぇよ!」
俺が来たのは懐かしの幻人族地域だ。
呼び出した渚はあい変わらずうるさいくらい元気だ。
仕方なく説明をすると
「まぁ、鉱物は年中不足しているから買えっていうならたぶん喜んで買うと思うけどたぶんそんなに高い値段では買えないぞ」
「それはまぁ重々承知している。だが、今は少しでも金がほしい。原価ギリギリで売るつもりはないが、適正価格で売るから買え」
「分かったよ。けど、どうすんだ。鉱物の輸出なんて国交を結んでいないオレたちにできないだろ?」
「問題ない。お前たちには獣人族地域から横流しをするから安心しろ」
加山にもこれから売り付けに行くしな。
獣人族地域も革命の影響で鉱山開発が上手くいっていないということはすでに調べがついている。
加山経由で渚に売り付ければ大丈夫だろ。
次に加山の元へ行って渚と同様に説明をする。
「理由は分かりましたけど、ブロウさんが本当にそんなことを?」
「してなきゃ、お前のとこに売り付けに来るわけねぇだろ」
加山は未だにクソ王子のことを信じている。
まぁ、俺もそこまでとやかく言うつもりはない。
どうせいつかクソ王子の正体を知るだろうしな。
「まぁ、分かりました。こちらも現在鉱物の需要が高まっているのでありがたいです。しかし、少し値段が高くありませんか?」
「そんなことはない。きちんと適正価格だ」
「けど、幻人族地域に売る価格よりも高い気が……」
「幻人族たちには世話になっているから便宜を図っただけだ」
「なら獣人族たちにも」
するわけないだろ。
お前らが俺にしたことを忘れるわけないだろ。
「どこぞの勇者様のせいで俺は戦いたくもない魔王と戦わされたんだけどなぁ~。挙げ句、獣人族地域に来ていきなりギルドでケンカを売られたんだよなぁ~」
「そ、それはー」
「そういう奴らってぶっ殺しても良いと思わない?」
「分かりました。分かりましたから!」
当然加山に価格を割り引くつもりはない。
俺はコイツに何もしてもらったことないしな。
というわけでどうにか販売先を確保したところで更なる問題が生じた。