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三十路だもの。

「待ってください!なにか手違いだと思います。私が神子なはずありません!」


私の必死な訴えに、お爺さんは困った顔をした。


「そう言われましても。青い月と赤い月が交わる夜に、この寝具で眠るユウコという名を持つ異世界人が、世界の混沌から救う神子だと、伝承で伝わっているのです。貴方様は、この寝具からお目覚めになり、ユウコ様というお名前でいらっしゃる。間違えなくこの世界にお越しいただきました神子様でございます。」


お爺さんの言葉は、あまりにも衝撃的で言葉を失ってしまう。

そんなことってありえるだろうか。酔っ払って目が覚めたら、違う世界にいて神子と呼ばれるなんて面白すぎるでしょ。私が世界を救うなんて、無理の二文字しか頭に浮かばないわ。

あーあ。三十路とはこんなにもついていないのか。これだから、三十路になるのは嫌だったのだ。三十路かー。


あー?ちょっとまって。

私は三十路。いえす、三十路。

でももし。もし、これが一つの物語だと考えたとすると、三十路が主人公なんて誰得なわけ。

今までの私が知ってる物語を振り返っても、カードを集める可愛い子は小学生。月の戦士は中学生。邪魔な魔女なんかも小学生。それに、プリティな二人組から始まったシリーズも中学生。キューティーな嫁だって高校生。

うん。三十路に世界を救わせるのは無理じゃない?きつくない?

あの子達、十代だから無限の力を秘めてて無敵だけど、残念ながら社会の波に飲まれてしまった私はだいぶガス欠気味よ?


「あの、念のためなんですが、神子としての条件って他にもなんかありません?具体的に年齢とか・・・。」


私の悪足掻きに、チームキラキラの一人が答えた。

光輝く金の髪に、青い瞳。落ち着いて服装だけど、生地や装飾なんかはとっても高級そう。品の良さがわかる振る舞い。一目でわかる貴方は王子様ね。


「神子様、発言をお許しください。伝承で伝わる神子様の特徴は他にも、黒いお髪。黒い瞳。乙女であること。それから、齢は15だと伝わっております。」


やっぱりね。そうだよね。そうだと思ったよね。そうじゃなきゃねー。


「あー。恥ずかしながら、私昨日で三十路を迎えました。残念ながら15の少女ではないんです。」


「なっ!?」


あぁ、やっぱり。その驚きようは、私が十代だと見えたのね。ごめんなさい、少しだけおばさんなの。東洋の神秘で、少しだけ若く見えるかもしれないけど、昨日からおばさん枠に足首まで浸かってるのよ。まだ、肩までは浸かってないけどね!


「神子様、それは本当ですか?」


「えぇ。残念ながら。」


肩をすくめる私に、みんな言葉を失ってしまった。

王子様が唖然としている様子を見ると、きっと私より若いんだろうなー。と言うか、チームキラキラの人達、みんな私より若いんだろうなー。

そうだよね。15の娘くるって言われて、15の娘守れって言われて集まったのに、来たのが三十路はモチベーションきついよね。

わかるわー。だから、なんかごめんね。


「神子様!年齢が違えど貴方様は神子様であるはずです。その証拠に、こちらの寝具で目覚めたのですから!それに、神子様であることを示す、もっとも簡単な方法がございます。」


お爺さんが慌ててなにか用意をしだした。

ガサゴソと、自分の服のポケットに手を突っ込むと一つの石を取り出した。その石は、光を吸収するかのような真っ黒い石だった。

なんだか、触りたくはない気がする。


「こちらは、魔を封じ込めました魔石と呼ばれるものでございます。浄化の力を持つ神子様がこちらに触れれば、魔が浄化され石がなくなると言われております。失礼します。」


お爺さんに手を取られ、私の掌にコロンと黒い石が転がった。


ほうほう、魔石ねー。なんだかとってもファンタジーだわ。じょうか、ジョウカ、浄化ー!


が、しかしなにも起きない。

握りしめようが、掌を合わせて転がそうが、消えろ!と念じてもなにも起こらなかった。


なるほど、なるほど。

つまり、私には浄化の力がないということなのだろう。

つまり、私は神子じゃないということなのだろう。


ベッドを囲んだみんなが、呆然と私の掌を見つめているのがわかった。


「えーっと。ごめんなさい?」


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