序章
──いっちゃうの?──
──…………うん、──
男の子は少し困ったように笑う。
──しおちゃんは、わたしの、ただ一人の、勇気を、くれた人だから、──
女の子は泣き初め、男の子はどうすればいいか分からなくなった。
──どうしても、いっちゃう、の?──
──うん──
女の子は涙を拭い。
──なんで、どうしていっちゃうの?──
──そ、それは──
男の子は意を決したようで、口を普段より大きく開く。
──目標ができたから、それに向かって走るためさ──
──もくひょう?──
女の子は理解してない様子だった。
──ああ、この何処までも続いている空を自由自在に翔ぶこと──
──お空を自由に翔ぶこと?──
──ああ、この何処までも繋がっている空を自由自在に翔べたら格好いいだろ──
男の子は両手両足を広げて表現する。
──で、でも──
女の子はずっと男の子の傍にいたかった。だから男の子が自分から離れていくことが嫌だった。
──ほら、これやる──
男の子は手を差し出す。
──これ、は?──
──ぼくの一番の宝物──
──一番の宝物?──
──ああ、お互いの一番の宝物を相手に渡していればいつかきっと会えるというおまじないさ──
──おまじない、──
女の子は涙を拭い、男の子の宝物を受け取。そして、首に掛けていたペンダントを外し男の子の首に掛ける。
──わたしの一番の宝物、ペンダントをあげる。また、会えるよね──
女の子の目元からは再び涙が溢れてくる。
──ああ、またいつかきっと会えるさ──
そういうと男の子は走り出す。女の子はそれを笑顔で見送った。
──また、いつか──
◇◆◇◆◇◆◇◆
『勝者、風薙 紫蔭選手』
盛大な歓声が観客から沸き起こる。
スカイ・ライン、通称SL
これは空で行う競技で、バンド型の空を翔ぶためのウィング・ブレイド、通称WBを両手首に装着して翔び、Air Connect Trance通称ACTというカード型の道具で粒子を出し、自分好みの武器に変換し闘う。どちらかがポイントがゼロにしと方が勝者だ。
彼がプロとして大会に出場したのは今大会が初めてだ。
彼は世界では通用しないと言われている剣型のカードを使用して、今大会の優勝候補と当たり続け、その全てに勝利を納めてきた。そして、付いた二つ名は剣姫。
決勝戦を期待する声があがっていたが、彼は姿を見せなかった。記者や警察などが彼の行方を捜した。
そして、出た答えは、
《事故に遭い、病院に搬送されていた》
その事が報道された時、世界は悲しみに満ちていった。
そして、10年という月日が流れた。
「やっとこの町に戻って来ることが出来た」
彼は元いた場所に戻って来た。