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嵐の前の静けさ

加山と魔王討伐を終えてから一週間ほど経った。

俺は金のため、レインを呼びパーティーを分割することで受けられるクエストの数を増やすことにした。

具体的には俺、レイン、ユキ、ルルで組み、リア、リリ、ベリルで組んでもらうことにした。


この割振りにも多大な議論と口論があった過程は省こう。

主には誰が俺と組むかと揉め、結果としてこのメンバーなら誰も文句はないということで相成った。


ある日、俺が屋敷で昼食後の軽い運動と称して廊下を歩いていると応接室から一人老人とシルヴィアが出てきた。


「では、ご一考よろしくお願いしますね」

「もうすでに結論は出ているけど。この話は断るよ」

「あなたはそうでしょうが、お父様はどうでしょうね」

「おい、ジジイ。人の屋敷で口論するんなら外でやれ。ただでさえ、ガキ共の声で耳が痛いんだ」


二人は口論をしていたので俺が入って止めさせた。


「これは、これは申し訳ない。好色のあなたの前で話す事ではないですね」

「嘗めてんのか。ジジイ風情が」

「ユウト、ちょっと」


シルヴィアが俺の耳に口を近づけると


「おの人はまずいよ。あの人、この国でも権力がある人で王子の関連者なんだ。下手に動くと……」


シルヴィアは少し焦った様子で早口で俺に伝える。

シルヴィアやフェルミナ、ベリルにも俺と王子との確執はすでに伝えてある。

リアとリリが知っているだけでは俺の考えが伝わらなくなるのが困るのでどうにか伝えた。

あの時はリアに手を握られながらなんとか答えた。


「チッ」


またあのクソ王子のせいでどうして俺が我慢しなくちゃいけない!


「ジジイ、好色とはどういう意味だ?」

「いえ、この家にはずいぶんと多種族が多いのでね。てっきりそう言う趣味なのかと思いまして」


この野郎、ぶっ殺されてぇようだな。


「とにかくもう話は終わっただろ?早く帰ることを奨めるよ」

「そうですね。私もこれ以上獣臭い場所には居たくないのでこれにて失礼させていただきます」


ジジイはそのまま外に出ると止めてあった馬車に乗ると帰って行った。


「あの人は人族中心主義者でね、多種族のことが大嫌いなんだ」

「この国はクソ野郎だかりだな」


リリから聞いたが、この国ビザンティン帝国は元々人族中心主義者が多い国だった。

おかげで俺の屋敷に多くの獣人族がいるのを好意的に見ていない奴らが多いことを知っている。

だが、剣の勇者が俺に送っているだけあって表だって手を出すことはできない。

ただ、あくまで表立ってだ。

裏では俺が預かっている獣人族を拉致しようとするので秘密裏に捕まえて消しているが、キリがない。


「仕方ないさ。この国はあまり多種族に対して寛容ではないからね」

「だが、市民はあんまりそういうのがないぞ」

「あくまでこの国では貴族や王族を中心に政治をしているからね。彼らが多種族に対して良い感情は持っていないんだ。市民は商売のためにも多種族と交流するからそんな敵対心なんて持っていたって無駄なのさ。現に僕でさえ社交界に参加したときに貴族の方々に会うと汚れた血が入っているとかやっかみを受けるけど、それ以外の方々は基本的にまともだよ」


本音と建前という奴か。

結局、いつの時代も争っているのは一部の奴らなんだよな。

そいつらの問題をまるで世界全体の問題みたいに扱うなっての。


「でも、最近は獣人族の方でも革命が起きて、融和政策が取られているからこの国も直に融和政策を取らざる負えないだろうしね」

「どうしてだ?」

「すでにこの国以外の多くの国は排斥主義を捨てて融和政策を打ち出すことで他の民族から輸入した物で大儲けを始めているしね」

「他の地域では当たり前の物が他の地域では珍しいということか」

「そういうこと」


手に入らない物なら値段の吊り上げができるしな。

そんなふうに会話をしているとレインがやってきた。


「兄貴、勝負しようぜ」

「しない」

「なんでだよ!」

「それはこっちのセリフだ!今日は朝から一戦しただろうが。もう疲れたんだよ」


レインが来てから毎日のように模擬戦と称して対人戦をさせられている。


「そんなに戦いたいなら魔獣の討伐クエストでも受けてこい」

「だってアイツら弱いんだよ。それより兄貴との戦いの方がよっぽど良い経験になるんだよ」


戦いの経験をさせると言った手前、魔獣の相手をさせていたが、レインにとっては弱い過ぎるのか。


「分かった。相手はしてやるが、今は駄目だ。これからリアたちと魔獣討伐のクエストを受けに行く。金もないしな。お前はガキ共の面倒でも見て待ってろ」

「えー、またかよ」


時々、リアたちとも連携を確かめる上でこうやってクエストを受ける。

その時はレインにガキ共の面倒を見させておく。

というより、主に俺が居ないときに屋敷に侵入するバカ共の始末だが。


「なら、僕も待っているよ。まだこっちでやる仕事は終わってないしね」

「了解。頼んだぞレイン」

「分かったよ」


レインに屋敷の警護を頼み、俺はリアたちに声をかけてギルドへと向かった。

そうだ、久しぶりにオヤジのところに行くか。

リアにずいぶんと良い刀をくれたことも礼を言わないとな。

リアからはすでにジョブの件も聞いた。

リアには本当に申し訳ないと改めて思ってしまった。

リアの心配を杞憂にするためにもこれまで以上に安全な戦い方をしないとな。




「オヤジ、久しぶりだな」

「おやじー」

「おお、兄ちゃんじゃねえか」


俺とユキの声でオヤジが奥から出てくる。


「嬢ちゃんたちも久しぶりだな」

「はい、お久しぶりです。刀の件は本当にありがとうございます」

「久しぶりです」

「お久しぶりです」


リアたちもオヤジに挨拶をする。


「オヤジ、俺からもありがとな。俺がしっかりしているべきなのに、リアのことを心配するあまり肝心なことに気付かなかった」

「優斗君のせいじゃないよ。私は勝手にやっていたことなんだし」

「いや、俺のせいだ。パーティー全体のことを考えるなら俺の行動は間違っていた。リア、これからは俺が間違っている時は必ず注意してくれ。そうでなければ、いつか全てを失うことになりかねない」

「優斗君……、うん、分かったよ。これからは私も色々助言できるように頑張るね」

「ありがとうリア」

「「「………………」」」

「兄ちゃん、頼むから俺の店でいちゃつくのは止めてくれ。兄ちゃんのパーティーの嬢ちゃんたちは怖えんだよ」


リアと見つめ合っているとオヤジが口を挟む。

見ればリリたちが俺たちに白い目を送っている。


「す、すまんな」

「ご、ごめんなさい」

「まぁ、分かりゃいいよ。それで兄ちゃん何のようだ?ただ、礼を言いにきたわけじゃねぇだろ?」

「いや、礼を言いに来ただけのつもりだったが……」

「そうなのか?」

「まぁな。だけど、またクエストで必要な物がある時に来るさ」

「そうか。なら、また来いよ」

「ああ、じゃあな」


そうしてオヤジとも別れ、ギルドへ向かった。

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