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不思議の国の兄です。


 短い冬休みを残すところ四日に迫る中、私はアリスというのは本の中の架空の人物ではないということを実感していた。


 水色の半袖ワンピースに白いエプロンを掛け、短めのスカートの裾から見えるドロワーズが何ともキュート。

 そしてその胸には我が家の飼い兎であるシロさんを抱いている。

 あのウサギがこのようなところで活躍するとは……何だこの狂おしいほどのかわいさ!

 目の前にいるのに、まるで3Dで作られたような非現実感。

 あれが自分の兄であるという、いつでも手が届くという幸福感に頭が変になりそうだ。

 

「セイラ、何かもうワンポーズちょうだい」


 お姉ちゃんから注文が飛ぶと、少し宙に視線をさまよわせてから笑顔を作ると、スカートを片手で押さえ、何かを見つけたような表情でカメラのレンズに納まる。

 もうメロメロである。

 お兄ちゃんは女優でもいけるんじゃないだろうかと最近私は思う。

 とりあえず、あの服着替える前にどさくさに紛れて絶対抱きしめよう!

 

 今、私たちは自分たちのブランドの夏物の撮影真っ最中だった。

 今回から撮影初参加になる花咲もキャミソールワンピを着て突っ立っている。

 ブラウスを着ずに地肌に直接着ているので、肩が丸出しなのだが、なぜこんなにもぴかぴかなのか謎である。

 さらにそこから伸びる腕もすらりとしなやかさで、小五にして『女性』を感じる。

 とても男子に混じってドッジボールをしてるようにも、勉強ができないようにも見えない。


 一方私はと言うと、黒いシフォンドレスの上にオーガンディーを幾重にも重ねた白いふわふわのスカートをはいている。

 これにボレロを合わせれば冬でも使えるというフォーマルスタイルである。

 かわいいのだが、要は幼児体型にぴったりなデザインだというのは言われなくても気づいている。

 世の中適材適所、それぞれ需要があるのだ。

 

 撮影が終わり、リビングのこたつでご馳走を囲んでいると、不意にお姉ちゃんが、「あっ」と言った。

 そして、不自然な様子でこう続ける。


「あれだわ。ミチルちゃん残りの冬休み暇?」


「あ、まあ、暇です」


「じゃあ、あれだわ。ミチルちゃん、駅向こうの温泉施設っていったことある?」


「あ、いえ、ないですけど」


「じゃあ、あれだわ。たまたま新聞屋さんからチケットもらったんだけど」


「え、ああ、そうなんですか」


「あれだわ。ほら、行かない?」


 何が『あれだわ』なのかさっぱりだが、要は花咲を誘ってその温泉施設に行きたいらしい。

 すでにお兄ちゃんは花咲の片腕を掴んでいた。

 その散歩を期待する子犬のような目が「ねえ、行こうよぉ!」と輝いている


「あ、じゃあ、ぜひ」


 そこでまた姉が「あっ」と言った。


「でもなー、保護者がもうひとりいた方が助かるかもねー」


「はあ」と花咲。


「ほら、ここにチケットがたまたま七枚あるのね?」


「はあ」


「だからさ、もしよろしければさ」


「ああ、うちの父でいいですかね? 兄たちはそれぞれ友達と出かけているので」


「それでいいよ。それでいいの」


 花咲父との接点を持つのに、せこさしか感じない姉のアプローチが痛々しい。

 もしかしたらお姉ちゃんって案外奥手なんじゃないだろうか?

 しかし温泉施設とはどういう了見なのだろう。

 いくらお兄ちゃんとはいえ、女子風呂に入ってくるとは思えない。

 いや、世間的にも何の問題もないし、私としては大歓迎だし、毎日のお風呂回では見れないポロリも十分に期待できるイベントではある。

 しかし、お兄ちゃんに花咲と混浴ができるのか?

 

「花咲さんあれだよぉー。ここ温水プールがあるんだよぉー」


 何……だと……。

 それはつまるところ……あれですか、いわゆる水着回ですか!

 夏にならないと見られないあの姿がこんな冬のど真ん中に!

 神様の力技を感じるよ。


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