最悪な気分
「ひ、久しぶり」
「そうだな」
高橋が止めに入った後、俺は高橋とあいさつをしつつ、クソ王子を見る。
クソ王子はこちらを見るとにっこりと笑顔を向けてくるのが余計に腹立つ。
「お前らが今回の企画を練ったのか?」
今すぐクソ王子をぶっ殺したい気持ちを抑えつつ高橋に尋ねる。
「あ、ああ」
「そうか」
会話はこれで終わってしまう。
俺はリアたちの方へ向かうと
「帰るぞ」
「えっ?」
「今回の件は無しだ。このまま帰って別のクエストでも受けるぞ」
「あ、うん。分かったよ」
リアたちはいきなり俺がそんなことを言ったためか腑に落ちない様子だったが、すぐに俺の後を追いかけてきた。
「ちょ、ちょっと待てよ」
「そうよ!待ちなさい!」
「何?俺たちは抜ける。後はお前らで勝手にやってろ」
高橋と姫川が俺を呼び止めてくるので仕方なく応じる。
「いや、お前ー」
「ラルドに謝りなさい!」
高橋が何か言う前に姫川が大声で俺を糾弾する。
「なんで?と言うか、まず玉なしが俺に謝れ。いきなり斬りかかってきやがって。リアたちがケガしたらどうすんだ」
「ふざけないで!あなたがラルドにその……きん……消えないケガを負わせたことは知っているのよ!」
姫川は一瞬言葉に迷っていたが、適切な言い回しで俺に伝える。
そんなふうに言われたらお約束なことを言わないといけないよなぁ~
「消えないケガって何?ハッキリと言ってくれないと分かんないだろ(笑)」
「くっ、だ、黙りなさい。そんなことはっきり言わなくても分かるでしょう。ともかくラルドにしたことを後悔させてあげるわ」
姫川は顔を赤くしながら俺に再び銃を向けてくる。
「ストップ!ストップだって愛歌ちゃん」
高橋が再び止めに入って宥める。
「お前、愛歌ちゃんの仲間に何したんだよ」
「玉なしのことか?アイツは自らの行いの結果ああなったんだよ。良い機会だ、お前に教えてやる」
俺は高橋に玉なしと玉なしの国が竜人族に行っていたことを伝えた。
「嘘よ。ラルドはそんなことしないわ」
「そうだ!それはでたらめだ!竜人族は憎き龍に殺されていたんだ。槍の勇者様!我らは救助しようとしたところであの男にやられたのです」
案の定、姫川と玉なしは俺の言葉を否定する。
しかも、竜人族が殺していた自分たちの所業を龍神に擦り付けるとはとことんクズの集まりだな。
「何てこと言うの!あなたたちが竜人族に酷いことしていたんじゃない。優斗君は助けようとしただけでしょ。まぁ、確かに玉を取っちゃったのはやり過ぎかなとは思わなくはないけど……」
「お姉ちゃんの言う通りです」
姫川たちの言葉を聞き、リアたちも怒りを露にする。
それから、姫川たちとリアたちは言い争いを始めてしまい、高橋は話に置いていかれてしまった。
「分かった!分かったから一回話を止めてくれ!」
その後、高橋が叫ぶように話を中断して言い合いが止まる。
「ラルドに謝りなさい!」
だと言うのに姫川は相変わらず俺に謝罪を求めてくる。
ヤバイな。
いい加減、堪忍袋の緒が切れそうだわ。
「そしてブロウさんにも謝りなさい!」
切れたわ。
「そんなに謝って欲しいなら謝ってやるよ」
俺は祝詞を構成すると姫川と玉なしを標的にする。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」
「「なっ!」」
姫川と玉なしは思わず対応できずに雷光をその身で受ける。
まぁ、姫川の方はできるだけ弱くしておいたから気絶くらいで済むだろう。
玉なしはたぶん顔が焼け焦げるだろうな。
「キャアアアアアアアアア」
「ギャアアアアアアアアア」
俺の予想通り姫川は気絶し、玉なしは消し炭の如く焼かれる。
「おい!お前ら姫川の仲間だろ。後始末は任せたぞ」
姫川の仲間らしき連中に声をかけつつ去ろうとすると
「お前いきなり何すんだ!」
高橋が俺に槍を向けてきていた。
「お前も俺とやりあうようなら容赦しないが」
「俺に勝てると思っているのか?俺は勇者で、お前裁定者だっけ?弱職じゃん」
高橋は俺を見ると笑い出す。
後ろにいる高橋の仲間(全員女)も俺を見て吹き出す。
そうか、お前がそう思うなら受けてみろ。
弱職の使う精霊魔法を。
「『我、大地の精霊と契約する裁定者が願う。我を拒むあらゆるものを破壊し、我を導き給え。我がなすその力を示せ』『雷光』」
微精霊たちの力も借りながらこの日最高レベルの雷光を高橋に向けて放つ。
「そんな魔法、俺の魔法無効化スキルの前にはいっさい無駄ー」
「バカかお前?」
高橋はよりにもよって避けもせずに真正面から全身で受け止めやがった。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
案の定、見事に感電する。
しばらく感電したあと、ぶっ倒れる。
ビクンッ、ビクンッと痙攣しているが、死んではいないようだった。
その後、後から高橋の仲間たちが甲高い悲鳴をあげて高橋に近づいていき、俺から離れる。
「先程の魔法とても興味深いですね」
「黙れ」
場が静かになったところでクソ王子が話しかけてきやがった。
「そう言わないで下さい。私も魔法を使う者。先程の魔法、私の知る魔法の中でも極めて強い威力を持ちながらそこまでの魔力消費の少なさー」
「黙れと言ったのが聞こえないのかクソ王子。お前に話すことは何もない」
直後、俺とクソ王子の間に冷たい空気が流れる。
これほどの冷たい空気は今だかつてなかった。
「ベリル?」
するとベリルは俺とクソ王子の間に入り、俺を庇うように腕を広げる。
「いったい、なんのつもりかな?お嬢さん」
「黙りなさい、人間。この方はお前程度が気安く話しかけていい人ではありません」
「少し口の聞き方がなっていないようですね。勇者に対してその口の聞き方は失礼ですよ」
流石クソ王子だな。
本当のアイツならすぐにでも魔法を唱えるだろうが、さすがに人目の多いここではそうそう動かないな。
まぁ、少し苛ついているようなので俺は楽しくて仕方ないがな。
「失礼?笑わせないで下さい。宝具すらまともに使えないでよくもまぁ、そんな言葉を口にできますね。あなた程度がこの私に高説を述べるなど身の程をわきまえなさい」
普段のベリルからは想像もできないくらい冷たい表情をしてクソ王子に言う。
クソ王子は蔑ろにされているのが我慢ならないのかさらに怒りが大きくなっているのが分かる。
「ベリルもう良い。コイツらと付き合っても時間の無駄だ。帰るぞ」
「はい、分かりましたご主人様」
このままクソ王子の顔を見ているのも気分が良いが、こんなところさっさと出ていきたい。
まったく気付かなかった自分が悪いとはいえ、何もかも最悪だ。
魔王退治でクソ王子と共闘だなんて死んでもごめんだ。
去り際、ケインたちにこのクエストをやめておくように勧めてギルドを出ていき、今日はそのまま帰宅した。
日課である少女の墓参りをしたときにはどう言おうか迷ってしまった。
最悪な気分だったので、その日はリアたちとフェルミナとシルヴィアが帰ってくるまでイチャイチャして過ごした。