最悪の再会
「フェルミナ、なんか良いクエストないか?」
「すみません。やっぱり、今この国では報酬の良いのは少なくて」
「そうか」
やっぱりこの国だと金銭面的な問題が生じるな。
本当はこの国から出ていった方が良いのかもしれないがもう拠点まで用意したからまた一から作り直すのは面倒で仕方ない。
それに何より墓の事もある。
転移石で来れるとは言え、あの子を置いて別の国に行くのはなんていうか、逃げ出すみたいで嫌なんだよな。
「緊急クエストでーす!」
そんな声と共に男性職員が掲示板にクエスト内容を張り出した。
「珍しいですね。緊急クエストなんて滅多にないんですけど」
「そうなのか?」
「はい。通常、緊急性を要するものだと騎士団が対応するので余程の事案でなければ冒険者の手を借りることはないんですが」
フェルミナと俺は掲示板に張り出したクエストを見る。
「優斗君、どんなクエスト?」
リアたちもやって来て俺に尋ねる。
「ちょっと待ってくれ。えっと……隣国に魔王軍が侵攻……チッ、また魔王かよ」
魔王はもう加山の時のことでもうこりごりしてるんだよ。
まぁ、とりあえず続きを読んでみるか。
「それに対して今回奪還作戦を考案……参加したパーティーには最低10金貨だと!?よし、ちょっと皆こっち来い」
「え、えっと、優斗君?」
リアたちの手を引いて掲示板から離れる。
「どうしたの?」
「あれを受けたいと思っているんだが良いか?」
「別に私は良いけど……」
「私達も別に構いませんけど」
リアたちも頷いてくれる。
「確かにかなり羽振りの良いクエストですね」
フェルミナが掲示板のコピーの紙を持ってきてくれた。
「今回、奪還作戦で参加したパーティーには最低10金貨を分配する。さらに出来高に応じて追加報酬もあるそうですよ」
「うん、とても良いクエストかもしれない」
最近、魔獣を倒してもたいして報酬が出なくなった。
まぁ、今まで滅多に現れなかった魔獣が大漁に現れたのだから、一体あたりの報酬も減るわな。
あげくの果てに人族のバカな国が竜人族にケンカは売るわ、どっかのバカ王子が獣人族嫌いだから余計に各国の冒険者ギルドとの連携が取れなくなるから報酬が減る一方だ。
だからこそ、クエストで最低10金貨はかなり良い。
「どんな仕事なの?」
「どうやら魔王が駐留している隣国の城下町の偵察のようですよ。ただ、冒険者ランクA以上でなければ参加できないそうです」
リアはフェルミナにクエスト内容を聞いた。
「それなら逃げるときに転移石を使えば問題ないだろ」
すでに魔王相手に死線をくぐり抜けた俺たちなら十分気を付ければ問題ないだろう。
「まぁ、優斗君がそう言うなら大丈夫かな」
リアたちも納得してくれたし、フェルミナもそう言うことならとクエストを受ける手続きを取ってくれる。
具体的なクエスト遂行日程は他のパーティーの参加もあるので数日後になるということだった。
俺はこの時ほど金に目を眩んだ自分を恨まなかった。
どうしてあの緊急クエストの企画者を確かめなかったのかを……
数日後、俺たちは集まった他のパーティーたちと共にギルドの最上階で待っていた。
初めてギルドの最上階に入ったが、なかなか良いところだった。
高級レストランに喫茶店までかなり質の良いところだった。
流石はランクSしか入れない場所だな。
他のパーティーと自己紹介をしつつ、説明会が始まるのを待つ。
時折、リアたちにナンパをするバカ野郎を感電させてやることがあったが、だいたいのパーティーは流石実力者といえるだけあって強そうだった。
「ケイン、お前たちもいたんだな」
「久しぶりだな優斗」
ケインたちのパーティーとも久しぶりに会うことができた。
ケインたちはケインたちでランクをCからAに上がっていた。
「では、これから奪還作戦の説明会を始めます。お静かにお願いします」
ギルド職員の声で職員に全員が注目する。
「では、まず今回の作戦立案のブロウ殿下と槍の勇者高橋様、銃の勇者姫川様からのお話です」
「は?」
俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
クソ王子だと!?
「お集まり頂いた皆さま、まずは感謝します。今回、私達の作戦にこれだけ多くの方が参加して頂き大変嬉しく思います」
「皆、ありがとな!」
「ありがとうございます」
クソ王子含めて、バカ勇者たちが挨拶をする。
「優斗君、あれって!」
リアが裾を引っ張ってくるが、俺はただただ顔がひきつらせるしかできなかった。
「き、貴様は!」
クソ王子含めてバカ勇者共の仲間が入って来るとどっかで見た男が俺を指差してくる。
すると勇者たちも俺を見てくる。
「おや、まだ生きていたんですね」
「あれ、栗原じゃん」
「どうしたの、ラルド?」
それぞれ返答が返ってくる。
「な、なんだと」
俺は急いでフェルミナが渡してくれたクエストを再度読み直す。
すると、最後に作戦立案としてクソ王子とバカ勇者共の名前が小さく書いてあった。
「終わった」
よりにもよって金のことしか見ていなかったために一番大事な部分を読み忘れていた。
だいたい、魔王と聞いた時点でなぜ勇者に結びつかなかったのか……
「貴様だけは決して許さん!ここで死ね!」
姫川の仲間が腰に付けていた剣を抜くとスキルの使いながら切りかかってきた。
「優斗君!」
リアが反応して俺の前に出て剣を抜くとその剣を受け止める。
「何お前?いきなりどうしたん?」
リア「えっ?」
リリ「えっ?」
ベリル「えっ?」
俺「えっ?」
俺が切りかかってきた姫川の仲間にそう言うとリアたちが驚いて俺を見る。
何、俺と何か関係あるの?
「き、貴様~!」
「きゃっ!」
男は顔をさらに真っ赤にするとリアを弾き飛ばす。
リアは床に手を着くと宙返りをしてすぐに態勢を直す。
男はそのまま俺に剣を降り下ろすので
「『我、水の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・アクアウォール』」
で防ぎながら剣を止めると男の腹を蹴り飛ばして距離を取ると
「『我、雷の準精霊と契約する裁定者が願う。エレメント・サンダー』」
「ギャアアアアアア」
「ラルド!」
男を感電させて気絶させると姫川が男の前に立ち、俺に向けて銃を向けてきた。
「なんだよ?お前の仲間がいきなり切りかかってきたんだぞ。それに対して何か言うことはないのか?」
俺は姫川にそう言いながらクソ王子と高橋にも目を向ける。
姫川は俺に敵意を向けているがクソ王子は驚いて目を丸くしているし、高橋は何が起きたのか理解できていないようだ。
「ラルドがいきなりこんなことするなんてありえないわ。栗山さんが何かラルドに失礼なことをしたとしか考えられないわ」
「誰が栗山だ!栗原だ!」
人の名前を間違えておきながら、なんで俺が悪いこと前提なんだよ!
「優斗君、あの人竜人族の所で悪い事していた人だよ」
リアが俺の耳元でそっと教えてくれる。
ああ、そうか。
思い出した。
「玉なし男か」
「き、貴様、だけは……必ず、殺す」
玉なしが意識を取り戻す。
「ほう、エレメント・サンダーを食らってすぐに意識を取り戻すとは前より強くなったんじゃないか?」
「マナカ、アイツだ。アイツが俺に危害を加えた奴だ!」
「なんですって!」
姫川は玉なしの言葉を聞くと目の色が急に変わると俺にさらに厳しい目を向ける。
「なんだ、強くなったと思ったが勇者に頼らないとなにもできない腰抜けのままか」
姫川は銃を取り出して引き金に指をかける。
俺も精霊魔法の準備をしておく。
「お、お待ちください」
「そ、そうだぜ。一端、落ち着こうぜ」
ギルド職員と高橋が俺たちの間に入って仲裁をする。
「優斗君もいったん落ち着こう」
リアも俺に近付き止めに入る。
「そうだな」
確かにここで争ってもギルド側に迷惑をかけるだけだ。
姫川はしばらく俺を睨み続けていたが、姫川の他の仲間がやって来て止めに入ると銃を下ろす。
俺も詠唱入るのは止める。
とりあえずここで殺るのはやめてやる。
ここではな。