空を切り裂く鋼の翼‐戦火に舞うフランカー‐
マイナージャンル応援企画 The Killer's Project
通称、TKP参加作品です。
ミリタリー作品ならではの特殊な表現があります。
方位は真北を360度(0度)として時計回りに360度に区切った表記で、時計の文字盤に見立てたクロックコードも使用。
1ft=0.3048m
1kt=1.852km/h
1nm=1.852km
また、ロシア軍という事で兵器名にNATOコードは使用せず、無線交信においても敢えて日本語訳されたみたいな表現を使用しています。
上記の単位がアメリカ式なのはロシア軍での使用単位が不明だったのと、作者が慣れていたからです。
子供の頃、誰もが1度は将来なりたい職業について思いを馳せたり、憧れたりした経験があるだろう。途中で挫折する者や現実的な選択をする者も決して少なくは無いが、それでも子供達の数だけ夢があるのは事実だった。
それは両親に連れられてMAKS(モスクワ航空宇宙サロン:モスクワ航空ショー)を訪れたアレクサンドル・カディンスキーも同じで、轟音を響かせて空を舞う戦闘機の雄姿に魅せられて戦闘機パイロットに憧れを抱いた少年の誕生である。
そして、彼は夢を叶える為に努力を続けて見事に空軍へと入隊し、そこで同じように戦闘機パイロットを目指して入隊したゲンナジー・ラザロフという男と出会った。
「なあ、こんな時間までトレーニングして意味なんかあるのか? 今のロシア空軍じゃ給料は滞ってばかりだし、士気も風紀も最悪な状態なんだぜ?」
「その通りだが、どうしても戦闘機パイロットになりたいからな」
事実、ソ連崩壊後のロシア軍は組織の弱体化と腐敗が進んでいて空軍では訓練飛行すら満足に出来ない状況だった。なので、アレクサンドルのように課題をクリアした後も自主的に訓練する事を日課にしている者の方が逆に珍しいのだ。
「でも、お前のそういうところ、俺は嫌いじゃないけどな」
そう言って笑うとゲンナジーは彼の自主トレにも進んで付き合い、以降も同じようなやり取りを繰り返している内に2人は親友になっていた。
ちなみに、沿ヴォルガ連邦管区出身の厳つい顔のスラヴ系ロシア人がアレクサンドルで、シベリア連邦管区出身で僅かにテュルク系の面影のある目付きの鋭いロシア人がゲンナジーである。
もっとも、2人とも念願が叶って戦闘機パイロットにはなれたものの配属先の基地は別々になり、そうなると交流も減って年に数回しか連絡を取らない関係が続いた。しかし、それでもアレクサンドルは彼の事を親友だと思い、2人の友情に終わりが訪れるとは微塵も考えていなかった。
◆
それから年月が経ち、アレクサンドルは配属先のセントラルナヤ・ウグロバヤ基地の第22親衛戦闘航空連隊(大幅な組織改編があって2015年8月1日にロシア空軍はロシア航空宇宙軍という名称になっている)でも着実に経験を積んで順調に昇進を重ねていた。
それが実を結んで飛行副隊長(定数24機の飛行隊におけるパイロット達の中での次席指揮官)になっていた彼は、ある日、いきなり基地司令官のオフィスに来るよう司令官本人から内線が掛かってきて他言無用の条件付きで呼び出された。
しかし、彼には司令官から直々に呼び出されるような理由に心当たりが無く、その事を疑問に思いながらも言われた通りに出頭する。
「アレクサンドル・カディンスキー少佐、出頭しました!」
「入れ」
彼がオフィスのドアをノックして名乗ると、すぐに中から司令官の入室を許可する声がしたのでドアを開けて室内へと足を踏み入れる。すると、そこには執務机の奥にある椅子に座って彼を見据える司令官以外に明らかに軍人ではないと分かる男が1人いた。
なぜなら、その人物はロシア軍の制服を着ていなかったからだが、どういう訳か件の人物は来客用の椅子に足を組んだ姿勢で座ってアレクサンドルの事を値踏みするような視線で見てきた。
当然、そんな態度を取られて良い気分になる筈も無かったが、今は司令官の前なのでドアを閉めた後は所定の位置へと進んだ所で姿勢を正して待機する。
「楽にしろ」
幸いにも司令官が直ぐに許可を出してくれたので、彼は上官の前でしても構わない範疇での楽な姿勢になると呼び出された理由を尋ねる。
「早速ですが、自分が呼び出された理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「まあ、そう慌てるな。これから順を追って説明する」
その為、司令官は片手を上げて彼を制するような仕草をしつつ苦い顔をする。それを見たアレクサンドルも少し焦っていたのを自覚したのか、軽く謝罪の言葉を述べた上で話を聞く態勢になった。
「申し訳ありません。少し焦っていました」
「それについては気にしなくていい。君を呼び出した理由なんだが、単刀直入に言うと新たに編成した飛行隊に派遣する事が決まったからだ」
だが、こうして司令官から答えを直接聞かされても彼は素直に納得する事が出来なかった。なぜなら、彼自身が所属部隊の異動願いを提出した事など1度も無かったし、今の司令官の口振りだと既に異動が決まっているからだ。
勿論、ここは軍隊なので本人の希望が必ずしも反映されるとは限らないが、それでも異動願いすら提出した事のない人物が選ばれるのは珍しかった。
「今回は少し特殊な事情があって、それに該当するパイロットとなると、この基地では君を含めても数える程しかいなかったんだ。だから、本人の希望は考慮されていない」
「自分が選ばれた理由は分かりました。ですが、その特殊な事情というのを教えていただかないと納得できません」
どういう訳か、ここで司令官は忌々しげな表情でもう1人の男の様子を窺うような仕草をしてから口を開いた。
「悪いが、それを私の口から話す事はできない」
その所為でアレクサンドルには、司令官の言葉が酷く重苦しいものに聞こえた。しかし、この一言を待っていたかのように件の人物が言葉を発する。
「彼には知る権利があると思いますが、まあ良いでしょう。ここから先は私が説明します」
そう言って椅子から立ち上がった男は彼に近付き、どこか得体の知れない不気味なオーラを発しつつも笑顔で右手を差し出し、握手を求めてきた。そんな男の行動を訝しがりながらも彼が手を握り返すと、ようやく正体を明かしたのだった。
「連邦保安局のマルコフです」
「保安局!?」
まさか、この得体の知れない男がFSB(ロシア連邦保安局)の人間だとは微塵も思っておらず、さすがのアレクサンドルも驚いた表情を浮かべて組織の名称を叫んでいた。
なぜなら、FSBは旧ソ連時代に名を馳せた諜報機関であるKGB(ソ連国家保安委員会)の流れを汲む組織で、ソ連崩壊に伴って軍や政府機関の腐敗と弱体化が進んでいた中でも高い士気と作戦遂行能力を発揮して多くの信頼を得ていたからだ。
ちなみに、FSBはKGB時代に対外諜報活動を行っていた第1総局がSVR(ロシア対外情報庁)として独立した関係でロシア国内における防諜や治安維持を担う組織となっているが、協定によってSVRが活動できないCIS(独立国家共同体)加盟国に対しては従来通りの諜報活動も行っている少し特殊な組織である。
だが、マルコフと名乗った男の口から発せられた今回の特殊な事情というのが想像以上に衝撃的なものだた所為で、いま政府が直面している難しい現実を聞かされたアレクサンドルは当初の疑念など綺麗に忘れて二つ返事で命令を受諾していた。
なにせ、現役部隊の一部が元ロシア軍兵士を中心に構成された新興のロシアンマフィアと手を結び、ロシア国内で保管されている余剰兵器の横流しを組織的に行っているというものだったからだ。
当然、政府としては彼らの背信行為を断じて見過ごせないが、クリミア半島やシリア問題で欧米と対立している状況下で他国に統治能力を疑われるような事態だけは避けたい。
そこで、苦肉の策として信用のおける少数の人間だけで討伐部隊を編成し、国内問題だと言い張れる内に処理してしまおうと考えたのである。
「そういう訳だから、いま聞いた事は此処に居る者たちだけの秘密だ。それが何を意味するか、分かっているな?」
「勿論です」
「話は以上だ。退室して良いぞ」
「では、自分はこれで」
最後に険しい表情で司令官が極秘である事を念押しすると、アレクサンドルも真剣な表情で応じたので微かに表情を緩めて退室を許可する。それを受け、彼が姿勢を正して敬礼をした後に回れ右で身体の向きを変え、ドアに向かって歩き始めたタイミングで背中越しにマルコフが声を掛けた。
「一足先に現地入りして待っていますよ、カディンスキー少佐」
もっとも、彼の方は途中で足を止めて振り向きはしたものの、マルコフの言葉には何も答えずに司令官のオフィスから出て行った。
◆
アレクサンドルが衝撃的な事実と共に極秘任務を受諾した日の翌日、まだ朝の8時を回ったばかりだというのに彼はフライトの準備を整えてエプロン(駐機場)にある機体の前へ来ていた。
そして、今回の任務を遂行するにあたって使用を許可されたグレー系迷彩の戦闘機にしてはやや大柄な機体、まだまだ配備数の少ない最新鋭機である『Su-35S』戦闘機の出撃準備に取り掛かった。
まず、機体の周囲を反時計回りに歩いて移動しながら自分の目と手で動翼やアクセスパネル部分を中心に異常が無いか確かめていく。
その際、最も印象的だったのは機体各部のパイロン(機体へ兵装を搭載する時に取り付ける部品)にAAM(空対空ミサイル)の実弾、『R-77』中射程アクティブレーダー誘導AAM(発射後に発射母機からの誘導を必要としない撃ちっ放し型のレーダー誘導ミサイル)を6発、『R-74M2』短射程赤外線誘導AAM(赤外線画像を誘導に使う『R-73』短射程赤外線誘導AAMの能力向上型)を4発も搭載している事だった。
当然、固定武装の『GSh-301』30mm機関砲も元々の装弾数が150発と標準的なアメリカ製戦闘機に比べて少ないものの、実弾を満載した状態だったのは言うまでもない。
こうして機体を外から確認した彼は、梯子を上ってヘルメットを被った後でコクピット内のシートに収まると、続いて梯子を上ってきたクルーチーフ(その機体を担当する整備兵達のリーダー)の手も借りてハーネス(複数個所で身体を固定するシートベルト)をきっちりと締め、酸素マスクのホースや無線機のコード類も専用ポートを介して接続しておく。
さらに、彼が機載バッテリーや外部電源から供給される電力でコクピット内の各種計器に異常が無い事を確かめている間、梯子が外されるなどの出撃準備が機外でも着実に進められていった。
それらが終わると、いよいよエンジン始動に取り掛かるのだが、ここでも地上のクルー達とハンドシグナルやインターコム(直通通信)で緊密に連携しながら安全かつ確実に遂行していく。
手順に従って準備を整えた彼はコンソール(計器盤)にあるスイッチを押し、最初に始動させる右エンジンの回転数を1度10%にまで上げて安定させ、その上でスロットル・レバーを左手で奥へと押し込んでエンジン回転数を60%のアイドリング状態にまで高める。
勿論、ここでも回転数やエンジン内の温度、油圧といった数値が規定値の範囲内で安定している事を含めて計器に何一つ警告が出ていないのを確認しておく。
そして、問題が無ければ同様の手順で左エンジンも始動させてアイドリング状態まで回転数を上げ、エプロン地区に2基の『AL-41F1S』ターボファン・エンジン(取り込んだ空気の一部を圧縮せずに燃焼室を迂回させる構造を持ったジェットエンジン)の轟音を響き渡らせた。
しかし、他にも出撃までにクリアしなければならない手順が多数控えており、キャノピー(風防)を閉めた後は機載コンピューターのセッティングから始まって各種センサーの動作確認と次々に実行していく。
それに続き、今度は地上クルーと連携して主翼や尾翼などの各動翼を実際に動かしたり、航法灯を始めとするライト類を点灯させたりして機体の状態を彼らの支援の下で確かめていった。
また、この段階で離陸から巡航飛行における機体のフライト・コントロール・システム(操縦面での機体制御に関わるシステムの総称)のセッティングも済ませておき、高高度における強烈な紫外線から目を保護するのに必須となるヘルメットのバイザーも下ろしておく。
そうして最後にランディング・ギア(降着装置)のブレーキにも問題が無い事を確かめると、機体各部に挿してあった誤作動防止用の安全ピンが整備兵によって抜かれ、それをパイロット自身が目視で確認したところでタキシング(地上走行)の準備は完了となる。
ちなみに、アレクサンドルが事前に提出した飛行計画では他基地での演習に参加する為の移動という扱いになっていたので、彼は無線を使って管制塔への離陸準備完了の報告を行った。
「グロム13よりコントロール(管制塔)。タキシングの許可を求める」
「こちら、コントロール。僚機の準備が整うまで待機しろ」
「グロム13、了解」
それに合わせて彼が視線を左に向けると、ちょうど機体各部に挿してあった安全ピンが整備兵によって抜き取られようとしているところだった。
「コントロールよりグロム13、および28。タキシングを許可する。ルート2でランウェイ(滑走路)07へ向かえ」
「グロム13、了解」
「グロム28、了解」
なので、僅かな待機時間でタキシングの許可が管制塔から下り、無線に耳を傾けていたアレクサンドルとユーリ(僚機のパイロットで中尉)が短く応答する。
「チーフ、タキシングを開始するから誘導を頼む」
「了解です、少佐」
そうして彼がブレーキを踏んでタキシングの開始をクルーチーフに告げると、車輪止めが外され、機体正面に立ったクルーチーフが両手を大きく動かしながら後ろ向きで歩いて誘導を始めた。
それを受け、彼はスロットル・レバーを僅かに奥へと押し込んでエンジン推力を増大させ、機体をゆっくりと前進させていく。
そして、90度機首の向きを変えたところでクルーチーフが脇へ退き、そこからは独力で僚機の前を横切る形でタキシーウェイ(誘導路)を経由してランウェイ・エンド(滑走路端)を目指す形になる。
この時、僚機も同様の手順でタキシングを開始して適切な距離を保ちつつアレクサンドルの機体を追随していたのだが、彼はタキシーウェイの直線部分で計器を再チェックして離陸に備えていた。
そうしてランウェイ・エンドに到達すると、以降は操縦に集中できるよう飛行とは直接関係のない物事を入念に確認した上で意識から追い出し、前方に真っすぐ伸びるランウェイを静かに見据えた。その後、1分程で予定の離陸時刻となり、管制塔からの離陸の許可が無線を通して彼らに伝えられる。
「コントロールよりグロム13、および28。離陸を許可する。現状の針路を維持して高度10000ftまで上昇し、基地より10nmの地点で所定の飛行コースに入れ」
「グロム13、了解」
「グロム28、了解」
その通信に2人が立て続けに応じた後、アレクサンドルは無線を僚機へと切り替えて短く命じた。
「グロム13よりグロム28。私に続け」
「了解」
こうして僚機の返答を耳にした彼はブレーキを解除し、左手で握るスロットル・レバーを一気に最奥まで押し込んでA/B(アフターバーナー:高温のジェット排気に直に燃料を吹き付け、燃料消費量の大幅な増大と引き換えに推力を増加させる機構)を作動させて機体を加速させる。
そして、正面のHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ:飛行や戦闘に必要な各種情報を投影する透明なガラス板)を見ながら速度が時速150ktに達したところで右手で握る操縦桿を手前に引き、以後はピッチ角(水平面に対する機体の上下方向の傾き)が8~10度の範囲に収まるよう操縦桿を引く量を調節して離陸した。
さらに、機体が地面から完全に離れたのを確認した時点でコクピット内のレバーを左手で操作し、飛行中は空気抵抗にしかならないランディング・ギアを速やかに機内へと格納しておく。
この時、僚機は後方でも先行する機体が吐き出すジェット排気や気流の乱れの影響を受けない位置に陣取り、5m前後の絶妙な距離を保って同じようなピッチ角で編隊を組んだまま上昇していくのだった。
「グロム13よりグロム28。左旋回、今だ!」
そうして所定の高度に到達した段階でA/Bを解除したアレクサンドルは、管制塔からの離陸許可を受けた時に指定された地点を通過すると、僚機に無線で指示を出しながら操縦桿を左へ倒して機体を90度近くロール(機体の中心線に対する左右の回転軸)させた。
次に、その姿勢を維持したまま素早く中央に戻した操縦桿を今度は手前に引いてピッチアップ(ピッチ角を上げる)の操作を行い、機首が方位010を向くようHUDを見ながら機体を旋回させて目標の針路と重なったところで水平飛行に移行する。
そこから改めて操縦桿を手前に引くと、HUDを見て10度のピッチ角を維持したまま今度はミリタリー推力(A/Bを使用しない状態での最大推力)で高度25000ftまで一気に上昇し、そこで再び水平飛行に戻すのだった。
そして、飛行速度と到達予定時刻を考慮してエンジン推力を90%へと下げ、ドジョムギ基地の第23戦闘航空連隊より派遣されてくる2機の『Su-35S』戦闘機との会合地点となっている次のWP(通過地点)を目指した。
「ズヴェズダー」
「ヴァローニェシュ」
機体に装備したレーダーで相手の機影を捉え、中射程AAMの射程圏内に入ったタイミングでアレクサンドルは無線を使って今回の任務に参加する者だけが知る合言葉で呼び掛けた。
すると、直ぐに正しい返答が無線から聞こえてきたので、レーダーが捕捉した1時方向の2機の機影は合流予定の味方だと判断した。その上で彼は無線を使っての交信を続け、当該機のパイロット達に対して自身の立場を明確にすると共に同じ事を相手にも要求する。
「こちらは、グロム13と28だ。そちらのコールサイン(その都度、出撃する機体ごとに割り振られる識別コード)を知りたい」
「グロム34と37です。グロム13の指示に従うよう命令を受けています」
「こちらもグロム34と37を指揮するよう命令を受けている。よって、現時刻をもって諸君の当編隊への編入を特例として許可すると同時に以降は私の指揮下で作戦行動に当たってもらう。なお、この特例処置は本作戦終了まで有効なものとする。以上だ」
「グロム34、了解」
「グロム37、了解」
かなり簡略化されていたものの、この短いやり取りをしている間に双方の距離が縮まって最終的に4機で編隊を組んだところでアレクサンドルは乗機の針路を変更し、機首を次のWPがある方角に向けて飛行を開始した。
ちなみに、次のWPでは味方の輸送機編隊と合流する予定になっており、飛行計画では実弾訓練という事にして実弾を搭載する理由にしたが、これで分かるように本来の任務は作戦拠点への移動と輸送機の護衛である。
ところが、指定されたWPに合流予定の輸送機編隊の姿は無く、不審に思った彼が輸送機の位置を乗機のレーダーで確認すると何故か予定よりも早く本来の飛行ルートを進んでいた。
◆
アレクサンドルの率いる戦闘機編隊が3機の『IL-76MD-90A』輸送機からなる編隊と合流する筈だった本来の時刻より少し前、その時から既に異変は始まっていたのだ。
「ルゥナー」
「ブリャーンスカヤ」
接近中の戦闘機編隊の指揮官だと思われる人物から無線による呼び出しを受けた輸送機編隊のリーダー機では、コクピットに座る機長が離陸後に開封するよう基地司令官から厳命された封筒内の命令書に従って合言葉を返していた。
そして、それが正しかった事を示すかのように5分程で目視による判別が出来る距離にまで4機の『MiG-29SMT』戦闘機が接近し、彼らの輸送機を囲んで護衛する隊形を取ったのである。
そうして戦闘機編隊の隊長機を操縦する男は“グロム13”のコールサインを名乗り、このまま自分達が責任をもって目的の基地まで護衛すると宣言した。
ただ、彼らの行動が同封されていた作戦計画書に記された時刻よりも幾分か早かったので初めは疑問を抱いたのだが、それ以外に不審な点は見当たらなかった事から輸送機の機長は作戦が順調に進んでいるものと解釈して従った。
「全機、狩りの時間だ」
「了解!」
そんな中で突然、グロム13を名乗った男が無線で編隊各機に呼び掛けると、即座に残る3機のパイロットからも応答があって状況が一変した。
なぜなら、護衛に就いていた筈の4機がA/Bを作動させて2機ずつで編隊を組んだかと思うと一方の編隊は左、もう片方の編隊は右へブレイク・ターン(それまでの進行方向に対して直角に近い角度で針路を変える急旋回)を行って護衛対象からは離れていってしまったからだ。
「おい、急にどうした!?」
それを見た輸送機の機長は慌てて無線に向かって叫ぶが、戦闘機編隊の誰からも彼の問い掛けに対する応答は無かった。
それどころか、1度は離れた4機の『MiG-29SMT』戦闘機は水平方向に大きな楕円軌道を描く旋回を行い、最終的には輸送機編隊の後方へと回り込んでエンジン推力を落とすと一定の距離を保ちながら追跡を始めたのである。
そして、あろう事か護衛対象である筈の輸送機に向かってFCS(火器管制システム)を作動させて攻撃態勢に移行した。
「くそっ、冗談はよせ! 止めるんだ!」
最初の標的となった輸送機編隊の3番機の機長が切羽詰った声で叫ぶが、彼の悲痛な訴えに対する返答は2発の『R-73M2』AAMの発射というものだった。
この一撃は完全な奇襲攻撃となり、『MiG-29SMT』戦闘機の左右の主翼下パイロンから1発ずつ放たれたミサイルはロケット・モーターの燃焼に伴う白煙を引き、吸い込まれるようにして『IL-76MD-90A』輸送機の後部胴体と右主翼の中央に命中する。
そして、弾頭部分に詰まった炸薬の爆発によって機体の外板は引き裂かれ、そこから漏れ出した燃料に引火して輸送機は火達磨になりながら空中分解して墜落していった。
当然、これだけの出来事が一瞬にして起きれば乗員に脱出する暇など無く、彼らは機体と一緒に全身を焼かれた上に高度25000ftから地面へと叩きつけられて死んだ。
「全員、何かに掴まれ!」
仲間の輸送機があっけなく撃墜される光景を目の当たりにした2番機のコクピットでは、機長が機内の乗員に向かって大声で警告を発し、エンジン推力を最大にして両手で握った操縦桿を限界まで左に傾けて離脱しようとしていた。
しかし、貨物室の最大積載量が50tを超える4発エンジンの大型輸送機が敵機との空戦に勝利するのを目的に開発された戦闘機から逃げられる筈もなく、最初に撃墜された輸送機と同様に2発のAAMが後方より迫っていた。
「フレアだ! フレアをばら撒け!」
それでも『IL-76MD-90A』は軍用輸送機なので、赤外線誘導ミサイルに対抗する自己防衛システムは搭載している。
そこで機長から命令を受けた副操縦士がコンソールにあるスイッチを操作し、ミサイル本体の先端にあるシーカー(目標の捕捉に必要な情報を入手するセンサー部分)を撹乱させる囮の熱源となる燃焼物を機体後方へと断続的に放出した。
だが、ミサイルの方もIRCCM(対赤外線対抗手段)能力が向上しており、この程度のフレア放出では惑わされる事なく輸送機の胴体下部と垂直尾翼に直撃して機体の一部を派手に吹き飛ばした。
その結果、操縦不能に陥った輸送機は貨物室内の積荷を空中に撒き散らしながら機体そのものも少しずつ空中分解していき、あげく落下途中で盛大に爆発を起こして乗員もろとも巨大な火の玉となって地上に降り注ぐ。
「メイデイ、メイデイ! 現在、当機は所属不明の戦闘機4機からの攻撃を受けている! このままだと撃墜されるのも時間の問題だ! もし、これを聞いてる者がいたら直ちに戦闘機を寄越してくれ!」
とりあえず、まだ撃墜されずに済んでいる輸送機の機長が国際救難無線で必死に窮状を訴えるが、それに応える声は聞こえてこなかった。そして、彼らの心を深い絶望が支配しかけた時、ここまでは圧倒的に優位な立場で事を進めていた4機の『MiG-29SMT』戦闘機が急に散開して別々の方向へ飛び始めた。
「こちら、グロム・スコードロン。到着が遅くなってすまない。これより、貴機の護衛に就く」
「グロム、だと……? まさか、あんたらもグロム・スコードロンなのか!? もう私には何がどうなってるのかサッパリだが、もし本物なら今すぐコイツらを追っ払ってくれ!」
「グロム13、状況は理解した。敵機は我々が何とかするから、君達は安全な空域へ離脱するんだ」
アレクサンドルがレーダーでWPにいなかった輸送機を捜索した際、遠ざかりつつある航空機を示す光点が7機分もあった事に違和感を覚え、直ぐにミリタリー推力で追跡を開始していた。すると、それまで綺麗に編隊を組んで飛行していたのが突然崩れ、光点が立て続けに2つも消失したのである。
さらに、国際救難無線を通じて攻撃を受けている事を知らされれば、一刻も早い救援が必要なのは火を見るより明らかだった。
なお、偽の護衛戦闘機編隊が行動を起こしたのはRHAWS(レーダー追跡/警戒システム)によって自機へのレーダー走査を即座に探知したからなのだが、たとえRHAWSに反応が無くても数分以内に攻撃行動を起こしていた可能性は高いだろう。
また、アレクサンドル達にしてもIFF(敵味方識別装置)を偽装した相手をレーダー上で完璧に識別して攻撃するのは不可能で、WVR(目視内射程)での戦闘を仕掛けるしか有効な手段が無かった。
しかし、それでは現場空域に到達するまでに時間が掛かり、一刻も早い救援が必要な現在の状況では最善の選択とは言い難い。
そこで敢えてFCSを作動させるとレーダー照射を行い、相手機のRHAWSが警告を発するよう仕向けてパイロットに攻撃が迫っていると錯覚させ、こういう時は回避行動を優先するのが常識なのを利用して敵機を輸送機から引き離した。
当然、相手も遅れて駆けつけた戦闘機編隊の方を先に撃墜しておかないと背後から攻撃されて危険だと判断したのか、再び2機ずつで編隊を組んで翼を翻すと、正対する形で加速しながら『Su-35S』戦闘機の方へと真っ直ぐに向かっていく。
実は、『MiG-29SMT』戦闘機は航続距離の短さを補う為に左右の主翼下パイロンにドロップ・タンク(他の兵装類と同様に搭載可能な外部燃料タンク)を1本ずつ搭載し、他は重量軽減による燃費と操縦性の向上を狙って『R-73M2』短射程AAMを片翼に2発ずつの計4発しか搭載していなかった。
それらの事情と途中から双方がA/Bを使用しての飛行に入った為、2つの戦闘機編隊の距離は急速に縮まって図らずもWVRでのドッグファイト(互いに相手機の背後を取ろうとする動きを犬同士の喧嘩に例えた空中戦)が勃発する。
「グロム34と37は1時方向の敵機、28は私と共に11時方向の敵機だ!」
「了解!」
アレクサンドルが無線で素早く指示を出して他の3人が即座に応じ、互いに時速500kt近くで飛行していた2つの戦闘機編隊が高速で擦れ違う。
「グロム28、スライスターンだ! 私に続け!」
そして、彼は擦れ違った直後に僚機へと通信を入れつつ操縦桿を右へ倒し、機体を一気に130度近く右ロールさせる。
さらに、その姿勢のまま一旦中央に戻した操縦桿を大きく手前に引いて幾分か降下しながらの急旋回を行い、速度を稼ぎつつも高度の低下は抑えた上で機体の針路を180度以上変え、素早く視線だけを動かして敵機の姿を探した。
もっとも、この機動を行った代償として旋回中は7G(G:重力加速度)を超える負荷が彼の全身に圧し掛かり、自分自身でも足を踏ん張りながら耐Gスーツで下半身を圧迫しているのに体内の血液が下がって視界が暗くなるグレイアウトに見舞われた。
当然、敵機も彼らとのドッグファイトに備えて高速で擦れ違う前に空戦では邪魔な主翼下のドロップ・タンクを2つとも投棄し、ロー・ヨーヨー(旋回時に一時的に小さく下降してから元の針路に戻る事で加速する機動)で針路を変えて背後を狙おうとする。
しかし、操縦方式が完全なデジタル式フライ・バイ・ワイヤ(パイロットの操作をコンピューターを介して電気信号に変換して各動翼に伝える操縦システム)に推力偏向ノズル(エンジン・ノズルの向きを直接変える事でジェット排気の向きを変える方式)を組み合わせた『Su-35S』戦闘機と、やや旧式なアナログ式フライ・バイ・ワイヤ(一部に油圧機械式を残したフライ・バイ・ワイヤ)に通常エンジンの『MiG-29SMT』戦闘機では旋回時の機動に差が出た。
実際、『Su-35S』戦闘機が鮮やかな軌跡でスライスターンを終えた時、『MiG-29SMT』戦闘機はロー・ヨーヨーでの旋回機動の終盤に差し掛かったところだった。
これだけ聞くと大した違いなど無いように思えるかもしれないが、コンマ1秒で状況が変わる戦闘機同士の空中戦ともなれば僅かな遅れさえも致命傷になり得る。
なので、かなり角度はあったものの辛うじて『Su-35S』戦闘機がドッグファイトで攻撃の基本となる相手機の背後を狙える位置に着き、そこからは2基で最大29tもの大推力を叩き出す『AL-41F1S』ターボファン・エンジンに物を言わせて距離を詰めていく。
さらに、こうなる事を予想していたアレクサンドルは、事前に機体のFCSをドッグファイト用モードに切り替えてあったので、敵機の方へ顔を向けるだけで素早くロックオンが出来た。
もっとも、そこにはHMS(ヘルメット・マウンテッド・サイト:パイロットの被るヘルメットに赤外線誘導AAMの照準システムを組み込み、バイザーに最低限必要な情報を表示しつつ目標のいる方向へ顔を向けるだけでロックオンを可能にする代物)と、推力偏向ノズルに広い探知範囲を持つシーカーを組み合わせた『R-74M2』AAMの存在があった。
これらの組み合わせによって従来は機首を頂点とした機体正面の円錐状の空間がロックオン可能範囲だったのだが、カタログ上は針路が直角に交差している敵機でさえロックオンからの攻撃できるようになったと言われている。
「ターゲット・ロック、ファイア」
ターゲットを捉えた事を報せる独特の電子音を耳にしたアレクサンドルは、どこか事務的にミサイル発射時のコールを呟きながら操縦桿に付いているミサイル発射ボタンを右手の人差し指で押す。すると、彼の操作に反応して右主翼端に搭載してあった『R-74M2』AAMが発射される。
その後は、機体から離れた直後にロケット・モーターが作動して一気に燃料を燃焼させて最高速まで加速したかと思うと、『MiG-29SMT』戦闘機が断続的に放出したフレアにも惑わされる事なく白煙を引きながら命中した。
ただし、今回はミサイルが若干きわどい角度で命中した所為か、左尾翼と左垂直尾翼を破壊しただけで機体そのものは直ぐに爆発しなかった。
なので、敵機のパイロットは接続部を爆破してキャノピーを後方へ投棄した後に射出座席によって座席ごと空中に飛び出し、キャノピーや被弾した機体から充分に離れた所でパラシュートが自動で引き出され、最後に座席から身体が切り離されて命だけは助かっている。
もっとも、この間に別の敵機が彼らの背後へと大きく回り込む機動で反撃に転じようとしていたので、アレクサンドルも撃墜した敵機の事など即座に意識の外へと追いやり、この新たな敵機に対処する為に次の行動に取り掛かっていた。
「グロム28、次だ。左へブレイク!」
「了解!」
すかさず僚機に通信を入れた彼は操縦桿を左に倒して機体を90度近くロールさせると、素早く操縦桿を中央に戻してから一気に手前へ引いて左へのブレイク・ターンで敵機の追撃をかわしにかかる。
「右180度ロールからの右バレルロール、今だ!」
「了解!」
そこから間髪いれずに無線で僚機へと指示を出し、まずは操縦桿を中央に戻してブレイク・ターンを止めた後で右に大きく倒して機体を180度右ロールさせる。
そして、再び中央に戻した操縦桿を手前へ引いて機体のピッチ角を20度にした姿勢を維持したまま今度は右に小さく倒し、機体上面がバレル(樽)の周囲を高速でなぞるような機動で飛行するバレルロールの状態へと持っていった。
これには、最初のブレイク・ターンに反応して同じ方向へ急旋回を行った敵機も完全に虚を衝かれて彼の機体を見失って動揺し、ほんの僅かな時間であっても単調な直線機動を取ってしまう。
それに対して激しい機動の連続でA/B全開で飛行していても大幅に速度の低下した2機の『Su-35S』戦闘機は、運良く後方にいた敵機をオーバーシュート(追撃していた側が相手機の前方へ飛び出してしまう状況)させて絶好の攻撃位置に着く事に成功する。
ただし、このACM(空戦機動)を成功に導くにはGロック(Gによる意識喪失)に抵抗しつつ敵機との位置関係を3次元空間内で正確に把握する必要があり、長時間のGに耐えられる強靭な肉体と極めて高度な操縦技術の両方が必要不可欠だった。
「グロム28、お前がやれ」
「了解です」
そんな訳で彼らが攻撃に移行しようとした時、より敵機との距離が近かったのは僚機の方だったのでアレクサンドルは迷う事なくユーリに攻撃の指示を出す。
そこから先の展開は1機目と交戦した時と似たようなもので、翼端パイロンから発射されたIRCCM能力に優れた『R-74M2』AAMはフレアの妨害を掻い潜って敵機に直撃した。
しかし、今回はミサイルの命中した箇所が右主翼の付け根に近かった為、主翼内燃料タンクのジェット燃料に引火して爆発するのと同時に機体が火達磨になったのでパイロットは脱出する前に爆死する。
この後に彼らが撃墜を免れた輸送機をミリタリー推力で追い駆け、その護衛に就いて1分と経たない内に別の敵編隊と交戦していた味方機からも脅威の排除を伝える通信が入った。
「グロム34よりグロム13。敵機を全て撃墜、我が方に損害はありません」
「よくやった、グロム34、37。直ちに輸送機の護衛に就け」
「了解」
それでもアレクサンドルは念を入れて彼らにも輸送機の護衛に就くよう命じ、全体を見ると基本となる隊形から1番機のポジションに機体がいない変則的なデルタ隊形で目的の基地を目指した。
「コントロールよりブーリァ96。ランウェイ28への着陸を許可する」
「ブーリァ96、了解。誘導に感謝する」
あの襲撃による2機の輸送機の損失と10分程度の遅延はあったものの、こうして目的の航空基地の管制圏内には5機が辿り着いていた。当然、ここでは護衛対象の『IL-76MD-90A』輸送機から着陸するのがセオリーであり、4機の『Su-35S』戦闘機は編隊を解いて上空警戒に向かおうとする。
そんな時、アレクサンドルは着陸コースに乗った筈の輸送機の不可解な行動を偶然にも視界の片隅で捉えていた。そして、輸送機の行動が意味する真実に気付いた瞬間、彼にしては珍しく慌てた様子で無線を通して大声で警告を発する。
「全員、あいつを撃墜しろ! 自爆攻撃を仕掛けるつもりだ!」
そう叫びつつ彼自身も操縦桿を一気に手前に引き、ちょうど左旋回に向けて機体を45度くらいロールさせていた中でのピッチアップ操作だったので、上昇を加える事で位置を大きく変えずに針路を180度変更するACMのシャンデルに自然に繋がる。
それでも航空機には制約が多く、本来の着陸コースを外れて自爆攻撃の為のコースに乗っている輸送機への攻撃位置に辿り着くのは、どう贔屓目に見積もっても時間が足りなかった。
また、仮に彼の操縦する戦闘機が時間内に攻撃位置に辿り着けても相手は時速300kt以上で降下を続ける質量150t以上の大型機であり、現状のミサイルや機関砲弾だけで完全に破壊して地上に被害を出さないようにするのは不可能だった。
その結果、輸送機は一切の抵抗を受ける事なく地表に達して針路上の施設を体当たりで次々に破壊しながら火花を上げて滑走し、最後は管制塔の近くにある建物に激突して上空の戦闘機にまで衝撃波が届くような大爆発を起こしたのである。
当然、巨大な輸送機の機体が建物を薙ぎ払うように激突して突き進んだ区域は地獄絵図そのものの様相を呈していた。
なにせ、滑走時に破壊された施設では激突時の衝撃に加えて瓦礫で押し潰されたり串刺しになったりして多数の兵士が死傷し、爆発の影響を受けた区域では衝撃波で内臓が潰れたり炎に飲み込まれて焼け死んだりする兵士が続出したからだ。
「畜生、最悪だ……」
それが眼下に広がる惨状を嘆いてのものだったのか、あるいは敵の罠に嵌った事を悔やんでのものだったのかは分からないが、アレクサンドルは酸素マスクの下で苦々しげに呟いていた。
あるいは、これほど大規模かつ犠牲を厭わない攻撃を仕掛けてくるとは誰も予想していなかっただけに彼らの受けた衝撃も大きかったのかもしれない。
ちなみに、この自爆攻撃によって滑走路こそ破壊されなかったものの航空基地としての機能が事実上失われたので緊急事態を宣言し、編隊を預かる者として彼が着陸先の変更と空中給油機(他の航空機に飛行しながら燃料補給を行う航空機)の派遣を要請する通信を上級司令部に対して送っている。
だが、それよりも問題なのは今回の討伐作戦の指揮官を含む将校や兵士、マフィアと正規軍の双方が絡む案件ゆえにFSBから派遣された要員、それと作戦参加機にも多大な損失が出た事だった。
◆
討伐作戦に参加する部隊の拠点として準備されていた航空基地が裏切り者の自爆攻撃によって深刻な被害を受ける少し前、ロシア国内では珍しく定刻通りに運行されている列車が1編成だけあった。
もっとも、その理由は国家レベルで重要かつ特殊な積荷を輸送する為であり、運行や管理の全てが政府の指示を受けたロシア軍によって遂行されていたからである。
「次の定時連絡は40分後だったな?」
「はい、そうです。でも、それがどうかしたんですか?」
「ちょっと確認しておきたかっただけだ」
だから先頭の機関車には、運転士の兵士以外にも2人の武装した兵士が警備という形で乗車し、曹長の階級章を付けた方が傍らに座る兵士に尋ねていた。
だが、彼は言葉とは裏腹に傍らの兵士からは死角となる位置で隠すようにサプレッサー(発砲時の音を響き難くする減音器)付きハンドガン『PB』を発砲可能状態で構えていた。そして、いきなり至近距離から椅子に座る兵士の顔面に向けて2発の9mm×18PM弾を連続で撃ち込んで射殺する。
さらに、少し離れた位置にいた運転士に対しては異変を感じて反射的に振り返ろうとした背中に向かって連続で2発撃つと、すかさず近付いてほぼゼロ距離から頭に1発撃ち込んで射殺した。
こうして障害を排除すると彼は直ちに列車を停止させ、腰のポーチに入れた無線機の周波数を同志のものに合わせて列車の停止を合言葉で伝える。
「黄金は川底に落ちた」
すると、どこからともなく現れた複数の軍用車両が土埃を巻き上げながら列車の周囲へと集まり、車両から降りた完全武装の兵士達が無駄のない動きで瞬く間に列車を包囲して臨戦態勢を整えた。
しかし、包囲された列車にも30人以上の完全武装した兵士の乗車する客車が連結されており、積荷の重要度と特殊性から護衛に就くのも精鋭部隊である事を考慮すれば、本来なら彼らが敗北する要素はどこにも無かった。
もっとも、それは敵が武装した犯罪者やテロリスト、小規模で標準的な装備の歩兵部隊あたりを想定していた場合に限られる。
「包囲は完了した。掃討を始めろ」
「了解」
地上で列車を包囲する部隊の指揮官と思しき男が無線で誰かに連絡すると、独特の重低音を響かせて1機の『Mi-24P』攻撃ヘリが上空に飛来する。
そして、機首の右側面下部に装備した『GSh-30K』30mm連装機関砲で護衛部隊を乗せた客車の屋根に狙いを定め、車両の後部から先頭方向へと駆け抜けるように劣化ウラン製の30mm×165弾の雨を浴びせた。
この装甲貫徹力に優れた劣化ウラン弾の掃射に小口径弾に対する防弾構造しか施されていない客車が耐えられる筈もなく、音速を超えて飛来した弾が金属製の外板ごと客車内の兵士を紙切れのように引き裂いて虐殺していく。
そうして短時間で掃射が終わった後には血と人肉の焼ける異臭を放つ残骸だけが残され、現代兵器の圧倒的な力の前に護衛部隊は何の抵抗も出来ずに全滅と言っていい損害を受けた。
「よし、積荷を確保しろ」
攻撃ヘリの掃射が終わるのを確認した地上の指揮官が命じると、包囲網を形成していた地上部隊は周囲を警戒しながらも素早く目的の積荷が載っている貨車へと近付いていく。
すると、このタイミングで護衛部隊の生き残りと思われる兵士が先頭車両方向の連結部で貨車を遮蔽物にして反撃を行い、先頭を進んでいた包囲部隊側の2人に『AK-74M』アサルトライフルの5.45mm×39弾の連射を浴びせて射殺する。
だが、そんな決死の抵抗も包囲部隊側の巧みな牽制射撃とフラググレネード(破片手榴弾:周囲へ飛び散る破片によって殺傷効果を得る手榴弾)の投擲によって瞬く間に鎮圧されてしまう。
さらに、抵抗を続けていた別の護衛部隊兵士の生き残りは、正面の敵と銃撃戦を繰り広げている最中に機関車に乗っていた裏切り者に文字通り背後から撃たれて殺された。こうして戦闘が始まってから5分と経たない内に列車は襲撃者の制圧下に置かれる形となる。
その報告を部下から受けた指揮官は貨車の扉の前に立つと、どういう訳か扉のロックを解除するのに本物のカードキーを使った上に14桁の暗証コードも間違う事なく入力して開けてしまう。
一応、貨車の中にも護衛の兵士がいた場合に備えて室内を掃討するのと同じ手順で警戒しながら突入して最奥まで進んだが、ここには流石に誰も配置していなかったようで直ぐに制圧完了の声が上がる。
「制圧完了です、大佐」
その言葉を聞いて満足そうに頷いた指揮官の大佐は、貨車の中にあった積荷の1つへ足早に歩み寄って本物である事を確認すると、残り時間も考えて大急ぎで運び出すよう隣に立つ部下に命じた。
「ここにある物を30分以内に全て運び出せ」
「分かりました。おい、手の空いている連中を寄越してくれ!」
そうやって命じられた男も直ちに人手を集めると、大きさの割りに重量のある積荷を1個につき4人で運び出すよう現場で指揮を執るのだった。
そして、新たに呼び寄せた大型輸送ヘリ『Mi-26』に貨車から運び出した積荷の10基の核弾頭を急いで載せると、時間稼ぎとして代わりに貨車へ載せた放射性廃棄物もろとも『Mi-24P』攻撃ヘリの搭載する『S-8』80mmロケット弾で列車を吹き飛ばしてから立ち去った。
◆
自爆攻撃を行ったタイミングや襲撃時の手際の良さからも分かるように、マフィアと組んで兵器の横流しをしていたロシア軍部隊が核弾頭強奪に関与したのは明白だった。
当然、奪われた核弾頭がブラックマーケット(闇の兵器市場)に流れればロシアの安全保障戦略に重大な危機をもたらすばかりか、核兵器の管理体制についても国際社会の非難に晒されるのは避けられない。
それゆえロシア政府には、核弾頭の奪還を任務に追加した上で大きく減少した戦力での討伐作戦を当初の計画通りに実行するしか選択肢が無かった。
「全機、作戦開始!」
アレクサンドルが操縦する『Su-35S』戦闘機を含む全ての作戦参加機に対して司令部からの命令が下り、兵器の横流しに関与した部隊の拠点であると同時に強奪された核弾頭が運び込まれた航空基地への攻撃作戦が始まった。
もっとも、自爆攻撃の影響で攻撃編隊は4機の『Su-35S』戦闘機と2機の『Su-34』戦闘爆撃機、2機の『Su-25SM3』攻撃機という非常に寂しいものだった。
また、攻撃編隊の作戦行動を支援する為に『Su-24MP』電子戦機(電子戦を任務の主目的とする航空機)や『A-50M』AWACS(早期警戒管制機:空中目標の探知・識別・友軍機への指揮管制を行う航空機)、3機の『IL-78M』空中給油機も派遣されている。
それらに加え、FSBスペツナズ(スペツナズはロシア語で特殊部隊という意味)のアルファ・グループの隊員を載せた4機の『Mi-8MTKO』多用途ヘリが待機し、2機の『Mi-28N』攻撃ヘリと共に航空基地を強襲して兵器横流しの証拠と奪われた核弾頭を確保する手筈も整えられていた。
ただし、ヘリ部隊による航空基地への強襲は前段の航空作戦の成功が必須条件だけにアレクサンドル達の責任は重大であった。
「敵のレーダー照射を確認! ターゲットの選定を開始します!」
「頼んだぞ」
「任せて下さい」
低空侵攻を試みる『Su-34』戦闘爆撃機の珍しい並列複座式(コクピット・クルーが左右に並んで座る)のコクピットでは、右席に座る兵装操作員が厳しい表情で眼前の専用ディスプレイを睨みながら叫んでいた。
彼らは囮として先行させたUAV(無人航空機)や同行する『Su-24MP』電子戦機と連携し、現代の航空作戦では必須のSEAD(敵防空網制圧:敵防空システムの無力化を目的とした行動)任務を実施していたからだ。
「ターゲット、ロック!」
「よし、上昇する!」
それまではレーダー探知を少しでも遅らせようと可能な限り高度を下げ、地形に沿って高速で飛行していた『Su-34』戦闘爆撃機だったが、兵装操作員の報告を受けて一時的に高度を上げて攻撃態勢へと移行する。
「ミラーシ55、ファイア!」
ミサイル発射のコールと共にパイロットが操縦桿のミサイル発射ボタンを連続で押すと、それに合わせて主翼や胴体下の各パイロンからも計4発の『Kh-31PM』ARM(対レーダーミサイル:電波の発信源を捉えて攻撃するミサイル)が断続的に飛び出していく。
当然、もう1機の『Su-34』戦闘爆撃機も同様に計4発の『Kh-31PM』ARMを捕捉した目標に対して断続的に発射していた。
先行していたUAVを本物の航空機だと勘違いしていた防空部隊は、それが自分達の攻撃を誘う囮だと暫くして気付くと慌ててレーダーの作動を停止するが、停止前に得られたデータから発信源の位置を推定して誘導されるミサイルには無意味な行為だった。
その結果、敵部隊が拠点防衛の為に配備した虎の子の『9K37M1-2』SAM(地対空ミサイル)システムや『2K22M-1』SAMシステムのレーダーが破壊され、組織的な防空システムは崩壊したのと同じ状態になる。
もっとも、それぞれが独立したレーダー・指揮管制装置・発射機などで構成される防空システムだとミサイル本体は破壊されずに残っている場合もあり、レーダー誘導とは異なる誘導方式のSAMの存在も含めて決して油断は出来なかった。
しかし、そういった事情は攻撃側も充分に心得ており、2機の『Su-34』戦闘爆撃機は『Su-24MP』電子戦機と連携して『Kh-29D』短射程AGM(空対地ミサイル)や『RBK-250』クラスター爆弾(内部に多数の子弾を詰めた爆弾)で対空兵器の掃討を続けるつもりだった。
「スヴィエート61よりグロム・スコードロン。12時方向より2機の敵機が接近中。迎撃しろ」
「グロム13、了解。全員、今の通信は聞いたな? グロム34と37は左、28は私と共に右の敵機を攻撃する。『R-77』スタンバイ」
「了解!」
AWACSのオペレーターから迎撃命令を受け、まずはアレクサンドルが代表して応答した後で編隊各機に『R-77』AAMを使用しての一斉攻撃を命じた。
しかし、こちらが攻撃可能な状況にあるという事は敵機の攻撃圏内に入っているのと同義であり、すぐにレーダー警戒装置の警告音と表示によって危機が迫っているのを実感させられる。だが、AWACSによる支援を受けられる彼らの方が状況を詳細かつ大局的に判断できる分だけ行動に無駄が無かった。
「ターゲット・ロック、ファイア」
ほぼ同時に4機の『Su-35S』戦闘機から『R-77』AAMが1発ずつ発射され、機体を離れてロケット・モーターを作動させた後は白煙を引きながら『MiG-29SMT』戦闘機へ1機につき2発ずつが飛翔していく。
「全機、チャフを撒きつつブレイク!」
ここでもセオリー通りに一撃離脱を心掛け、アレクサンドルの命令で4機の『Su-35S』戦闘機が一斉にチャフ(金属コーティングを施し、電波撹乱効果が最大になるよう長さを調節したフィルム片)を放出して銀色に輝く雲を作り出すと、大きく広がるような左右へのブレイク・ターンで一斉に針路を変えた。
実際、敵も片方の機体が1発だけ『R-77』AAMを発射していたのだが、先にミサイルを発射されて慌てたのかロックオンの確認が不充分だったところにチャフと急旋回による回避機動まで使われては命中する筈もなかった。
対照的に2発のミサイルに狙われたのと、形の上では奇襲となって回避行動への移行に遅れた事が命取りとなって『MiG-29SMT』戦闘機は2機とも撃墜されている。
「よくやった、グロム・スコードロン。グロム13と28の9時方向、34と37の3時方向から増援が接近中だ。数は2、直ちに迎撃しろ」
「了解!」
増援として現れた敵機の迎撃を再びAWACSのオペレーターから命じられ、彼らは先程と同じように攻撃する事を決める。
その為、まずは各機が反対方向にブレイク・ターンを行って回避機動でずれた針路を敵機の方へ向け直した上で機体のレーダーで捕捉し、発射直前にHUD上でロックオンを確認してから操縦桿のミサイル発射ボタンを押す。
「ターゲット・ロック、ファイア」
そして、各機が1発ずつ『R-77』AAMを発射した後はチャフを撒き、ブレイク・ターンで針路を変えて敵機からの反撃に備える。それが功を奏したのか、敵機の『MiG-29SMT』戦闘機が発射したミサイルは2発とも外れ、発射した2機も撃墜されるという似たような結果に終わった。
「さらに、増援! 前回と同じ方向から2機が接近中! 迎撃するんだ!」
波状攻撃のつもりなのか戦力の逐次投入なのかは分からないが、またしても2機の敵機が接近してきた事を彼らは少し語気の荒くなったAWACSのオペレーターから伝えられる。しかし、それと同時刻の『A-50M』AWACSのコクピットでは想定外の事態に2人のクルーが緊張と混乱に襲われていた。
「レーダー照射を受け……、いえ、ミサイル接近!」
「なんだと!?」
実は、こうした航空作戦の最初にSEAD任務が実施されるのは敵も簡単に予測できたので、あえて『9K37M1-2』SAMシステムを構成する発射機の1つを稼働させずに隠蔽し、自分達の戦闘機隊の襲撃に合わせてAWACSを攻撃したのだ。
当然、ミサイルを発射した事で位置が露見したSAM発射機は駆け付けた『Su-34』戦闘爆撃機の攻撃を受けて破壊されたのだが、それでも重要目標のAWACSの撃墜だけはやり遂げた。
そして、異変はアレクサンドルの率いる戦闘機隊の方でも発生しており、自分達の陥っている危機的状況を自覚した彼の身体からは冷や汗が吹き出る。
なぜなら、撃墜される直前にAWACSのオペレーターが2機だと言っていた敵機を攻撃しようと自機のレーダーで照射したところ4機に増加していたからだ。
これが意味する事実は、レーダー上で2機が1機に見えるほど接近して飛行するには極めて高い操縦技術と集中力が必要だという事である。だから彼は、咄嗟に残った中射程AAMの全弾を敵機に向けて発射するよう指揮下の3人にも命じた。
「グロム13より編隊各機! 『R-77』を全弾発射だ!」
「了解!」
「ターゲット・ロック、ファイア!」
アクティブレーダー誘導AAMを使えば最大8目標を同時攻撃できるFCSの能力が発揮され、パイロットの操作に反応して各機から2発ずつ、編隊全体では計8発の『R-77』AAMが発射されて敵編隊へと高速で飛翔していく。
しかし、今までと違って敵機の『Su-27SM3』戦闘機もほぼ同じタイミングで各機が1~2発ずつ『R-77』AAMを発射してきた。
「全機、ブレイク!」
これまでと同じように『Su-35S』戦闘機はチャフを放出してからのブレイク・ターンで回避しようとするが、交戦のたびにブレイク・ターンを繰り返した所為でA/Bを使用していても思った以上に速度が低下していたのだ。
それが原因でブレイク・ターンの効果も想定より薄れ、飛来するミサイルの針路から逃れるのが少しだけ遅れてしまう。
「グロム37よりグロム13。戦闘続行不能の為、離脱する」
その結果、胴体下部にミサイルの直撃を受けて空中で機体が爆散したグロム34は戦死、グロム37も撃墜こそ免れたものの機体に深刻な損傷を受けて戦場からの離脱を余儀なくされた。
一応、彼らも敵機を2機撃墜して数の上では互角を保っているのだが、速度低下によって運動エネルギーを喪失している分だけ不利だった。
そして、当然のように先に態勢を整えた『Su-27SM3』がA/B全開で接近してきてドッグファイトに持ち込もうとしてくる。そんな状況下でアレクサンドルの機体の無線に反応があり、何故か交戦中の敵機のパイロットと思われる人物の声が聞こえてきた。
「よう、久し振りだな」
妙に馴れ馴れしい口調を不審に思い、彼が無言で攻撃を警戒しつつ機体の速度回復に努めていると、わざとらしく嘆くように相手が話を続けてくる。
「まさか、俺の事を忘れちまったのか? それとも、もう親友じゃないから答える気はないってか?」
「お前、ゲンナジーなのか!? どうして、そんな所にいる!?」
どういう訳か、通信を寄越した敵機のパイロットは彼が今でも親友だと思っていたゲンナジー・ラザロフだった。
「ああ、やっぱり覚えててくれたんだな。嬉しいぜ」
「そんな事よりも、そこにいる理由を答えろ、ゲンナジー!」
こんな状況だというのに、ふざけた調子で下らない事を話すゲンナジーに対してアレクサンドルは語気を荒げて問いただす。
「こうして直接話をするのは随分と久し振りだというのに、せっかちな奴だなぁ……。まあ、いいや。理由? そんなの、カネの為に決まってるだろう」
「ふざけるな! お前のしている事は重大な軍規違反でテロ行為なんだぞ!」
「それが正論かもしれないが、そんなもの目の前にある大金に比べたら大した事じゃないね。結局、どんな手段を使っても他人より多く稼いだ奴が世の中じゃ勝ち組なんだよ。それを俺は、この10年で学んだだけの事さ」
「それこそテロリストの詭弁だ! いい加減、目を覚ませ! 我々軍人には果たすべき義務がある!」
「はぁ……、どうやら俺達の考えは平行線のようだな。なら、お前とは今日でお別れだ!」
このゲンナジーの一言を最後にアレクサンドルの機体の無線は静かになり、代わりに敵機が後方に付いた事を報せる警告音が鳴り響く。そして、彼らが一騎撃ちのようなドッグファイトに突入するのに合わせ、僚機のユーリも別の敵機とのドッグファイトを開始するのだった。
「くっ……」
アレクサンドルは敵機の追撃を振り切るべくA/B全開の状態で操縦桿を激しく動かし、コンマ1秒単位で力の掛かる方向が変わる激しいGに耐えながら機体の針路をランダムに変更する。
だが、ゲンナジーの高い操縦技術に『Su-35S』戦闘機と同系の『Su-27SM3』戦闘機の性能が組み合わさると厄介で、いつまで経っても警告音が消える事は無かった。
そんな中、追跡を続けながら攻撃の機会を窺っていた『Su-27SM3』戦闘機の左主翼端のパイロンから1発の『R-73M2』赤外線誘導短射程AAMが発射された。
それに気付いたアレクサンドルは、即座にフレアを放出すると同時に赤外線放射量を減らす為にA/Bを解除して左へブレイク・ターンを行ったかと思うと、そのままバレルロールに繋げた。
さらに、そのバレルロール機動中に再びA/Bを作動させ、いわゆるハイGバレルロールでミサイル回避と追撃を振り切るのを両立させようとする。
「ぐ……、うぅ……」
またしても強烈なGでグレイアウトが起きて意識も刈り取られそうになるが、それに必死に抗って激しい機動を続けたお陰で賭けにも成功した。そして、ここからは機体を130度以上ロールさせた状態で操縦桿を手前に引いて行うACMのスライスターンで反撃に転じる。
もっとも、彼は追撃の際にみせたキレのある動きでも分かるように後方へ付いたからといって簡単に攻撃できる相手ではなく、まずはシャンデルからの連続バレルロールをやってきた。
それで駄目だと分かれば、次にロー・ヨーヨーで速度を稼いだ上でヴァーチカルリバース(高高度への垂直上昇からの垂直降下)に酷似したACMへと繋げ、一気に高度200ft以下にまで急降下する。
しかし、アレクサンドルも相手と同じACMで追跡しつつ必要に応じて他のACMも組み合わせて急な変化にも対応し、振り切られて仕切り直しになるのだけは絶対に阻止するつもりで飛んだ。
そんな努力が実を結び、ようやく彼にも攻撃を仕掛けるチャンスが訪れ、敵機の捕捉を報せる特徴的な電子音がコクピット内に鳴り響く。
「ターゲット・ロック、ファイア!」
ほんの一瞬だけ水平飛行になったタイミングを逃さずヘルメットのバイザー越しに敵機を捉え、確実に撃墜するべく操縦桿のミサイル発射ボタンを連続で押し、2発の『R-74M2』AAMを両主翼端のパイロンから発射した。
だが、それすら嘲笑うかのような予想外の回避機動を眼前で見せられ、感情を抑えられずに思わず驚きを声に出してしまう。
「まさか!」
急降下を終えて水平飛行に移った直後という状況下、高度200ft未満の低空を時速500kt以上で飛行しているのに高度を下げたからである。当然、地面には不規則な起伏があって様々な高さの木も生えており、そんな場所を低空かつ高速で飛行すれば墜落のリスクは跳ね上がる。
なのに、ゲンナジーは躊躇う事なく墜落の危険性が増大するのを承知でミサイルの回避を優先し、地面を這うような飛行をやってのけたのだ。
そして、後方から追尾してくるミサイルが低空に下りてきたタイミングで多数のフレアを放出しながら機首を大きく上げ、インメルマン・ターン(宙返りの要領で上昇する際に必要に応じてロールを加える事で大きく位置を変えずに方向転換する機動)で高度を稼ぎつつ針路も変えて離脱を図った。
本来は優れたIRCCM能力と推力偏向システムによる高い機動性で敵機を追い詰める『R-74M2』AAMだったが、こんな方法でのミサイル回避には、いくら何でも対応できずに2発とも目標を見失って短時間の迷走を経て地面に落下した。
それでも一瞬で冷静さを取り戻したアレクサンドルは、操縦桿を大きく手前に引いて機体を急上昇させて追跡を開始する。さらに、上昇途中で視線を素早く全方向に動かして『Su-27SM3』戦闘機の機影を探すが、何故か発見する事は出来なかった。
こういう時にAWACSが撃墜されていなければ支援も期待できたのだが、いないので攻撃を受けるリスクが増すのを承知で機体を水平旋回させ、目視に加えて機体に搭載したレーダーや赤外線センサーでも周辺空域を索敵しようとした。
だが、そういった各種センサー類が目標を捕捉するよりも早く、敵機に狙われている事を警告する無慈悲な警告音が彼の耳に届く。実は、ゲンナジーはアレクサンドルが自分と同じようにインメルマン・ターンで上昇してくると考えて機動を予測し、上手く死角になる方向から回り込んで攻撃位置に着いたのだった。
「くっ!」
思わず彼は低く呻くが、それでも反射的に操縦桿を右に倒して機体を90度ロールさせると、中央に戻した後で操縦桿を一気に手前へ引いて右へのブレイク・ターンで攻撃を回避しようとする。
しかし、その回避機動もゲンナジーに予測されていてラグ・パーシュート(急旋回した敵機に対して減速しつつ同じ方向に大回りで旋回する事でオーバーシュートを防ぐACM)で対応されてしまう。
それどころか、低高度で速度にも余裕が無い現状では手詰まりになるのも時間の問題で、アレクサンドルは早急に対抗策を決めて実行に移す事を迫られていた。なので、彼はランダムに操縦桿を動かす事で機動も不規則にして狙いを付けさせないジンキング(いわゆる最後の悪あがき)に逆転を賭けた。
だがゲンナジーは、それで追撃を振り切れるほど甘い相手では無く、この不規則な機動のジンキングにも的確な操縦で対応してみせる。もっとも、こんなジンキングで振り切れないのは彼も承知の上で、すぐさまA/B全開での急降下に入って相手にも同じようにA/B全開で追撃するよう誘いを掛けた。
そして、キャノピー・フレームにあるバックミラーで相手が狙い通りに追撃してきたのを確認すると急いでA/Bを解除し、その操作と同時にスピードブレーキ(機体の一部を展開して空気抵抗を増大させる事で急減速する機構)も作動させて急減速するスパイラル・ダイブを行った。
ただし、『Su-35S』戦闘機には基本形となった『Su-27』戦闘機の胴体上面にあったスピードブレーキが無く、代わりに2枚の垂直尾翼にあるラダー(方向舵)をそれぞれ逆方向に動かす事で同様の効果を得られるようにしている。
こうして彼が意図した本当の賭けは見事に成功し、加速すると思っていた『Su-35S』戦闘機の急減速に対応できなかった『Su-27SM3』戦闘機が前方に飛び出して攻守が逆転する。
それで終わらないのが今回の相手の厄介なところで、一時的であっても大きく減速したのを逆手にとって敵機はA/B全開のまま水平飛行に移り、速度差を利用して振り切ろうとする動きを見せた。
そこでアレクサンドルも直ぐにスピードブレーキを解除して再びA/Bを作動させると、ロー・ヨーヨーの応用で降下による加速も上乗せしながら逃げた敵機の追撃を始める。
それに対し、ゲンナジーは先に加速を始めた分だけ少し余裕のあった機体の速度(運動エネルギー)を上昇で高度(位置エネルギー)に変換し、程なく再開されるであろうドッグファイトで有効利用する算段を早くも立てていた。
また、この際の上昇機動が適度に速度を奪った事で最適な旋回速度となり、続く右旋回ではACMに必要な速度を保った上で旋回半径を小さくできた。
一方で追撃に必要充分な速度を得た『Su-35S』戦闘機は、『Su-27SM3』戦闘機の無駄の無い右旋回に対処すべく推力偏向ノズルの効果を最大限に活用する機動を行う。
今は機体の速度を落とす必要が無いので、速度低下を最小限に抑える為にA/B全開のまま操縦桿を手前に引いてピッチ角10度未満で上昇を開始した。
そこから次は、操縦桿を右に倒して機体を90度右ロールさせると操縦桿を中央に戻した後で大きく手前に引き、ハイ・ヨーヨー(旋回時に一時的に小さく上昇してから元の針路に戻る事で減速する機動)と同じ要領で機体を右旋回させていく。
しかし、このハイ・ヨーヨーの頂点で敢えて操縦桿を中央に戻してから左に倒して機体を素早く200度以上も左ロールさせ、その状態で今度は中央に戻した操縦桿を一気に手前へ引いて強烈なGに耐えながら機体を引き起こす。
「うぅ……」
そうして目まぐるしく変わる強烈なGに耐えたアレクサンドルが視認したのは、前方斜め左上をA/B全開で飛行する敵機の姿だった。
これはハイ・ヨーヨーから発展したロール・アウェイと呼ばれるACMで、通常のハイ・ヨーヨーよりも急角度で相手機に迫れるのがメリットなのだが、相手機の機動を正確に把握していないと明後日の方角に向かってしまうリスクがあった。
それでもリスクを冒して仕掛けたお陰なのか、ついに相手機からは最も死角となる位置に飛び込む事に成功する。当然、これまでで最大のチャンスを彼が逃す筈もなく、ここぞとばかりに機首と顔を敵機の方へ向けて攻撃を行った。
「ターゲット・ロック、ファイア!」
彼が操縦桿のミサイル発射ボタンを連続で押すと、それに反応して左右の主翼下パイロンから2発の『R-74M2』AAMが高速で飛び出していく。これには流石のゲンナジーも反応が遅れ、慌てたように多数のフレアを空中へ放出しながら右へのブレイク・ターンで回避を試みる
「逃がさん!」
そんな動きを見たアレクサンドルは反射的に叫びながら右のラダー・ペダルを強く踏み、ほんの僅かに機首を右へずらし、敵機をHUDの照準越しに捉えた瞬間に操縦桿のトリガーを弾くみたいに引いて『GSh-301』30mm機関砲を発射していた。
そして、コクピット後方の胴体右上面に搭載された機関砲の砲口から1500発/分の発射速度で飛び出した30mm×165弾は、まるで吸い込まれるように敵機の右主翼に命中して無数の穴を開ける。
そこへ止めとばかりにミサイルが2発とも直撃し、爆発に耐えられなかった『Su-27SM3』戦闘機は火達磨になってゲンナジーもろとも残骸として地面へと叩きつけられた。
◆
壮絶な戦いの果てに『Su-27SM3』戦闘機が撃墜される少し前、もう一方のドッグファイトにも決着の瞬間が訪れていた。
「ターゲット・ロック、ファイア!」
互いに幾つものACMを繰り出した末に攻撃位置へと付いた『Su-35S』戦闘機の主翼下パイロンから2発の『R-74M2』AAMが発射され、その内の1発が多数のフレアの妨害を掻い潜って敵機の左主翼の付け根へと直撃したのだ。
この一撃によって『Su-27SM3』戦闘機は爆発と共に炎に包まれ、パイロットを乗せたまま地面へと墜落していった。
こうして親友だった事もある2人の空中戦はアレクサンドルがゲンナジーを撃墜して幕を閉じ、もう1機の敵機も僚機のユーリが撃墜して戦闘空域の航空優勢は討伐部隊側が確保した。
また、『Su-25SM3』攻撃機の1機が撃墜されてパイロットが戦死したものの対空兵器と装甲車両の掃討にも成功し、多くの犠牲と引き換えに航空作戦は所定の目標を達成する。
それを受けて作戦は次の段階へと移行し、『Mi-28N』攻撃ヘリが抵抗を排除する中で『Mi-8MTKO』多用途ヘリから降下したスペツナズ隊員は、チームごとに散開して基地の制圧と核兵器の確保に向かった。
◆
兵器の横流しに関与した部隊の拠点となっていた基地の司令官室では、それで私腹を肥やしてきた指揮官のロシア航空宇宙軍中将が追い詰められた表情で椅子に座っていた。なぜなら、各所からの報告を聞く限りでは既に大勢は決しており、今は特殊部隊を乗せたヘリ編隊が基地に接近中との事だったからだ。
「どうやら、ここまでのようだな。投降する」
「考えを変える気は……」
「ない」
これ以上の抵抗は無意味だと悟った中将は投降を口にするが、彼の傍らで窓から外の様子を窺っていた男は違うようだった。しかし、その男の言葉を途中で遮って中将は考えを変える気は無いと断言し、机の上に置いてあった電話に手を伸ばして受話器を持ち上げる。
おそらくは基地全体に放送を流せる部署に内線を繋ぎ、いま生き残っている兵士達に抵抗を止めて投降するよう命令を出すつもりだったのだろうが、音もなく近寄ってきた男の行動によって中将の命令が彼らに伝えられる事は無かった。
「残念ですが、それは認められないんですよ」
そう呟いた男の右手にはサプレッサー付きハンドガン『PB』が握られており、銃口の先では頭から血を流して机に突っ伏す中将の姿があった。
それでも男は確実に死んだと分かるように中将の頭に至近距離から9mm×18PM弾をもう1発撃ち込むと電話線を引き抜き、まるで何事も無かったかのように司令官室を出た。
それどころか、基地内で遭遇した兵士に対しては中将からの命令だと偽って徹底抗戦を続けるよう指示したり、場合によってはサプレッサー付きハンドガン『PB』で静かに射殺したりしながら進んでいく。
この男、セントラルナヤ・ウグロバヤ基地を訪れた際にFSB所属だと言っていたマルコフは、誰にも咎められる事なく基地が制圧される前に脱出して姿を消していた。
◆
航空基地へと突入したFSBスペツナズのアルファ・グループには、基地を制圧して兵器横流しの証拠を押さえ、強奪された核弾頭を奪還する事よりも優先順位は低いものの重要な任務が与えられていた。
「こちら、チーム2。奪われた10基の核弾頭を発見、全て確保しました。周囲への放射能漏れも確認できません」
「よくやった。そのまま回収チームの到着まで確保しておけ」
「了解」
核弾頭の捜索と確保に向かったチームがハンガー(格納庫)の1つで発見し、それを無事に確保できた事を伝える通信が遠く離れた基地に設置された作戦本部にも届いた。
これで後は、基地を制圧下に置いて押収した兵器横流しの証拠と共に10基の核弾頭を回収すれば作戦は完了で、回収チームと交代要員は既に航空基地へと向かっている。
そして、基地の制圧を担当するチームの作戦も今は最終段階に入っており、最後の抵抗拠点と思われる場所で激しい銃撃戦が展開されていた。
「ここを突破されたら終わりだ! 何としてでも死守しろ!」
ほぼ壊滅状態となった防衛部隊の指揮官が声を張り上げて指示を飛ばすが、素人の目から見ても突破されるのは時間の問題だった。
事実、この直後に攻撃しようと遮蔽物の陰から身体の一部を晒した2人の兵士が『AK-74M』アサルトライフルの5.45mm×39弾を受けて立て続けに射殺された。
さらに、間髪入れずに『RGD-5』フラググレネード(破片手榴弾:爆発時に周囲へ飛び散る無数の破片によって相手を殺傷する事を目的とした手榴弾)が2個投げ込まれ、指揮官と彼の周囲にいた数人が飛び散った鋭い破片を全身を浴びて絶命する。
確かに、彼らは現役のロシア軍兵士で本来は基地の警備を担当している部隊なのだが、チェチェン紛争や対テロ戦闘で豊富な実戦経験を積んだFSBスペツナズの隊員が相手の戦闘では分が悪かった。
こうして最後の抵抗拠点も制圧したFSBスペツナズは、さらに奥へと進んで見事な連携と無駄の無い動きで司令官室にも突入して重要人物である航空宇宙軍中将の身柄拘束を試みる。だが、制圧した司令官室内で彼らが目にしたものは何者かによって射殺された中将の死体だった。
「こちら、チーム5。目標を発見できず。ただし、この基地の兵士のものと思われる死体がある事から対象は逃走を図った可能性もあります」
「分かった。引き続き任務を遂行しろ」
「了解」
FSBスペツナズに与えられた3つ目の重要任務、それはマルコフを名乗る人物の抹殺だった。なぜ、いきなり抹殺という判断になったのかというと、そこにはモスクワ郊外を流れる川で発見された身元不明男性の死体が深く関わっていた。
この明らかに他殺だと分かる死体から採取したDNAを地元警察がデータベースで照合すると機密扱いになっており、慌てて問い合わせた事でFSB所属のマルコフであると判明したのだが、そこで問題となったのはカディンスキー少佐と会った10日も前に彼が殺されていた点だ。
これによって、セントラルナヤ・ウグロバヤ基地に現れてマルコフだと名乗った人物は偽者だった事が証明される。
さらに捜査を進めると奪った彼の身分を悪用し、本来の討伐作戦を歪めて核弾頭強奪を企んで実行に移させ、それを北朝鮮や過激派組織ダーイシュ(日本ではイスラム国の名称が多用される)に売却しようとした痕跡まで見付かった。
それらの事実に加えて航空基地強襲作戦の実行直前になって正体が兵器密売組織の幹部だと判明し、組織の弱体化と制裁も兼ねて抹殺を決定する。しかし、ほんの僅かな差で対象が逃亡していた事から現地での抹殺は空振りに終わり、FSBは威信を懸けて行方をくらました男の捜索を続けた。
その執念が実って航空基地で取り逃がした13日後には潜伏先の特定に成功し、報告を受けた本部は直ちにFSBスペツナズのアルファ・グループを現地に派遣した。それでも密売人の男は勘を働かせ、配下を捨て駒にして時間を稼いだ隙に潜伏していた隠れ家から脱出して近くの森へ逃げ込んだのだ。
「ハァ、ハァ……、よし、このまま逃げ――、グフッ!?」
全力疾走した所為で息は上がっていたものの辛うじて助かったと思った男が淡い希望を抱いた瞬間、鈍い衝撃と焼けるような胸の痛みに襲われ、ほんの僅かに歩いただけで立ち止まると膝を付く。
だが、男は続けて襲ってきた衝撃に自分の身に起きた出来事を理解する暇も無く意識を刈り取られて地面に仰向けに倒れた。そんな男の身体には胸と額に銃弾の貫通した痕がはっきりと残っており、真新しい傷口からは鮮血が溢れて服や地面を濡らしていた。
すると、男の逃走ルートを塞ぐ位置に見事な偽装で周囲の景色と一体化して潜んでいた2人のスペツナズ隊員が現れ、最初からサプレッサーが組み込まれているスナイパーライフル『VSS』を手に警戒しながら素早く接近してくる。
そして、2人のスペツナズ隊員は足元で血を流して地面に倒れている男を見下ろす格好で立ち、呼吸するみたいに自然な動きで近距離から胸と頭に2発ずつ『VSS』スナイパーライフル専用の9mm×39亜音速弾を撃ち込んだ。
こうして傍目にも死んでいるのが分かる状態にすると、彼らは身元確認と兵器密売組織の壊滅に役立ちそうな物だけを回収して死体は放置したまま音もなく立ち去った。
イメージソング『Jonathan Jet-Coaster』(BUCK-TICK)
最後まで読んでくださり、どうもありがとうございます。
イメージソングから連想したのは、もちろん戦闘機!(ある意味、お約束ですね)
そこに殺し屋要素として内部粛清を追加したら、どういう訳か普通の戦闘機モノになってしまいました。結局、ミリタリー思考からは離れられなかったようです。
それと、現代兵器や現代戦でのリアリティにこだわった(妥協ができなかった)結果、馴染みにくい表現になってしまったのもお約束ですね。
後は、自分なりに少しは読みやすくしたつもりなんですが、それでも長めなのかもしれません……。