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眼鏡と煙草と猫

作者: 慧奈

朝、目覚ましよりも早く目が覚める。

また早く起きてしまったと思いながら、ぼやける視界を正すために眼鏡をかける。

寝室から移動して、テーブルに置いてある煙草に手を伸ばす。

ふうー、と、朝一番のまるで大きなため息を一つ。


中途半端に乾いた喉に煙がまとわりつく。

それでも煙草を吸い続ける。


しばらくすると、約束されていた時間になり目覚ましが鳴り出す。

煙草を消して目覚ましを止める。

仕事に行く支度をする。

朝はコーヒーと、また煙草。

軽く朝のニュースに目を通して職場に向かう。


片道歩いて20分。


仕事をこなして、昼は適当にすませて、仕事を終わらせる。

この繰り返し。


残業も時々する。


定時で上がれる、と思っていたら同僚から飲み行こうと誘われた。

断る理由がないので同行する。


職場近くの居酒屋で同僚から絶えず発せられる日々の愚痴を聞く。

上司がどうとか、取引先の担当がどうとか、家庭がどうとか……

仕事はともかく、家庭の問題には下手に口は出せないのであまり突っ込んだ話はしなかったけれど、それでも言いたいことは山のようにあるようだった。


ひと通り話し終わる頃には同僚はすっかり出来上がっていて、歩くことすら辛そうだった。

置いていくわけには行かないので、何とか家に連絡を取って迎えを呼んだ。

迎えが来るまでは付き添って迎えが来たら奥さんにバトンタッチ。

またこんなに飲んでー、もー。

とか、細かいことを言いながら車に同僚を乗せて帰宅していく。


店の支払いは済ませていたので、見送りをしてすぐに家に向かう。


夜風が気持ち良くて、いつもなら20分かかる道をゆっくり歩いて帰ることにした。


のんびり歩いて家に着く

部屋に入って電気を付ける


「……!?」


部屋が荒らされている。

窓の鍵を閉め忘れていたのか……


やってしまった、とおもい顔を覆うと、風呂場の辺りから物音がした。


犯人がいると思いながらゆっくりと風呂場へ……


「……にゃー」


にゃー!?


部屋を荒らした犯人が可愛い鳴き声をして出てきた。


顔を見るなり猫は一目散に外に逃げ出した。

あまりに勢いが良かったので捕まえることが出来ず

ただ部屋の後始末に追われる事になった。


次の日、目覚ましよりも早く起きる

いつもと同じ。昨日と同じ。

今日は戸締りを確認して、家を出る。

そして、仕事をこなす。

同僚に昨日の事を謝罪されたが、気にしなくて良いという旨を伝える。

仕事をする、帰宅する。


部屋について今日は部屋は大丈夫だと確認をする

しかし、窓の外からにゃーにゃーという声が聞こえる

少しだけ開いたカーテン、ガラス越しの足元には昨日の部屋を荒らした猫…

食べものがあるとわかってまた来たようだった……

少しだけ窓を開けて、逃げなければ部屋に入れよう…

あまりにも猫が鳴くので仕方なく……


そして、猫は逃げることなく、寧ろ近付いてざりざりと指を舐めてきた。

猫にあげれるようなものは鯖缶ぐらいだったが、荒らされるよりは良いと思い与えることにした。

中途半端に動物に餌を与えることはあまり良くないと思いながらも、居着いたらそれなりに対処していかないといけないとも思う。


簡単に言うと、寂しいから安らぎがほしい。

かまってほしい、構われたい。


はっとして、考えを訂正する。


いけない、今日限りだ。今日だけだ。と。


猫は満足したのか座布団がある位置まで歩いて、そのまま寝てしまった。

猫が気になって風呂やら晩ご飯が遅くなってしまった、

戸締りをして、眠りにつく。


目覚ましよりも早く目が覚める。

目の前に静かな寝息を立てて眠りにつく猫がいる。

今までにない温かさを感じる。


視界を正す。

煙草に手を伸ばす。

猫が起きる。

足に擦り寄ってくる。

初めて顔があった時、猛ダッシュで逃げたと思えない態度だ。


これはもう、そばに置いておこう。


そう思って、猫をそのまま飼うことに。


次の休みには動物病院に行って、ひと通り道具を買って、餌を買って……

猫に名前を付けて…


いつもと同じ日常に、変化が訪れて

毎朝が変わった


目が覚める。

眼鏡をかける。

煙草に手を伸ばす。

そして、猫がいる。


ゴロゴロと喉を鳴らすその姿に、自然と笑みがこぼれる。


今日はなんだか、何かが違う1日になりそうだ。

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