開発
「全くふざけんじゃねぇぞ」
「すみません。私が途中で気付けば良かったんですが……」
「いや、フェルミナのせいじゃない。俺が金に目を眩ませていたのが問題だ」
その日の夕食時、フェルミナとシルヴィアに事の顛末を伝えた。
今日には進軍の日取りを決め、慌ただしくして呑気に食事どころではなかっただろうに。
「でも、これからどうするの?」
「実際、その事なんだよな……」
ガキ共の面倒に金がかかる。
やめたいけどやめると加山から余計なちょっかいかかるから仕方なくするとしてもクエストの報酬が少ない。
故に貧困という負のスパイラルに陥っている。
かといって、俺は商売したこともない元一大学生だから下手に手を出すと失敗する公算もある。
どうするかな……
「マジでどうやって金稼ごう……」
「ますたー、まーまれーどおいしい!」
「コイツの菓子代にも滅茶苦茶火鉱石や冷却石使うし……ユキ、菓子は我慢しろ」
「いやー!」
ユキは今日用意したマーマレードを両手いっぱいに抱えて主張する。
「そうですね。ここ最近火鉱石や冷却石の需要も大きくなっていて単価が高くなっていますしね」
「前みたいにギルドで菓子の販売も考えたが、1つあたりの単価が高くなりすぎて買い手がつきづらくなったしな……」
リリも俺と同様に悩んだ様子で家計簿を見つめる。
鉱石の値段が上がった以上、菓子の販売代金も相対的に上げざる負えない。
しかも、鉱石が取れる場所は地盤が硬い場所の下に埋まっていることが多くて……………………待てよ。
「おい、シルヴィア」
「なんだい?」
「お前の実家、鉱山ないか?」
「さすがに鉱山はないかな」
「なら、火鉱石や冷却石が埋まっているが取れない場所とか知っているか?」
「それならたくさん知っているよ」
シルヴィアは地図を持ってくるといくつかの山の位置を指す。
「ここはもともとかなりの埋蔵量があることは分かっていたけれど、地盤が硬すぎて取れる地層まで到達できないんだよ」
「ここの土地売っているか?」
「まぁ、売ってはいるけどこんな場所買っても維持費や土地の税金で毎年かなり持っていかれるよ。前のここの持主もそれで手放さざる負えなくなったようだしね」
「まさか……」
リリは途中で俺の意図に気付いたのか俺の様子を伺う。
俺はまるでここぞというしたり顔をする。
「その地盤を叩き壊せば、確実に金が入る。しかも、相場が下落しないように調整して市場に流せば長期的な金が稼げる」
「でもいずれはなくなってしまうのでは……」
「その前に今シルヴィアが示した場所は全て買い取る。若干、博打になるが、精霊魔法であれば問題ないだろ」
リリの不安も分からなくないが、下手な商売よりは確実に儲けられる。
「ユウト、残念だけど生半可な魔法じゃ無理だと思うけど……」
「あまり舐めるなよ。ユキ、ここの地盤を俺と壊せたら好きな菓子をいくらでも食わせてやるが……できるか?」
「ほんとう!?ならぜんりょくでいくからできるー!」
「よし。となれば明日にでも買いにいくぞ!」
俺は食事をさっさと済ませるとその日は早く寝た。
次の日、俺は山を買い取るとさっそく現地に足を踏み入れた。
「確かに硬いな。しかも所々、開発しようとした形跡が見られるな」
「まぁね。前の所有者も大規模な魔法を使って地盤を壊そうとしたらしくてね、向こうの方には木が一本も生えていないだろう。あそこで使ったりしたんだよ」
「なんか木がかわいそう」
シルヴィアの説明にリアがそう言うとルルも大きく頷く。
「せ、先代の方は随分と森の木々様たちに嫌われているようです」
「開発も環境に即してやらなきゃ、ただの環境破壊だしな。せっかく大金を払って投資したんだ。鉱山としてだけじゃなく、レジャー施設として同時平行で開発し直すとするか」
「どうするの?」
俺は荒れ果てた場所に連れてきた準精霊たちと現地の微精霊たちを引き合わせて準精霊たちの支配下に置いておく。
「俺から微精霊たちに魔力供給を行うことで微精霊たちによる土地の回復を促す。そしてルル、お前はしばらくここの管理を任せる」
「わ、私ですか?」
「そうだ。この土地にいる木々たちを妖精魔法で成長の手伝いを頼む。できるか?」
「で、できます」
「それじゃあ、頼むぞ。さてと、こっちも開発を始めるか。シルヴィア、鉱石が出やすい場所くらい検討がついているんだろ」
「もちろんさ」
シルヴィアに案内された場所に着くと想像以上に硬い場所だった。
「ユキ、来い」
「うん!」
ユキを肩車するとシルヴィアに指定された場所を標的にする。
「ますたーのここ、ひさしぶり」
「ユキ、そろそろ唱えるから手伝い頼むぞ」
「うん!」
ユキの精霊としての力を引き出しつつ、雷光あたりを叩き込めばたぶんイケる。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」
空から白い雷が岩盤に向けて降り注ぎ、岩盤にヒビが入る。
これなら後数発で壊せそうだな。
案の定、数発で岩盤を破壊するとどっかで見たことあるような石がお目見えする。
「まさか、本当に破壊するとは思わなかったよ」
シルヴィアが目頭を押さえながら唸る。
「いや、なんとなく予想はついていたけど」
「ここ最近、急に精霊魔法の威力上がりましたしね」
「しかも、指定した位置以外壊れていないのが恐ろしいです」
リア、リリ、フェルミナもそれぞれ感想を言う。
「流石、ご主人様です!」
「ユキがんばったからおかしたべたい!」
「良いぞ。これから懐が温かくなるしな」
精霊ズも喜んでいるし、俺も金が増えそうで嬉しい。
「後は仲介を頼む相手を探す必要があるが、そこら辺はアイツらに任せるか」
「アイツらって?」
「後で分かる」
俺はその後懐かしの娼館とゲイバーを尋ね、アイツらに仲介を頼むと……
「喜んでお引き受けしますよ」
「ワタシも良いわよん」
「助かる」
物凄く良い笑顔をこちらに向けると俺の手をがっしりと握ってくる。
「優斗さん、この人たちで大丈夫なんですか?なんか不安しかないのですが」
リリの警戒にリアたちも頷く。
「いや、むしろコイツらだから選んだ」
「おや、それはどういった意図でしょうか?」
「どうせこんなところで商売しているお前らなら甘い汁すすって生きている金持ちたちとも交流があるんだろ?下手に新しい鉱山ができて価格の下落が起きすぎると衝突も起きるしな。そこら辺の舵取りくらいできると思ってな」
「いやはや、流石です」
「ワタシも思わず惚れちゃいそうだわ」
「寄るな。気持ち悪い。それにもしもの時はコイツらごと雷激で沈めてやるから問題ない」
「いや、問題はありますよ!」
歯向かうなら潰すが、俺に利益をもたらすなら利用するまでだ。
それをしつつ争いの火種は予め摘んでおく。
まだ鉱山は1つしか手に入れていないが、更なる鉱山開発のためにも資金がいる。
その間、コイツらの力は必要だしな。
とりあえず俺たちが魔法で露天掘りの応用で開発しながら、開発し終えた場所と鉱石がでない場所の森林の再生をルルに任せて開発と環境再生の両立を図った。
倉庫を立てそこに大量の鉱石を投入しつつ、アイツらに売りつける。
ガキ共も農業だけでなく、鉱石をの運び出し(掘削は俺たちの仕事)をさせた。
始めこそ資源価格は下落したが、徐々に持ちなおし元のリーズナブルな価格で落ち着きを取り戻し始めた。
こうして鉱山を手に入れた我が家の家計は潤い、更なる鉱山の買い占めを始められた。